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リコージャパンの働き方改革事例(後編)

働く人たちの自発的な「やりたい」を大切に

投稿日:2019-02-08  最終更新日:2019-03-20  取材日:2018-10-05

  • 会社規模

    18,500人

  • 業種

    卸売業

  • 対象職種

    全社員

前編では、リコージャパンが働き方改革に取り組むきっかけや、社員の「働きやすさ」に対する想いに加え、AI活用や会議の効率化など、具体的な施策についても、詳しくお伝えしてきました。

この後編では、在宅勤務のお話を中心に、今後の目標なども伺っていきます。

在宅勤務は週1日でも効果あり

では、次に在宅勤務の取り組みについて、聞かせていただけますか?

はい。まず我々が着手したのが、「両立支援」です。育児もそうですが、これからは介護ですね。介護という問題について、早く手を打っておかないと、大勢の社員が働けなくなってしまう。ということで、弊社では、2016年から、在宅勤務の必要性が本格的に叫ばれ始めました。そして、2017年1月から、育児や介護に関わる方たちを20名くらい選出し、2か月間、トライアルを行いました。

その後、2017年の6月〜7月には、両立支援トライアルを全国に広げ、座談会も開いてみたのですが、そこで「在宅勤務は週1日でも効果がある」という声が上がったんです。週1日でも在宅勤務ができれば、ささいなことですが、小さな家事、例えば、布団だって干せますしね(笑)。でも、主婦の方からすれば、これは決してつまらない話じゃないんです。

なるほど、本当にそうですね!

在宅勤務は、ルールや制度をガチっと固めてからでなければできないんじゃないかって思っていたのですが、いや、実はそうじゃない、と。1日からでも始めてみればいいし、失敗したらやめればいい。そのくらいの軽やかさで、2018年5月から「両立支援」の枠も解除して、誰でも在宅勤務OKとしました。そして、今は、部署ごとに徐々に広がっているという状況です。

物理的な距離は、ツールや技術で埋める

誰でも在宅勤務OKというのは、家の環境とかツールの条件もないんですか?

会社からはノートパソコンとVPN(※)を提供し、スマホの手配も始めています。回線だけは自宅で用意してもらっていますが。当初はセキュリティを気にして有線限定にしていたのですが、今は無線もOKにしています。

※Virtual Private Network(バーチャル プライベート ネットワーク):仮想プライベートネットワーク。インターネットなどの公衆回線を用いて、イントラネットなどのプライベートネットワークを拡張する技術、およびそのネットワークのこと。インターネットのような既に整備されたインフラを利用しながら、あたかも自社内で構築した専用線のようにデータのやりとりを可能にする。

コミュニケーションは、主に電話ですか?

電話に加え、チャットも活用しています。在宅は、コミュニケーションがもっとも懸念されるところですが、スカイプを活用すれば、朝礼にだって参加できます。また、今期からはTeams(※)なども使っています。これらのツールを使い出すと、もうほとんど、オフィス-在宅間の距離なんて気にならなくなりますね

Teamsとは:グループウェアサービスとデスクトップアプリケーションをセットで利用できる、法人向けサービス「Microsoft Office 365」が提供するチャットツールのこと。オンライン会議等に広く利用される。

メールと違って、チャットだと会話感覚で気楽ですものね。

さらに、当社ではUCS(※)というテレビ会議システムも活用しています。ポータブル式の非常に手軽なものなので、経営会議も一部、UCSで行っています。以前は、全国各地の拠点から、代表者たちが長距離を移動してきていたのですが、これをUCSにすることで、参加率も大幅に上がりました

UCSとは:リコーが提供するテレビ会議・Web会議システム。RICOH Unified Communication System。クイック接続を実現し、ストレスフリーな次世代テレビ会議システムとして注目されている。

選ぶのは、あくまでも働く人たち

次は、オフィスについて、お話を伺えますか?

昔はオフィスに来ないと仕事ができなかったわけですが、今では、オフィスは、働く場所の数ある選択肢の内のひとつ、くらいのものだと思うんです。なので、当社としては、“流動性が高く、シェアできる環境”を実現しやすい「フリーアドレス」化へと向かっていこう、と。そのためにも、ペーパーレス化ということで、まだ全拠点とは言えないものの、ほぼその方向性で動く準備が整っています。

受付エリアにはソファーと自社製品の紹介コーナーがある。

また、フリーアドレスの中にも、コミュニティエリアをいくつか作って、カッコよく言うと“偶然の出会い”を生むような仕掛けですね。社員同士、交流を図ってもらっています。あと、基本、お昼も席ではなくリフレッシュエリアで食べてもらうようにし、そこでも社員同士、会話をしてもらう、と。あと、サテコラというのも用意しています。

サテコラ?

3箇所くらいですが、事業所内にカフェを入れているんです。サテライトコラボ、というのですが。

え〜、オフィス内にカフェがあるんですか? うらやましい!

カフェにすると人が集まるんですよね。コーヒーを飲みに来て、そこで社員同士が出会う、みたいな。

そこで、また新たなことが生み出されていきそうですね! ちなみに、フリーアドレス化については、全部署で検討されているんですか?

いえいえ、もちろん、経理などの場合は固定席の方が働きやすかったりするので、そこは部署ごとに違ってきますね。

なるほど。

決して、フリーアドレスの実現が目標ではないですからね。我々としては、何であっても、“上からの強制”にはしたくないんです。社員が働きやすいように、そのニーズに合わせて制度を整えていく、というのを基本的なスタンスにしていきたいね、と常々話しています。経験しないとわからないだろうから、そのためのきっかけづくりはしようとは思っていますが、選ぶのは、あくまでも働く人たちですから

理解・共感が、“働きやすさ”を育む

「復職セミナー」をされていると聞いたのですが、新・小学1年生を持つ方だけでなく、4年生になるお子さんを持つ方も対象にしているというのが面白いなと思いました。

おかげさまで、弊社は復職率がとても高い状況でして、ほぼ100%なんですね

100%! それはすごいですね!

ありがとうございます。さまざまな支援活動を行っているのですが、特に復職を考える女性への支援の中で、我々が最もこだわっているのが、「上司といっしょにやろう」ということです

上司といっしょに?

はい。復職に関わる教育や説明も本人に対してだけでなく、その上司にも行っていきます。上司の理解がなければ、女性の復職もスムーズに進みませんから

また、小学校1年と4年というタイミングについて、「1年の壁」なんて良く言われますが、4年生も学童がなくなってしまう時期なんですよね。こういったニーズは、子育てを経験してきた先輩のママさん社員たちがよくわかっていますので、そこは手厚くして、不安を軽減してあげようということですね。

上司の方の理解も得られてきているんですか?

そうですね。説明会への参加も確実に増えてきています。今は共働きが多くなってきていて、時代にあったマネジメントを、上司自身がしっかりと学んでいかなければならないですから。ポイントは、何をやるにしても、上司だと思うんですよね(小声)。

あははは! でも、本当にそうだと思いますね。当事者の女性だけでなく、男女関わらず周りの人たちから理解をもらえることが、復職のしやすさや復職後の働きやすさにつながってくるんだと、すごく思います。

そうですよね。その際、マネジメントが非常に大事になってきますので、マネジメント教育についても力を注いでいます。そこで、2017年の4月に人事制度を大きく改めて、「人に優しく、仕事に厳しい」人事制度、と打ち出しました。「人に優しく」というのは“仕事しやすく”、そして、「仕事に厳しい」というのは“評価はきちんとと行う”と、そういった意味ですね。

その新しい人事制度の周知については、どのように?

会社の規模が大きいので、今までは面と向かって説明会を実施しておらず、恥ずかしながら、書類配って終わり、といったような…。そこで、人事制度が改まって、翌月の2017年5月から、初めて人事スタッフが全国を回って、80回、新しい人事制度にまつわるマネジメントの説明会を行ったんです。「こんな制度がうちにあったんだ…、知らなかった」という方ばっかりで、この説明会をきっかけに、色々な制度を活用してもらえるようになりました。

説明会の効果は、とても大きかったんですね。

はい。そして、それ以降、毎期、勉強会やワークショップ、説明会を開くようにしています。これがすごく効いています。いくら制度を変えても、上司や職場の理解がなかったら上手くいきません。なので、こういった取り組みは継続してやっていこうと思っています。

あと、2018年からは「イクメンチャレンジ制度」にも取り組んでいます。これは男性社員限定。子どもが生まれたら、病院や実家から奥さんが家に帰ってくるタイミングで、夫である男性社員に、強制的に3日間休みを取らせるんです。特別休暇で有給扱いにして。その3日間は育児に関わること、オムツ、ミルク、お風呂、夜泣きの世話など、子どもの世話をぜんぶ旦那さんがやる、と。そして、3日間が過ぎたら、レポートを書いて、奥さんにハンコをもらってくる

え〜!! 新米パパの職場体験みたいな(笑)。

ははは、そんな感じですね。この取り組みも、先ほどお話ししたように、男性の方の育児に関する理解を促進させたいという想いから始めたものです。出産・育児に対する理解が会社に浸透してくれば、出産・育児を控えた女性の方も、この会社で安心して働いていけると思ってもらえます。それが大事なことだと思います。

「自分にとっての働き方」を見つけられる会社に

では、最後に、これからの課題について教えていただけますか?

良いことばかりお話ししてきましたが(笑)、まだまだ、挑戦を始めたばかりのところでして、それぞれの施策は、まだ浸透しきってはいません。でも、確実に、良い方向には進んできているとは思っています。

良い変化を示してくれている人もいますし、まだまだ変われない人もいます。でも、それも多様性ですし、とにかく、我々としては活用できる制度、働きやすい環境を整えていくことに、これからも力を尽くしていきたいですね

あくまでも、働く人の目線で、ということですね。

在宅トライアルが上手くいったのも、結局、やりたい人から始めたからだと思っています。育児・介護を抱えている方で、在宅勤務に挑戦してくれた方たちは、要するに、働きたいんですよね。だから、在宅という環境の中で、自らで色々と工夫をしてくれました。

社員一律に、「〜すべきだから、やれ」ではないんですよね。そうではなくて、働く人たちの自発的な「やりたい」を応援していくことが大事かなと思っています

働き方改革に取り組もうとした初年度、コスト削減を打ち出してトップにガツンとやられたという、あのエピソードに通じるのかもしれませんね。

そうですね。振り返ると、つくづく、あの体験が大きかったと思います。「会社目線」から「働く人目線」への転換。あの時、我々も働き方改革の本当の大切さを肚に落とすことができました。昨年度までは、制度やツールなど、“かたち”を整えていく時期でした。そして、今年度は、こちらから様々な働きかけを行って、定着を図る年でした。

着実に階段を登ってきているんですね。

ありがとうございます。でも、これからは、いよいよ、社員の自律性が問われていく時です。社員一人ひとりがよく考えて、「自分にとっての働き方」って何なのかを見つけていってほしいと思っています。

この事例と同じシリーズの事例

今回協力して下さった企業様

リコージャパン株式会社

設立
1959年
本社所在地
東京都港区芝
事業内容
さまざまな業種における、お客様の経営課題や業務課題の解決を支援する各種ソリューションの提供。
・複合機(MFP)やプリンターなどの画像機器や消耗品およびICT関連商品の販売と関連ソリューションの提供
・サポート&サービス(画像機器やICT関連商品の保守、ネットワーク構築・保守、ICT運用業務代行)
・システムインテグレーションおよびソフトウェア設計・開発
従業員数
18,552名(2018年4月1日現在)
Webサイト
https://www.ricoh.co.jp/

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