人口減、就労人口減が進んでいる日本では、より多くの人材が多様な働き方で活躍できる土壌を醸成していく必要に迫られている。
そのような中、リモートワークに代表される“自由度の高い働き方”の実践が多くの企業や団体によって試みられているが、その実現や継続には、“働きやすい環境づくり”に加え、“働く人に対する細やかな働きかけ”が求められる。
「働きやすさ」と「働きがい」。
今回の記事では、この二つのキーワードにも注目しながら、ザイマックスインフォニスタ(以下「XI」)が進めている(進めてきた)取り組みについてお伝えしていきたいと思う。
INDEX
新たなプロジェクトの立ち上げ
2015年、働き方改革の一環として本社オフィスの大規模なレイアウト変更を行い、オフィスフロアのグループアドレス化やペーパーレス化を果たしたXI(※)。
このファシリティ面への施策をひとつの契機として、それ以降もオフィスへの取り組みを継続させながら、徐々に制度やツールも整えられていった。
※2015年のオフィスレイアウト変更への取り組みについては、「ザイマックスインフォニスタの働き方改革[ファシリティ編]」をご覧ください。
このように自社内において“働きやすい環境”の整備を進めていく中で、XIは不動産のプロフェッショナルとして、「集団におけるリモートワークを先駆けて突き詰めていくことで、自らの体験をもって課題解決の事例を世の中に発信していくこと」と、自らの使命を設定。
2018年、本格的にフレックス導入に向けて動き出したタイミングで、次なる新たなプロジェクトを立ち上げた。
1-1. 「WALK プロジェクト」、名前に込めた意味
その名も「WALK プロジェクト」。「WALK」は、「W:workstyle」「A:action」「L:lead」「K:knowledge」の頭文字を取ったものだ。
「働き方(workstyle)」における「知見(knowledge)」を豊富に集積し、それを「行動(action)」に落とし込みながら、働き方改革を「リード(lead)」していける組織でありたい。
そして、未来に向かって「歩み(walk)」を進めていきたい。
このプロジェクト名には、そういった想いが込められている。
1-2. プロジェクトの目的
事業内容としてサテライトオフィスを提供し、まさにリモートワークを推進する立場にあるXI自身が、「集団におけるリモートワーク」を率先して実践し、自らの手でトライ&エラーを積み重ねていこう。
そうして得た知見をグループ内・社外にフィードバックしていくことで、“生きた事例”を示しながら「手に届く未来の提案」を行なっていこう。
そのような目的で立ち上げられた「WALKプロジェクト」だが、本稿では、そのトライアルの中から、ソフト面(ワーカーの啓発・教育、運用ルールやイベント企画)の取り組みに主眼を置いてレポートしていきたいと思う。
完全リモートワークトライアル
1-1.トライアル内容について
2016年、ザイマックスが法人向けのサテライトオフィスサービス「ZXY(旧ちょくちょく…)」を提供し始めた当初は、自社の商品を活用して実体験するために、例えば、八重洲のサテライトオフィスを拠点として近隣の東京駅周りの顧客を回ってみる、といったようなキャンペーンをチームごとに行なっていた。
その後、世の中的にも、より一層リモートワーク推進の機運が高まっていく中、起こりうる課題を先回りして検証していくために、XIでは「完全リモートワークトライアル」を実施。
これは、総務省が主導するテレワークデイズに合わせて行なった(テレワークデイズの翌週の1週間に実施)。
このトライアルはスタッフ部門を含めXIの全社員を対象にしたもので、水曜日の出社奨励日以外は本社オフィスに来ないことを強く推奨した。
ただし在宅勤務はNGとし、「ZXY(旧ちょくちょく…)」またはその他のサテライトオフィス等で勤務してもらうこととした。
2-2. 施策内容
(1)マネジメント
期間中、営業を対象に「朝メール・夜メール」を呼びかける。
「朝メール・夜メール」とは、朝に1日の業務スケジュールを立てて共有し、夜は実際の1日の行動内容を振り返って業務の進捗報告を行うこと。
今回はメールというかたちではなく、スプレッドシートを利用して、チーム全員で各人の業務スケジュールを閲覧できるようにした。
また、初めてのリモートワークとなる新人が、緊急トラブルの発生時や質問したい時などに困らないよう、マネジメント層との連絡窓口として「駆け込み寺チャットルーム」を作成した。
(2)本社機能(スタッフ部門の連携、書類関係)
・スタッフの本社業務について
通常はスタッフ12名で分担して対応している本社業務だが、期間中はシフトを組んで1日3名のスタッフを本社に配置することで回していった。
・「紙」の営業資料について
お客様先で渡していた「紙」の営業資料を、期間中はパソコン上の画像でお見せするにとどめ、後程メールでお送りする運用に。
どうしても出先で「紙」資料が必要になった場合のことを考え、「ZXY(旧ちょくちょく…)」数店舗のロッカーに「紙」資料をトライアル期間限定であらかじめ何部か設置した。
2-3. トライアルで見えてきた課題
トライアル後にアンケートを実施し、以下のような課題が抽出された。
「(2)本社機能」については、電話対応や「紙」資料の扱いに若干の課題感が残ったものの、運用の工夫によって十分にクリアしていけるものと認識。
ただし、1週間という限られた期間ではなく、長期的なスパンで見たときに起こりうる課題については、引き続き検討が必要。
対して、大きな課題が見つかったのは「(1)マネジメント」の方だった。
「(1)マネジメント」に関しては、想定以上にマネージャーとメンバー間での意識の乖離が認められた。
例えば、「上司・部下と顔を合わせないことの心理的不安はありましたか?」という質問に対して、「営業・スタッフ部門ともに、メンバーに比べるとマネージャーの方が不安を感じていた」という結果が出るなど。
この意識の乖離は、完全リモートワークだったから起こったのか、それとも、日常のコミュニケーションにそもそもの問題があるから起こったのか。次に取り組むべきは、その検証だった。
「マネジメント層・メンバー層の意識の乖離」の要因を探る
3-1. 管理職の意識調査
抽出された課題、「マネジメント層とメンバー層との乖離」の要因を探るため、マネージャー5人(営業系、スタッフ系)に対して、リモートワークにおけるマネジメントについてヒアリングを行なった。
その調査結果は以下の通り。
[営業系マネージャーへの意識調査結果]
完全リモートワークトライアル期間中だけでなく、通常のリモート下でのコミュニケーション(報連相など)がそもそも不足している。
また、「報連相すべきこと」や「トラブルとみなすべきこと」を、経験の浅さゆえに正しく認識できていないメンバーも多く、日ごろからメンバーへのコミュニケーション(や教育)を円滑に行なっていける環境を作らなくてはならないと感じている。
[スタッフ系マネージャーへの意識調査結果]
スタッフ系業務の特性上、詳細な報連相が随時求められるようなことは少ない。
ただし、業務における大きな方向性の確認は要所でメンバーと取り合う必要がある(メンバーが方向違いの業務に時間を割いていないかチェックするため)。
リモート環境下では、その確認の頻度が低下する傾向にあり、その点にマネージャー層は不安を覚えている。
3-2. メンバーの意識調査
管理者層と同様にメンバー層(営業系・スタッフ系)にも、「リモート時に困っていること」についてヒアリングを行なった。
その結果は印象的なものだった。
若年層の口から、「不安」や「さみしさ」というワードが出されたのだ。
反面、同じメンバーでも、独り立ちしている層からは、それらのワードは聞こえてこなかった。
3-3. 意識調査から見えてきたこと
以上の意識調査から、「マネジメント層・メンバー層の意識の乖離」の主な要因を、以下の2つとして整理した。
[A. そもそものコミュニケーション不足]
マネジメント問題の解決は、「話し合い、お互いを知り合う」ことから。
その意味で、普段のコミュニケーションが非常に重要なのだが、それが不足している。
リモートワークを一層進めていくなら、顔を合わす出社奨励日等の時間を絶好のコミュニケーションの機会として、より有効に活かしていかなければならない。
そして、それが、若年層が抱く「不安」や「さびしさ」の解消につながるのではないか。
[B. 若年層の経験不足による低い危険度察知]
リモートワーク時に限った話ではないのだが、経験・知識ともに不足している若年層は、危機を察知し、それをマネージャーに正しく発信できない傾向にある。
この問題の解決のためには、マネジメント層がガイドラインを作成し、報連相のレギュレーションについて、ある程度、標準化・言語化する必要があるのではないか。
4-1. トライアルにおける3つの要素
このトライアルでは「働く場所」「イベント」「ツール」の3つに要素を分けて、社内コミュニケーションの活性化を図った。
4-1. トライアルにおける3つの要素
このトライアルでは「働く場所」「イベント」「ツール」の3つに要素を分けて、社内コミュニケーションの活性化を図った。
本社コミュニケーション活性化トライアル
このように、「完全リモートワークトライアル」とトライアル後のヒアリングによって、社内コミュニケーションに関する課題が浮き彫りになった。
リモートワークが進み、働く環境に制限がなくなって、遠隔でのコミュニケーションが当たり前になっていく中、「本社オフィス」は果たしてどのような機能を担うべきなのか。
そのような問いに対して、「本社=対面でのコミュニケーションを促進する場」と仮定して、2018年11月、XI社員全員を対象に新たなトライアル(本社コミュニケーション活性化トライアル)を2週間実施した。
4-1. トライアルにおける3つの要素
このトライアルでは「働く場所」「イベント」「ツール」の3つに要素を分けて、社内コミュニケーションの活性化を図った。
[1]働く場所:完全フリーアドレス化トライアル
従来、XIではグループアドレス制(所属するチーム単位でワークスペースを設定するフリーアドレス制)を採用していたが、本トライアルでは、チーム毎の制限も撤廃した完全フリーアドレス制を導入(ただし、フロア半分に限定した「片側完全フリーアドレス」)。
所属を超えた様々な社員が隣り合って仕事をすることで、対面でのコミュニケーションが活性化されると仮説を立て、その上で、普段の業務効率やコミュニケーション頻度との違いを検証した。
[2]イベント:出社奨励日(セッションDAY)とトーク会の設定
XIでは毎週水曜日を「出社推奨日」とし、社内打ち合わせ等は極力水曜日に設定するよう促してきた。
本トライアルでは、それに加えて火曜日をセッションDAYとし、さらに「トーク会」を立ち上げた。
「トーク会」では、本トライアルに関連する内容をテーマに据えて、他部署の者同士で話し合うことで、部署を超えたコミュニケーションの誘発を試みた。
[3]ツール:ありがとうツールの運用方法検証
リモートワーク環境下において、チャットは非常に有効なコミュニケーションツールだが、その内容は業務に関連した報連相や、短文でのコミュニケーションに終始しがちになる。
そこで、普段伝えられない感謝の気持ちを交換し合うために、「ありがとうツール」(WEB上でのアンケートフォーム)の運用を検証した。
4-2. トライアルの検証
社員アンケートを実施し、その結果から以下のように総括。
[フリーアドレスの導入]
業務効率への影響は少ない(「仕事が劇的にしやすくなった/しにくくなった」という大きな影響は見られなかった)一方で、コミュニケーションの増加には大きく寄与することがわかった。
実際にアンケートでも、フリーアドレス制の継続運用を希望する声が過半を占めた。
[トーク会]
非常に満足、概ね満足といった意見が大半だった。
[ありがとうツール]
企画に参加した人の満足度は高い一方で、参加していない人については満足度が低い結果となった。
参加を促す仕掛けには工夫を要する。
自由な働き方を支える「じりつ」
5-1. 2018年度からフレックスタイム制を本格導入
2018年度より本格的にフルフレックスタイム制を導入しているXI。
ただし、営業会社という性格上、お客様が稼働している朝の10時から夕方の4時までは「営業ホットタイム」として、実質的なコアを設けている。
「コアタイム」ではなく「営業ホットタイム」と呼んでいるのにも意味がある。
「コアタイム」だから出社するというのはいかにも義務的な印象だが、「営業ホットタイム」に会社に出て活動するというのは自身の成果に繋げようという能動性を感じる。
物は言いようなのだが、それでも、ここには社員の自主性を促していこうという前向きさが感じられはしまいか。
5-2. ふたつの「じりつ」について
“自由度の高い働き方”がスタンダードになっていくに従って、ふたつの「じりつ」が求められていく。
「自立(自分で立つ)」と「自律(自分で律する)」。
「全社員フレックス制」や「リモートワーク」などの“自由度の高い働き方”への移行は、このふたつの「じりつ」があってこそ。
XIでは、社歴の浅い社員にも、早い段階で“自由度の高い働き方”ができる環境や権限を与えているが、それもひとえに「じりつ」を促すためだ。
そうして、「じりつ」的な社員が育っていくことで、「業績」・「働きやすさ」共に向上させていこうと企図している。
4-3. トライアルの総括
完全フリーアドレス化やリモートワークの導入は、働く場所の制約から社員を解放し、社員の「働きやすさ」の向上に大きく寄与する。
その反面、その導入・実施が場当たり的であれば、組織への帰属意識を低下させたり、疎外感を感じさせたりする原因にもなりうる。
そういった事態を招かないためにも、企業はソフトとファシリティの両面から“自由な働き方”を支える仕組みを整備していく必要がある。
リモートワーク時における評価について
6-1. 成果の可視化への試行錯誤
以前まで毎朝9時に朝礼が行われていたが、リモートワーク導入後の2017年度中から、月1回の開催になった。
これは、効率的な働き方を追求し始めて、朝礼の必要性を問うなど、本質的な議論ができるようになってきた表れでもあるが、一方で、朝礼の回数を減らしたことによって新たな問題も生じてきている。
営業成績など、成果を報告・確認する場としての朝礼が減ったことで、「誰がどれだけ頑張っているのかわからなくなった」という声が、若手を中心として上がったのだ。
そういった問題提起を受けて、以下のように、補完する仕組みが新たに設けられた。
・2017年度:執務フロアに設けられたアナログの黒板に成約を示す付箋を貼り、案件の規模や頑張ったポイントを記入。
さらに、「いいね」の付箋も用意して、見た人からの承認・お祝いの気持ちを可視化。
・2018年度:更にフレックスも始まり、より会社に来る機会が減り、「もっと褒められる機会を増やしたい」「アナログの黒板だけだと不十分」という声が若手より提起された結果、契約(成果)を発表することだけを目的としたチャットルームを設置。
アナログ・デジタルで揺り戻しが起こっているが、この点に関しても、今後、調整が必要であると考えている。
例えば、昔でいう「棒グラフ」。成果の可視化としては、なんとも直感的で“てらい”のないものだが、こういったものが、案外、まっすぐにモチベーションを刺激してくれるものなのかもしれない。
6-2. リモートワーク導入後の評価軸の変化について
導入後も評価軸は大きくは変わらず、ほぼ「売り上げ」をメインとしている。
とはいえ、リモート時に見えないメンバーの行動、成果に至るプロセス等、「定量化されないもの」も評価点として掬い上げていかなければならない。
そのため、現在では、「1on1ミーティング」を月1回実施するなど、上司と部下のコミュニケーションの機会を増やす試みに力を入れている。
今後の課題について
「リモートワーク」と「コミュニケーション活性化」のトライアルを終え、これからはいよいよ「本社に真に求められる機能の模索」という課題に取り組んでいく。
「4.」で「本社=対面でのコミュニケーションを促進する場」と定義した通り、その機能の一つには、“信頼関係の構築”が挙げられる。
そして、もう一つの大切な機能が“コラボレーション”だ。
アイデアを出し合い、自分一人では生み出せない新しい考え方やお客様へのご提案を創出していく場。
本社オフィス以外の場所で、仲間と安心して良いアイデアを生み出していける環境を用意するのは、実は容易なことではないのだ。
その一方で、本社オフィスは“集中できる空間”であることも求められる。
目的や業務内容に応じて「コミュニケーション環境(共創の場)」と「集中環境(ソロワークの場)」を選択できるような状況を整えるのが、ハード(ファシリティ)面での整備のポイントになってくるだろう。
このように、「本社に真に求められる機能の模索」を本格化させ、さらに「働きやすさ」の創出に挑み続けるXIだが、その先に控えているのは、やはり「働きがい」というポイントだ。
働く人の心に関わる「働きがい」。
その「働きがい」を高めていくためには、どうしたらよいのか。この難しい命題を胸に、XIの挑戦はこれからも続いていく。
この事例と同じシリーズの事例
今回協力して下さった企業様
株式会社ザイマックスインフォ二スタ
- 設立
- 2017年
- 本社所在地
- 東京都港区赤坂1丁目1番1号
- 事業内容
- 不動産の売買、賃貸、賃借、管理およびその仲介、代理、斡旋
- 従業員数
- 68名(2017年4月1日現在)
- Webサイト
- https://infonista.jp/