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サントリーホールディングスの働き方改革事例(後編)

「変えてみなはれ」の精神で、本気で歩む変革への道

投稿日:2019-03-29  最終更新日:2019-03-29  取材日:2019-01-10

  • 会社規模

    37,000人

  • 業種

    製造業

  • 対象職種

    全社員

働き方そのもの(=ナカミ)の変革にこだわる、サントリーホールディングスの働き方改革。

前編では、その取り組みの軌跡を辿ってきましたが、この後編では、もっと具体的な施策のお話に踏み込んでいきたいと思います。

“会社のグランドデザイン”と“現場の個別性・自主性”

働き方改革の継続的な推進には、トップや上層部のコミットメントが欠かせないと言われていますが、御社では、その点について何か工夫されていることはありますか?

はい。まず、トップのコミットメントに関して言うと、そもそも、社長の新浪自ら、トップがコミットし続ける重要性を強調しています。また、マネージャークラスには、何か新しい取り組みを始める時、例えば、テレワークを導入する際などには、まずは、「自ら率先して、一度は使ってみてください」と強く背中を押して、経験してもらうことにしています。

なるほど。マネージャー層の理解が得られず、そこで働き方改革の推進力が削がれている、というケースも、世間では多々あるようですし…。それは非常に有効なプロセスかもしれませんね。

はい。とても有効なプロセスだと考えています。マネージャーも含めて、現場としては、「制度は整っています。じゃあ、どうぞ使ってください」と言われても、実際にどう使ったら良いかわからないんですよね。それが実態なんじゃないかなと思います。

本当に、その通りだと思います。

そこで、2017年にスタートさせた「働き方ナカミ改革」では、「働き方改革推進リーダー制度」を導入しました。各部署から「働き方改革推進リーダー」を選出してもらい、現場における“働き方改革の推進主体”を担ってもらおう、というものです。人事(会社側)が主体となって進めてきた働き方改革ですが、すべてが“トップダウン”で“全社一律”では、どこかにほころびが生じてしまいます。そこで、それぞれの部署では、現場が主導になって、実際の現場に即したやり方で進めてもらうようにしています

先進的な試みですね! 働き方改革を推進させるリーダーを部署単位で設定しているというのは、とても新しい試みだと思います。

当社も、以前は、人事や会社からトップダウン式に「これをやってください」と伝えるばかりだったのですが、それでは一方通行の会話ですよね。やはり、現場で主体的に動いていってもらわないと、取り組みは継続していきません。また、「働き方改革推進リーダー」は、現場のマネージャー・次期マネージャー候補を中心に、各部署長が選任しています

そうなんですね!働き方改革の推進は、各部署にとっては、言わば“主業務外のこと”ですよね。普通、そのような“主業務外のこと”は、若手に振られるものだと思うのですが…。

働き方を変えることは、時にはこれまで積み上げてきた常識を壊すなど、とても困難なものです。そうしたことを出来る人達、そしてそうした経験を通じて自部署の次世代を担ってしてほしい人達を選任しているので。

なるほど。その一点からも、会社としての本気度が伝わってきますね。

それはもう、本気です!私たちの所属するサントリービジネスシステムズ社でも 働き方改革についての報告会も、毎月開催していますしね。ちなみに、この報告会は、各部署の担当者が、社長に対し自らの部署の働き方改革の取り組みについて報告する、といったもので、毎回、かなり本気度の高い打ち合わせが繰り広げられています。

いやあ、本当に素晴らしいですね!

さらに、年に1回は「働き方改革推進リーダー」たちが一堂に会する場も設けていまして、そこでも、働き方改革の今後の方向性を定めるディスカッションが行われます。

働き方改革を推進するにあたって、“会社のグランドデザイン”と“現場の個別性・自主性”を丁寧にリンクさせているんだなと、本当に感心しました。

働き方改革ナレッジサイト「変えてみなはれ」の画面。使いやすいUI設計が投稿意欲を高めてくれる。

ナレッジ共有とワーカーの意識向上

さらに、当社では、各部署で実施された事例をアーカイブし、それらをナレッジ化することにも努めています

それは、具体的に、どのようなことをしているんですか?

はい。働き方改革ナレッジサイト「変えてみなはれ」という専用ポータルサイトがあるのですが、そこに取り組みの事例などをアップし、それを全社的に共有しています。日々更新されているので、みなさん、このサイトで新しいナレッジに触れ、それを横展開していっています。また、「変えてみなはれ大賞」という表彰制度もあります。

表彰、ですか。

はい。これは、年に2回、上期と下期で実施しています。素晴らしい事例に関しては賞金を差し上げています。「働き方改革推進リーダー」が各部署にいますので、その活動の一環としてこのナレッジサイトに投稿していこう、など、みなさん、かなり積極的に活用してくれています。

どんな事例が大賞になっているんですか?

そうですね。直近で言いますと…、

「関係の質という考え方・観点に着目し、部内ディスカッションや社内外での勉強会、様々な仕組みづくりといった活動を部署一丸で行った経理部門」

が、見事、大賞を獲得しています。

経理というと、一般的に、改革するのが非常に難しい部署と言われていますよね。昭和的というか。紙文化が残りがちであったり、会社に居なきゃいけなかったり。

そういう意味では、うちの経理は積極的・進歩的だと思いますね。一致団結していて。先日の合宿当日なんて、全員が合宿に参加していたから、誰ひとり会社に残っていないんですね。日中、経理部が空になっているというのは、なんとも珍しい景色でした(笑)。

あはは。でも、すごいですよね! 働き方改革のために合宿をするというのは。

それぐらいの強い意志を全員で共有している、ということなんだと思います。

オフィス空間への取り組み

次は、自社オフィスへの取り組みについて教えていただけますか?

はい。まずは営業拠点から着手していこうということで、2018年から3年間のプロジェクトを立ち上げています。固定席を100%分用意する時代でもないよね、ということで、必要スペースの配分の見直しを行い、フリーアドレスやペーパーレス化などに取り組んでいます。そうして、ニーズが顕在化している「休憩・コミュニケーションスペース」「打ち合わせスペース」などを配置していっているところです。

進め方として、気を使われていることはありますか?

全社一律に、ではなく、無理のない文脈で、できるところからやっていくのが良いかなと思っています。部署ごとの特性の違いもありますし、現場の理解度の差もあります。上から無理やり実施して、良いことは何もないかな、とも思っています。そこを良く見極めながらですね。

ちなみに、フリーアドレス化については、全体として、どれくらい進んでいるのでしょうか?

まだ100%では無いですが、特定部署・会社においては、フリーアドレス化となっています

すごいスピード感ですね。

はい。オフィス空間への取り組みも、大きな注力ポイントのひとつですから。シェアオフィスを用意して外で働いてもらうなら、社内でこんなに席はいらないよね、というのが基本的な考え方で、まだ完全には実現できてはいないのですが、目指すところは「オフィス空間を適切に縮小していくこと」なんです。

フリーアドレスオフィスの様子。

サテライトオフィスを、もっと使ってもらうために

ちなみに、当社のサテライトオフィス「ZXY(旧ちょくちょく…)」も活用してくださっていますが、使い勝手はいかがでしょうか?

とても好評ですよ。

ありがとうございます!

導入当初、ある程度、強制力をもって「使ってくださいね」と使用を促していった時期で、月間500人くらいの使用実績がありました。それが、しっかり持続されていて、今でも毎月約400人の方が使い続けてくれています。ちなみに、利用者の延べ人数はおよそ1,600人です。もちろん、いろんな働き方・職種がありますので、サテライトの利用数が増えれば良いとは一概に言えないのですが…、それでも、今年(2019年)も、「利用者数のさらなる拡大」を目指していこうとしているところです。

具体的には、どのようにアプローチしていく予定なんですか?

使ったことがない方に使ってもらうためには、もっとしっかりと情報を与えていかなければなりません。ということで、まず、「利用を促すためのマトリクス図」を作ろうと思っています。

マトリクス図、ですか?

はい。立地や環境など“シェアオフィスの特性”でタテ軸をつくり、ライフスタイルやワークスタイルなど“人のニーズに関わる項目”でヨコ軸を設定するなどして、マトリクス図を作成していきます。そして、その図に当てはめて、各人のタイプ別におすすめのシェアオフィスをリコメンドする仕組みが構築できたらなと考えています。たとえば、「小さなお子さんがいる」「家が郊外にある」という方には、「郊外立地」「駅近」「キッズスペース併設」のサテライトオフィスがリコメンドされる、といったふうに、活用のガイドになれば、と。

「利用を促すためのマトリクス図」の横軸、ライフスタイルの例。

なるほど! それは便利な仕組みですね。

今まで使ったことがない人に対して、活用のメリットを上手に伝えていくというのが我々の使命だと思っていますので、リコメンドの根拠となる情報をしっかりと整理して伝えていけたらなと思っています。

基本的なところも大切に

最後に、今後の目標などありましたら教えていただけますか?

サントリーらしい新たな挑戦に繋がるような「面白い仕事」をどんどんと生み出して行こうとしています。一方で、既存業務の棚卸しといった地道な取り組みも不可欠です。

なるほど。大事なことですよね。

業務を整理していく中で、“内製化していくべきもの”と“アウトソースしていくべきもの”を明確化して、内製化するものに関しては、RPA(※)などの最新技術を活用して、積極的に効率化を図っていく。今、そういったフローの確立が求められているんだと思います。「働き方改革推進リーダー」に対しても、すでに、明確な棚卸し計画の提出を促していっています。今後も、基本的なところも大切にしながら、「やってみなはれ」の精神で、現場と足並みをそろえて、働き方改革を加速させていきたいと思っています。

RPA:ロボットによる業務自動化(Robotics Process Automation/ロボティック・プロセス・オートメーション)の略。人工知能(AI)を備えたソフトウェアによって、定型的な事務作業(主にホワイトカラー的な繰り返しの多い間接業務)を自動化・効率化する仕組み。「仮想知的労働者」「デジタルレイバー(Digital Labor)」とも。

この事例と同じシリーズの事例

今回協力して下さった企業様

サントリーホールディングス株式会社

設立
2009年
創業
1899年
本社所在地
本社(大阪オフィス):大阪市北区堂島浜
サントリーワールドヘッドクォーターズ:東京都港区台場
事業内容
・グループ全体の経営戦略の策定・推進、およびコーポレート機能
・酒類、飲料、健康食品などの研究開発および製造販売
従業員数
37,745名(2017年12月31日現在)
Webサイト
https://www.suntory.co.jp/

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