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株式会社OHコンシェルジュの働き方改革事例

「小1の壁」を乗り越えて。育児中でも働き続けられる職場づくり

投稿日:2019-07-25  最終更新日:2019-04-18  取材日:2019-02-27

株式会社OHコンシェルジュが取り組んだ事

  • 時間休制度と残業なしの風土醸成で「小1の壁」を乗り越える
  • 採用前に労働条件をすり合わせ、入社後のミスマッチと退職を防ぐ
  • 代打要員を置き、ママ社員の突発的な欠勤リスクをなくす
  • 会社規模

    30人

  • 業種

    専門・技術サービス業

  • 対象職種

    全社員

2019年4月から順次施行される働き方改革関連法改正で注目されるポイントのひとつが、産業医の機能強化。今回お話を伺う株式会社OHコンシェルジュは、その産業医とそれをサポートする看護職による産業保健サービスや労働衛生コンサルティングを行っています。育児中の女性従業員が多く活躍する同社ではどのように働きやすさを実現しているのでしょうか。

産業医制度を通じ、健やかな職場づくりをサポート

御社の業務内容から教えていただけますか。

(東川代表)労働安全衛生法という法律で、従業員数50名を超える事業場は、産業医を選任しなければならないと定められています。産業医は、企業の近くにあるクリニックや病院の医師が産業医を兼務するケースが多いのですが、その多くの医師は、病院の診療が忙しくなかなか産業医の仕事に時間を費やせなかったり、“実体のない名義貸し”になっているのが実情です。
当社は産業医の本来の目的である「産業保健サービスを通じて健やかな労働環境」を実現するべく、産業保健を専門とする産業医や産業看護職が、その専門性を活かし、契約企業の健康管理、安全衛生管理をサポートしています。

産業医の方は、具体的にどういう事をするのですか。

(東川代表)仕事に関連した健康障害を予防するのが本来の目的で、病院の医師のような病気の診断や治療はしません。労働者の平均年齢が高くなってきている昨今は、病気を予防して健康に働くだけでなく、病気になっても適切な治療を受けながら、どのように働くかを一緒に考えていくケースも増えています。生活習慣病やガンの他、メンタルヘルス対策、過重労働対策、健康の観点から職場環境改善の提案をするなど、業務内容は多岐にわたります。

お話を伺った、代表取締役 東川麻子様(左)と管理部 広瀬幸恵様(右)

社長も経験している「小1の壁」

働き方改革を始めるきっかけはなんだったんですか。

(東川代表)働き方改革を”始めた”感覚が実はなくて、会社設立当時からこの様なスタイルでやっています。
ですから、TOKYO働き方改革宣言奨励金事業(※)の申請にあたっては、新たに何かを大きく変えたわけではなく、社員からの意見を集めいくつか追加したくらいでした。

※TOKYO働き方改革宣言とは、東京都が主催する働き方改革推進を目的とした取り組み。 働き方や休み方の改善に繋がる制度整備をする企業に対して奨励金や助成金が交付される。

在宅勤務など、働く場所を自由に選べる制度はありますか。

(東川代表)職種によります。当社では2種類の職種があって、一つ目は、医療職。契約企業に訪問して保健サービスを提供する医師や看護師、保健師で、基本的に訪問先から直行直帰するスタイルで、在宅勤務はありません。
二つ目が、管理部。バックオフィス部門を担当する事務的なオフィスワーカーで、業務によっては在宅勤務もできます。

事務スタッフの方は在宅勤務もできるんですね。

(広瀬)実は、私が在宅勤務の第一号なんです。就職したあと、将来的には第二子を希望しているので在宅を導入しながら働けないか相談したのが始まりでした。

もともと在宅勤務制度があったわけでなく、相談があったから制度を作ることになった、と。

(東川代表)そうです。在宅勤務に限らず、従業員が希望すれば相談して必要があれば実行する流れです。社員のライフステージの変化と共に必要なサポートは変わるので、その都度、相談があった時に対応しています。

制度ありきではなくて、従業員から要望があって制度が出来上がるわけですね。

(東川代表)はい。要望が多ければ、制度化して就業規則に載せようか、となります。
当社は約10人でスタートしたんですが、採用の時点から正社員とか非常勤など区分けして募集したわけではなく、「週何日、何時間どんなふうに働きたいか」その人の希望に沿った働き方をすり合わせてから雇用契約しました。社員のほとんどが女性で、小さい子どもがいてフルタイム勤務が難しい社員が多いので、その人の希望に応じるようにしています。
子どもの成長に合わせて勤務日も「週2日から4日にしたいです」とか「週4日から5日にしたいです」など申し出があれば、都度見直して契約を結びなおしています。子どもがいるとPTA活動や役所関係など平日にしかできない用事も多いので、週4日勤務の準社員を選ぶ社員も多いです。

先進的な考えに基づいた雇用スタイルですね。それは社長の強い想いがあったからですか。

(東川代表)私自身が子育てしながら働いていて、いわゆる「小1の壁」も経験してきました。小学校に入って手が掛からなくなれば時短がいらなくなるかと思ったら、逆に小学校こそ時短や休みが必要だと実感したことも。だから、自分が困ったことは他の人も困るだろう、という前提の下でやっています。

テレワークの場所は自宅のみ

自宅だけでなく、図書館やカフェでテレワークするのもOKですか。

(東川代表)業種柄、企業の従業員の健康診断結果や診断書など個人情報を扱うので、カフェなど不特定多数が集まる場所でPCを開いて作業することはしません。また、在宅で行う業務内容も限定しています。

デリケートな内容を扱うのでセキュリティには気を遣いますね。書類やPC自体のセキュリティはどのようになっていますか。

(東川代表)在宅勤務の場合は、社内のサーバーにリモートアクセスできる設定をしたPCを貸与しています。元々、紙をやり取りに使うことは少ないですし、紙資料を家に持ち帰ることはないので、PCさえあれば仕事ができる環境にはなっています。
企業に訪問する医療職にはスマートフォンを貸与して、社内サーバーとは別のグループウェアにアクセスして、出社しなくても連絡事項など情報共有するようにしています。

残業しないと回らないような仕事量は受注しない

在宅勤務の人が多いと、オフィスに出社する人に負担が掛かりませんか。

(東川代表)むしろ逆かもしれません。在宅だと終業が中途半端になりがちなので、むしろ勤務時間が長くなる傾向があるかもしれません。オフィスだと保育園や学童のお迎えに間に合うように仕事を終わらせないといけないので、時間きっかりに上がりますから。
それに、それぞれが担当企業をもっているので、みんなが横並びの仕事ではないんです。つまり、全従業員の役割が違うので、誰かの業務が終わらないからといって他の人にその分の負担がいく、など不公平感はないと思います。
同じ事務職でも在宅でできること/できないことがあって、社外に持ち出せない書類やデータを扱う担当者は在宅勤務が難しいですが、うまく役割分担してできていると思います。

残業時間の問題はありませんか。

(東川代表)残業はほぼなくて、全従業員27名の月間残業時間を合わせて5時間あるかないかくらいです。
就業規則では9時~18時が定時ですが、終業30分前以降は仕事が終了していれば帰ってもよいルールなので17時半になるとそわそわ片付けしはじめて、みんなが帰るタイミングに間に合わなさそうだと「すみません、急いで片付けます!」という感じになります。

仕事がどうしても終わらない時もありませんか。

(東川代表)マンパワーを超える仕事量を受注する事はないよう調整するようにしているので、業務が溢れることはほとんどありません。
仕事を受注した後で誰に割り振るか考えることはしないので、担当できる人がいなければ依頼をお断りするケースもあります。前職時代の「来た仕事は受ける!無駄なくやりくりすればできるはずだ!」というスタンスが合わずに独立に至った経緯があるので、そうはなりたくない思いがありますね。
やっぱり子育てしながら働く上で一番困るのが、想定より業務が多いことなんです。逆に業務量が少ない時などは、スタッフの手が空いてしまうと無駄な時間のように感じてしまいますが、専門的な知識を身につける時間、学びの時間として大切だと考えています。

育児しながらだと、残業が難しいというよりそもそも無理ですものね。

(東川代表)そうですね。保育園の迎えに間に合わないとか、学校行事に休めないのが一番困るかなと思うので。
採用の段階で、業務内容や、働き方、働く時間など細かくヒアリングしてお互い納得の上で雇用契約するようにしています。会社側も受注した業務について細々した業務にあてる時間まで正しく見積もる必要があります。

入社前にすり合わせができているので、入ってからミスマッチや働きにくさが出づらいんですね。事務職だけでなく、医師や保健師など医療職もそうなんですか。

(東川代表)医師の方は業界独自の働き方があり、一般の就業規則に当てはめるのが難しいので、他の職種とは別枠で規則を変えて運用しています。

“代打要員”が突発的な欠勤にも対応

働き方について伺ってきましたが、休み方に関してはどんな制度がありますか。

(東川代表)1時間単位で有給が取れる“時間休制度”を取入れています。小学校の保護者会や授業参観はだいたい14時とか中途半端な時間に始まる事が多いので、半日休とか1日休だともったいないんです。
育児中の従業員が多く、従業員同士で“ママあるある“がツーカーで通じる関係性なので、子どもの都合で休んだり出社時間を遅らせたりの希望が出しやすい風土になっています。世間ではこういう理由で休みを取るのを言い出しにくい企業もまだ多いと思うのですが、当社ではないですね。

それでも、子どもの急な発熱など突発的な欠勤が出て困ることはありませんか。

(東川代表)「子どもが熱出しているけど何が何でも会社に行かなきゃ!」という状況はなるべくなくしたいと思っています。ですから、突発的な欠員に備えて、必ず一人はオフィスに代打要員が出社するようにしています。
ただ、医師は法的に代打がきかないので、子どもの預け先がなくどうしても出社しないといけない場合は子連れ出勤もまれに発生します。業種柄、オフィスに看護師がいるのでお子さんのお世話をすることもできますので。

それは御社ならではのメリットですね。育児中でも働きやすい職場だと思いますが、子どもがいない社員が不公平に感じることはありませんか。

(東川代表)独身や結婚していても子どもがいない方だと、不満というか不公平感はゼロではないかもしれません。でも、私としては、「その人も将来的に子育てするかもしれないし介護など別の形で必要になるかもしれないので、先々その権利を使ってもらえれば」と考えています。

休みもある程度柔軟に取れるとのことですが、フレックス制度も導入していますか。

(東川代表)それぞれが受け持つ担当企業との契約で出社時刻が既に決まってるので、フレックスは基本ありません。

では、産業保健スタッフの方は訪問先の就業時間に合わせて働くことになるのですか。

(東川代表)いいえ。例えば、常駐先企業の定時が9時~18時だとしたら、産業保健スタッフが働くのは10時~16時くらいまで、勤務時間が5~6時間で収まるような契約にしています。基本的に常駐先から直行直帰で、みなし勤務になります。

お金をかけなくても働きやすい空間は作れる

オフィスについてお聞きしたいのですが、執務空間で心掛けていることはありますか。

(広瀬)お金をかけた華美なオフィスを目にする機会が多々あります。でもそれが従業員のニーズや働きやすさに必ずしもマッチしていないケースも正直多いと感じています。
だから、お金をかけなくても働きやすいオフィス環境のモデルケースを作ってみたいと思ったんです。会社設立当初から、お金をかけないオフィス環境づくりをコンセプトとして作ってきました。

お金をかけない為にどんな工夫をしましたか。

(広瀬)まずは、基本のパーテーションレイアウトは業者さんに相談しながら自分たちでレイアウトを考え、什器や部材については大手オフィス家具メーカーから中古オフィス家具屋、住宅家具メーカーまですべて自分たちで回って選びました。
その中で「冬にこたつで休憩したいから、小上がりが欲しいね」という意見があって、畳敷きのスペースやこたつを置いたりして。一日の大半を過ごす生活の場でもあるので、カッチリした普通のオフィスというより、家みたいな雰囲気もあえて残しています。

アットホームな雰囲気でくつろげそうな横浜本社のこたつスペース。本社の家具や什器はほぼ中古で調達したそう。

柔軟な働き方は、大きな責任と背中合わせ

ここまで手を掛けていると、会社にも愛着が湧きそうですね。

(広瀬)そうですね。壁のグリーンや執務スペースのフローリングはDIYで作りました。植物も世話していたら増えてきて、みんなで作りあげた感じがしますね。強制ではなくてやりたい人がやっているんですが、こういう事ができるのは業務に余裕があるからこそかな、と。残業が多かったらこうはならないですよね。

東京支社の小上がりとオフィスのあちこちに配置された観葉植物。二度咲きが難しいとされる胡蝶蘭の栽培も3年目に突入したそう。

東京支社のマルチスペース、人数が多い打合せの際には、椅子を出して大会議室として利用している。

話を聞いていると、風通しが良さそうな職場ですね。

(東川代表)その都度、意見があれば言うようにしてもらっています。
業種柄、外では情報交換や相談ができないので、月1回全従業員が自由参加で集まるミーティングをしてコミュニケーションを取ることもあります。18時スタートで夜間のため子連れ参加可とし、話している間に、子供は隣の部屋で遊んだりして。

働きやすそうな職場という感じがします。

(東川代表)そうですね。指示をする上司がいるわけでもなく業務もそれぞれ独立しているので、個人の裁量で仕事ができるのも働きやすさの一因かもしれません。
ただ、従業員の勤怠スタイルが柔軟(=バラバラ)なので労務管理や時間給与計算をする総務が一番面倒かもしれないですね。でも、その管理が面倒だからといって働き方を一律で揃えるのではなく、総務スタッフを増員してパワーを掛けてでも事務処理をして、従業員が働きやすい方を取るのがいいかな、と。
こういう管理を含め効率化だけを目指すと、多様な働き方は無理だと思います。創業8年目になりますが、社員のライフステージや状況が年々変わりますからルールは毎年変わっています。柔軟な働き方を目指すなら、会社側がいかにそこに手間暇かけるかに掛かっていると思います。
産業保健職は、いざとなれば独立して企業と直接契約することもできてしまう職業ですから、会社側が働きやすい環境を提供することで退職を防ぎたいという思いもあります。

ところで、働き方改革の取組の中では「副業」というワードも注目されていますが、御社ではいかがでしょうか。

(東川代表)医師は、大学で教鞭をとりながら、現場に出たり診療もしたいからといって副業するのが他の職種よりめずらしくないのですが、正社員の副業には疑問です。せっかく残業がないのに副業で疲れて本業に支障きたすのは本末転倒ですよね。禁止はしませんが推進することもないので、相談があれば都度対応しています。

働き方改革というよりは、会社と従業員が働きやすい環境とは何かを考えて実現している感じがしますね。

(東川代表)従業員側としては、自分たちが希望を出した労働条件で契約しているので、大変だ、できない、とは言いにくいでしょうし、仕事に対する自覚が足りないと厳しいところもあります。担当を投げ出すわけにはいかないし、調整をしながらでもやり遂げないといけないので。働きやすい一方で、成果を出さないといけない責任は負っています。スタッフ1人1人がその責任を果たしてくれていることで会社が支えられていますし、スタッフのやりがいにもつながっていると思います。

確かに、なぜ働きやすさが必要かといえば従業員が能力を最大限に発揮して成果を出す為ですものね。本日はお忙しい中ありがとうございました。

(東川代表、広瀬)こちらこそ、ありがとうございました。

今回協力して下さった企業様

株式会社OHコンシェルジュ

設立
2011年2月8日
本社所在地
神奈川県横浜市港北区新横浜3丁目12番地4 エクステ新横浜ビル
事業内容
産業医、産業看護職等による産業保健サービスの提供(企業訪問等)、労働衛生コンサルタントによる相談 等
従業員数
27名(常勤12名、非常勤15名 ※令和元年5月1日現在)
Webサイト
http://www.oh-concierge.co.jp/

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