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サントリーホールディングスの働き方改革事例(前編)

“働きやすい会社”ではなく、“活躍できる会社”を

投稿日:2019-03-29  最終更新日:2019-03-29  取材日:2019-01-10

  • 会社規模

    37,000人

  • 業種

    製造業

  • 対象職種

    全社員

ビールをはじめ、洋酒や清涼飲料水などの製造・販売を行い、長年にわたり日本の飲料業界をリードしてきたサントリーホールディングス。

「エンプロイヤーブランド(企業魅力度)」を調査・表彰する「ランスタッドアワード」でも、例年上位にノミネートするサントリーHDですが、そのように、ワーカーたちを惹きつけ続けているのには、何か訳があるのでしょうか? 今回はその理由を探るべく、サントリーHD鈴木様、サントリービジネスシステム篠原様にお話を伺っていきました。

創業者・鳥井信治郎氏の「やってみなはれ」の精神。そのDNAを受け継ぎながら、「ワークスタイル変革」や「働き方改革」に果敢に取り組むサントリーHDの事例をお届けしていきます。

ワークスタイル変革に向けて、まずはテレワークの導入を

本日は、どうぞよろしくお願いいたします!

こちらこそ、よろしくお願いいたします。

さて、さっそくお話を伺っていきたいと思うのですが、御社は、いつ頃から働き方改革に着手されたのでしょうか? かなり前から先進的に取り組まれてきているという印象を勝手ながら抱いているのですが。

ありがとうございます! もちろん当時は「働き方改革」という表現ではありませんでしたが、ワークスタイル変革への取り組みをスタートさせたのは、2007〜2008年頃にまでさかのぼります。2008年の時点で、工場勤務者を除いた全従業員を対象として、テレワーク制度を導入していました

そんな前から、全社的にテレワークを導入されていたんですか!? それは、早いですね。

2007年の頃には、介護や育児をされている方のみを対象にしたものですが、すでにテレワークを導入していたんです。ところが、ふたを開けてみたら、利用者はたった数人だけ…。せっかく制度を設けても、ごく限られた人にしか利用されないのであれば、その効果は極めて限定的なものになってしまいますよね。ですので、2008年には、前年の反省を活かして、「介護・育児」という制限を取っ払って、ほぼ社員全員へと対象を広げていったというわけなんです。

テレワークのトライアル結果が悪かったのに、そのすぐ翌年に、さらに対象範囲を全社に広げて再施行するというのは、すごいですね!

日本人のメンタリティとして、自分にしか使えない制度というものは利用しづらいんですね。そのことが2007年のトライアルでわかったので、それを踏まえての再挑戦でした。

ダイバーシティ経営を実現するために─、「S流仕事術」の提唱

その後、さらにワークスタイル革新を加速させ、本格的にダイバーシティ経営の実現を目指していこうということで、2010年には、会社として「S流仕事術」を提唱しました

S流仕事術?

はい。「S流仕事術」というのは、簡単に言うと、ワークスタイル革新を成し遂げるための具体的な方法論です。朝5時から夜10時までいつでも働けるよう、原則、「コアタイムのないフレックス勤務」を導入したり、「10分単位で利用できるテレワーク制度」を整えたり、時間と場所にとらわれないフレキシブルワークのかたちを明確に示すことで、その普及を図っていきました。

ちなみに、S流の「S」というのは、やはり、「サントリー(SUNTORY)」の「S」でしょうか?

はい。それに加え、「スリム(Slim)」「スピーディ(Speedy)」、そして「スマート(Smart)」と、3つの「S」もかけています。

なるほど。

会社には、「性別のちがい」、「年齢のちがい」、「ハンディキャップの有無」、そして「国境のちがい」など、様々な“ちがい”が集積します。しかし、私たちは、「そういった諸々の“ちがい”を乗り超えて、多様な人たちが、ワーク・ライフ・バランスを実現させながら、存分に能力を発揮できる企業を目指していきたい」と、本気で考えています。その宣言として提示されたのが、「S流仕事術」、というわけです。

今回、お話を伺ったサントリーHD 総務部の鈴木様(写真右)

テレワークを加速させる、サードプレイスという存在

それ以降、ワークスタイルを改めていこうという取り組みは、社内でさらに広がっていき、テレワークという新しい働き方が、当グループの中で、ぐっと加速度的に浸透していったように感じています

当時、テレワークする場所の選択肢については?

最初は在宅のみでしたが、現在では、サードプレイスオフィスも導入しています。タッチダウン的に利用するならカフェなどに行き、1日こもって集中作業をする際などには自宅近くのサードプレイスオフィスを活用するなど、それぞれうまく使い分けられていますね。

サードプレイスオフィスを採用されたのは、どういった理由からだったんですか?

当社の場合、東京の主要部署は、お台場にある「サントリーワールドヘッドクォーターズ」に集まっているのですが、「お台場への通勤に時間がかかる」という声が以前から多く寄せられていました。また、外出や出張の多い営業さんたちを中心に、郊外や地方に自社のサテライトオフィスを増やしてほしいという要望も出されていました。でも、それだと、どうしても固定費がかさんでしまいます。そこで、オフィスの代替となるものは何かないかなと探して、行き着いたのがサードプレイスオフィスでした

なるほど。ちなみに、在宅勤務とサードプレイスオフィス、どちらがより活発に使われているんですか?

どちらも使われています。それぞれ良さがありますが、例えば、在宅勤務だと、公私が切り替えづらいという社員もあり、そうした人などは在宅で仕事をするよりも、自宅の近くにある、例えば、御社が提供されている「ZXY(旧ちょくちょく…)」のようなモバイルワークオフィスを利用するケースの方が多いです。

活用してくださって、嬉しいです! 利用数も順調に増えてきていますか?

はい。テレワーク制度を拡大した当初は、300人程度しか利用者がいなかったのですが、2011年には2,000人近くにまで利用者数が急上昇。現在は約4,500人が活用してくれています。

それはすごい! 「S流仕事術」の浸透もあって、テレワークの普及については、かなりの手ごたえを得ておられる、という印象ですね。

いえいえ、まだまだです。「S流仕事術」を推進していくことで、自律的に働き方を決める風土、というか、空気感のようなものは十分に醸成することができたのかな、とは思っています。しかし、年間総労働時間はほぼ変わらず。「総労働時間の短縮」という課題が残されていますので

働き方改革の“ナカミ”を見据えて、次のステージへ

そこで、次なるステージとして、2016年に「働き方改革」を始動。その結果、所定外労働時間・約1 割減、年休取得日数・約3日増を達成しました。

それは、すごい成果ですね!

そうですね。数字の上では、しっかりとした成果が認められました。とはいえ、問題は、その実態。中身です。

中身…、ですか。

はい。働く時間は確かに短縮できていますが、それでは、一人ひとりの社員の生産性は? “働きがい”や“やりがい”は? そして、会社(グループ)としての競争力は? それらの各論点に対しても、しっかりとコミットできるような、“中身”のある「働き方改革」になっているだろうか、と。

なるほど、大切な視点ですね。

そこで私たちは、2017年を「働き方ナカミ改革元年」と位置づけ、新たな取り組みをスタートさせました。これは、テレワーク制度を運用していく中でも、社員たちに繰り返し発信してきたことなのですが、“働きやすい会社”ではなく、“一人ひとりがより活躍でき、成果を生み出せる会社”を目指しますよ、と。そんなメッセージを、改めて、強く訴えかけていきました。

働きやすい、ではなく、活躍できる…。

はい。「テレワークOKですよ」と言ったところで、全員が同じ頻度でテレワーク制度を利用できるわけではないので、そもそも公平性の実現は難しいと考えています。なぜなら、公平性を担保して個人の満足度をアップさせることが、会社の最終的な目的ではないからです。会社はあくまでも競争戦略として、一連の「働き方改革」に取り組んでいるのですから。

つまり、“公平性の実現”や“個人の満足度アップ”よりも、 “会社としての競争力や生産性の向上”を主目的に据えている、と。あくまでも経営戦略としての「働き方改革」ということですね。

はい、その通りです。テレワークや在宅勤務制度は全て手段の一つ。目的は競争力や生産性の向上なので、その点は見失わないようにしたいです。とはいえ、当然のことですが、“公平性の実現”や“個人の満足度アップ”についても、ないがしろにするつもりはありません。

例えば、「なるべく時短勤務をせずに、いつでもどこでも働いて、キャリア実現を目指していきたい」という方には、その想いを最大限尊重して、会社として全力でサポートしていきたいと思っています。工場勤務など、業務によっては、どうしてもテレワーク制度を利用できない人が出てきてしまいますが、それでも、できうる限り多くの従業員に、新しい働き方へのシフトチェンジの機会を提供していきたい。

「生産性・競争力」と「公平性」、そして「個人の満足」。複数のベクトルがある中で、バランスをとりながら、みんなで前に進んでいこう、と。そんな前向きなコミュニケーションを大切にしていきたいと思っています

この事例と同じシリーズの事例

今回協力して下さった企業様

サントリーホールディングス株式会社

設立
2009年
創業
1899年
本社所在地
本社(大阪オフィス):大阪市北区堂島浜
サントリーワールドヘッドクォーターズ:東京都港区台場
事業内容
・グループ全体の経営戦略の策定・推進、およびコーポレート機能
・酒類、飲料、健康食品などの研究開発および製造販売
従業員数
37,745名(2017年12月31日現在)
Webサイト
https://www.suntory.co.jp/

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