2013年に「ダイバーシティ推進委員会(通称・ダイチャレ!!)」を立ち上げ、2017年には働き方改革を本格始動させた野村不動産㈱。
住宅事業、都市開発事業、資産運用事業、仲介・CRE事業、運営管理事業と、幅広い事業領域をカバーする野村不動産グループには、その規模の大きさゆえに、働き方改革の実践には一筋縄ではいかない苦労があったのでは…?
今回は、そういった組織横断的な取り組みの難しさや工夫したポイントなどのトピックスを中心に、野村不動産株式会社人事部の荘司恭兵様、富吉夏樹様にお話を伺いました。
INDEX
ダイバーシティへの取り組みを引き継ぎ、発展させて
それでは、最初に、働き方改革に取り組み始めたきっかけについて教えていただけますか?
はい。当社は、世間で働き方改革が叫ばれる以前の2013年頃から「ダイバーシティ」への取り組みを始めていました。女性やシニアの活躍、多様化するワークスタイルへの対応など、4年間ほど様々に取り組み、部門をまたいだコミュニケーション向上施策や制度改正など一定の成果を残しました。
その結果、ダイバーシティが実現されている状態とは、どんな状態か─。それは、「色んなバックグラウンドを持つ人たちが、働きやすい環境の中で、それぞれの個性を最大化できていること」だろう、ということに行きついたんです。
2017年当時、ちょうど、「働き方改革」が社会的にも盛り上がりを見せ始めた頃でもあったため、当社が以前から掲げていた「ダイバーシティ推進」というコンセプトを包括するかたちで、「野村不動産グループ働き方改革推進委員会」を組成。それによって、本格的に働き方改革がスタートしたという流れです。
事業部ごとの自律性に委ねながら、人事部がグループ全体の旗を振る
2017年に推進委員会が立ち上げられて、まずは何から着手されたんですか?
わかりやすいところで言うと、「長時間労働の是正」ですね。定量的な数値目標で言うと、「残業時間を年間通じて法定ベースでゼロにしていくこと」。これを、2022年3月期に達成すべきゴールとして定めました。この目標は、野村不動産だけでなく、野村不動産グループ全体で取り組んでいます。
グループ全体で、というと、大変な規模の取り組みになりますね。その旗振りはどのようにして?
グループ全体だと7000名ほどの従業員がいますので、私たち人事部だけが旗を振るのではなく、それぞれの会社、事業本部ごとに自律的に目標を立てもらっています。もちろん、グループ全体に及ぶ施策もあるのですが、基本は、事業本部・部署ごとに、実態に即した目標やプランを立ててもらう、というかたちです。
なるほど。その際、各部署で働き方改革を導いていくのは…?
基本的には、それぞれの部門長・本部長・社長などトップに立って先導していくことになります。そのサポートを、私たち人事部が行っていくということですね。
各本部・部署に改革の舵取りを任せているというのは、やはり、グループ内であっても、各々で働き方が千差万別だから、ということでしょうか。
そうですね。野村不動産ホールディングスには、様々な業態の会社が集まっています。スポーツクラブもありますし、ビル管理、マンション管理、ディベロッパー、リテール仲介など、それこそ多岐に渡っていますので、同じグループだからといって統一してやるというのは難しい話ですし、規模感によって投資のボリュームも変わってきますので。
これは、当社・野村不動産内の部署間でも言えることです。住宅分譲、賃貸事業、金融事業、仲介事業などなど、各事業本部によって扱うものは様々で、そのため課題も千差万別。ですので、本部ごとに、実態に即したかたちで取り組んでいってもらっているということです。
社内向けのポータルサイトを運営していて、そこで、グループ全体の働き方改革の事例を発信しています。もともとは働き方改革の情報だけを扱っていたのですが、2018年7月、野村不動産株式会社・人事部内に「ウェルネス推進課」が新設されたことに伴って、今では「健康経営」の要素も発信内容に加えています。
スムーズビズを契機に、スーパーフレックスを見直していく
グループ全体に対して人事部として働きかけられるものとして、今やろうとしているものには「スムーズビズ(※)」があります。2020年には東京オリンピックがあり、東京都が時差出勤を推奨していますよね。当社にもコアタイムなしのスーパーフレックス勤務制度があるのですが、十分に活用されていないのが実態でして。それを、このスムーズビズを契機により活用できるようになれば良いなと思っています。
※スムーズビズとは:東京オリンピック2020大会の開催期間中の交通混雑を見越して、交通需要マネジメント(TDM)、テレワーク、時差Bizなどを取り入れていこうという、東京都による取り組み。企業等と一体的に進めていくことで、大会時の交通混雑の緩和を図ると同時に、新しいワークスタイルや企業活動のスタンダード=「東京モデル」の確立を目指していく。
なるほど。ちなみに、スーパーフレックス制度はグループ全体で採用されているんですか?
いえいえ、野村不動産だけですね。それぞれ業態も多様で適用される勤務契約が異なるので。
具体的にどのような取り組みがあるんですか?
たとえば、ビルメンテナンスとマンション管理を行っている野村不動産パートナーズですと、もともと9:00〜17:40という勤務時間だったのを、9:30〜18:00に変えたんですね。10分間、所定労働時間を短くし、始業時間を30分遅らせることで、家族と朝ごはんを食べてから出社してもらえれば、ということで。
それは大切なことですね! ちなみに、スムーズビズが進められていく中で、すでにあるフレックス制度をより活用していくために、人事部として実施しようとしていることはありますか?
まずは、我々コーポレート部門自らが、しっかりとフレックスを活用していくことが大事だと思っています。また、当社には東京オリンピックに協力している部門もありますので、そういったところとは密接に協力し合いながら、グループ全体で新しいワークスタイル実践の機運を高めていきたいですね。
また、テクニカルなところですが、「この時間帯の会議は控えましょう」といったような、“働き方の目安(一定のモデル)”を示すための呼びかけも継続的に行っていきたいと思っています。スーパーフレックスですと、どの時間帯でも出社できてしまうからこそ、“どこにも出社しない”ということが起こりうるので、コアタイムを作るほどではないにせよ、モデルのタイムスケジュールをいくつか示していく、というような働きかけも必要なのではないかと考えています。
ちなみに、フレックスの中では、1日の最低労働時間も決められていないんですか?
出社してくれば良いということで、具体的な数字は設定していません。でも、1時間だけ出社して働くかというと、そういう使われ方も効率的とは言えませんよね。その点に難しさを感じており、より良い活用のされ方を模索しているという段階です。
モバイルワークする「場所」について
働く時間だけでなく、働く場所もフレキシブルにしていこうという動きについては?
はい、あります。現在は、誰でも在宅勤務できるようになっています。在宅環境でも仕事できる程度のコンプライアンス知識や業務経験があり、かつ、在宅に適した仕事があるのであれば、誰でも在宅勤務OKです。
自宅以外の場所でモバイルワークをすることもできるんですか?
「適した場所なら、どこでも良いですよ」という伝え方をしています。具体的に、「この場所でモバイルワークをするのはダメ」というようなことは明示せず、この点は個々人や部署に任せていますね。ですが、部署によって、例えば「野村不動産投資顧問」などでは、モバイルワークする場所に明確な制限を加えています。電車での移動中ではダメ、など。やはり、情報が漏れてしまうと大きな問題になるので、基本は「自宅かサテライトオフィス、主張先のホテルに限る」としています。あとは、必要に応じて、本部ごとに独自のルールを作ってもらっているといった状況です。
サテライトオフィスとしては、どのようなものを用意されているんですか?
御社の「ZXY(旧ちょくちょく…)」を利用させていただいているほか、
当社も事業としてサテライト型シェアオフィス「H1T(エイチワンティー)」を10月から開始するので、それらを拠点として活用する予定です。
あとは、当社のビル部門には「PMO(※)」もありますので、それらを拠点として活用している他、
「横浜ビジネスパーク(YBP)」という大規模複合施設も保土ヶ谷にありますので、そこでもモバイルワークを行うことは可能です。
※PMOとは:PREMIUM MIDSIZE OFFICE。中規模ビルのスケール感の中で、大規模ビルと同等の機能性とグレードを実現させた、野村不動産が提供する新しいコンセプトのミッドサイズオフィス。日本橋を中心に、銀座、京橋、神田、秋葉原、御茶ノ水、新橋、浜松町、渋谷、新宿、五反田など、都心の主要エリアに物件が配されている。
なるほど、様々な環境を整えておられるんですね。ちなみに、それらのサテライトオフィスは社員であれば誰でも利用することができるんですか?
御社の「ZXY(旧ちょくちょく…)」には、使用者の制限もつけていないので、色々な部署の社員が活用しています。
モバイルワークにおける「マネジメント」について
モバイルワーク環境下における人的なマネジメントについて、課題に感じていることはありますか?
フリーアドレスになっている部署では、誰がどこにいるのかわからないという声は上がっています。ですが、そもそも当社では、離れた拠点で働く者がいるというのが常態ですので。例えば、住宅営業の社員はマンションギャラリーで仕事をしていますが、そこには管理監督者がいないことが多いですしね。そうすると、労務管理上、どうしても行き届かない部分が出てきてしまうことも…。その点は課題に感じていますね。
そうですよね。ちなみに、「1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング」を開いて、上司と部下の交流を促す、などの動きは?
はい、1on1に関しては、今まさに導入したいと思っているところです。遠隔地でのマネジメントの必要が発生する部署では、月1回で実施できないか画策中です。また、上司サイドに対してはコーチング研修も行っていけたらと考えています。
ちなみに、コーポレート部門では、この1月〜3月(2019年)の間に1on1のトライアルを実施しました。まずは自分たちが経験し、効果を実感してみないことには、他部署には勧められないと思いまして。
感触はいかがでしたか?
部下側にアンケートを取ったのですが、結果、「(1on1をやって)良かった」「良くなかった」は、ちょうど半々くらいでしたね。「雑談ベースでは上司・部下間でもそれなりにコミュニケーションは取れているので、1on1をあえて行う必要性は感じられない」という意見も中にはありました。トライアル期間も3ヶ月と短く、もっと腰を据えて実施していたら結果は違っていたのかなとも思いつつ…。あと、隔週実施だと上司の負担が大きいこともわかりました。
なるほど。1on1の実現は、やはり「上司」がポイントなのかもしれませんね。
そうだと思います。「上司が話を聞いてくれ、自分に関心を寄せてくれている」と思えたら、部下の満足度はぐっと上がりますしね。そもそも、上司が1on1の必要性を腑に落としていなければ、“無駄に顔を合わせるだけの時間”で終わってしまいますから、やはりキーは「上司」だと思います。わざわざ1on1という形を設定しなくても部下との関係性をしっかりと作れる人もいたりと、そこは人に依るのでしょうが…。その中でも、プラスアルファでより中長期的な成長・キャリア支援をしていってもらえるよう、こちらからも働きかけていきたいと思います。
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今回協力して下さった企業様
野村不動産株式会社
- 設立
- 1957年
- 本社所在地
- 東京都新宿区西新宿1丁目26番2号
- 事業内容
- 住宅事業、都市開発事業、資産運用事業、仲介・CRE事業、運営管理事業
- 従業員数
- 6,980名(2019年3月31日現在、連結ベース)
- Webサイト
- https://www.nomura-re.co.jp/