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株式会社タニタの働き方改革事例(前編)

社員をフリーランスに。
「会社と個人の新しい関係性」を提案

投稿日:2020-05-08  取材日:2020-03-17

株式会社タニタが取り組んだ事

  • 社員をフリーランス化し、雇用にとらわれない「会社と個人の新しい関係性」を提案
  • 仕組み化のポイントは、業務内容と報酬の定義と契約期間
  • 「タニタ共栄会」という互助の仕組みでフリーランスをサポート
  • 会社規模

    1,200人

  • 業種

    製造業

  • 対象職種

    全社員

    企画・管理

株式会社タニタ(東京・板橋)といえば、体組成計などの健康計測機器や、社会現象にもなった東京・丸の内の「タニタ食堂」を思い浮かべるのではないでしょうか。
そのタニタが、働き方にも大きな一石を投じました。それが、社員をフリーランス化(個人事業主化)するという、「日本活性化プロジェクト」の取り組みです。

社員が個人事業主になるって、どういうこと? そんな疑問を解消すべく、プロジェクトを牽引する株式会社タニタ・社長補佐の二瓶琢史さんにお話を伺いました。

人財を「社員」として抱え込まない、「会社と個人の新しい関係性」

今回お話を伺った「日本活性化プロジェクト」を牽引する、株式会社タニタ・社長補佐の二瓶琢史さん。

人財を「社員」として抱え込まない、「会社と個人の新しい関係性」

御社では「日本活性化プロジェクト」として「社員をフリーランス化する」という、斬新な切り口で働き方改革を進められていると伺いました。

はい。働き方改革というと残業時間の削減という文脈で語られがちですが、タニタの場合は、「働く時間」ではなく、「会社と個人の関係性」に焦点を当てて改革を進めています。そこで「社員のフリーランス(個人事業主)化」なのですが、順を追ってご説明しますね。

よろしくお願いします!

個人の「報われ感」を大切にし「会社と個人の関係性を雇用にとらわれずに見直してみよう」という社長、谷田の想いから、2017年にスタートしたのがこの「日本活性化プロジェクト」です。
「健康」を事業ドメインとしているタニタが、「会社と個人の新しい関係性」を提案し、働く人たちに「健康なワークスタイル(働き方)」のモデルケースを示し、日本を活性化していきたい、と、そんな風に考えています。

「会社と個人の新しい関係性」というのは、どういった?

「日本活性化プロジェクト」が提案する、「会社と個人の新しい関係性」の図。

これまでの日本社会は、会社が「社員」という形で個人を抱え込んできました。その構造がマッチしていた時代も確かにあったのでしょうが、急速に移り変わる今の世の中にあって、その一方的な抱え込みの関係性には、無視できないさまざまな綻びが生じてきているように思います。

そこで、お互いに独立して惹きつけ合っていけるような関係性を目指そう、その具体的な提案として、「社員のフリーランス化」を掲げているということです。

「フリーランス(個人事業主)」になると、時間や場所に縛られず、仕事の方法そのものも自身で選択できるようになります。働く自由度が上がっていくと、「自立心が芽生える」「覚悟を決める」という方向に人は成長していくのではないかと思っており、フリーランス化はその仕掛けでもあるわけです。
前提として、フリーランスになるかどうかは個人の自由です。これまで通りタニタ社員として働くもよし、日本活性化プロジェクトメンバーとして、一度退職してフリーランスとしてタニタで働くでもよし。選択肢は社員に委ねられています。

“フリーランス化のススメ”、2つのポイント

実際の社員さんの反応はいかがでしたか?

2016年9月頃、初めて社内告知した時の社員の反応は、大半が不安や疑問でした。
フリーランスになったら収入が下がるのではないか、怪我や病気のときの保障がなくなるのではないか、本音はリストラなのではないか、などです。あまり前例のない取り組みなので、無理のないことだとは思いました。
また、社長以外の経営層からも不安の声が上がりました。部下がフリーランスになると指示系統が乱れるのではないか。法律の話で言うと、指揮命令権がないということになるので、そこから生じる不安感ですね。
あと、仕事を発注する際の値付けの難しさも懸念されました。

確かに、色々な難しさがあるように感じますね。

はい。そこで、二つのポイントを定めて仕組みづくりを進めました。

① 委託する仕事の内容と、支払われる報酬をどう設定するかという点。
② その業務を委託する契約期間をどう設定するかという点。

ポイント①「契約する仕事内容」と「支払われる報酬」について

仕事内容と報酬の決め方はシンプルにしました。社員時代に担っていた業務を「基本業務」と定義することを原則とし、それを委託業務にスライドさせるというものです。基本的に仕事内容が変わらないのだから、それに対する報酬も社員時代の給与や賞与をベースに設計する、という考え方です。

給与や賞与以外の、例えば、社会保険料や福利厚生費などについては?

これらも、これまで会社が支払っていた相当額を基本報酬の設計ベースに含めました。民間保険等、巷の社会保険制度を活用するための原資としてもらえれば、と。
そうすると、働く側はフリーランスになった後でも、社員時代とあまり変わらず安定して仕事に携われ、収入も見込めます。また、会社側としても、社員がフリーランスになっても仕事の継続性を確保できるわけですから、安定的な組織運営も維持されます。

このように安定感のある土台を作った上で、基本業務の枠に入らない仕事が発生した場合は、「追加業務」として発注し、報酬も新たに支払います。そうして、仕事の成果を加算的に評価していくことで、会社に貢献した人の「報われ感」が最大化される環境を作っていきます。

ポイント②「複数年契約を1年更新」で、会社・働き手ともにリスクを回避

仕組み化のポイント二つ目、業務委託契約期間は3年契約としました。3年契約を結んで、1年ごとに更新していきます。ちょっと複雑なので詳しく説明しますね。

はい、お願いします。

まず3年間の業務委託契約を結び、1年後に業務内容や報酬の再調整を行います。そこで合意した内容で、新たに3年間の契約を結び直します。前年結んだ契約が2年間残っていますが、新しい契約で上書きされ3年が残りの期間となります。
契約の見直しを1年ごとに行うことで、3年間の契約を維持しつつも、実質的には、1年単位での更新を繰り返しているのと同じことになります。

単純な1年単位での契約とは、何が違うのでしょうか?

例えばある年に、何らかの理由で「契約を更新しない」という結論になったとします。その時点で、前年更新した契約は、まだ2年分残っていますよね。次年度以降、更新しないと決定しただけで、残り2年の契約は生きているわけです。

働く側のメリットとしては、契約期間が残っているので、「来月から急に仕事がなくなって収入減に陥る」という状況を回避できます。会社側も「来月からその人が急にいなくなって業務がストップしてしまう」「引き継ぎの時間がない」、という状況にはならない。双方の安定性を担保するのに非常に良い仕組みなのではないかと思っています。

何らかの事情で来年から業務遂行が難しい、となった場合はどうするのでしょうか? 契約が2年間残っていますよね?

まずは極力、双方の調整によって折り合いをつけ、円満な解決を目指していけたら、と思っています。

さらにその上で、例えば、働く側が「止むを得ない事情で、来年から業務を継続することが難しくなった」場合、一定期間引き継ぎのためのバッファ期間を設け、バッファ期間が終わった時点で契約解除できる、という仕組みは用意しています。
また、会社側から「明日から来なくてもいいです」と、契約を打ち切ることも、仕組み上はできるようにしてあります。ただしその場合は、残っている契約期間分について所定の補償をすることになっています。そのため、双方とも急な契約打ち切りはできないというわけです。

なるほど、とても緻密に考えられているのですね。

フリーランスになって平均3割の手取り増!?

実際にフリーランスになった方々のその後の働き方を教えてください。

まず多くの方が気になる収入の話をすると、最初にフリーランスになった初期メンバー8名の場合、社員時代とフリーランス1年目との手取りの増減を比較したところ、全員が増加。平均で3割弱(約28%)、手取りが増えていたという、「本当?」というような結果が得られました。

驚きです! 要因は何だったのでしょう?

人によって様々ですが、「追加の仕事で収入自体が増えた」とか「仕事に係る支出が経費化できるので節税効果が出やすい」ということが考えられると思います。
一方会社の負担は、わずかに増加してはいたものの、1.4%に留まりました。
移行したプロジェクトメンバーの手取りが28%増加したという結果を、わずか1.4%のキャッシュアウト増加で引き出せたということなので、良い結果だったのかなと自己評価しているところです。

フリーランスの働き方を支える、「タニタ共栄会」という互助の仕組み

そして実際にフリーランスになってみると、全員共通した悩みがあることがわかってきました。

というと?

具体的には、「会社の社屋に入っていいのだろうか」「会社のコピー機や備品は使っていいのだろうか」と、社員ではなくなったことでこれまでになかった悩みが生まれました。

そこで作られたのが、プロジェクトメンバー全員が加入する「タニタ共栄会」という互助会です。共栄会で「株式会社タニタ」と施設利用に関する契約を結びます。そしてメンバーから会費を集め、施設利用料を「タニタ共栄会」から会社に支払います。そうすることで、「タニタ共栄会」のメンバーは、社員時代と同じように会社の設備を気兼ねなく使えるようになりました。

さらに、この「タニタ共栄会」では、税理士法人ともサポート契約を結んでいます。確定申告をはじめとした、税務面でのサポートも受けられるようになっています。

手厚い!

メンバーからも、良い評判をいただいています。

日本活性化プロジェクト、その歩みとさらなる可能性

プロジェクトメンバーも順調に増えています。2017年、プロジェクト発足当初は、私を含めた8名でスタートを切ったのですが、4年目に入って、24名にまで増加しました。タニタ本社には約220名が在籍しているので現在では、1割程度の人員が、このプロジェクトに参加していることになります。

プロジェクトメンバーの方は、実際にどんな仕事をしているんですか?

例えば、タニタの公式ツイッターを担当している人がいます。
アクティブな企業アカウントだと、平日・休日の区別もなく、四六時中、ツイートしていますよね。それを社員の立場だと労務管理上の問題を生じかねませんが、その人は個人事業主になっていますので、曜日や時間に縛られず自身の裁量で、楽しみながらやれているようです。

また、ビデオゲームのコントローラーを作った人もいます。もともと社長のアイデアで始まった企画でしたが、社内リソースを全面投入して進めるには憚られる。そこで、ある活性化メンバーに追加業務として発注し、結果この商品が生まれたのです。

人的リソースは日本活性化プロジェクトで確保し、開発制作費はクラウドファウンディングで調達した事例。タニタ本体以外のリソースでひとつのプロジェクトを完遂できたということで、これも「個人事業主化」の大きな成果のひとつだと思っています。

フリーランス化にはさまざまな可能性がありそうですね。

ありがとうございます。従来の「会社」と「社員」の関係性では生まれにくかった「新しい時代の考え方や意識」を、少しずつですが世に問えている。まずはこの点だけでも、これからの日本の「活性化」に、多少なりとも貢献できるのではないかと思っています。

また、フリーランスというスタイルを通して個々人の主体性が高まり、それが成長の「源泉」となること。これは、「日本活性化プロジェクト」の大きな目標であり、夢です。そして、プロジェクトの進展が、会社という組織体も含めて、最終的には個々人の「健康」につながるといいな、と思います。


ここまでは「株式会社タニタ」による働き方の取り組み「日本活性化プロジェクト」の全体図お伺いしました。後編では、この前編の内容を踏まえ、一歩踏み込んでプロジェクトの中身を深掘りします。

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    • 報酬交渉は、定量化できない人間関係が大切

今回協力して下さった企業様

株式会社タニタ

設立
1944年1月
本社所在地
東京都板橋区前野町
事業内容
家庭用・業務用計量器(体組成計、ヘルスメーター、クッキングスケール、活動量計、歩数計、塩分計、血圧計、睡眠計、タイマー、温湿度計)などの製造・販売
従業員数
1,200人(グループ)
Webサイト
https://www.tanita.co.jp/

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