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オエノングループの働き方改革事例

社員の境遇に寄り添う柔軟な制度運営

投稿日:2019-07-18  取材日:2019-02-13

オエノンホールディングス株式会社(オエノングループ)が取り組んだ事

  • 時間外労働の削減と有給取得率の向上
  • 職種によって差をつくらない制度づくり
  • 社員の意見を反映するダイバーシティ
  • 会社規模

    900人

  • 業種

    製造業

  • 対象職種

    全社員

オエノングループは、持株会社であるオエノンホールディングス株式会社(本社:東京都中央区、1924年設立。東証一部上場)を中心に、酒類事業、加工用澱粉事業、酵素医薬品事業、不動産事業などを展開する10社で構成されています。オエノングループは、2008年から働き方改革に取り組み始めました。当時まだめずらしかった「ワーク・ライフ・バランス」を経営方針に掲げたのを皮切りに、次々と新しい制度を開設、運用してきました。制度まわりの整備に努めてきた人事担当者にお話を伺います。

ワーク・ライフ・バランスで重視した2つのミッション

お話を伺った経営戦略企画室(人事担当マネージャー)の和泉亨様(右)とコーポレートコミュニケーション室の吉田宏平様(左)。 女性からも人気の高いしそ焼酎「鍛高譚」シリーズや本格焼酎「博多の華」シリーズなど、代表的な商品が並ぶ。

御社では2008年から働き方改革を実施されていると伺いましたが、きっかけを教えてください。

2008年、経営方針に「ワーク・ライフ・バランス」を掲げたのがきっかけです。具体的には時間外労働削減、有給休暇取得率アップ、振替休日完全取得の3つを重要課題として取り組んできました。

3つの課題について、それまではどういった状況だったんでしょうか。

当時、時間外労働はひとり当たり20時間弱くらいありました。有給の取得率も、半分くらいでした。振替休日についても、多忙を理由になかなか取得できなかったり、取得しても規定通りに1カ月以内に取れないこともありました。それが、現在では時間外がひとり当たり7時間弱であり、有給休暇は15日以上の取得なので、8割方の取得にまで改善されました。この数字は、10年間にわたり取り組み続けてきたことによって表れてきた成果だと思います。

具体的にはどのように進めていったんですか?

まずは、「ワーク・ライフ・バランスを推進する!」というトップの強い意志を経営方針に掲げました。具体的な施策としては、まず部署を統括する事業所長、部長等のライン経営職の業績目標管理にワークライフバランス推進の項目を設けました。「時間外労働の削減」、「有給休暇の取得」、「振替休日の完全取得」の内から必ず2つを選択し目標設定するようにしました。
そのほかにも、毎週水曜日をノー残業デーにしたり、年次有給休暇の計画的付与制度を活用して、8月中旬を全社一斉の計画的付与日とし、所定休日とあわせて7日間の連続休暇としています。また、これとは別に、全社員が年1回、連続した3日間を計画的に取得することを制度化しています。
この他にも、年次有給休暇を全て取得した社員が自身の私傷病及び家族の看護・介護のために使用できる特別有給休暇制度やボランティア休暇制度を設けています。

2008年から経営方針にワーク・ライフ・バランスを掲げていたということですが、今でこそ当たり前のように聞く言葉であっても当時はそれを掲げる企業も少なかったと思います。

おっしゃるとおり、かなり早い取り組みだったと思います。今はどちらも意識が高くなってきて、ユニークな取り組みをされている企業もありますが。

当時ワーク・ライフ・バランスを掲げたのはなぜですか。

社員を大切にしたいということと、生産性を向上させたいということが大きな理由です。この2つを推進していくことが会社の強みになると考えたんです。
当時、私はまだ人事ではなかったので、こうした会社の方針に対して単に「ああ、そうなんだ」という感覚でした。ただ、計画的に休みを取るためには必然的に1ヵ月のスケジュール、もしくは半期、四半期のスケジュールをどうするかを考えることになるので、おのずと業務の効率化を図っていくことにつながりましたし、部署単位でも効率化のための方策を出していました。個人と組織、それぞれが工夫しながらやってきた結果、今につながっているのだと思います。

「生産現場だからしょうがない」にはしたくない

有給休暇に関しては、生産部門や工場でも一律同じような形で取り組まれたんですか?

そうです。ただ、生産現場においてはいわゆる3交替、2交替勤務制で就業している従業員もいるので有給休暇取得にあたっては配慮しなければいけないことも多々ありました。担当業務のローテーションにより、社員一人ひとりの業務領域拡大と情報共有を促進し、「仕事を人に任せられる体制」を整える「多能工化」を進めています。部門内のバックアップ体制の強化によって、主担当が休みのときに副担当が代わりに業務できるようになり、年次有給休暇や連続休暇を取得しやすくなりました。また、弊社には「助勤制度」というものがあります。一時的に繁忙を極める工場に、比較的余裕のある工場から人手を供給することで、効率的な生産体制を整えています。

働き方改革は、生産現場や工場ではなかなか手が付けられないという声もあります。そのあたりはうまく進められたんでしょうか。

生産現場においても、「多能工化」や「助勤制度」などの取り組みを進めてきた結果、生産現場も営業も事務もすべて同じ目標でできているのかもしれません。「生産現場だからしょうがない」ではなくて、同じ目標で進めつつ、問題が生じたら何かできる方策はないかと考えるようにしています。
ただ一方で、在宅勤務やテレワークについては生産部門では業務の特性上、利用は難しいと考えていますので、そこは割り切ってやるしかありません。だからこそ、工場で勤務される方たちに対してできることを絶えず考えなければいけないですし、弊社の労働組合から出てきた意見に対しても耳を傾けていきたいと思っています。

職種によって、できることとできないことはどうしても出てきますからね。

そうですね。だから、制度も都度、見直しています。たとえば永年勤続された方に対して5年、10年ごとにまとまった休暇を付与するリフレッシュ休暇制度では、勤続が20年、30年になってくると平日10日間という規模の休暇を連続して取ることになります。そうなると、工場でシフト勤務をされている方はなかなか取ることができません。こうした方たちに対しては、分割での取得を認めるよう規程を改定しました。無理にまとめて休ませるのではなく、リフレッシュできるのであれば分割してでも気持ちよく休んでもらうことを優先しています。
小さなことですが、現場の人たちが融通をきかせながらも休みを取れて、よろこんでもらえるようにできる限り意向を汲み取っていこうとしています。

青森県八戸市にある酵素医薬品工場。「働き方改革」に積極的に取り組んでいる企業として、青森県より「あおもり働き方改革推進企業」の認証を受けた。

「何が何でも」ではなく、柔軟に対応する

テレワークについてはどうですか?

事務職を対象に、来年の本格導入に向けて2017年から試験導入中です。今のところ自宅勤務限定ですが、制度化に向けていろいろなパターンでテレワークを使ってもらい、意見を集めています。

試験導入はどのように進めているのですか?

実際にどんな問題が生じるかを見たいので、本社からグループ会社まで幅広くモニターを募り、利用してもらっています。原則、週に1回使ってもらって、どういう業務効率化が図れたか、業務にどういう支障が出たかというのを、トライアル終了後の報告会で声を集めています。
実際にやってみた中で出てきた問題に関しては、次に募集するときまでに改善する、ということを繰り返しています。

実際に、どんな声が集まっていますか?

通勤に使っていた時間を有効に活用できるとか、ワーク・ライフ・バランスの推進につながったとか、おおむね良好な意見をいただいています。
一方で懸念されるのは、在宅勤務をせずオフィスに残っている人たちの意見です。今までならみんながオフィスにいて、均等に電話を取ったり、手が空いている人がいればちょっとした業務を頼めたりしたのですが、今後は在宅勤務のメンバーを在宅勤務していないメンバーがフォローすることになります。そこに対して「評価を変えてほしい」という意見もなくはありません。それで評価に影響するかといったらそうではありません。あくまで評価は成果に対してのものなので。ただ、オフィスで仕事をする人をフォローする何かしらの策というのは、必要かもしれません。

御社では朝型勤務も取り入れたそうですね。

はい。もともと9時~17時半の就業時間だったところを、8時~16時半に早めました。2011年の東日本大震災を受け、電力事情への対応に加え「新しいライフスタイルの確立」も念頭に置いていました。震災対応だけでなく、新しい働き方、新しい生き方をつくっていこうということで、朝型勤務の導入を決めたんです。

特に混乱などはなかったのでしょうか。

通勤時間とか、子どもの送迎の問題とか、不安を口にする社員は少なからずいました。会社として、事情がある人たちにはフレックス制度をうまく利用してもらったり、個別にケアしたりと、柔軟に対応することで大きな混乱にいたることはありませんでした。

実際やってみて、朝型勤務にはどのような効果がありましたか?

1時間早まるということで、最初は確かに大変だったかもしれません。でも、慣れてしまうと時間を有効活用できるようになるので、非常によかったと思います。たとえば、8時~9時の間というのは、相手先からの電話が殆どかかってこないんです。だからその時間帯に集中して業務ができ、朝の貴重な時間を集中できる時間に充てられたことで、ひとつの生産効率化につながっていると思っています。

歴史の長い企業だと、絶対的な制度があり、それを柔軟に変えていくことが難しいという企業もあると思いますが、御社の柔軟な考え方は、もともと文化として根付いていたものなのでしょうか。

制度やその運用に関して、会社が決めたことをトップダウンしていくという意味では絶対的だと思います。公平・公正を保つという考え方も一貫しています。ただ、やっぱりどうしても合わせられない事情がある場合に、そこに配慮しようとする姿勢は持っていたいと思っています。矛盾するかもしれませんが、何が何でもということではなくて、可能な限りできることを考え、発生した問題に対しては柔軟に対応していくという文化はあったのかもしれません。

男性社員の育休取得率が50%に

働き方改革に関して、御社が新たに始めた取り組みはありますか?

男性社員の育児休暇の取得促進です。
共働きが増えたとはいえ、未だ男性が育児休暇の取得をためらってしまう原因の1つに減給の問題があるのではないかと考えました。給与が減り、国からの給付だけでは不安で育休が取れないと考える人に対し、会社が給付との差額を負担して基本給を保障することで、育休取得のハードルを下げています。また、男性の育休取得になじみのない年代の上司の人たちには、社会的な要請が強い育休制度によって社員が気持ちよく働いてくれれば、会社の利益につながるということを人事から直接、周知しています。育休対象者の上長は、「部下の育休取得」を業績目標管理の項目に入れることもできるようにしました。会社が強く推奨する制度であると理解してもらうことで、ソフト面からも育休の取りやすい環境を整えています。

育休を取りやすい雰囲気を周りからつくっていくわけですね。

会社の雰囲気がそうなってくると、みなさん取りやすいと思いますよ。少なくとも、育休を取りたい人が取れるような会社になってきたのかなと思っています。昨年の男性社員の育休取得率は10%から50%にまで激増しました。

すごい数字ですよね!

ええ、想定以上に高い取得率となりました。特に、20代~30代の男性社員に「絶対に育休を取りたい」という人が多かったんです。こうした意識の変化は年代の差によるところが大きいと思いますが、みなさんがそう変わってきているのであれば、結局のところ変わらなければいけないのは会社なんですよね。

2016年には「ダイバーシティプロジェクト」を立ち上げられたんですよね。

はい。ダイバーシティプロジェクトの大きなテーマとしては、「テレワーク」「男性育休の促進」「女性活躍の推進」の3つになります。これまでお話してきたように、テレワークと男性育休に関してはすでに取り組んでいて、いい形で進んでいると思っています。残る女性活躍についても取り組みを始めていて、「メンタ―制度」や、「パーソナル研修」と称した社外研修を女性社員に限定して実施しています。
弊社は製造業という業種柄、まだまだ男性社員が多く、男女比は8:2です。そんな状況だからこそ、女性活躍の推進にも積極的に取り組んできました。社員構成は一時でなんとかなるものではありませんが、今では製造現場でも女性が活躍しています。全体の採用についても新卒入社の半分は女性というところまできています。

ダイバーシティプロジェクトは、どのような経緯があってスタートしたのでしょうか。

ワーク・ライフ・バランスを進めてきて、次はいよいよダイバーシティだろうということになりました。もともとそういう考え方はあったんですが、これまでは我々人事含めて会社が決定したことを社員に下ろしていく流れが強かったんです。会社としてはもちろんいろいろ考えて進めていくのですが、従業員との考え方に乖離が生じてないか、常に気を付けています。
ダイバーシティプロジェクトに関しては、社員の自発的な意見や考えを反映していくことを重視しました。社員の中からプロジェクトメンバーを公募で集め、規定や制度をつくってもらったんです。これは会社にとって大きなメリットがありましたし、いい形で成果も出ています。

社員の代表としてのメンバーと会社が一緒になって進めているプロジェクトなんですね。

そうです。会社だけではなくて、育児中の人や病気で長期療養中の人、いろいろな年代や境遇の人たちが集まり、「どうしたら働きやすくなるか」を考え、それぞれの声が反映できているプロジェクトだと思います。

すべての社員が気持ちよく使える制度をめざして

現状の課題や、今後こんなことをしていきたいなどあれば教えてください。

そうですね、本格導入を控えたテレワークに関しては、みなさんに気持ちよく使ってもらえるような運用の方法を模索しつつ、当然ながら業務効率が上がるような使い方を考えなければなりません。あとは、利用した人に満足してもらえることが大事な一方で、それを支える社員も出てくるわけで、そこに対してどうすれば公平に運用できるかを考えることも必要です。

これから表面化していくであろう問題としては、介護問題があります。
現在、介護離職を防ぐための補助金制度など、想定を元に手探りでつくってきたものはあります。しかし、実際はもっと違う制度を求められるかもしれません。その時になって慌てないためにも、来る介護問題に備えて「求められるだろう」ものを作っておかないといけないと思っています。育児に関する制度はある程度進めてこられたので、並行してこれからは介護のほうにも目を向けていきたいと考えています。これも結局、ダイバーシティにつながることだと思いますから。

本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

今回協力して下さった企業様

オエノンホールディングス株式会社(オエノングループ)

設立
1924年10月31日
本社所在地
東京都中央区銀座6-2-10
事業内容
酒類事業、加工用澱粉事業、酵素医薬品事業、不動産事業などを展開するオエノングループの持株会社。
従業員数
947名(連結) / 51名(単体)(2018年12月31日現在)
Webサイト
https://www.oenon.jp/

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