近年、業務改善サービスやグループウェアが、ビジネスシーンなどを中心に広く活用されてきています。そんな中、「サイボウズ Office」などの製品・サービスを世に出し、社会のチームワーク向上を支援し続けている会社があります。
東京に本社を構える、サイボウズ株式会社。
今回は、日本橋にある本社オフィスを訪ね、ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部広報リーダー杉山浩史氏にお話を伺いました。もっと楽しく、もっと本質的なものへと「働き方改革」を捉え直す、サイボウズの取り組みの軌跡を辿っていきましょう。
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そもそも、サイボウズってどんな会社?
「今回は貴重なお時間を取っていただき、本当にありがとうございます! さっそくですが、御社の取り組まれてきた働き方改革について、お話を伺っていきたいと思うのですが」
「そうですね。それでは、まずはサイボウズという会社の“自己紹介”から始めてみましょうか」
「はい。ぜひ、お願いします!」
「サイボウズという会社はグループウェアの開発を行っている会社でして、1997年8月8日、愛媛県松山市で3名から起業しました。2017年8月で20周年を迎えています」
「創業の地は、松山だったんですね!」
社長の青野は、もともとパナソニック(松下電工)に勤めていまして、その時に社内ベンチャーで立ち上げたのが、サイボウズです。その後、2015年に水道橋から日本橋へと東京オフィスを移転させ、現在は、安定的に稼働してきている、といったところです。アメリカ、中国、ベトナムと、拠点も世界に広がってきています。従業員数も、グループ全体で約700名が在籍しています。平均年齢は34歳。これでも少しずつ上がってきたかな、というところですね」
「若い人たちが中心なんですね」
「そうですね。そんな当社が扱っているのがグループウェアなのですが、では、『グループウェア』ってそもそも何だろうというお話を少ししますね」
「お願いします!」
「グループウェアというのは、基本的には、主に企業で働く方々に対して提供する、チームワークを最大化するためのシステムソフトウェア等のことを言います。つまり、複数人で進める仕事やプロジェクトをサポートするための業務改善ツールですね。当社の企業理念は『チームワークあふれる社会を創る』というもので、“チームがワークすること”を助けるようなグループウェアの開発に取り組んでいます」
「当社でも、御社のツールにはよくお世話になっていまして、おかげさまで、チーム内でもコミュニケーションの促進が実感できています」
「ありがとうございます。最近ではコミュニケーション機能というのも重要視されてきていますので、当社でも、“データベースの拡充+コミュニケーション機能の充実化”を目指して、ソフトウェアを開発・提供しています」
「主力製品と言うと…」
「何と言っても『サイボウズOffice』、そして『Garoon(ガルーン)』ですね。『サイボウズOffice』は、主に中小企業向け、300名以内の企業さんに使っていただいています。それ以上の企業規模で使っていただいているのが、「Garoon」。そして、今、当社一押しの『kintone(キントーン)』。この3商品を主力として展開しています」
「今、本当に多くの企業さんが活用しておられますよね」
「おかげさまで、『サイボウズOffice』は、国内グループウェアではトップのシェアを誇ります。『サイボウズOffice』と『Garoon』を合わせたパッケージでも、日本ではトップシェアなのですが、まだまだ世界の壁は厚いですね。アメリカには、マイクロソフト、グーグルなど錚々たる巨大企業がありますので、今は、そういったグローバル市場に向け、果敢にチャレンジしているというところです」
100人いれば100通り─、「働き方の多様化」への取り組み
「それでは、次は、御社が取り組まれている働き方改革について教えていただけますか?」
「今、世間では、『働き方改革』という表現が広がっていますが、サイボウズではあまりそういう言い方をすることがなく、代わりに『働き方の多様化』という言葉を使っています。『多様化』とはどういうことかというと、これは人事制度の方針としてもあるのですが、『100人いれば100通りの働き方・人生像があってもいいよね』という考え方なんですね」
「100通り、ですか?」
「一人ひとり顔の形や髪の色が違うように、一人ひとりが望んでいる働き方や報酬、人生の目標なども、それぞれで違ってきますよね。ということで、“画一化された公平性”よりも“差異のある個性”を重んじましょう、と。人事制度も、多くの企業さんでは、従来の制度を見直すというかたちで修正を加えていると思うのですが、サイボウズの場合は、『人の数だけ制度の数を増やしていく』という発想です」
「本当にユニークな取り組みですね。都度、制度を増やしていくというのは、大変そうに聞こえますが、でも、社員さんのことを思えばこそ、でしょうか」
「実はですね、正直言うと、『社員の幸せのために』というのがスタート地点じゃないんです。2005年のことですが、当社は離職率が28%というひどい状態で、4人に1人が来年いない、という状況でした。もう、危機感ですよね。サイボウズとしては、『世界一使われるグループウェアになる』という大理想を掲げているのですが、メンバーがいなければ、実現できるわけがない、と。それどころか、このままだったら、チームが、会社が存続しない…。そんな危機感がある種の強制力になって、人事制度の見直し、働き方改革の推進を後押ししていったんです。やらざるをえなかった。それこそ、青野の言葉を借りて言うと、『死ぬ覚悟でやった』ということです」
「それは、すごい覚悟ですね…!」
「そんな覚悟に突き動かされてトップが動き、そうして、社員たちにもその熱量が伝わっていった結果、今では4%を切るまでに離職率が下がってきています」
トップが心に決めた「3つの覚悟」~第一の覚悟─会社を変える覚悟~
「『死ぬ覚悟で』というのは、本当に重い言葉だと思います。それは『100人100通りの働き方』を実現しようとした際の覚悟、という理解で正しいですか?」
「そうですね。でも、始めから『100人100通りの働き方』を目指したわけではないんです。実は最悪の離職率を記録した2005年というのは、青野が社長に就任した年のことだったんですが、それは、青野にとって、本当に大きな挫折だったと思います。責任を取って辞めたいと思っても周りの状況がそれを許さず、かと言って続けていく自信も持てない、と」
「それは、つらいですね…」
「これは、青野の著書にも書いてあるのですが、そんなどん底のある日、青野はコンビニでふと視線を感じたらしいんです。ぱっと視線の方向を見たら、ある一冊の本と目が合った、と。そして、手に取ってみると、それは松下幸之助さんの著書だったんです」
「以前、青野社長が勤めておられた松下電工の…」
「そうですね。その松下幸之助さんです。運命的ですよね。そして、その本の中から、『真剣』という言葉が目に飛び込んできた、というのです。真剣という字は、“真の剣(まことのつるぎ)“なので、それこそ、生きるか死ぬか。青野はその本から、『本気になって真剣に志を立てよう。強い志があれば事は半ば達せられたといってもよい』というメッセージを受け取りました」
「苦しんでいた時だからこそ、心の深いところで、しっかりとメッセージを受け取れたんですね」
「そうですね。そして、青野は『真剣に、それこそ死ぬ気で、社長としてサイボウズを引っ張っていく“覚悟”はあるか』と、自分に問うて、どうせやるなら死ぬ気でやってみようと志を立てたんです」
「覚悟、ですか…」
「はい。私は広報代理店として、2005年からサイボウズの仕事に携わっておりまして。2011年にサイボウズに入社しました。この会社とある程度の歳月を共にしてきましたが、その中で、サイボウズの背骨には『3つの覚悟』というものが確かにあるな、と実感しています。その1つ目が、今、お話した、『サイボウズという会社を真剣になって変えていこうという覚悟(会社を変える覚悟)』です」
トップが心に決めた「3つの覚悟」~第二の覚悟─働き方を捉え直す覚悟~
「次は、『第二の覚悟』ですが、これは青野が育メンになった話と密接に結びついています」
「育メン、ですか?」
「はい。水道橋駅近くの文京区に東京オフィスがあった時代、2006年くらいの話ですが、当時の青野というのは、職場で死ねれば本望という生粋の仕事人間でした。そんな青野が、ある日、文京区・成澤区長と食事に行く、なんてことがあったんです。お互いの子どもが偶然同じ生年月日だと知って、じゃあ、今度、家族も一緒に食事でも、ということで」
「すごい偶然ですね!」
「そうですね。そして、その食事の席で、区長に『青野さん、育休とりなさいよ』と言われたらしいんですね。成澤区長は首長で初めて育休を取得した方らしく、『育休取れば、日経新聞に載るよ』と」
「はははは」
「一部上場企業の、特にIT企業で育休取った社長は、当時いなかったので、青野もその気になって、『じゃあ、取ってみますか』って。取ったはいいですが、当時の青野の育児は、まだまだ“やらされ育児”でした。オムツの替え方もよくわかってないくらい」
「どれくらいの期間、育休を取られたんですか?」
「最初は2週間くらいですかね。そのあとの第2子の時です、大きな覚悟が問われたのは。その子は生まれる前から心臓があまり丈夫でないとわかっていて、さらに、出産後、頭蓋骨が通常は開いていなければいけないところを、それが閉じていたと判明したんです。そこで、生まれてすぐに、頭蓋骨の切開手術を受けることになりました。体重もなかなか増えず、奥さんも過労や心労を蓄積させていきました」
「…試練だったんですね」
「これはもう、育児に覚悟を決めなければならない、と。第2子の時は毎週水曜日を育児にあて、それを半年間続けました。そして、第3子の時は「4時まで社長」ですね。覚悟を決めた青野は、夕方4時になったら帰るという生活に、びしっと切り替えました。そういう劇的な変化がトップに起こっている中で、だんだんとサイボウズという会社そのものにも変化が見られるようになってきたんですね。社長が夕方4時に帰っちゃうんで、みんなも帰りやすいですよね。小さい子どもを持つ方なども」
トップが心に決めた「3つの覚悟」~第三の覚悟─クラウドへと舵を切る覚悟~
「そして、『第三の覚悟』です。グループウェア企業のサイボウズは、ずっと製品パッケージを展開してきたのですが、2011年、クラウドに大きく舵を切ったんですね。パッケージベンダーがクラウドに行くというのは、特にサイボウズの場合はパートナー営業だったので、パートナーさんからしてみれば、何てことをしてくれるんだ、というくらいの大きなシフトでした」
「なるほど、大変な決断ですね」
「でも、クラウドに舵を切ったことによって、当社のサービスが、どこで働いていても利用できるようになるわけです。現代的な意味での“働き方改革”の流れに、サイボウズのサービスが、ここでぐっとリンクしてきます」
「ぐぐっと、文脈が繋がってきたんですね」
「そうですね。サイボウズでは、働き方を柔軟にするには、必要なものは大きく3つある、としています。1つは『制度』。1つは『ツール』。そして、最後の1つは『風土』です。どんなに良い制度やツールがあっても、それを支える風土・空気感が醸成されていなければ使いこなすことはできないよ、ということですね。この3つが重なった時に、初めてワークスタイル変革は成されるんですよ、と」
「なるほど」
これが、さっき挙げた『青野の3つの覚悟』とちょうど重なってくるんですよね。「制度」は『第一の覚悟(会社を変える覚悟)』と、『ツール』は『第三の覚悟(クラウドへと舵を切る覚悟)』と、そして、『風土』は『第二の覚悟(働き方を捉え直す覚悟)』と、ぴたっと符合します」
「あ、本当ですね!」
「この3つが噛み合ったおかげで、現在、サイボウズは右肩上がりで成長し続けられているんだなと思っています」
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サイボウズの働き方改革事例(中編)
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今回協力して下さった企業様
サイボウズ株式会社
- 設立
- 1997年
- 本社所在地
- 東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー 27階
- 事業内容
- グループウェアの開発、販売、運用
- 従業員数
- 586名(2017年12月末 連結) 414名(2017年12月末 単体)
- Webサイト
- https://cybozu.co.jp/