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モーハウスの働き方改革事例

子育てを足かせにしない、もっと自由で楽な働き方へ

投稿日:2019-06-05  最終更新日:2019-04-04  取材日:2019-03-14

有限会社モーハウスが取り組んだ事

  • 授乳服で働くママを自由にする
  • 接客業にもあえて子連れ出勤
  • 子連れ側と受け入れる側を対等に
  • 会社規模

    50人

  • 業種

    小売業

  • 対象職種

    全社員

モーハウスは、21年前からそれまで日本になかった授乳服づくりを事業としています。特徴的なのが、その働き方。現在、オフィスとショップでスタッフの子連れ出勤を取り入れています。不思議なことに、ぐずったり泣いてしまったりしている赤ちゃんはゼロ。みんな働くママに抱っこされて、いい子にしています。
自身の子育て中に味わった経験から、子育てするママが活躍できる社会づくりに力を入れているモーハウスの代表取締役・光畑由佳さんにお話を伺いました。

仕事と子育ての両立を叶える授乳服

まず、御社の事業内容を教えてください。

21年前から授乳服をつくっています。お聞きになったことがあると思いますが、その名の通り「授乳ができる服」なんです。

ママの胸もお腹も360度見えないけれど、赤ちゃんの顔はちゃんと見える授乳服。外でも電車の中でも職場でも、あげたい時にいつでもおっぱいをあげることができる。

(写真を見て)見ただけじゃ授乳中とわからないですね。ただ抱っこしているように見えます。

胸は出せるけど隠す機能がない一般的なものとは違い、これ一枚で胸もお腹も見えない、でも赤ちゃんの顔は見えるという設計になっています。
授乳服をつくることで、授乳室がなくてもお母さんが安心して外に出られるような、社会と結びついた子育てを広めていきたいと考えています。

21年前に創業した時、どんな思いがあったのでしょうか。

子連れで出かけた時に、電車で子どもが泣いてしまったんです。お腹がすいているので授乳したいんですけど、そうすると胸を出すしかないわけですね。当然ですが、非常に難しいことです。これでは女性たちが子どもを産んだ後に外へ出かけないのも仕方がないなと。でも、それを「仕方のないこと」で済ませるのではなく、何か解決する方法があるんじゃないかと考えました。社会が変わるのを待つより自分で道を切り開いていけたら、との思いで授乳服をつくり始めました。

御社が働き方を変えていこうとされたきっかけは何だったのでしょうか。

子連れ出勤に関しては、実は創業当初からやっていました。今の仕事は子どもが3ヵ月~4ヵ月のころから始めましたし、集まってくるお手伝いの方もユーザーさんなので、当たり前のようにみんな赤ちゃんがいたんです。

みなさんにとっては、子連れ出勤は当たり前の成り行きだったわけですね。

ただ、始めて数年経ったころに日本経済新聞社(以後、日経)の取材を受けたんですが、商品の取材だと思ったら「働き方を取材したい」ということでした。ちょうどワーク・ライフ・バランスという概念が出てきた頃で、それが私にとって大きかったです。
当時はまだ会社があるつくばまでの電車も開通していない中、日経がわざわざ茨城まで取材をしに来て、全国版に大きく載せるくらいの価値をもって見てくれる働き方なんだと気がついたんです。同時に、私たちのような働き方をしている会社が日本にひとつでもあれば、「仕事と子育ては両立しづらい」思っている女性や、これから子どもを産むかもしれない若い人や学生がもう少し希望を持てるようになるんじゃないかと思いました。

事業の発展というところだけではなくて、発信していくことで社会全体を変えていきたいという思いがあるということですか。

はい。実際に私たちの働き方を見て「じゃあうちでも子どもがいる人を雇っても大丈夫なんじゃないか」とか、「短い間だったら連れて来てもいいんじゃないか」と考えてくださる企業の方もいらっしゃいます。

まだまだ少ないながらも、今ようやく世の中がついてきたというタイミングになりつつあるんでしょうか。

たとえば、学生さんなんかは「やりたい」とおっしゃる方が多いんです、子連れ出勤って。

日本では人手不足の背景もあって、より「働くママ」という重要な労働力への意識が強まりましたよね。学生さんにも少なからず影響を与えていると。

そうですね。お母さんたちの「保育園に入れないかもしれない」「保育園には入れるけど迎えが大変」とか、「早い時期に預けなきゃいけない」という大変さを見ていると、「え!こういう答えもあるんだったら、私これがいいな」っていう学生はやっぱり多い。子連れ出勤をひとつの希望だと思って見ている子は少なくないです。
だから、企業の方たちにとっては人材不足への、もしかすると、ひとつの戦略としてありかもしれないですね。

若い世代が望んでいるということは、子連れ出勤や働き方の多様性がより広がっていくのかなという気はしますね。

そうですね。

あえて“開かれた場所”で子連れ出勤

少し話は戻りますが、そもそも子連れ出勤という意味では、創業当初からずっとやっていると。

やっていました。ただ、やはり多くの方に知っていただきたいということで、東京の青山のお店でも始めたり、ショッピングセンターや、以前はデパートでもやったりしていました。

お店で、というと、現場に子連れで出勤ということですか?

そうです。青山のほかに、つくばにはショッピングセンターがあります。できるだけ一般社会に近い開かれた場所でもできるということを見せていきたくて始めました。

ショップの店員さんが、子どもを……?

ええ。店員が赤ちゃんを抱っこして店に立っていますよ。当然ながら、「泣いて仕事になりません」はありえない現場です。

売り場でも当たり前のように子どもを抱っこしているスタッフの姿が。

みなさん、うまく両立されているんですね。

そうですね。(オフィスを見回して)今日も静かだと思われませんか。というか、赤ちゃんが泣かないようにしています。

どんな工夫をされているんですか?

う~ん……泣かないようにしているっていう(笑)。

(笑)。抱っこだからですかね?慣れない場所に連れて行くとママと離れた瞬間から泣いちゃうけど、ずっと抱っこしているから泣かない、とか?

それもあるかもしれませんね。
不安なこととか嫌なことは、家では「ちょっと待っててね」でもしょうがないけど、公共の場では、すぐに赤ちゃんの要求に応えましょうね、というスタンスでやっているので。だからみんな子育て上手ですよ。

ハプニング対応も上手になりますもんね。

そうです。ベビーカーに置いておくと体は楽なんだけど、泣いたときの対応も少し時間がかかるじゃないですか。でも、抱っこしていると重いかもしれないけど、すぐに対応できるんですよ。赤ちゃんが泣いて、まわりに申し訳なく思う状況がなくなるので、結果的に楽なんですよね。先日もオフィスに少子化対策担当大臣がたんですけど、子どももご機嫌でしたね。カメラがワーッと来ても全然平気でした。

オフィスで知らない大人たちに囲まれても、落ち着いている赤ちゃんが多い。ママも、抱っこひもと授乳服があれば、ほかの人と変わりなく仕事ができる。

強くもなるんですかね、お子さん自身。

社会性が身につくので、将来ニートにならないよね、なんて言われます(笑)。

昔の商店街みたいに、お母さんがおんぶひもしながらお店に出て、そのうち子供もお客さんとも仲良くなって、あいさつできるような環境になっていく。その現代版みたいですね。

そんな感じです。

さすがにショップだと、赤ちゃんを抱っこして接客して、ちょっとぐずりそうだったらバックヤードに戻るんですか?

いや、戻らないです。そこは授乳服を着ていますから、その場で授乳です。泣く前に飲ませちゃう。

産休・育休後のスムーズな職場復帰にも

子連れ出勤のために会社に用意したものはありますか?

お布団くらいで、ほかは特にないですね。ハード面は基本、いらないと思います。布団がなければベビーカーで寝かせたり、それもなければ抱っこひもと授乳服があればできますから。それよりやり方、ソフトですよね。

子連れ出勤の年齢制限はあるんですか?

やはり子どもの発達を考えると、自由に歩けるようになったら保育園に預けたほうが効率がいいと思います。ただ、もっと大きくなって、自分でぬりえとか宿題とかできるようになれば、別に連れて来てもいいと思います。おそらく2歳くらいだとちょこちょこしちゃうので、あんまり向かないでしょうね。

年齢に関しては、制度的に決めていたりはしないんですか?

一応決めています。やっぱり、働くほうも自分の子どものことになると見えなくなったりしますよね。まだ連れて来て大丈夫ってママが思っていても、子どもにとっては大丈夫じゃないこともあります。一応、子連れ出勤できる時期を決めておいて、面談して本当に大丈夫であれば連れて来る形にしています。

産休・育休の期間は一般的な企業に比べて短かったりするんですか?

産休は普通に取りますが、育休は自由です。制度としてはありますし、休めますけど、休んでいる間も少しだったら働ける制度が今できているので、リハビリや研修をかねて働く方はいます。
特に小さい会社であれば、研修するより実際に来てもらったほうがお互いキャッチアップもできるので、いいと思います。

キャリアを止めなくていいというメリットもありますよね。

そうなんです。ずっと休んでいると、その間は会社のことがわからないので不安になる方も多いですし、責任ある仕事をやっている方であればあるほど不安は大きくなります。
それに、いざ子どもを保育園に預けて職場復帰となると、段差が大きすぎるんですよ。いきなり子どもが親と離れるわけですから、病気もしがちでしょうし、親も久しぶりの仕事で助走期間なくハードルがポンと上がってしまいます。子連れ期間があることで、そこにスロープがついてスムーズに仕事に戻れますよね。

子どもがいても、ママは働きたい

自由に歩けるようになったら保育園に預けるほうが効率的と言うお話ありましたが、保育園に入れなかったから子連れ出勤というわけではないんですか。

「保育園に入れなかったからモーハウスで雇ってください」という人はほとんどいないんです。そうじゃなくて、「今子どもがいる時期だから家で過ごそうと思っていたけど、この状況でも仕事ができるんだったら応募してみたい」っていう人が多いです。ほかの企業との取り合いではないので、残った人が来るということではないんです。やはりやる気があるんですよね。

子ども連れでも働きたいということは、就労意欲が強い方が多くいらっしゃるんですね。

本当は仕事も子育てもどっちもやりたかったけど、どっちかしかできないんだったら今は子どもを取りたいという人たちですよね。逆に言えば、自分はいつでも戻れるという自信がある人だからそういう選択ができたのかもしれません。

子連れ側と受け入れる側は、あくまでも対等に

オフィスにお邪魔するまではどんな感じなんだろうと思っていたんですが、活気がすごいですね。それに、子連れが特殊という雰囲気がまったくなくて、すごく自然というか。

「子連れだけど、それが何か?」っていう感じにしたいんですよね。
そもそも私は子どもが好きで子連れ出勤をやっているわけじゃないんですよ。職場に子どもがいると和んでいいよね、みたいなことではなくて。子連れ出勤は多様性のひとつで、職場に子どもがいることを特別にしたくないんです。なので、子どもが嫌いな人がここに来たとしてもなじめなきゃいけないと思っています。もちろん、その人たちが嫌な思いをするとか、仕事にならないなんてこともあってはいけません。

いろいろと考えたうえでやられているということが、とてもよく伝わりました。

できれば、いろいろな会社に「うちでもこれだったらできるんじゃないか」って思ってもらいたいですね。
ただ、簡単にいかない部分もあります。各人がどういう姿勢でいなければいけないとか、受け入れるほうはどうか、とか。でも、そこさえ押さえれば、たとえスペースがなくてもできますし、リッチな会社じゃなくてもできるし、むしろ車出勤や通勤が徒歩圏の地方のほうがやりやすかったりもします。どこでもできるように、ということを意識しながら社会実験のようにやっていますので、本当にいろいろなところで試していただきたいですね。

今後こうなっていったらいいなと思うことはありますか?

子連れ出勤は、みんなの選択肢が広がって、仕事と子育ての両立が楽になる働き方だという理解が広がるといいなと思います。「やっぱり無理じゃないの?」「授乳服の会社だからできるんじゃないの?」と言われることもありますが、実はみなさんが思っている以上にどんな会社でもできるんです。
女性も男性もそうですけど、子どもができても社会の中で活躍できる姿を見せることは、次世代の“幸せ感”にもつながってくると思うので、ぜひみなさんにやっていただきたいです。

もし、子連れ出勤を始める企業様がいた時に、ポイントとなる部分はありますか?

やはり研修は必要です。今、私たちも行政と一緒に研修プログラムを作っているので、その部分でお手伝いすることもできます。
実は授乳服自体もワークショップみたいなものなんです。授乳服を着ることで社会に参加して、実際に活躍するという体験ができるんですから。

企業に向けて、「授乳服一枚でできる働き方改革」と称し、妊娠・出産した社員への授乳服プレゼント事業も展開している。

研修というのは、迎える側の研修ということですか?

働く側と、両方ですね。

意識とか考え方に関してですか?

そうです。受け入れる側には、受け入れることに対して否定的な方も必ずいらっしゃいます。そういう方たちに、子連れ出勤がいかにメリットがあるか、必要であるかということを理解していただかなければいけないし、働く側は働く側で、「子どもがいるからしょうがないでしょ」という声も大きいので、「いや、しょうがなくないです」というところを学んでいただかなければいけません。

子連れ出勤する側と受け入れる側、お互いが対等であるための、歩み寄りの研修というイメージですね。

そうです。

今後、発展型としてこんなことができたらいいな、と考えていることはありますか?

女性が働くこととか子育てまわりとか、女性のエンパワーメントみたいなことをずっとやってきているので、「こんなこともいいんじゃない?」とアイデアをいただくこともあるんです。たとえばプロダクトでいうと、うちがつくっている授乳ブラジャーがあるんですけど、乳がんの方も使い始めているんです。

それは、検診の時に役立つとかですか?

いえ、乳がんの手術の後は痛みがあるので、この授乳ブラだったら楽だから着けられるとおっしゃるんです。このブラジャーは乳がんの方のことを考えてつくったわけではないのに、すごくおもしろいなと思っていて。働き方に関しても同じように、最初は単純に「子どもがいるから連れてきました」だけだったんですけど、それが徐々に広がっていって、今みたいに取材で子連れ出勤のお話をしたり、行政と一緒にお手伝いしたりということになっていますよね。最近は街づくりみたいなことに参加する機会も増えているんです。
もともと、プロダクトも働き方も、「どうしたら働きやすくなるか」「どうやったら楽に子育てできるのか」を考えて始めたことなんですが、今ではひとつのエッセンスになっているんですよね。だから、そこに関して知恵を使っていただけることがあれば、いろんなことにチャレンジしていきたいと思っています。企業の方とか行政の方とか、いろいろとご一緒していけると面白いですね。

ありがとうございました。

今回協力して下さった企業様

有限会社モーハウス

設立
2002年
本社所在地
茨城県つくば市梅園
事業内容
授乳服の製作・販売、授乳服を通した情報発信
従業員数
正社員・準社員9名、パート・アルバイト40名
Webサイト
https://mo-house.net/

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