アドプラットフォーム事業やインキュベーション事業を手がける「株式会社VOYAGE GROUP」は、2019年5月7日、渋谷ソラスタに本社を移転。3拠点だったオフィスを、1拠点に集約しました。
近年、オフィスに縛られない働き方としてリモートワークを取り入れる企業が増えてきている中、拠点集約を行い、“オフィスに集まる働き方”を選択した「VOYAGE GROUP」。
今回、その選択に込めた想いを、人事・カルチャー領域を担当している宮野衆さんに語っていただきました。
INDEX
「CREED」は幹、青々と育った木が「VOYAGE CULTURE」
今回は、どうぞよろしくお願いいたします! 宮野さんは、新オフィスへの移転プロジェクトを牽引してこられたと伺いましたが。
当時は「CCO(チーフ・カルチャー・オフィサー)」という肩書きで、カルチャー分野のリーダーをしていまして、ちょうどその時に移転の話が立ち上がってきたので、文化づくりの一環として、新オフィスの企画・設計・施工について、牽引していく立場になりました。
文化づくりの一環、ですか?
はい。オフィスというのは、働く場所・土台であって、企業の文化と分かち難いところですよね。
ですので、新オフィスへの移転を良いきっかけとして、改めて、「VOYAGE GROUP」としての“ブランドづくり”や“カルチャー醸成”に取り組んでいこう、ということです。
カルチャーというのは、企業理念やビジョンといったようなものなのでしょうか?
いいえ、カルチャー=企業理念やビジョンというわけではありません。また、弊社では敢えてビジョンは持っていなかったりもします。
その代わりに、「SOUL(ソウル)」という、創業時の想いを大切にしています。それは、全方位的にスゴイことをやり続ける存在であろうという、熱い決意を表す「360°スゴイ」。
加えて、いわゆる行動指針として、「CREED(クリード=価値観)」というものも設定しています。リッツ・カールトンの「クレド(※)」などが有名ですが、当社では、「VOYAGE GROUP」のカルチャーの核となるものとして、8つのクリードを掲げています。
※クレド(Credo)とは:「志」「信条」「ポリシー」「約束」を意味するラテン語。企業活動を行なっていく上で拠り所としていく、行動規範や価値観を簡明に記したもの。それを記したツールを指すこともある。
オフィスの壁に掲出していますが、その8つのクリードは次のようなものです。
・挑戦し続ける。
・自ら考え、自ら動く。
・本質を追い求める。
・圧倒的スピード。
・仲間と事を成す。
・すべてに楽しさを。
・真っ直ぐに、誠実に。
・夢と志、そして情熱。
当社のカルチャーを考える際、すべての軸となるのが、この「CREED」です。
カルチャーとは、目に見えなくて、なかなか具体的に語りにくいものですが、この明文化された「CREED」があるおかげで、ぐっと腑に落ちてくる。
「CREED」に基づいて日々のアクションを選択し、その積み重ねが「慣習」となって、さらに、その「慣習」が脈々と受け継がれていくことで、もっと大きな「企業文化(カルチャー)」というものが醸成されていくのではないかと思っています。
いわゆる、御社らしさ、御社ならでは、みたいなものがカルチャーと言って良いのでしょうか?
そうですね、例えば、「挑戦し続ける。」「自ら考え、自ら動く。」というCREEDからは、「主体性を持って動いていく姿勢」が求められるように捉えられます。
VOYAGEでは、何か新しいプロジェクトができた際などには、会社側から「挑戦したい人いる?」と投げかけを行なっていき、社員自らが積極的に手を挙げていくことを促していきます。
すると、実際に、多くの社員たちが、積極的に手を上げるんです。こうなると、もう、しっかりとカルチャーとして根付いてきているんだなと実感できます。
なるほど。
他にもVOYAGEらしさみたいな話で言うと、「“人”を大切にして、“人”を軸に色々なことを考え取り組んでいる」といった部分は、まさに当社のカルチャーであると言えますね。
事業部を超えて仲も良く、しょっちゅう社内のメンバーで一緒に飲みに行ったりもしています。CREEDの中ですと、「仲間と事を成す。」に当たりそうです。
ですから、繰り返しになりますが、カルチャーの柱を形成するものは、あくまでも「CREED」なんですね。根底をなすもの、つまり、根っこが「SOUL」だとすると、幹が「CREED」。
そこから枝葉が伸びるように、それぞれの「行動」や「選択」といったようなものが形成されていく。そして、その木の全体が、「カルチャー(企業文化)」に当たるのかな、と考えています。
“ナナメのつながり”を育てたい、そのためにも拠点はひとつに
素敵ですね! それでは、今回のオフィス移転も、「VOYAGE CULTURE」の世界観を大切にしながら進めていかれたと思うのですが、移転プロジェクトはどのくらいの期間取り組まれたのでしょうか?
はい、2017年末くらいから2年間かけて取り組んでいきました。そして、2019年の5月に引越しを済ませました。
オフィス移転の目的というのは、必要に迫られて、でしょうか? それとも、あくまで御社のカルチャーや世界観を表現するため?
両方ですね。「必要に迫られて」という話で言うと、人数が増えてオフィスフロアや座席数を増やす必要がありました。
でも、それだけが要因では、決してありませんでした。当時は3拠点あり、席が足りないのなら、他に拠点を増やすこともできました。
しかし、事業部ごとに規模が大きくなっていたタイミングでもあり、そこでさらに複数拠点に分けてしまっては、より物理的な距離ができてしまいます。
「VOYAGE CULTURE」が大切にするのは、“ナナメのつながり”。つまりは、“部署を超えた連帯感”です。
拠点間の物理的な距離によって、その連帯感を薄れさせてしまうのは、もったいない。そこで、大きなコストをかけてでも、必要な投資ということで、3拠点を集約させたオフィスを構えてみようということになりました
なるほど。最初は1拠点で、事業が拡大して3拠点に。そして、さらに成長を続け、その3拠点を大きな1拠点に集約させた、という流れですね。
はい、その通りです。
ちなみに、かつての3拠点ですが、場所は離れていたんですか?
いいえ、かなり近かったです。とはいえ、物理的にビルが異なると、伴って、心理的な距離感も生まれてきてしまうものなんですね。
当社では、各拠点で行われるミーティングに他部署の社員がジョインすることも多く、テレビ電話でも参加できたのですが、拠点間の微妙な近さもあって、わざわざ足を運んでしまう、と(笑)。
近いと、そうなりますよね(笑)。
そうすると、いくら近いと言っても、行って帰ってで、移動だけで余分に30分以上は費やしてしまうんですね。
それはもったいないね、ということで、だったら、ひとつの拠点で一緒にいた方が良い、と判断したという面もあります。
なるほど。ちなみに、ここのビルを選んだ理由というのは?
そうですね、かつての3拠点のちょうど中間地にあたるところに位置していて、立地の観点からいって、不公平感がなかったから、とでも言いましょうか。
どの拠点の社員にとっても、場所が変わるというストレスが少なくて済む、ということで。駅近ですし。
あと、このビルには、グリーンテラスがあるんです。
上層階であっても、各フロアに屋外に出られるテラスがあるというのは、とても良かったなと思っています。空気の入れ替え、気分転換にもなりますし。
確かに、都心にいると、新鮮な空気って貴重ですよね。
最近の新しいビルって、窓開かないですしね。そこは、この物件の大きなメリットかなと思っています。
セレンディピティを生み出す「Cultured ABW」という考え方
移転するにあたって、一番重視した点は何だったのでしょうか?
そうですね。働く“場”として重要視したのは、“セレンディピティ”です。
つまり、“偶発的な出会い”が生まれる環境づくりですね。出会いから対話が生まれ、色々な気づきやアイデアが創発される。そんなようなことが、オフィスの中で日常的に起こってくるといいなと思っています。
素敵ですね! その他に重視した点はありますか?
はい。大事なコンセプトとして掲げたものに、「Cultured ABW」というキーワードがあります。
「ABW(※)」という考え方は、すでにシリコンバレーではオフィスのあり方として主流になっていますよね。当社でも、旧オフィスの時代から、その考え方を取り入れていまして、評判がとても良かったんです。
そこで、新しいオフィスでも、そのコンセプトを踏襲し、より拡大させていこう、と。
※ABW(Activity Based Working/アクティビティ・ベースド・ワーキング)とは:会社によって定められたオフィス・職場に限らず、ワーカーが自由に働く場所を選択することによって、その一人ひとりが、よりクリエイティブな成果を発揮していけるよう促していこうという仕組み。
この15階フロアのかなりの面積は、フリースペースになっているんです。
16、17階の執務スペースには、各人に固定席をしっかりと用意していますが、フリースペースに移動して、自由に働いてもいいよ、と。
でも、それらしい空間を作って終わりでは意味がないし、語られない。
そうではなくて、ABWに基づいて設計された空間に、自社のカルチャーの粋を凝結させ、偶発的な出会いを誘発して、新たな「VOYAGE CULTURE」の創発を目指していく。それが、「Cultured ABW」のコンセプトです。
なるほど!
例えば、15階フロアの窓際には、「BEACH(ビーチ)」というエリアがあります。ここでは、まさに“浜辺”のように、靴を脱いで脚を伸ばし、開放的に仕事をすることができるんです。
社員にリラックスしてもらい、感性を開いて、それぞれのパフォーマンスを最大化していってほしい。そのような、会社としての願いやオープンマインドを伝える、象徴的な場所としてデザインしました。
会社を語れる、ということ
場所の機能的・意匠的なデザインに加え、「そこに、語れるものがあるか」、「そこに、カルチャーが紐づいているか」、「そこに、VOYAGEらしさがあるか」─。
オフィスのあらゆる設計段階において、そういったことを意識していきました。
本当に、語りかけてくることの多い、とても雄弁な空間だと思います。
ありがとうございます。私が大切にしているキーワードなのですが、「語れる」ということが大事なんじゃないかな、と思っています。
つまり、「社員自らが、自分の言葉で会社について語ること」が、「カルチャーを醸成すること」につながるんだ、と。
会社を語る、ですか。
はい。会社について想いがあれば、自然と語りたくなりますし、その想いは、聞く側の心に伝わっていきます。
「会社のことが好きなんだね」「良い会社だね」と、聞き手から良いリアクションが返ってきたら、きっと、語った人は、会社をより誇りに思うようになるでしょう。
そのような、社員一人ひとりによる誇りの積み重ねが、会社全体のカルチャーをかたち作っていきます。
そうして、会社のカルチャーを共有していくことで、会社と社員の「エンゲージメント(絆、つながり)」が、より豊かに育っていくのだと思います。
そのために、“語れる要素”をオフィス全体に散りばめたんです。ただ、ふんだんに散りばめすぎて、今や誰も全容がわからないという(笑)。
社員の“語り”を促すために
そこで、「VOYAGE GROUP」が構築している世界観を社員一人ひとりが語れるための、参照すべき“海図”のようなものとして、コンセプトシート「GRATE VOYAGE」を作成しました。
確かに、こんな素敵なシートがあれば、誰かに語りたくなっちゃいますね! ちなみに、オフィスを設計していくうえで、社員さんの要望を聞く機会などは設けたのでしょうか。
そうですね。アンケートなどを通して、まずは、社員のニーズや課題感、リクエストなどを把握していくことに努めました。
そして、そこで得た社員の声をベースに、「未来のオフィスを考えるランチ」と称して、2回ほどトークセッションの場も設けました。社員には自主的に参加してもらって、20名ほど集まりました。
社員さんの生の声を聴く…、大切なことですね。
そうですね。アンケートでは結構無茶な要望も上がっていたので、話し合いの機会を持つことで、現実的な落としどころを一緒に探っていく必要もありました。
子育てをサポートしていく、その意志を会社として示すこと
では、社員さんの声を聴いていく中で、参考になった声は?
はい、ありました。ひとつは、食堂が欲しいという声。社員食堂がなかったので、その需要は意外に多いんだなと思いました。もうひとつは、子育て関連のニーズです。
お子様の見守りに関するサービスは、「都心に子どもを連れていくのが大変だ」という声をよく耳にします。実際に社員の方の声は?
最初、会社の近くに保育所が欲しいという声が多く上がっていたのですが、おっしゃる通り、「渋谷という都会の真ん中に子どもを連れて行かなければならない」というハードルが、まずあります。
それでも、何らかのかたちで、子育てサポートは受けたい、と。
難しい問題ですよね。
はい。そんな中で、我々が出したアンサーが「キッズルーム」でした。子どもの見守りをしてくれる専門スタッフは常駐させず、スペースだけ開放しておきます。自分で責任を持って見てくださいね、というスタンスです。
都会に子どもを連れてくるという問題点は解決できていないため、使われる頻度はそこまで高くはないのですが、それでも、育休取得者を対象とした面談の時など、お子さん連れの社員に利用されるケースがあります。あと、インフルエンザなどが学校で流行って、学級閉鎖になったけれど、自分の子どもは元気、などといったシチュエーション、ありますよね?
ありますね(笑)
そういった、常日頃から利用されるものではないものの、“ふとした時に、あると助かる”といったような存在。そんな「キッズルーム」が、現在の当社の規模感で出来る価値提供としては、程よいかなと思っています。ちなみに、コロナウイルスの感染拡大を防止する流れで、小中高が一斉休校になりましたが、その際でも活用されましたね。
それは、素晴らしいですね!
大切なのは、キッズルームが“ある”ということ。そのこと自体が、「お子さんを連れてくるのはOKだよ」と、会社としてのオープンな受け入れメッセージになっているということです。
子育てサポートの意志を社員に伝えていく際に、キッズルームが“ある”のと“ない”のとでは、説得力に大きな違いがあると思っています。
ここまでは、「VOYAGE GROUP」が新オフィスの移転プロジェクトにかけた“想いの部分”を中心にお届けしてきましたが、後編では、より具体的な話題に切り込んでいきます。
一緒に働く仲間たちと共にオフィスを創っていくということ。そして、その際に辿った意思決定のプロセスについて。社員に求められるオフィスのあり方を模索し続けてきた宮野さんのお話には、力強い説得力があります。
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VOYAGE GROUPの働き方改革事例(後編)
“可変”を楽しみながら、みんなで創る、語れるオフィス
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- 協調と決断─、そのバランスを考えて、意思決定のプロセスを円滑化
- “可変”を楽しむ余裕を持って、オフィスもカルチャーも育てていく
今回協力して下さった企業様
株式会社VOYAGE GROUP
- 設立
- 2018年10月
- 本社所在地
- 東京都渋谷区道玄坂
- 事業内容
- アドプラットフォーム事業
ポイントメディア事業
インキュベーション事業 - 従業員数
- 336人(2018年9月末時点)
- Webサイト
- https://voyagegroup.com