CLOSE

エスクリの働き方改革事例

わずか1年で「女性が輝ける企業」にシフトできた大胆な改革

投稿日:2019-01-28  最終更新日:2019-01-28  取材日:2018-12-11

  • 会社規模

    1,000人

  • 業種

    サービス業

  • 対象職種

    全社員

女性比率が圧倒的に高いブライダル業界で初となる“えるぼし“(※)認定を取得したのが今回お話を伺う株式会社エスクリです。認定率約3%という狭き門でありながら、改革に着手してから認定を受けるまでに要した時間はわずか一年弱と言いますから、そのスピード感と大胆な変革には目を見張るものがあります。「お客様ありきのサービス産業では難しい」と言われてきた働き方改革を成功に導いた施策とは何だったのでしょうか?
※えるぼし…女性の活躍推進に関する状況等が優良な企業に対して厚生労働大臣が認定する制度

今回お話を伺った、人事総務部部長 鶴見英齊様

女性がいきいき働ける会社を目指して

本日はよろしくお願いします。早速ですが、えるぼし認定までの経緯からお聞かせいただけますか。

はい。当社は社員の女性比率が約70%とかなり高いんですが、その割には女性がいきいきしているとは言い難い状況が正直ありまして。なんとなく会社の雰囲気も女性っぽくないなあというような事もあり、色々改革をしていきたいと思っていたんです。そこで改革の一環としてまずはえるぼし取得を目標にしよう、ということになって2017年の秋くらいからどんどん制度を変えていきました。

改革スタートから認定取得までたった1年とはすごいですね!最初に手を付けたのはどんなところですか?

まずは、年間休日を108日から125日まで増やしました。
どうしてもブライダル業というのはお客様の都合に左右される部分が大きいんです。
お客様が夜の10時じゃないと打ち合わせできない場合もあるし、式の一週間前だとどうしようもない。
それでも、今までほぼ年中無休だったのを、月曜日と火曜日をきっちり定休日にしました。

そうなんですね。でも、お客様ありきのサービス業で定休日を設けるのは勇気がいることだったのでは?

お客様はもちろん大切ですが、営業マンが誠意をもって「どうしてもこの時間は無理なんです」と説明すれば、世間でこれだけ働き方改革が叫ばれてるということもあって、お客様も「そうだよね」と納得してくださいました。多少強引にでも効率化を進めるような形で、去年の4月から休みを増やしました。

本格的に制度導入する前には、やっぱりトライアルのような事もやったんですか?

どれくらい影響があるか人事総務部門がシミュレーションして営業部門にも話したところ「いけるんじゃないか」ということで。約三ヶ月間でトライアルを何回かやってみて、それほど影響がないのが分かり導入を決めました。一年くらい経ちましたが大きな問題はなく、変更した休日数は採用イベントでも好評です。それで有能な人材が入社してくれれば現場も活気づくし良い影響があると思いますね。

まさに好循環ですね。でも、休みを増やした分、平日に働く時間が増えたり、しわ寄せが来ませんでしたか?

年間休日を増やしたら逆に残業時間が減ったんです。意識が変わったのもあるかもしれませんが、やっぱり無駄な残業が結構多かったのかな、と思いますね。
当社の場合は、強制的に定休日を設けたことで業務効率化も進みました。結婚式が立て込む土日は8:00に出勤して23:00まで働く事もありますから、その分、平日は調整して早く退社するようにはしています。

“なんとなく残業”みたいなものがなくなったんですね。フレックス制は取り入れていたんですか?

ホテルの宿泊担当はシフト制ですが、あとはフレックス制です。婚礼には縁起の良い日、悪い日で波がありますから、それに合わせて調整しています。フレックスも総労働時間を満たせば一日何時間以上働かなければならない、という決まりもないので極端に言えば3時間だけ出勤して帰るのもありです。

労務制度以外にもいろいろと取り組んだそうですね。

ブランディングを変えようと思いまして、今までのカッチリしたイメージのコーポレートロゴを女性らしい雰囲気かつテーマ性を持たせたものに変更しました。Mr.ChildrenのCDジャケットなど、広告やアート、ファッションなどの分野で活躍されているアートディレクターの森本千絵さんにロゴのブランディングを依頼し、半年くらいかけて完成しました。
これまでのビジネスモデルは、結婚式が終わった時点でお客様とのお付き合いもなくなってしまう形でしたが、今後は人の一生に関われるような事業展開を考えていて、そこでロゴも一新して意識も変えよう、と。

旧CI(左)と現CI(右)。太陽と月は夫婦を、生い茂る樹は子孫繁栄を表現しており、一生つがいで過ごすと言われる鶴がその様子を祝福している。それら人生の様々な節目をリボンのように繋ぐのがエスクリであるように、という想いが込められている。

確かにだいぶイメージが変わりましたね!実際に効果や変化は表れていますか?

営業をガッツリという社風がありましたが、そうではなくて「人の一生を考える企業になろう」というメッセージを打ち出すようになってから、今のところおおむね好調に推移しています。

離職率改善が好循環のカギになる

その他に、制度面で変更した所はありますか?

目玉のもう一つが、150人位いた契約社員を2018年8月に全員正社員化したことです。
長く働いてほしい、とメッセージを発信しているのに半年ごとに契約更新があるのも矛盾がありますし、会社として変わろう!ということで決断しました。
結局、残業が減らなかったり効率化しない原因は、人材がどんどん抜けていってしまうからなんです。
ですから、離職率を改善するために施策を色々打っていて、2019年4月には企業型確定拠出年金の導入も予定しています。

150人を一度にとは大胆ですね!

時代の流れもありますし、おおむね経営陣も「いいね」と言ってくれました。契約社員で内定を出しても結局他社に取られてしまう事も多いんですが、正社員で内定を出すと快く内定受諾してくれる方が多いですし、いきいきと働けるので効果は出始めていると思います。
実は、新卒入社一年目で約15%も離職してしまう状況があって。原因はなんだろう?と考えると、人材が抜けノウハウが溜まらない、段々いっぱいいっぱいになって辞めてしまう、という悪循環にあると思ったんです。
今までは、人事部門から新卒社員に対するケアは特別してこなかったんですが、個人面談をして悩みを吐き出してもらう場を設けるなどの取り組みも始めました。

離職率改善がカギになりそうですね。

そうですね。社員の意見を吸い上げるためにアンケートはよくやっています。社員だけではなくて内定者にもです。内定者ということで言えば、内定式や入社式も離職率防止にも一役買っているかな、と。
当社の内定式は2日間かけてやるんですよ。初日に東京ディズニーシーのホテルミラコスタで内定式を終えた後はディズニーランドで遊んで貰って、翌日はスポーツイベントと先輩社員との交流を兼ねたバーベキュー、という流れで。

えっ!羨ましいです…(笑)。

今年は入社式を”新しい人生の門出”と位置付けて、新入社員の家族もお呼びしてフランス料理を召し上がっていただきながら親御さん向けに業務内容の説明をしました。過去には、人事宛てに同じ親御さんから何度も電話がかかってきた事があったんですが、きちんと会社の説明をすると納得して電話がなくなった経験がありました。子どもがどんな会社でどんな業務をするのか理解してくれていれば、「辞めたいんだ」なんて相談された時にも引き止めてくれる“ストッパー役”になってくれると思うんです。
あとは、毎年、品川で社員総会をやっていたのを、今年はリゾートウエディング見学も兼ねてハワイ研修旅行に変えました。社員もそれを目的に頑張ろうとモチベーションにもなるようです(笑)。現在ハワイと台湾に子会社があり今後はアジア進出も考えているので、現地視察を兼ねた研修旅行もありかな、なんて考えている所です。

先輩社員との交流を兼ねたバーベキューの様子。

女性のキャリアをサポートする数々の制度

女性社員が多いと結婚や出産のタイミングで働くのが難しくなったり、キャリアに悩む人も多いのでは?

外部講師を呼んで女性限定のキャリア研修もやっています。育児中の社員も多いので、産後にどう働いて、どんなキャリアを積み重ねてくか、などリアルな話もセミナーでは出るようです。

会社のサポートがあるのは嬉しいですね。でも、育児中だと夕方以降や土日など人手が欲しい時間帯に働けないので、シフト調整が難しかったりしませんか?

そうなんです。この業界は土日主体のビジネスなんですが、日曜日まで預かってくれる保育園が少ないんですよね。社内に土日限定の託児所を開いている同業他社もあったりするので、当社も近い将来、土日も子どもを預けて安心して働ける環境を作りたいな、と。
一応、時短勤務は通常3歳までですが当社では6歳まで延長しました。みんな喜んでくれています。
まだ創業15年目なので小学生以上の子を持つ社員は多くないですが、小学生になると長期休みやPTA活動など出てきますから、”小1壁”的な問題を企業としてどうサポートしていけるか模索中です。

確かにそうですね。育児中や育休中の社員に対するケアは何かしていますか?

働くママには家族の理解が欠かせませんから、家族向けイベントや職場体験は定期的にやっています。クリスマスには社長自らサンタさんに扮してお子さんたちにプレゼント渡すクリスマス会を開いたり。
育休中の社員もイベントには顔を出してもらっています。ブランク明けでいきなり職場に復帰するのは不安しょうし、先輩のママさん社員とイベントで会って話すことで勇気づけられたり、気持ちが楽になったり、良い効果があるようです。

クリスマス会では代表取締役がサンタクロースになって子供たちにプレゼントを渡した。

退職した人が復帰できる制度があるとお聞きしました。

はい。退職や転職したけれどもやっぱり戻りたい、という人に対しては“カムバック制度”があって、基本的に退職理由や年次に問わず受け入れています。

それは、結婚や出産で一度辞めた人が復帰するケースが多いのですか?

いえ、実はそれだけではなくて。ブライダル業界って同業内での転職が多い業界なんです。なぜかと言うと仕事内容が大きくは変わらないので転職しても即戦力で働けてしまうんです、良くも悪くも。
でも、今は社内の労務制度も整いましたし、残業代を一分単位で出すなど会社自体がしっかりしたこともあって、他社に一度は転職したけどやっぱりエスクリに戻りたい、という人もいるんです。他社に行ったからこそ分かるエスクリの良さ、例えば比較的自由に発言できる社風だったりをやっぱり良いな、と思ってくれて他の社員にも伝えてくれるようです。

社内の雰囲気も変わってきましたか?

そうですね、変わってきていますね。30~40代のマネージャーがメインですが、抜擢人事みたいなのもやってまして新卒5-6年目くらいでマネージャーになる人材もちらほら出てきました。それで雰囲気が良くなってきた現場もありますし、新陳代謝が進んでいるかな、と思います。

事務所の使い方で変えたところはありますか?

特別はないです。多くの社員は式場や店舗などそれぞれの持ち場で働く事がほとんどで、事務所で働くシーンがあまりないんです。ウェディングサロンでそのまま事務作業する事も多いですし。事務所よりは、それぞれの場所で働いているイメージです。
ハードの有効活用という事でいえば、渋谷に新しくオープンした結婚式場があるんですが、平日は使われないので、有効活用の為にコワーキングスペースとして貸し出す試みを始めています。

目指すはオリンピック!本気の健康経営宣言

2018年11月には健康経営宣言をされたそうですね。

社員には健康で長く当社で働いてもらいたいですし、お金では買えない健康というものをもっと重視しよう、ということで健康経営宣言をしました。陸上競技場を貸し切って社内駅伝大会を開いたり。一部の社員は世界選手権レベルを目指して“エスクリプロ部活”に参加しています。
今は、フェンシング、ゴルフ、水泳、陸上競技の4つの部活があって、実は私もトレイルランをやっているんですよ。今、160kmのレースでは日本人の中で20~30位くらいで先週も試合で香港に行ってきたばかりですし、モンブランやスペインにも遠征して本格的にやっています。

今回お話を伺った村田様(写真右上)は元プロゴルファーで、現在も日本最大の企業対抗ゴルフイベントで団体優勝を目指して活動中。鶴見様(右下)はトレイルラン歴20年のベテラン選手で、標高2,000m以上を走る”スカイランニング”や160km以上走る”ウルトラトレイル”のレースにも出場している。

それはすごい!かなり本気で取り組まれているんですね!

明確な目標を持って、本気で突き進んでいくと仕事にも良い影響が与えられると思うんです。海外のビジネスエリートは仕事も運動も一生懸命両立させてますよね。自己管理能力が優れていれば仕事にも良い影響があるはずです。
特に、フェンシングは本当にオリンピックを目指していて、ワールドカップや遠征に掛かる費用は会社が負担しています。社員にもプライベートでも高みを目指せるような思考が広まっていってほしいですね。

150名以上が参加した社内駅伝大会の様子。他にも予防接種費用の補助やメンタル相談窓口の設置など様々な取り組みを行っている。

企業内に大学を作ったそうですね。これはどういうものなんですか?

はい。次世代の経営層やマネージャー(式場支配人)候補を育てる“エスクリ大学“という名の研修制度で、今年が二期目になります。エスクリという社名は「STAFF CREATE」に由来していて、人財の力を元々重視している会社なんです。これまでは現場のOJTがベースだったんですが、通信研修と集合研修、座学と現場をミックスさせて教育する制度を作りました。一年間の研修を卒業して実際マネージャーになった人や、副支配人になって各店舗に配置される人も出てきています。

最後に、今後の課題や展望をお聞かせください。

どうしてもOJTに頼りすぎるが故に、先輩社員から教わったやり方をそのまま踏襲し続けてしまう傾向がまだあるので、IT技術を入れて効率化する事を考えています。例えば、30分かけて口頭で説明していた内容を、説明動画を作って誰でも分かるようにする、ですとか。
お客様に渡すパンフレットや就活生向けの紙資料などもデジタルに移行して、スマホで見られるような状態を目指しています。
今、当社は業界4位の位置にいますが、1位や2位には2倍近く差を離されている状態です。ですから、特徴のある会社、社員が幸せで一生この会社で過ごしていけるような会社を目指して制度や働き方を見直していきたいと思っています。

本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

今回協力して下さった企業様

株式会社エスクリ

設立
2003年6月
本社所在地
東京都港区西新橋2-14-1 興和西新橋ビルB棟
事業内容
挙式・披露宴の企画・運営を行うブライダル事業
従業員数
1015名(2018年3月現在)
Webサイト
https://www.escrit.jp/

SEARCH

RANKING

過去30日のページビュー数を集計したランキングです。

RECOMMEND

    • オフィス環境
    • 人事制度
    • ワーカーの啓発・教育
    • 経営層のコミットメント
    • その他
    • 2020-11-16

    リクルートマネジメントソリューションズの働き方改革事例

    「個と組織を共に生かす」働き方改革を目指して

    • 働き方改革で何を実現させたいのか明確にする
    • 「花びらセッション」で社会体験の充実を促す
    • 現場の管理職を孤立させないサポート体制
    • 人事制度
    • 情報通信業
    • 2019-08-01

    ONE COMPATHの働き方改革事例

    社員のライフステージ変化に寄り添う働き方改革

    • アイデア発想を支援する費用補助つき“おでかけ休暇”
    • パーティションをなくしてコミュニケーション活性化
    • 表彰制度で間接部門もフィーチャーされる仕組み作り
    • オフィス環境
    • 人事制度
    • ワーカーの啓発・教育
    • 経営層のコミットメント
    • 製造業
    • 2019-03-04

    リコーグループの働き方改革事例

    脱“働かせ方”改革~働きがい改革を目指して~

    2017年4月に山下良則氏が新社長に就任、「リコー再起動」として聖域を設けずに改革に取り組むなか、全社プロジェクトの一つとし…

    • オフィス環境
    • 人事制度
    • ICT投資・活用
    • 専門・技術サービス業
    • 2019-01-17

    八洲電機の働き方改革事例(前編)

    創業70周年の会社が、本社建替えを機に挑んだ働き方改革

    商社から電機技術商社、そして高い技術力を誇るエンジニアリング会社と変遷し、プラント、産業・交通事業を中心に幅広い製品・…

働き方改革の事例一覧に戻る