今回も前編に引き続き、株式会社ルネサンスの人事戦略部部長の日野俊介様と人事戦略部人事労政チーム兼D&I推進チーム課長代理の前池愛様にお話を伺いました。
同社が何よりもこだわるのが、「健康」「生きがい」の創造。
それを実現するための具体的な戦略について、有休取得や業務効率化、ダイバーシティなどへの取り組みの話題も交えつつ、ご紹介していきたいと思います。
INDEX
「習慣づくり」からアプローチする、ルネサンスの健康経営
次は、「健康経営」について教えていただけますか? 「健康経営優良法人ホワイト500」に3年連続で認定され、御社の改革の大きなキーワードであると伺っていますが。
はい。トップが健康経営宣言を出してから、継続的に取り組んでいます。
そこから、「働きがい」や「働き方改革」につなげていけるよう努めている、というところです。
やはり、継続が大事なんですね。
大前提として、健康とは、「習慣」だと思うんですよね。
オフィスで働いている時間帯の中でも、いかに健康へと意識や行動を向けられるかが鍵だと思っています。
具体的に言うと、例えば、オフィスの休憩室に体重や体脂肪率を測定できる「体組成計」を設置していたり…。
それは、さすがですね!
また、低糖質・高タンパクの食事を手軽に食べられるように、「nosh(ナッシュ)」という健康食のサポートサービスを利用したりもしています。
さらに、仕事後のスポーツクラブ活動も盛んだったりと、健康づくりに関わるサポートメニューは、ここ数年でずいぶんと充実してきたように思います。
また、「カラダかわるNavi」というアプリがありまして、これはお客様にも提供しているものなのですが、それを社内の全スタッフに登録してもらっています。
関連イベントも年2~3回実施され、チームごとに健康な体づくりを競ったり。おかげさまで全社的な取り組みに育ってきていて、ランキングに名を連ねる役員もいるくらいです(笑)。
それは、御社らしいですね(笑)!
ちなみに、健康診断の時期には、役員の目標はポスターにして掲げられます(笑)。体脂肪率を何%減らす、とか。
働くにしても健康あってこそですから、役員にも一肌脱いでもらって、健康の重要性を浸透させるべく色々と工夫を凝らしています。
「スポーツ」「健康」をキーワードに、社内のコミュニケーションを創発
その他、「健康経営」の文脈で取り組まれていることはありますか? 御社のスポーツジムを社員の方も自由に使えるとか?
はい、それはもう、もちろん使えます。スポーツジムは、当社で働くベーシックな特典みたいなものですよね(笑)。
健康維持に役立ててもらうためだけでなく、自分の業務のヒントにしてもらったり、より良い店舗運営へのアイデアを掴んでもらったりするためにも、実際に社員にクラブを使ってもらうのは、とても大事なことだと思っています。
現場を知る、ということですね。
そうですね。その他には、社内部活動なども、自然発生的に増えてきています。
駅伝や水泳を初め、インストラクターの指導を受けながら、様々な競技の部活動が行われています。週3日の朝活なども盛んです。
自然発生的に、というのがすごいですね!
はい。特定の誰かやどこかの組織が主導するというのではなく、若手の一人ひとりが自主的に役割を担って、リーダーシップを発揮してくれています。
そんな雰囲気は当社ならではですね。やらされ感がないというか。
あとは、イベントの参加も盛んです。
お客様に対して当社が主催しているマラソン大会が年に1回あるのですが、それに当社の従業員も多数参加しています。
その際に、取引先の方も誘って、一緒に走ったりするんです。完走という同じ目標を共有しながら、並んで汗を流して。
大会が終わったら、そのあとは飲み会です(笑)
それは楽しそう!テレワークや時差出勤の変形労働時間制など、自由で個別的な働き方が進められていく中で、一方では、しっかりとコミュニケーションの機会を確保されているんですね。
こういう機会は、部門間のコミュニケーションをとても活発にしてくれるので、大切にしていきたいと思っています。
また、こういった大会だけでなく、先ほどお話しした「カラダかわるNavi」というアプリも、コミュニケーションの活性化に大きな役割を果たしてくれています。
チームごとに、アプリの合計スコアを競っているのですが、このアプリは、運動への取り組みだけでなく、普段の食事にも気を付けないとスコアが上がらないようになっているんです。
ですので、このアプリを使っていると、「ちゃんとスコアが上がるような食事を摂ってる?」などと、チーム内のメンバー同士で必然的にコミュニケーションが発生するんですよね。
一人でもスコアを落としちゃうと、チームの順位が下がっちゃうので。
まず、我々自身が健康でなくてはならない
それにしても、御社には健康的な従業員の方が多そうですね。
そうですね。「健康を扱うプロフェッショナルなら、自身が健康なのは当たり前」といった意識は、多くの社員が共有しているところだと思いますので。
朝礼でも社長から「まず我々が健康でなくてはならない」とよく言われています。
「日本健康マスター検定」という資格があるのですが、先日、当社スタッフが受験して、団体受験をする企業の中では10位にランクインすることができました。
このように、健康についての知恵やリテラシーを積極的に習得していこうという意識は、社内でしっかりと醸成されてきていると実感しています。
社員の方たちに、当たり前のように健康増進への意識が浸透していることに驚きました。
健康への想いは当社の企業理念から来るものなので、やはり社員の意識に深く根ざしているのだと思います。
また、評価制度の中では、先ほどの「働き方」と同様、「健康(に対する行動)」という項目も設けています。
健康増進というテーマについて、個人としてどういった取り組みをしているか。そして、組織にどういった働きかけをしているかを評価するチェック項目です。
それだけでも、会社として、いかに「健康」を重視しているかがわかりますね。
さらに、「求める人材像」の中で、「ホスピタリティ」や「チャレンジ」「チームワーク」「成果の追求」に先立って、「健康」というキーワードを明示しているのも特徴的かなと思います 。
この「求める人材像」を具現化するように「人事制度」は作られていて、それをモニタリングするものとして「評価制度」を組み立てていきました。
ですので、人事戦略では一貫して「健康」というキーワードが強調されているということです。
なるほど。
一般社員は「自身の健康と行動量を増進させるために、1年間、どういったことに取り組んできたのか」ということを上司に伝えます。
一方、管理職側は「自身の健康はもちろん、いかに管轄組織全体の健康増進に努めてきたか」ということを問われます。
有給休暇の取得促進について
次は、有給休暇の取得促進について伺えますか。
有休取得に関しては、ちょうど今年(2019年)、義務化されましたよね(※)。
※有給休暇取得義務化:働き方改革関連法施行に伴い、年次有給休暇に関する労働基準法が一部改正。2019年4月1日から、「全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者に時季の希望を聴取した上で取得させること」が義務化された。
はい、そうですね。
年に最低5日というのは、本社の方はクリアできないハードルではないと思っているのですが、週単位でシフトを回しているクラブの方では、正直、難しさを感じています。
特にインストラクターなどはプログラムで埋まっていたりするので、勤務体制の融通性には課題感を抱いています。
なるほど、難しさはありますよね。
クラブ側には、法に後押しされるかたちで、とにかくチャレンジしてもらっています。
その甲斐あってか、有休の取得率は確実に上がってきています。連続取得を促しながら、時間外労働も削減できていますので。一歩一歩、ですね。
過度な負担を軽減し合う、業務効率化に対する積極的な取り組み
有休取得の促進には、業務効率化という課題がつきものだと思うのですが、その点については何か取り組んでいることはありますか?
先ほどお話しした「業務センター室」(2015年開設)を中心に、ITを活用しながら業務の効率化を進めています。
クラブごとに異なるやり方で行っていた同一(類似)業務を、センター室で吸い上げて地道に標準化していっているのですが、ここ数年で、業務の効率化はかなり進められてきたのではないかと実感しています。
あと、クラブには、現在、「エリア戦略」を掲げてもらっています。
今までは、店舗ごとの独自の頑張りに委ねていた部分が大きかったのですが、それだと施策の選択肢も限られてしまいます。
それならば、いっそのこと、近い範囲内にある複数店舗で“人”や“仕事”を融通し合っていきましょう、と。
そして、それぞれのエリア特性を活かしつつ、一店舗ずつという“点”ではなく、エリアという“面”で取り組んでいきましょう、と。
そういった「エリア戦略」を、今年度から強化して展開しています。
そうすると、例えば、違う店舗に所属するインストラクター同士でも、同じエリア内であれば連絡を取り合って休みを融通し合う、といったような動きが出てきたりも?
はい、まさにそうですね。休みを融通し合えれば、お互いに過度な負担を軽減することができます。
あとは、スタッフがどれくらいシフトに入るべきか、というところも大胆に見直そうという動きが出ています。安全性や円滑性が確保されさえすれば、クラブスタッフの人員を極小化するのも良いんじゃないか、と。
無人は言い過ぎなのですが、ある程度、少ない人員でクラブの営業を回していけるような体制を考えていこう、というようなことも、目下進められています。
それは、本当に大胆な取り組みですね!
はい。また、「クラブには所属せずに、外からクラブをサポートしていく部隊」も立ち上げています。
現在は本部が管理しているのですが、「その部隊がフレキシブルに動いて、ニーズのあるクラブをフットワーク軽くサポートしていく」という取り組みを、この2019年度から開始しています。
例えば、インストラクターの方なども、その部隊に所属されているんですか?
そうですね。色んな職種の人員が所属しています。こういうサポート部門をうまく稼働させることで、特定のところに過度な負担がかからないような体制をつくっていきたいと思っています。
ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組み
次は、ダイバーシティへの取り組みについて聞かせていただけますか?
当社の場合、「女性の活躍推進」がメインですね。
女性の管理職の比率は、現状、12%を超えたくらいです。取り組みを始めた当初は10%くらいでしたが、徐々に上がってきています。
すでに、数字の上でも効果が確認できているというのは、すごいことですね。
ありがとうございます。それと並行して、2016年には、シフトの働き方と育児との両立の難しさを解消していこうという取り組みも始めています。
『るねふぁみ+(プラス)』という名前のネットワーキングプロジェクト(※)を作って、「男性の育休取得」などいくつかのテーマごとにワーキンググループを作って活動しています。
また、年に1回、当事者(育児中の社員)の皆さんを中心に集まって、成功事例を共有するなど情報交換を行っています。
※るねふぁみ+(プラス): 2016 年度発足の育児中の社員のためのネットワークプロジェクト。1年ごとにプロジェクトメンバーを募集し、子育てをしている全ての社員が、ライフワークの変化に対応しながら仕事と子育てを両立し、活躍し続けられる環境を整えていくこと」をミッションに活動している。
『るねふぁみ+』には毎回、社長以下、役員も参加しています。当社には100人ぐらいの育児中のスタッフがいるのですが、全国に150ヶ所ある勤務地の数で割ると、ひとつの職場につき1人いるかいないか。
まだまだ、マイノリティなんです。だからこそ、支え合う「しくみ」が必要なのではないかと思っています。
全く、その通りですね。
あとは、「カムバック・パスポート制度」。これは、結婚・出産・育児などで退職した社員にパスポートを渡して、一定の条件を満たせば会社に復帰できるというものです。退職後、最長で8年間有効です。
ダイバーシティの文脈で、オフィスのハード面では、何か工夫されていることはありますか?
本社オフィスに「多目的ルーム」というお子様連れのスタッフ優先の個室を用意しています。
ベビーベッドも設置してあって、そこでお子さんを寝かして仕事ができるというスペースです。
子連れ出勤もOKなんですか?
はい、OKです。オフィスだけでなく、クラブの方でも判断を管理職に任せています。
お母さんコーチなどはお子さんを連れてきていたりしますよ。
特に地方の方では、そういう働き方をしないと出勤が難しいという声も多かったので、昔から子連れ出勤の例は普通にありました。
役員会でも、プレゼンしているお母さん社員の代わりに、役員がお子さんを抱っこしていたり(笑)。
子どもが職場にいることに対して寛容な空気が、当社には従来からあったように思います。
それは、いいですね(笑)。でも、子連れを自然に受け入れているというのは、他の会社ではあまり例がないように思います。女性にとって、すごく働きやすい職場ですね。
女性に限らず、お互いの働きやすさに配慮し合う風土だとは思いますね。
その背景もあって、「Great Place to Work® Institute Japan(株式会社働きがいのある会社研究所)」の「働きがいのある会社」ランキングでも7年連続でランクインさせてもらっているのかなと思っています。
7年連続! 本当にすごいことですね。
あと、今年(2019年3月)、「イクボス(※)企業同盟」にも加盟しました。
やはり、性別役割分担意識が根強いので、男性、特に管理職層にも意識を変えてもらわなくては、ということで、「男性も家事・育児に力を注ぎましょう」とアプローチしているところです。
それと並行して行っているのが、男性の育休取得促進です。
直近の取得率は50%弱といったところで、全員取得とまではいかないのですが…。まずは、取得日数は置いておいて、「取得すること」に主眼を据えているという段階です。
※イクボス・プロジェクト:NPO法人ファザーリング・ジャパンが提案する管理職養成事業のこと。部下・スタッフのワークライフバランスやキャリア形成に配慮しながら、組織の業績にもコミットし、同時に自身の私生活も楽しめる、新しい時代の管理職「イクボス」を増やしていくための一連の取り組み。
いえいえ、育休を取っている男性社員がいるだけでもすごいことだと思います。
ありがとうございます。今は、育休対象の男性社員全員が取得することを目標にしています。
社内報を月に1回発行しているので、その誌面上で取得している人たちを紹介するなどして、少しずつ浸透させていこうとしているところです。
あと、ここ両国オフィスでは、ママスクエアさんと連携して託児スペース併設のワークプレイスも用意しています。
スポットでも月極めでも使えます。両国オフィス(両国店)でアルバイトしたいという応募も定期的に頂いていて、こういうスペースは、やはりニーズがあるなと思っています。
全員が「働きがい」を感じられる会社に
当社では、人材への取り組みについて、3つの作戦を設定しています。
(1)採用=全員「採用担当者」作戦
(2)育成=全員「自ら学ぶ」作戦
(3)配置・働き方=全員「タレント」作戦
つまり、全員で、「仲間を増やそう」「入ってきてくれた仲間を育てよう」「個性を発揮して活躍しよう」ということですね。
全員が何らかのタレントなのだから、そのタレント性を生かし合って、組織に貢献しようという作戦です。
全員がそれぞれの能力をフルに発揮できる環境を作ることが、人事としての使命だと思っています。
本当にその通りですね!しかし、その中でも、やはりサービス業の難しさというか、本部と店舗では、どうしても同一の制度ではカバーできないところがあると思います。 両者の間で不公平感を生まないようにするのは、非常に大変なことですよね。
そうですね。とはいえ、それで足を止めてしまっては、どちらの「働きやすさ・働きがい」も上がっていかないので、どちらか一方が先行することもあるでしょうが、足並みを揃える努力をし続けながら、段階的に改善していければと思っています。
なるほど。
やっぱり“偏り”なんですよね、現場の苦しさって。
誰かはできるけれど、誰かはできない、とか。ある人にだけ負荷が集中するとか…。
それが平準化されることで、その苦しみも解消されるのではないかと思っています。とはいえ、現場には、苦しみ以上に、大きな“やりがい”があるんですよね。
大きなやりがい、ですか。
はい。「スポーツを通して、人の健康づくり、生きがいづくりに貢献できる」という、大きなやりがいです。
現場は、人と接し、人の体温を感じられる場だと思います。そういった「Employee Experience(EX=従業員体験)」を通して、「働きがい」や「当社で働くことで感じられる価値」を豊かに感じていってもらいたい。
そのための仕組み等を、今後、しっかりと考えていきたいと思っています。
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今回協力して下さった企業様
株式会社ルネサンス
- 設立
- 1982年
- 本社所在地
- 東京都墨田区両国
- 事業内容
- フィットネスクラブ、スイミングスクール、テニススクール、ゴルフスクール等のスポーツクラブ事業、自治体や企業等での健康づくり事業、介護リハビリ事業、他関連事業
- 従業員数
- 1,408名(2019年3月31日現在)
- Webサイト
- https://www.s-renaissance.co.jp/