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業績向上で注目、健康経営とは?データ付き解説【事例6選】

~後編~

投稿日:2020-07-29

生産性向上や人手不足解消に効果があるとされ、日本でも関心が高まっている「健康経営」。しかし、なぜ従業員の健康が会社の業績にまで影響を与えるのでしょうか?また、既に実践しているが上手くいかない、時間もコストも掛けられない、そんなケースも多いかもしれません。そこで今回、前編では、担当者の方に向けてデータを交えながら健康経営の基礎知識やメリット/デメリット、実践に役立つ助成金制度やサービス、そして後編では、健康経営を実践する企業の好事例をお送りします。

前編では、担当者の方に向けてデータを交えながら健康経営の基礎知識やメリット/デメリット、実践に役立つ助成金制度やサービスをお送りしています。

健康経営を後押しする認定制度

国や自治体も顕彰制度や助成金制度を設けて健康経営の普及・推奨をしています。

健康経営優良法人認定制度

健康経営有料法人認定制度
健康経営優良法人認定制度とは、優良な健康経営を実践している法人を表彰する経済産業省の制度です。4回目となる2020年度は大規模法人部門(上位500社を「ホワイト500」とする)に約1,500社が、中小規模法人部門に約4,800社が認定されています。
所定の基準をクリアして認定を受けると、取引先や従業員、求職者等からの評価が上がりブランディング効果が期待できます。地方銀行や自治体によっては、認定を受けた企業に融資の優遇制度を受けられる、入札で加点評価を付与してもらえるなどの直接的なインセンティブがあります。

健康経営銘柄

健康経営銘柄
政府の方針のひとつである「国民の健康寿命の延伸」に対する取り組みとして、経済産業省と東京証券取引所が共同主催し、健康経営を実践する特に優良な企業を毎年選定しています。6回目となる2020年度の健康経営銘柄2020には30業種40社が選ばれました。選定されると、投資家からの評価や企業価値の向上に伴い社員のエンゲージメントが上昇することが期待され、良いサイクルが生まれていきます。なお、基本的に東京証券取引所に上場している企業の中から1業種につき1社しか選ばれないので、企業間の健康経営の切磋琢磨にも繋がっています。
参考)健康経営銘柄/経済産業省

働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)

令和2年度から中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されました。業務見直しを推奨し、長時間労働の改善や有給休暇を取りやすくすることを目的にした助成金制度です。支給対象の一例として、労働能率を上げる機器の設置費用やソフトウェアの購入費用、外部コンサル費用、テレワーク機器の導入費用等々が挙げられています。成果目標の達成度合によって上限100万円、更に、賃金引上げ達成時には上限240万円が支給されます。
働き方改革推進支援助成金には、他にも「テレワークコース」や「勤務間インターバル導入コース」、「職場意識改善特例コース」、「団体推進コース」の合計5つのコースがあります。
参考)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)/厚生労働省

産業保健関係助成金

活気のある職場環境づくりを応援する助成金制度です。例えば、メンタルヘルス対策促進員のアドバイスを元にて心の健康づくり計画を作成・実施すると10万円が助成される「心の健康づくり計画助成金」や「ストレスチェック助成金」、他にも「職場環境改善計画助成金」など。2020年度からは副業者の健康診断を促進する「副業・兼業労働者の健康診断助成金」がスタートしており、いずれも窓口は各都道府県の産業保健総合支援センターが担当しています。
参考)令和2年度版 産業保健関係助成金/独立行政法人労働者健康安全機構

業務改善助成金

生産性を向上させる設備投資をして事業場内最低賃金の引き上げを行った場合に、その費用の一部を助成してもらえます。機器の購入費用やソフトウェアの導入費用だけでなく、コンサルタント費用も対象になります。
参考)業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援/厚生労働省

受動喫煙防止対策助成金

一定条件を満たす中小企業を対象に、受動喫煙を防止する換気装置や喫煙室の設置工事費、改修費用などを、100万円を上限として半額を補助する助成金です。
参考)受動喫煙防止対策助成金/厚生労働省

キャリアアップ助成金

アルバイト従業員や派遣社員など非正規雇用者の正社員化や、処遇改善を行った企業に対する助成金で、「正社員化コース」や「賃金規定等改定コース」、「健康診断制度コース」など現状では7つのコースがありますが、ほぼ毎年、制度改正が行われているので年度初めには改正点を確認した方が良いでしょう。
参考)キャリアアップ助成金/厚生労働省

健康経営を実践する企業事例6選

最後に、健康経営を実践する企業や成功している企業のインタビューをご紹介します。これから取り組む方も今まさに試行錯誤されている方もぜひご覧ください。

人財こそ企業の最大の財産~野村不動産株式会社

野村不動産株式会社では、企業の継続的な成長のベースには従業員の健康が欠かせないとしてウェルネス経営(健康経営)を推進しており、健康経営優良法人認定制度の開始以来、毎年連続で認定を受けるほど実績を積んでいます。施策の3つの重点課題には「ワークライフバランスの実現」、「メンタルヘルス不調の予防」、「生活習慣病など疾病の予防」を掲げ、様々な方面からサポートを行っています。
注目したいのが、上層部の啓発が徹底されている点です。例えば、全管理職を対象としたラインケア研修※や、メンバーの健康状態を把握し、適切な対応をするための場として担当役員と部長層を対象としたウェルネス会議などを定期開催しています。いくら人事総務部主導で色々な取り組みをしても、身近な上司が否定的であれば部下は参加しづらいもの。健康経営にはトップの理解と推進が不可欠と言われる中、上司陣の健康意識を高めて部下に好影響が与えられれば、会社全体の健康経営に対する風土は大きく変わっていくでしょう。
※ラインケアとは、職場のメンタルヘルスケアにおいて管理監督者が主体となって部下のメンタルケアにあたったり、職場環境の改善を促したりする取り組みのこと。
参考)ウェルス経営への取り組み/野村不動産株式会社

会社ぐるみで禁煙を応援~アフラック生命保険株式会社

アフラック生命保険会社では2016年に健康経営宣言を制定し、運動・食事・肥満・禁煙・睡眠に着目したアクションを続けています。例えば、多くの従業員が腕に付けているリストバンド型のウェアラブル活動量計端末は会社から希望者に無償で配られたものです。毎日の歩数や睡眠時間が可視化されるので自然とヘルスケア意識が高まるだけでなく、全社一体で歩数を競うキャンペーンにも活用されています。
また、がん保険を主力商品としていることから、就業中の終日禁煙実施や禁煙補助の支給、禁煙希望者に半年間の卒煙支援プログラムを提供。万が一、がんや病気にかかっても治療と仕事を安心して両立できる体制が整えられています。会社の複合的な取り組みに対して従業員満足度は非常に高く、着実に離職率低下に効果が出ているといいます。
参考)アフラックの健康経営/アフラック生命株式会社

アフラック生命保険

アフラック生命保険の働き方改革事例

自由で働きやすい会社は、「みんな」で創る

健康経営は超高齢化社会に備える企業戦略でもある~SMN株式会社

SMN株式会社では、日本では珍しいCHO(Chief Happiness Officer:チーフ・ハピネス・オフィサー)※1を「社員のシアワセを醸造し、会社の文化を改善する推進者」として任命し、ココロ・カラダ・ショク・カンキョウの4つの視点から健康経営に取り組んでいます。
インタビューでは「健康経営は簡単に効果が出るものではありません。しかし、全員がモチベーションアップして働きがいを感じながら仕事ができれば、絶対に利益につながるはず。それに、必ず来る超高齢化社会に備えて今から始めるべき」と語ってくれました。
定量的な効果測定のために毎年、社員アンケートをとってPDCAサイクル運用の判断材料にしながら、以下のように様々な施策を実行しています。
①カラダ…医師相談サービス「Ask Doctors(アスクドクターズ)※2」導入、クラブ活動の補助
②ショク…野菜スムージーの自販機設置やソムリエによる食育セミナー
③ココロ…マインドフルネス講座、オフィス de aiboの導入
④カンキョウ…快適で居心地の良いオフィス環境
※1 CHO(Chief Happiness Officer)とは、従業員の幸せをマネジメントする専門の役職でGoogle社を発端として広まった。幸福度が高いほど創造性や生産性も高く、病欠率や離職率が低いという研究分析が欧米で発表されている。
※2 Ask Doctors(アスクドクターズ) スマホで身体の不調や心配事を相談すると、複数の医師から所見を送ってもらえる日本最大級の医師相談サービス

カウンセリングで社員に変化、離職率が改善~RELATIONS株式会社

従業員の約1割が休職という危機的状況に追い込まれたことをきっかけに、「チームヘルシー」と名付けた衛生委員会を自主的に立ち上げ、健康経営をスタートした同社。EAP※の医師と全社員の個別面談や毎月一万円の健康促進手当、「危ないかな…?」と感じる社員への声掛け、ヘルシーフードの無料提供など様々な角度から社員の健康意識を高める施策を実行し、2年間で休職者をゼロにしました。
とはいえ、立ち上げ当初は社員からの反応はイマイチだったそうです。確かに、健康はデリケートな問題でもあるので他者から指摘されたくない話題かもしれません。一番参加してほしい不健康な社員ほど呼びかけてもあまり参加してもらえない問題も常に付きまとうものです。だからこそ、チームヘルシーのメンバー自身が楽しく活動している姿を見せることが、参加者を増やす秘訣なのだと担当者は語ってくれました。
※EAPとはEmployee Assistance Program(従業員支援プログラム)の略で、職場のメンタルヘルスケアの意味。社員のメンタル不調が生産性低下や企業の利益損失に直結することから、これらを防ぐことを目的として導入する会社が日本でも増えている。

産業医と二人三脚で健康経営に取り組む~株式会社エムステージ

医師のキャリア支援サービスを行う株式会社エムステージでは、産業医の活用、オフィス環境、福利厚生の3つを軸に健康経営を進めています。
「産業医を選任しても関わるのは健診時だけ…」と形骸化している企業が多い中、同社では産業医の先生を本社に招いてオフィス内の巡視、過重労働がないかのチェック、衛生委員会への参加、場合によっては社員のカウンセリングもしています。とはいえ、全社員がそういった場に参加できるわけではありません。そこで、産業医の指導やセミナーの内容をクイズや動画にして全社に配信し、参加率の低い社員への啓蒙を続けています。
また、女性比率の高い同社には、残業の有無と転勤の可否の希望を申請できる制度があります。自分のキャリア計画やライフステージにマッチした働き方ができるこの仕組みは社員の定着にも有効だそうです。そして、社員の健康増進を目的とした独自の手当も充実しています。5つの健康指標をクリアすると支給される5万円の健康増進達成手当や2万円の禁煙支援。柔軟な働き方を支援する副業制度や月額1万円の託児補助など。
先進的でユニークな人事制度がたくさん立ち上がっているベースには、快適なオフィス環境や健康的な働き方に対する社長の想いの強さがあると担当者が語るように、やはりトップの推進力は健康経営に不可欠な要素と言えます。

働く人が抱えるあらゆる「不」を解決~ピースマインド株式会社

法人向けメンタルヘルスケアサービスを提供するピースマインド株式会社では、働き方改革と健康経営を同時に推進しています。取り組みには、人事部、総務部だけでなく有志社員も加わって自発的にプロジェクトがスタートしました。
具体的な施策として、
・コミュニケーション促進を目的としたオフィスのフリーアドレス化
・部署を超えた交流活性化を目的としたランチ時の会議室開放
・働き方の多様性を実現するためにサテライトオフィスZXYを利用
社員の健康に関する研修(ピラティス、ジャイロキネシス、脳トレ等)を3~4か月ごとに開催
・食生活改善に役立つ「OFFICE DE YASAI」の導入
そして今年、念願の健康経営優良法人の認定を取得しました。
最近では新型コロナウィルス感染症拡大防止への配慮で在宅勤務を推奨しており、オフィス面積に余裕ができたのをきっかけに集中席を新設しました。今後は、全休や半休よりもフレキシブルな時間給制度の導入や、育児中社員支援のために短時間勤務制度の拡充健康診断のオプション受診項目補助、歩数計を活用したウォーキング促進なども考えているそうです。

ピースマインド

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