前編では、サイボウズの「働き方の多様化」への取り組みが、トップの覚悟からはじまった、というエピソードをお届けしてきました。
今回の中編では、サイボウズが培ってきた「風土」について、そして、気になるサイボウズの「人事制度」についても、さらに深掘りしてお話を伺っていきます。
INDEX
嘘をつかず、モヤモヤを溜め込まない、そんな「風土」が健全さを支える
「先ほど、ワークスタイルを変革していくものとして、『風土』が大切だとおっしゃっていましたが、働き方改革を推進する企業でも、『風土』のような企業体質の深いところにまで切り込んでいくのは容易ではないと思うのですが、御社がここまで切り込めたのは、何がキーポイントだったのでしょうか? やはり、青野社長の『覚悟』というのが大きかったのでしょうか?」
「そうですね。会社について考えてみますと、“会社さん”という個別的な人格は存在しませんよね。では、会社とは何か、というと、やっぱり、『人』なんじゃないか、と思うんです。『社員一人ひとりの集合』、です」
「なるほど」
「そして、その社員の一人ひとりを、大きな視野でまとめていくのが、トップの役割です。ですので、『トップの覚悟と行動』というのは、会社を構成する要素である“社員一人ひとり”に、必然的に大きな影響を及ぼしていくことになります。トップの考え方・熱量に共感するから、社員は会社に籍を置きたいと思うわけですよね。トップと社員の共感のつながり、というものは、非常に大きいと思います」
「それでは次に、御社の『風土』について、詳しく教えていただけますか?」
「サイボウズの『風土』には2つの要素があって、一つには『公明正大』。簡単に言うと、嘘をつかない、ということですね。もう一つは、『自立と議論』を重んじる、ということです」
「自立と議論?」
「はい。その中では、『質問責任』と『説明責任』の大切さを伝えています」
「『説明責任』は聞いたことがありますが、『質問責任』というのは初めて聞きました」
「そうですよね。『質問責任』というのは、“何かモヤモヤして胸に引っかかることに直面したら、質問しなければならない”というルールのことです」
「なるほど! わからないことを放置しているのは、訊かない側の責任、ということなんですね」
「そうです、そうです。心のモヤモヤを引きずって、夜、居酒屋でクダを巻くというのは、あまり健全なことではありませんよね」
「あはは。そうですね」
「なので、“わからないことがあったら、質問しなければならない”という決まりごとを、まず作ったんです。そして、他方で、“質問された側は、その質問に対して、丁寧に説明しなければならない”、と。ルールですよね。会社というひとつの組織体の体質を左右するルール。それがきちっとしていれば、上司であれ、それこそ社長であれ、モヤモヤがあれば、質問して解消させようとしてよい、むしろ質問すべき、という共通認識は自ずと育っていきます」
「これは、もう実践されているんですか?」
「大いに実践しています。『公明正大』と『自立と議論』というルールのもと、モヤモヤを溜め込まない環境が整っているということは、企業にとっても個人にとっても、健全なことだと思うんです。あと、言い方、コミュニケーションスキルというのも、場数を踏んでいけばおのずと向上してきます。ケンカ腰にならないよう伝え方にも配慮すべきですし、直接言いにくいのであればグループウェア等を通して伝えればいい。伝え方は、個人の選択と裁量に任せています」
変化し続けていくこと
「サイボウズで働いていると、『こうしなきゃいけない』みたいな固定概念が、日に日に削ぎ落とされていく感覚があります。仕事と子供、どっちを取るかと言われたら、迷いなく子どもでしょ、とか。自分が抱いていた常識の真逆から来られて、驚きの感覚ばかりで。私が一番変えられたのかもしれません(笑)」
「あはは」
「我ながら恵まれているなと思うのが、広報をやりながら、20周年の「働き方改革、楽しくないのはなぜだろう。」という、アリとキリギリスを使ったプロモーションの担当にもなれたことです」
「見ました〜。楽しかったあ」
「あ、見てくれましたか(笑)。ありがとうございます! そのように、広報やプロモーションを通して、サイボウズの変遷を体感しながら、世の中に問いかけを行っていく良い機会をいただけて、本当にありがたいなと」
「変遷…、歩んでこられた歴史、ですね」
「本当に少しずつです。サイボウズも、ようやく今、働き方改革で注目していただいていますけど、十何年かかっていますし。すぐには変わらないですよね。一日一日、一瞬一瞬変わってきて、ようやく今、ここまで辿り着いたなと思ったら、次の瞬間には変わっていますし。自分が、ここら辺に落ち着くといいなと思っているところを、やすやすと越えてくるんですよね。成長というか、進化というか、原点回帰というか…。いつも本質に立ち返らされている感じがしています」
働く場所も、働く時間も、働き方も、自分で決めていく
「それでは、いよいよ、人事制度について具体的にお話を伺っていきたいと思います」
「本当に、当社は様々な取り組みを行っていまして…(笑)、それでは、順を追って
「はい、ぜひ!」
「まず、『選択型人事制度』について、お話ししていきますね。当初、2005〜6年の頃は、大きく次の3種類から選んでいました。
1、時間に関係なく働く
2、残業して働く
3、時短で働く
ところが、時と共にどんどんニーズも細分化していきまして、2007年からは“時間”だけでなく“場所”にも選択肢を増やしていこうということで、9種類に分類し直しました。が、実は、これももう、昔のこと。先に『100人いたら100通りの働き方』があっていいとお話しましたが、それに照らして言えば、この『選択型人事制度』で9通りに限定するのは、なんか違うな、と。“9分類”だけでは、一人ひとりの希望する働き方を適切に叶えられないんです」
「なるほど」
「例えば、9時〜17時で出社する社員もいれば、週のうち2日だけ在宅勤務をするという社員もいます。また、カレー屋さんを経営している社員もいて、カレー屋で何日、サイボウズで何日、というようなケースもあったりと…」
「百人百様、本当に自由なんですね」
「そうなんです。ですので、『選択型人事制度』という名称も改めて、2018年4月から、新たな人事制度『新・働き方宣言制度』の運用を開始しました。社員の数だけ『働き方』を作っちゃおうということで、専用アプリへ、全社員にそれぞれの働き方を自由に登録してもらっています。裁量労働制なので時間での縛りはありません。基本、9時〜18時というのはあるのですが、どこからが仕事でどこからがプライベートかの線引きなんて、曖昧ですよね。『育児も仕事だよね』と、青野もよく言っているのですが、仕事って何、会社って何、というのを自分で定義していく、ということですよね。働く場所も、働く時間も、働き方も、自分で決めていく、と」
自立的な“種”こそ、サイボウズの土壌ですくすく育つ
「宣言型の人事制度であれば、自分でワークスタイルを宣言して定義してしまえる、ということですね。でも、そうなってくると、管理の仕組みやオペレーションはどうなってくるのでしょうか? 人事の負担が増えてきそうな印象ですが」
「そうですね。まずは、人事チームを厚くしていますね。人数的にも、思いの強さ的にも」
「思いの強さ、ですか」
「『やりたいこと』『やれること』『やってほしいこと』、その3つのサークルが合わさったところで働いているのが最良の状態である、とサイボウズでは考えていまして、人事にいるメンバーは、みんな生き生きしていますよね」
「やはり、やりがいがあるんですね」
「はい。それに、もし、人事の仕事が合わないようだったら、異動も柔軟にできますし。サイボウズでは『大人の体験入部』という制度を用意しています。異動したら、合わなくてもそこで我慢して頑張らなきゃいけない、というのは違うよね、と。そこで、気になる部署があれば、事前に体験で入部できる制度を作っています。そこで合わなければやめればいいので、気楽です」
「そんな制度まであるんですね!」
「はい。なので、サイボウズって自由ですねって、よく言われたりするのですが、結構シビアなところもあるんです。全て自分で決めなければならないので、指示を待っていたり与えられるのを求めてばかりいる人には、合わないかもしれません。自立できる人、しようとしている人。そんな人たちこそ、サイボウズという風土・土壌の中で、すくすく伸びていける可能性のある人たちなのだと思っています」
選択肢を用意するということ
「先ほどの人事担当についての話の続きですが、『100人いれば100通りの働き方』ということは、それこそ何百種類にも及ぶ成果報酬・給与体系を決めなきゃいけないですよね。それを、マネージャーとワンオンワンで決めていくというのは、それだけでもすごくパワーのかかることなのではないかと思うのですが」
「サイボウズの場合は、給料とは、その社員の『市場価値』なんですよね。Aという社員がいて、その人には、年齢、キャリア、スキルなどの客観的データがあります。そのような人が他の企業に転職した時にどれくらいの給与をもらうのが妥当かと、まずは一般的なベース金額が出していきます。あとは社内における実績や信頼などを加味して、最終的には、青野の言葉にもあるのですが、『適当に決めて』います」
「あははは! なるほど。一般的な評価軸と社内的な評価軸を考慮した上で、あとは、えいや、と(笑)」
「はい、えいや、です(笑)。これで不満がある方は、どうぞ言ってください、と」
「それで、実際に給与が変わった例はあるんですか?」
「もちろん、あります。自分の『市場価値』を高めて、自ら会社と交渉する人もいます。逆に、私はそこまでの給料はいらない、という人もいるんです。そこまでいらないから、自分の時間をください、と」
「本当に人それぞれ、ニーズは多様ですね」
「2005年にどんどん社員が辞めていく時、青野は散々『辞めないでくれ』と引き留めました。『給料これだけ出すから』、『ポジション用意するから』と。それでも、辞めていくんですね。だから、人によって違うんですよね、人生で大事にしているものって。お金や肩書きがほしい人もいれば、家族との時間がほしい人もいる」
「そうですね」
「サイボウズは『長時間労働がダメ』と言っているわけでは、決してないんですよ。長時間働きたい人は、どうぞ働いてください、と。個人個人が求める選択肢が用意されているということですよね。それが、多様性のある環境だと思うんです」
「政府や多くの企業は、働き方改革の文脈で“残業”や“長時間労働”という言葉を発していますが、御社のHPや資料の中では、働き方改革を語る際でも、それらのワードがとても少ないことが印象的でした」
「そうなんです。働き方改革といっても、『長時間労働は悪』とか『女性活躍推進』とか、みんな右向け右で。そんな画一的で窮屈な空気に違和感を覚えたことが、20周年の『働き方改革、楽しくないのはなぜだろう。』のプロモーションを始めたきっかけでした」
「なるほど」
「もっと、多様であっていいんじゃない、って、当社の人間は思ったんです。じゃあ、20周年のタイミングで、世の中に石を投げてみようって。『ぼくらはこう思うんですけど、みなさん、どうですかね』って、柔らかくアニメーションを使って(笑)」
サイボウズの働き方改革[後編]:「真剣」になれば、どんな会社でもきっと変われるに続く
この事例と同じシリーズの事例
-
- 情報通信業
サイボウズの働き方改革事例(後編)
「真剣」になれば、どんな会社でもきっと変われる
- 人が集まる理想のオフィスを自分たちで育て、共同体意識を共有
- サイボウズの「問題解決メソッド」を学ぶ研修の実施
今回協力して下さった企業様
サイボウズ株式会社
- 設立
- 1997年
- 本社所在地
- 東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー 27階
- 事業内容
- グループウェアの開発、販売、運用
- 従業員数
- 586名(2017年12月末 連結) 414名(2017年12月末 単体)
- Webサイト
- https://cybozu.co.jp/