複合機、デジタルカメラ、レーザープリンターなど、リコー製品の販売・保守を中心に、幅広いサービスとソリューションを提供するリコージャパンでは、「全社働き方変革委員会 推進事務局」を中心に、営々と、働き方改革が進められています。
今回は、港区芝にある本社オフィスにお邪魔して、その取り組みの軌跡について、お話を伺いました。
INDEX
社員が主役の「働き方変革」を
名刺にも「全社働き方変革委員会」と書かれていて、そこからも、取り組みへの本気さがひしひしと感じられますね。ちなみに、この委員会は、いつぐらいから、また、どんなきっかけで発足されたんですか?
2016年6月、前社長・松石が就任したタイミングで働き方改革の取り組みが開始されました。ちなみに、リコーグループでは働き方改革のことを「働き方変革」と称しています。
改革ではなく、変革、ですか?
「改革」という言葉は、今、わりと耳馴染みのある言葉になってきた感があるので、今の延長線上にはない世界を目指して、「変わるんだ」ということで、あえて「変革」という言葉が掲げられています。
なるほど、「変革」という言葉には、力強い想いが込められているんですね。それでは、その最初の動き出しとしては、どのようなことを行っていかれたんですか?
まずは、人事・総務等の有志会として、4〜5人規模で、できることから始めていきました。「働き方改革」の取り組みというと、例えば、ペーパーレス化やモバイルツールの導入、人事制度の刷新などが良く挙げられていますが、実は弊社では、そういったことはすでに実施済みでして。そこで、いざ「働き方改革(変革)」という言葉を使って取り組みを始めようという段になって、ちょっと勘違いしてしまったんです。
勘違い、というと?
つまり、コストダウンの方向でプランをまとめてしまったんですね。例えば、在宅勤務が広まれば通勤手当にかかるコストや拠点の床面積が減らせるんじゃないか、とか(笑)。でも、これだと会社都合ですよね。言葉は悪いですが「働かせ改革」とでも言いましょうか。
当時、「働き方改革」が何を意味しているか、我々はもちろん、経営陣も良くわかっていなかったんだと思います。そのような中で、私たちは、コストダウン中心のプランを経営会議に持っていってしまいました。それは、正直、社員に窮屈を強いるようなプランでした。それを見た経営陣から、「君たちは何をやりたいんだ。違うんじゃないか」と、ずいぶん叩かれましたね(苦笑)。
それは大変でしたね…。
でも、結果としてはすごくよかったと思っています。「ん?これは違うぞ」と、その時はじめて、皆の間で、方向性についての合意形成が図れたのですから。その際に、前社長から言われた言葉は、今でも覚えています。
─働き方改革は、とにかく社員が主役だ。働き方改革を行うことで、どんな良いことがあるのか。
それを社員自身が、お客様や取引会社様に話せなきゃだめだね。
その言葉を受けて、一からやり直そうということで再スタートを切ったというのが、裏話というか(笑)。
そうなんですね(笑)! コストダウンしたいというのは企業の本音だと思うのですが、経営会議で、ビシッと「そうじゃないよね」という話になるのが、すごいことだなと感心しました。
弊社の場合、働き方改革を始める以前から、構造改革に着手していて、人材の最適配置や残業代の削減といったことには、ずっと力を注いでいましたので。そこで、じゃあ、「改めて、なぜ、働き方改革なのか?」ということを問い直してみた時に、「働き方改革をきっかけに、元気にならなきゃダメだろ」って。“元気になる”というのは、会社だけでなく、“社員一人ひとりが元気になる”ということだ、と。そうして、必然的な流れで、「社員が主役」という方向性が見えてきた、というわけです。
なるほど!
ちなみに、「生産性」という言葉は、基本的に、社内では使わないようにしています。この言葉を社員に投げかけてしまうと、「やっぱり、私たちにもっと頑張って働けってことか」と、そんなニュアンスに受け取られかねないですから。
働き方改革の取り組みに関して、会社目線のコスト意識(生産性)よりも、社員の働きやすさを第一にすべき。それが、我々、「全社働き方変革委員会」と経営陣が持つ共通の想いです。
いやあ、本当にすばらしいですね! でも、最初の経営会議で出した働き方改革の案は、一から練り直し(笑)?
はい、そうなんです。ここから私たちの長い旅がはじまりました(笑)。
AIも活用して、無駄な時間を削減
2017年7月に、リコーグループとして「働き方変革」というポリシーが出されると、弊社・リコージャパンでも事務局を設置し、役員も参加し、当時50人くらいの規模で「働き方改革プロジェクト」を立ち上げました。
まず、このプロジェクトには、ミッションが大きく2つありまして…、
ひとつは、「きちんと横串を通して、全社としての活動にしていこう」ということ。
例えば「在宅勤務」ひとつとっても、人事が制度を整えて、総務が運用して、と。そういった部署間の連携をスムーズに、ということです。
もうひとつは、「AIの研究」です。
各部署の個別的なミッション意識だけでは、会社にとって重要なものはテーマ化されないんじゃないか。ということで、これからは、すべての部に共通して関わる論点として、「AI」に注目していこう、と。そして、AIを研究する分科会を作りました。
そのAI研究の分科会では、具体的にどのようなことを研究されているんですか?
我々の業務・ビジネスの中でAIをうまく活用できないかということを研究しており、実際に、社内では、社員からの問い合わせの一時窓口に、「チャットボット(※)」を活用したりしています。例えば、在宅勤務をしている社員たちが、業務上、疑問に思ったことなどを窓口に問い合わせると、チャットボットが解答をサジェストしてくれたり、ですとか。
※チャットボット(Chatbot):「チャット」と「ボット」をかけわせた言葉。人工知能による自動会話プログラム。1966年に生まれた「ELIZA(イライザ)」が有名。
なるほど。簡単なQ&Aが自動化されているといった感じで、効率的ですね。
AIだと学習してくれるので、コールセンターでの活用にも、今後、期待が持てます。「働き方改革」ですから、とにかく「無駄な時間の削減」には、力を入れていきたいですね。
「業務に携わる当事者」と「ロボ」のタッグで挑む、業務の自動化
そこで、もうひとつ、弊社が力を入れていることとして、RPA(※)があります。これは、業務センターでも使っています。今、100ロボくらい居ますかね。
※RPA:ロボットによる業務自動化(Robotics Process Automation/ロボティック・プロセス・オートメーション)の略。人工知能(AI)を備えたソフトウェアによって、定型的な事務作業(主にホワイトカラー的な繰り返しの多い間接業務)を自動化・効率化する仕組み。「仮想知的労働者」「デジタルレイバー(Digital Labor)」とも
100ロボ…。
当社では、全部のロボットに社員ナンバーを振って、パソコンも与えているんです。
え〜!! そのロボットたちは、どんなことをするんですか?
例えば、我々の部署でいうと、毎月の経費計算ですね。とにかく拠点が多くて、人の手でカバーしていくとなると、とんでもない作業量になります。それを、夜、ロボに作業を進めてもらっておけば、朝にはできている、と。あと、社員も18,500人くらいいますので、人事情報の管理、労務管理などにも大活躍です。労務管理には厳正さが求められ、以前でしたら、人事担当者が丸々3日くらいかけて確認作業をしていたのですが、これもまた、夜、ロボに任せておけば、朝にはできている、と。
これは、単なる時間削減やコスト削減といった話だけでありません。「今までやりきれなかったことが、できるようになる」ということです。
ロボットたちが、夜中に、せっせと働いてくれているおかげですね(笑)。
そうです、そうです。仮想上とは言え、一晩中パソコンをたたいて、文句も言わず、休みも取らず(笑)。
あはは! そういったロボたちのプログラミングについては、自社で行っているんですか?
エンジンはパートナー会社さんに依頼していますが、基本は、部署ごとの業務の熟練者に行ってもらっています。そして、RPAの活用の仕方などは、やりながら覚えていってもらうという方針です。業務の自動化の価値を最大化できるのは、専任のSEではなく、何と言っても、その業務に携わっている当事者ですから。
100ページよりも、本当に議論すべき1ページを
「無駄な時間の削減」についての対策をお話ししてきましたが、「時間損失」の問題を考えていくと、やはり「会議」に突き当たります。多くの企業が課題にされていると思うのですが、当社でも会議の時間が長くて…。管理職だけでなく一般社員でも一日のうち非常に多くの時間を会議に費やしていました。
加えて、会議に臨むにあたって、資料作りに膨大な時間が費やされています。特に我々、スタッフは、極端な例ですが、月曜日に経営会議があるとすると、金曜日が徹夜だし、土日も、本当はやってはいけない、こっそり在宅でのメールのやりとり。そして、月曜も朝7時に出社して最終確認するとか、めちゃくちゃなことをしたことがある人もいました。結局、それで何が起こるかというと、本来行うべき仕事がおろそかになるんですね。
…ほとんど会議ってことですもんね。
そうなんです。会議が好きで。資料も好きで(笑)。それじゃいけない、ということで、2016年、「会議改革」を徹底的に行ったんです。
まず、経営幹部が参加する本社の会議から徹底的に変えていかなきゃダメだということで、会議のルール化に着手しました。基本1テーマ15分、資料はA4の1枚! と、声がけを行っていきました。もちろん、資料などは少し多くなる時もあるのですが、とはいえ、経営会議などでも、A4で4ページ、20分くらいで終わるまでにはなっています。
ちなみに、以前はどれくらいで?
口に出せないほど長かったですね(笑)。盛り上がると、1テーマで1時間、2時間と平気で費やしていました。資料も多い時は100枚くらい。
ひゃ、100枚!!
そこで、とにかく簡略化しようということで、PowerPointにはせず、Wordで箇条書きにするようにしました。
ちなみに、ルールだけ変えても、なかなか改まりにくいところもあったかと思うのですが、実際に会議時間の削減に成功したポイントって、やっぱり他にあったのでしょうか?
やはり、ポイントはトップのリーダーシップだと思います。2016年の「会議改革」の時には、どんな良い資料が会議の場で出されても、ボリュームが規定以上だったら、その都度、当時の社長が厳しく注意していました。役員たちも、これは「覚悟を決めて取り組まなければいけないんだ」と、それで腹に落ちたんでしょうね。そして、現在の社長にも「資料は少なく、時間は短く」の方針は継承されています。
しっかりと継続されているんですね。
「会議改革」を通して、「時間が短くても、資料が少なくても、大丈夫なんだ」ってわかったんだと思います。それで何の問題も起きていないです。資料が100あれば、100回の質問があります。でも、それは、本当に議論すべきことではないんですよね。
だから、本当に議論すべき1ページの資料だけ持ってくればいいんです。そうすれば、ピントを外すことなく、本筋を突き詰められます。そうして、必然的に会議のアウトプットの質も向上される、というわけですね。
リコージャパンの働き方改革[後編]:働く人たちの自発的な「やりたい」を大切に に続く
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今回協力して下さった企業様
リコージャパン株式会社
- 設立
- 1959年
- 本社所在地
- 東京都港区芝
- 事業内容
- さまざまな業種における、お客様の経営課題や業務課題の解決を支援する各種ソリューションの提供。
・複合機(MFP)やプリンターなどの画像機器や消耗品およびICT関連商品の販売と関連ソリューションの提供
・サポート&サービス(画像機器やICT関連商品の保守、ネットワーク構築・保守、ICT運用業務代行)
・システムインテグレーションおよびソフトウェア設計・開発 - 従業員数
- 18,552名(2018年4月1日現在)
- Webサイト
- https://www.ricoh.co.jp/