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三菱ケミカルシステムの働き方改革事例

「KAITEKI」を合言葉に、人と社会と地球の“心地よい”を目指して

投稿日:2019-01-21  最終更新日:2019-03-20  取材日:2018-11-12

  • 会社規模

    600人

  • 業種

    情報通信業

  • 対象職種

    全社員

総合化学メーカー「三菱ケミカルホールディングス」のIT機能会社である「三菱ケミカルシステム(MCSY)」は、国内外に700社以上ある三菱ケミカルホールディングスグループのシステム基盤を支え続けています。

「KAITEKI」というコンセプトを掲げ、企業の持続可能性と働く人の健康増進の実現を図る三菱ケミカルシステム。その施策の数々について、今回は詳しくお話を伺っていきます。

働く人の「健康」と健やかな「働き方」が、KAITEKIを創る

御社では2016年に「MCSY・KAITEKI宣言」を出されたと聞きました。これは、どういったことを宣言したものなんですか?

弊社は「三菱ケミカルホールディングス(MCHC)」グループのIT機能会社です。そして、MCHCグループ全体で10年以上前からコンセプトとして掲げているのが、このアルファベットで表記する「KAITEKI」という概念なんです。

「KAITEKI」ですか。日本語で言う「快適」と同じようなニュアンスでしょうか。

もちろん、日本語で言うところの「快適さ」のニュアンスも包含されますが、MCHCグループでは、「時を越え、世代を超え、人と社会と地球の心地よい状態が続いていること」と定義しています。

快・不快という評価軸だけでなく、対社会や時間といった複数の評価軸が入っているんですね。

はい、その通りです。そして、そういった、グループが提唱するコンセプトを受けて、2016年に弊社が出したのが「MCSY・KAITEKI宣言」です。主にグループ内の各企業にICTサービスを提供するというのが弊社の位置付けになりますので、ICTの側面からMCHCグループの「KAITEKI」実現に貢献します、と表明したものです。社員が健康的に働けるよう、働き方の多様性が尊重された環境づくりにICT分野でアプローチしていきたいと、そういった目標を掲げたわけです。

社員のみなさんの健康や多様な働き方にも焦点を当てているんですね。

企業価値を高めていくためには、社員一人ひとりの能力の向上も欠かせないものと思っています。「働く人」に焦点を当てた「健康経営」という考え方があります。日々の現業に汲々としている状態ですと、なかなか個人が能力を伸ばしていく時間が捻出できないですよね。それを解決するために、なるべく通常の業務の負荷を下げていこうと。そうして、個々の能力を向上させていくことで、企業としての価値も上げていこうと。簡単に言うと、そんな発想ですね。

具体的には、どういった観点で進められているんですか?

はい。「健康経営」を実現していく上で、弊社では大きく二つのアプローチ方法を採っています。その一つが「健康支援」。主に総務・人事系を取り扱う部署が推進しています。社員の健康増進に資すること、例えば、体力測定を実施したり、ヘルシーなお弁当を社内で販売したりもしています。

働くといっても、健康あってのことですもんね。

はい。そして、その「働く」を支援するものとして、もう一つ、大切に進めていくべきものが「働き方改革」です。

なるほど。ここでは、どういったことに取り組まれているんですか?

今までの仕事の仕方を抜本的に見直していくことで、社員に時間的な余裕を確保してもらって、その余力を能力向上の時間に投資してもらう、と。取り組みの大まかな全体像としては、そんなイメージです。その中で既に効果が見えてきているのが「テレワーク」と「会議の効率化」です。

働き方改革その1—、テレワーク

それでは、まずテレワークについてお話していきますが、制度としては2016年4月からあったんです。ですが、きちんと運用できるか見極めるという意味合いもあって、自宅での作業に限定したり、取得を1日単位にしたりするなどの制限を設けていました。その後、1年以上特に問題なく運用できていましたので、場所や時間などの制限をできる限りなくして、より使いやすいテレワーク制度に見直したのが今年(2018年)の4月です。そこで、自宅以外の場所として、サテライトオフィスなども活用していこうということで、同じタイミングでサテライトオフィスのトライアルを始めました。

サテライトオフィスのトライアル利用実績(三菱ケミカルシステム資料より)。

トライアルの手応えはいかがでしたか?

9月に終えたのですが、手応えは感じています。在宅勤務に限定したテレワーク導入当初は、利用件数が伸び悩んでいたのですが、サテライトオフィスのトライアルを始めたら、また利用回数がグンと伸びて。今、月間200件くらい在宅勤務やサテライトオフィスを含むテレワークが利用されています。

サテライトオフィスは全ての社員が利用できるんですか?

一部、勤務制度などの関係で対象外の社員はいますが、ほぼ全ての社員が利用対象者です。

サテライトオフィス勤務などのテレワークを行う際には、上司の許可というのは…?

はい、取ってもらっています。テレワークでどんな仕事をするのかを伝えてもらって、それを上司が承認するといったプロセスです。以前は、上司に書面で直接申請をしなければいけない仕組みだったんですが、利用件数が思うように伸びていませんでした。昨年10月、業務効率化の観点から申請を電子化してみたんですね。そうしたところ、ぐっとテレワークの利用件数が増えました。これは全く予期しない展開でしたが、意外な場所に利用の障壁があったことに気づかされた出来事でした。

上司のもとへ直接申請に行くというのは、やはり、かなりの心理的な障壁になっていたんですね(笑)。ちなみに、活用しているサテライトオフィスの中には、独自でご用意されたものもあるのでしょうか?

いえ、自社では用意していません。御社で提供されている「ちょくちょく…(現ZXY)」をはじめとした商用サテライトオフィスを活用しています。サテライト導入前に、首都圏近郊各地に自社でサテライト環境を設けようかと検討したこともあったのですが、やはり、初期投資もランニングコストもかなりかかるのと、利用できる社員が限定されてしまうということで。

ちなみに、自宅やサテライトオフィス以外でも、テレワークOKなんですか?

はい、特定の場所だけに限定してはいないので、情報セキュリティが確保できるという前提で、自由な場所でテレワークしてもらっています。ただ会社として用意しているのは、御社の「ちょくちょく...(現ZXY)」のような、サテライトオフィスですよ、と。サテライトオフィスの利用料は会社が負担しますが、交通費やサテライトオフィス以外の場所代は、社員の方で負担してもらっています。

会社がどこまで負担するかについては色々議論したのですが、例えば交通費をサポートする場合、どうしても近場でのテレワークを推奨することになってしまいます。逆にそれが制約になるかなということで。自腹ならどこで仕事してもらってもいいですよと、すぱっと開き直ってみました(笑)。とにかく、テレワーク制度を自由に使ってほしくて。

サテライトオフィス利用による時間短縮・削減の効果(三菱ケミカルシステム資料より)。

サテライトオフィス勤務の効果は出ていますか?

はい。まず、通勤時間の削減です。効果測定のために社内でアンケートを取ったのですが、やはり、サテライトオフィスは遠方に住んでいる社員が多く使う傾向にあることがわかりました。その人たちの通勤時間の平均を取ると、片道78分。

78分もかかっているんですか! それは遠いところから…。

はい、通勤にかなりの時間が費やされています。本社に出勤するとなると、押上なので、東京でも西の方からだと、かなり時間がかかっちゃうんですね。それが自宅近隣のサテライトオフィスを利用することで、25分程度で収まる、と。片道53分の通勤時間の短縮になります。

また、外出先から自宅近くのサテライトオフィスに寄ってデスクワークを終えたのち、そのまま直帰する、というようなケース。それまでは、外出先に出かけて、ちょっと時間が余れば、わざわざ自宅とは反対方向の会社に戻って、定時後、改めて家に帰るというスタイルだったのを、わざわざ会社に帰る必要はありませんよ、ということにしました。それにより無駄な移動を省けて、1回の外出あたり約45分の時間短縮になったという効果が生まれています。

かなりの時間節約ですね。

通勤時間が長い社員がサテライトオフィスをよく使ったということもあると思います。これが全て労働時間の削減につながるわけではないのですが、社員の健康面には良い影響を与えてくれると確信しています。

ちなみに、サテライトオフィスを使っていく上での課題点などはありますか?

今後の課題なんでしょうけれど、ひとつは「コミュニケーションをどうやってとっていくか」ということですね。離れた場所にいながら、どんなツールを用いてコミュニケーションの質を上げていくか。サテライトオフィスのトライアルの際には、モニター社員に体験記を書いてもらい、課題点を全社員にシェアしたのですが、そこでは次のような声も出ていました。

・トイレなど離席時の防犯、セキュリティが気になる。
・電話が頻繁にかかってくる場合は、音を気にしてしまう。
・回線速度が十分でない。

課題点以外に、実際の利用者の1日のタイムテーブルなども体験記という読み物の形式で社内に共有しました。こんな利用方法もあるんだと想像してもらうためにも、色々なケースを紹介していこうということで。私自身も想定していなかった活用法もあったりしました。個人のニーズから生まれるアイディアの力はすごいな、と改めて思いました。

従業員の方の生の体験談なので、説得力がありますね。

はい。もらった声に関しては、編集を加えずにそのまま紹介していますので、良いことも悪いことも記されていて、ちゃんと実態を伝えられているんじゃないかなと。サテライトオフィスを使いたくなるようなポジティブな要因を増やすのも大事ですが、利用を妨げるネガティブ要因を薄くしていく。その両面でのアプローチが必要かなと思っています。例えば、「離席時の防犯」については、ブースに鍵を付けたり、卓上にワイヤーロックを用意したりするだけでも、だいぶ使い勝手が向上するんじゃないかなと思います。あるいは、施錠・解錠のためのQRコードをつけるとか。

なるほど! 当社の「ちょくちょく…(現ZXY)」で改善すべきポイントもいただきました。大変参考になりました。ありがとうございます!

働き方改革その2—、会議時間の削減

会議効率化によって削減された会議時間(三菱ケミカルシステム資料より)。

次は「会議時間」についてですが、2017年9月に会議効率化を目指して見直し計画を策定し、全社で1年間取り組んできました。会議体の統廃合や会議の設定時間の短縮などの枠組を変えることと、会議に臨む社員の意識や行動を変えることの両面から取り組んでいます。特に、意識・行動面に関しては、会議のガイドラインを作り掲示しているんですが、これはある程度形になったところで、全社員から意見を募集して、いろいろとアイディアをもらっています。「会議」もだらだらやるのではなくて、事前に資料を共有し、論点を絞って時間内で結論をちゃんと出しましょう、ということですね。当たり前のことといえば当たり前のことなのですが。

そして、最近、目標である、3割以上の時間削減が達成できました。今では、さらに定例会議を減らしたりしていますので…。

さらに会議時間は減ってきている、ということですね。

はい、そうですね。一人当たりの年間の労働時間にならすと55時間くらいは減っているはずだ、という認識でいます。

会議時間の削減だけで、55時間減というのはすごいですね。

弊社では「月10時間効率化」を目指しています。これは、会議時間の削減に限った話ではないのですが、2016年度の平均労働時間から10時間削減しましょう、と。そして、生まれた10時間の使い方が大事になってくるわけですが、その10時間を全て休みに当てるのではなく、2.25時間分で残業を減らし、残りの7.75時間(1日)分を能力向上のための投資に充てましょうと奨励しています

なるほど。それは有意義な時間の使い方ですね。ところで、その能力向上に充てる7.75時間が捻出できたとして、それを効率的に活用するのには、なかなか工夫が必要だと思いますが、その点に関しては?

補助を出すことによって、通信教育や色々な教育機関のセミナー・研修等の受講を勧めるようにしています。

勤務時間が削減された上で、自己の成長のためのバックアップも受けられる、と。それは、社員さんの満足度にもつながってきそうですね。

「健康経営」と「構造改革」の両輪で

健康支援や働き方改革などの一連の取り組みについて、そもそものきっかけは、やはりトップからだったんですか?

はい、トップ主導ですね。現社長が就任したのが2017年6月末なんですが、その際に「一段レベルアップしたエクセレントカンパニー」へとシフトしていこう、と。一流のプロフェッショナルへどう成長していくか。そのための時間をいかに捻出していくか─。社長は、以前からそういったことを問題意識として持たれていたんだと思いますね

そのようにトップの想いからスタートした一連の改革だからこそ、現在もブレずに進められている、ということなんですね。

そうですね。とはいえ、トップに旗振りを委ねてばかりでは、そもそも「何のために」「誰のために」始めた働き方改革なのか、ということになってしまいます。社員の意見やアイディアを活かすことにも積極的に取り組んでいます。

なるほど。例えば、どのような取り組みでしょうか?

働き方改革に着手するにあたっては、全社員に課題とその解決策を募りました。200件以上のアイディアが集まりましたが、これらを整理して、全社的に取り組むべきテーマをRPA(※)導入、ペーパーレスなど9つ選び、現在、各テーマについてプロジェクト体制を組んで、順次、取り組みを行っているところです。
※RPA:ロボットによる業務自動化(Robotics Process Automation/ロボティック・プロセス・オートメーション)の略。人工知能(AI)を備えたソフトウェアによって、定型的な事務作業(主にホワイトカラー的な繰り返しの多い間接業務)を自動化・効率化する仕組み。「仮想知的労働者」「デジタルレイバー(Digital Labor)」とも。

トップの主導と現場のアイディアの両方が大事、ということですね。

はい、そう思います。ちなみに、「健康経営」の位置付けについて補足すると、「健康経営」に並行して「構造改革」という取り組みも両輪で行っています。

構造改革、ですか?

はい。クラウドサービスの拡大、デジタル・トランスフォーメーションの進展など、この数年で弊社をめぐる環境が急速に変化してきています。現在、弊社の機能は従来型の情報システムの企画・開発・運営が中心となっていますが、この従来の領域を効率化しつつ、IoTやビックデータ活用、AIといった技術の活用も含め、8つの分野を重点領域として設定し強化することにより、環境変化に対応していこうというのが弊社の「構造改革」です。

なるほど。

この構造改革を実行するためには、社員が能力を更に高めてより上流工程の仕事ができるようになることや、担当とは異なる領域の能力を新たに身に付けることが必要になります。そのために、これまでお話してきました会議時間削減や業務見直しなどの取組みで、各自が能力向上に充てられる時間を捻出しようとしているのです。

なるほど、やはり時間捻出へのニーズはとても大きいんですね。ちなみに、「健康経営」プロジェクトが始まったのは…。

2017年の7月ですね。「構造改革」は2018年の夏に始まりました。まだまだ、これからですね。「健康経営」にしても「構造改革」にしても、各部署で通常業務に当たっている人にとっては、正直な話、プラスαのタスクなんですよね。通常の業務に加えて、ってことになりますので。放っておいたら、どうしても熱量は下向きになってきます。いかに上向きな姿勢を維持させていくか、ですよね。ですので、社内における大きな会議の場など、事あるごとに、取り組みについての説明を行うように努めています。

実際に取り組まれていく中で、従業員の方たちから反発のようなものはありませんでしたか?

本音でどう思っているかはわかりませんが(笑)、今のところは目立った反発はなかったように思います。でも、とにかく、今後も社員の声には常に耳を傾けていきたいと思っています

なるほど。より厳密に定性的なところも評価していこう、ということですね。本日は貴重なお話を聞かせていただきました。どうもありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

今回協力して下さった企業様

三菱ケミカルシステム株式会社

設立
1970年
本社所在地
東京都墨田区押上
事業内容
ビジネスソリューション、ERPソリューション、アプリケーション、セキュリティソリューション
従業員数
630名(2018年4月現在)
Webサイト
https://www.mitsubishichem-sys.co.jp/

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