前編に引き続き、野村不動産株式会社の荘司恭兵様、富吉夏樹様にお話を伺います。
今回は、課題をどう抽出していくか、そして、抽出された課題にどう取り組んでいるか、など、より具体的な取り組みについて詳しくお話いただきました。
INDEX
社歴の浅い社員に、“新しい働き方”を無理なく実践してもらうために
新卒や中途の新入社員に対して、モバイルワークやフレックスなどの新しい働き方を、制度として深く理解してもらい、かつ自律的に活用してもらうというのは、なかなか難しいことだと思いますが、そのあたりのところは何か対策をされているのですか?
そうですね。元々は、「一定の等級に満たない者にはテレワークやフレックスを許可しない」などの制限をかけていたのですが、各部門から「そういった制限はいらない。全員が使える制度の方が望ましい」といった声が多く寄せられたために、制限を撤廃したという経緯がありまして。
入社してすぐの人に、自由度の高い働き方をしてくれというのは、実際、無茶な話ではありますが、そこは、年次の近い先輩社員がインストラクターとなってフォローするようにしています。
それは、社歴の浅い社員さんも安心できますね。
あとは、生産性に係る目標を設定する、ということも行なっています。働き方改革の実践が評価項目としてあれば、例えば、社歴が浅い社員は「どうやって残業時間を減らすか」など、自分自身の働き方を改めるための目標を立てるでしょうし、マネジメント層なら「どうやってチームで生産性を上げていくか」など、組織に係る目標を立てることになると思いますので。そうして、自分が「働き方改革」という文脈の中で何をすべきか、各人で、自然と目標を定められるようになってもらえればと思っています。
残業時間削減のリターンを適切に設計
世間では、働き方改革によって残業時間が削減(制限)され給与水準が下がった、という不満の声を耳にするケースもあるのですが、その点についてケアしていることはありますか?
“残業時間削減の取り組みが、会社の費用を浮かすための施策ではない”ということは、社長から社員に対してメッセージ発信し強調しています。実際には自己研鑽メニューの拡充や研修に係る費用補助の充実化を図っています。
会社の想いを伝えていくというのは、大切なことですね。
本当に、そうだと思います。残業時間を削減させた時間で、自己研鑽をするなり、家族との時間を楽しむなりして、社員には人として一段レベルアップしてほしい、というのが会社の想いです。そして、社員一人ひとりの成長が会社のレベルアップにつながり、成長した会社がまた社員に還元して…、そういったサイクルを回していけたらと思っています。
研修などの補助制度は、実際によく活用されているんですか?
はい、反応や問い合わせも多いですね。研修費についての会社の費用負担も、5割から7割にしましたので。
7割! それはかなり大きいですね。ちなみに、研修の補助にはどのような種類のものがあるんですか?
大きく分けて、3本柱の補助を用意しています。
1. 資格補助
2. ビジネススキル(グロービスやリクルートの公開セミナーなど)
3. 英語学習
補助するだけでなく、会社として特にこの資格の取得を推奨します、という風に、取り組むべき優先順位を明示するようにもしています。「英語」も今まではワンオブゼムで、「1. 資格補助」の一項目に過ぎなかったのですが、今ではこうして柱の1本として表に出していますので、「英語は大事なんだな」と、社員にも感じてもらっているのではないかと思います。
ES調査を活用し、最重要課題を抽出
社員の声に寄り添いながら働き方改革を進めていく中で、それでも、働き方改革に対してネガティブなイメージを持たれる方も中にはいらっしゃると思うのですが、社内での意識の擦り合わせに苦労したこと、工夫を凝らしたことなどはありますか?
工夫したことで言うと、ES調査の中で、働き方改革に関する質問項目を、「理解」「共感」「実践」の3段階に分けたこと、ですね。最初は「理解」のスコアすら、あまり芳しいものではありませんでしたが、調査を重ねていく中で、だんだんと「理解」や「共感」が浸透していっているように感じています。やはり、継続していくことが大事なんですね。
ちなみに、働き方改革の施策の提示は、会社の方から「〜をしてください」と、トップダウンになる傾向があると思うのですが、アンケート等を利用して、社員による施策案・要望などをボトムアップ的に拾ったりもしているのでしょうか?
基本的には働き方改革の施策は会社から提示しています。アンケートも会社の施策に対する効果検証という意味合いが強いですが、とはいえ、ES調査は組織の状態(社員の希望・要望)を見える化するものでもありますので、マネージャーである部長クラスにアンケート結果をフィードバックして、マネジメントツールとして役立ててもらうようにはしています。
なるほど。そうすると、アンケート結果を元に、各部署で自ずと社員の声が拾われて…。
はい、それによって、働き方改革に対する社員の自発性を促せていけたら、と思っています。ちなみに、アンケート結果から読み取れる当社の課題は下記の3つですね。
1. 意思決定プロセス
2. 会議
3. 資料
事業規模や投資額が大きいケースが多く、決定まで複雑なフローを辿らなければならなかったり、多くの資料が必要だったり、仕方のない部分もあるのですが、ここが大きな砦だと思って取り組んでいます。
意思決定、会議、資料─、抽出した課題に対する取り組み
「意思決定」に関しては、どのような取り組みをしているんですか?
意思決定の際に大切なのは、「どのレイヤーが何を決裁するのか」といったように、決裁権限の基準を明確にすることだと思っています。このことは、今ちょうど取り組み始めたところでして。
決裁権限の基準については、今まではあまり明文化されていなかったのでしょうか?
明文化されているところもあるのですが、実際には、決裁権限を持ったレイヤーよりも上位層が決裁に関わるケースも多かったんです。とはいえ、これは別段悪いことではないと思っています。当社の場合、「昼飯行くか」などと言って、一緒に昼食に出るくらいに役員の存在が近いので。役員との距離の近さは当社の良いところなのですが、反面、役員に説明する機会が増え、意思決定のプロセスを複雑化させている面があるのも事実です。
また当社の事業の特性上、様々な部署が連携して事業を行うことが多く、関係性が増えてしまう傾向も強いです。意思決定のプロセスをシンプルにするために、関係者が一堂に会する時間帯を週のどこかで確保して、意思決定の場を集約させる、などの工夫は行なっています。
なるほど。それでは、次に「会議」に対する取り組みについて教えていただけますか?
はい。無駄な会議をなくすために、“会議のための会議”をせずに、“必要な人だけ呼ぶ”ということを意識するようにしています。また、本部によっては、ファシリテーション研修を実施し、外部の講師を呼んで、効率的な会議の組み立て方・メンバーの意見の引き出し方などを学んでもらったりもしています。
場をまとめる人によって、会議の質が大きく違ってきますよね。
はい。まとめ役だけでなく、会議の参加者の内もう一人くらいファシリテーションの知識を持つ人がいると、いざというときに話の軌道修正が効くので、欲を言えば、研修を受けた人が複数人いるのが理想ですね。
それでは、3点目に挙げていただいていた「資料」についてですが、やはり契約書や社内文書などの紙文書を削減しようと?
いえ、紙文書だけでなくデータの資料でも、その分量を削減していこうよ、ということですね。「説明のための説明」のような資料は減らしていきましょうよ、と。平たく言えば、「資料作りに時間を取られ過ぎないように」ということですね。
なるほど、ペーパーレスというだけでなく、もっと全体的な、資料に対する向き合い方を問われているんですね。
はい。社内資料を求め過ぎない、ということですよね。そうすれば、社員が資料を過度に作り込む時間は自ずと減っていくのではないかと考えています。
「NOMURA」のワークプレイス「ARUMON」と「NEON」
次はハードに関わる内容について伺いますが、ここ新宿野村ビルの41階には、社員さんのセカンドスペースがあると耳にしたのですが。
はい、「ARUMON(アルモン)」ですね。ここはグループ会社同士のシナジー効果の拡大を主な目的として、2016年10月に開設されたものです。コミュニケーションラウンジをはじめとして、社員同士の交流を創発する場として位置付けています。
本部間を跨いだ打ち合わせの際には、とても重宝されていますね。夜間でも、運営委員に予約を申し出れば、ワークショップやイベント等、気軽に開催することができます。
リフレッシュしてもらえるよう遊び心を加えて場をデザインしていて、バランスボールのような椅子だとか、ゆったりできるソファだとか、フレキシブルな什器を揃えてレイアウトも自由に入れ替えられるようにしています。ランチをそこで食べても良いですし、ライブラリーなので、様々な参考図書も並べています。
4階には「NEON(ネオン)」というワークプレイスもあるんですよね。
はい。入居テナント様向けに昨年オープンしました。
「新しい(NEO)ことや新しい自分を起動(ON)する場所」
「ネオンは存在しているはずなのに長い間発見できなかった元素」
名前の由来としてはまだ見つけられていない新たな自身の可能性を、この場所から見つけてほしいという思いが込められています。
1.あたりまえのことを幸せに感じながら過ごす、オフィスが好きになる
2.朝から晩まで今目の前に起きているミッションをクリアするのではなく、何か生まれるかもしれない将来の種まきとして、新しい価値や気づきにふれてもらう
3.やりたいことを挑戦できる環境
1~3をNEONで提供することで、ワーカー一人ひとりの活躍を支援したいと思っています。
実際に、
・朝夕の時間帯で新聞・英語や資格勉強に活用
・各企業の働き方次第だが、LOUNGEやDINING(ランチタイム以外)でのソロワークや、面談などに活用
などいろいろな使われ方がされています。
社員のウェルネスに寄り添って、ポジティブな働き方改革を
それでは最後に、今後、働き方改革で実践していきたいことなどあれば、教えていただけますか?
「働き方改革」と「ウェルネス(健康・幸福)への取り組み」は、別個のものではないような気がしています。残業が減った分の時間で、「自己研鑽をする」「家族と過ごす」ということに加え、「自分の健康について考える」という時間があっても良いんじゃないかなと思っています。
働き方改革によって、残業時間が減り、その分を能力向上の時間に充て、会社全体が良くなって、というサイクルの中に、「健康でイキイキと働く」という要素をうまく溶け込ませていく必要があるんだろうと思います。いくら能力が高くても、「健康」あっての「働く」ですからね。そして、そこに「ダイバーシティ」を足して…
・働き方改革
・ウェルネス
・ダイバーシティ
の3本柱で、バランスよく進めていけたら良いなと思っています。
すばらしいですね!
先の年末には、「ウェルネス強化推進月間」を設け、著名な産業医の先生に来ていただいて健康に関するセミナーを開いたり、フレックス制度を使って早朝出社した人には朝食を無料で提供したり…。ここぞとばかりに思いつく限り、色々な施策を実行しました(笑)。
すごいですね。
フレックスの利用促進として、勤務途中でもリラクゼーションサロン「リラク」に行って良いですよ、という働きかけも行いました。その他にも、日比谷にあるメガロスの無料体験会を開催したりもしましたね。
本当に盛りだくさんですね。
これらの施策が100点満点だったかというと決してそんなことはないのですが、「健康経営」に着手した企業は、最初の内は社員の共感が得られにくいというのが常のようで(笑)。それでも、反省すべきことは反省しながら、意志を持って、継続していきたいです。
働き方改革を、「〜しなければならない」とネガティブなものにしたくないんです。もっとポジティブに、楽しい要素を入れながら、社員一人ひとりが少しでも積極的に“自分ごと”化していってもらえたら良いなと思っています。
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今回協力して下さった企業様
野村不動産株式会社
- 設立
- 1957年
- 本社所在地
- 東京都新宿区西新宿1丁目26番2号
- 事業内容
- 住宅事業、都市開発事業、資産運用事業、仲介・CRE事業、運営管理事業
- 従業員数
- 6,980名(2019年3月31日現在、連結ベース)
- Webサイト
- https://www.nomura-re.co.jp/