CLOSE

テイクアンドギヴ・ニーズの働き方改革事例

「稼働時間を減らし、感動時間を増やす」
女性比率6割のブライダル企業が挑む改革

投稿日:2019-03-11  最終更新日:2019-03-11  取材日:2019-01-16

  • 会社規模

    2,300人

  • 業種

    サービス業

  • 対象職種

    全社員

2019年4月に迫った労働基準法改正を目前に、サービス業にも働き方改革の波が押し寄せています。
株式会社テイクアンドギヴ・ニーズは完全貸切りの非日常空間でオリジナルの結婚式を挙げることができるブライダル業界最大手。全国に約100会場を展開、グループ全体で年間2万組以上の結婚式をとりおこない、近年ではホテル事業に進出するなど業界の先駆者的存在でもあります。働き方改革に関しても8年以上前から独自の試みをスタート。イレギュラーな勤務時間や女性社員比率の高さなどサービス業、とりわけブライダル企業特有の課題に取り組む姿をインタビューしました。

たくさん感動した人ほど、お客様に感動を与えられる

働き方改革を始めたきっかけから教えていただけますか。

きっかけは、2011年に社内で始まった「早く帰ろうキャンペーン」でした。
「人の心を、人生を豊かにする」という当社の企業理念になぞらえたキャッチコピーのポスターが貼り出されました。「早く帰りなさい!」ではなくて「仕事と同じように自分の感動時間も大事にしよう」という会社の理念に沿ったメッセージで緩やかに始まったのを覚えています。

2011年、社内に掲出されたポスター

当時、金井部長は現場(カスタマーセンター)勤務だったそうですが、現場の受け止め方はどうでしたか?

「うまい伝え方だな」と思いました。企業理念を大切にする会社だからこそ、そこに沿って「自分の心を豊かに出来ないと、お客様の心と人生を豊かにできないよね」という視点だったので、納得感がありましたし反発もなかったです

現場の納得感があったのは大きいですね。早帰り以外に始まったことはありましたか?

ウェディングの閑散期(1~2月、7~8月)は、22時以降の電話・メール発信を禁止したり、PCのログを取ったり、部長陣が招集されて具体的に何を推進するか会議をしたり、という動きが始まりました。

2015年のキャンペーンポスター。早く帰って「何をする?」という部分に焦点が当てられている。

2011年というと、創業者の野尻現会長から社長が交代した頃ですね。

はい。世の中ではコンプライアンスが叫ばれ始めた頃で、当社は起業から13年で社員数が1,300人規模まで急成長していた時期でもありました。
内部統制や内部監査、従業員のメンタルヘルスなど、「利益も大切だが、会社として大切にしなければいけない」部分、いわゆる企業としての基盤整備が行われた頃でした。

働き方改革が世に浸透する前から取り組みを始めていたのですね。

早い段階で取組み自体は始まったと思います。
2015年からはより具体的な施策がスタートしました。

ちょうど現在の岩瀬社長が就任された年と重なりますね。

岩瀬は支配人や営業部長を長らく経験して、現場をしっかり理解しているからこそ推進が大幅に進んだのだと思います。自分を含め現場出身だからこそ結果にコミットする力があったのではないでしょうか。

具体的にどんな事が動き出したのでしょうか?

社長直下で全部長が集められ、その場で「その業務やフローはいる/いらない」を判断する会議が一日かけて開かれました。その後も、①人事評価、②仕組みルール、③ITインフラ、④教育の分野ごとにリーダーを任命して、小さなことから大きなことまで、月例の経営会議後に各リーダーを集めて進捗状況など話し合っていました。トップが発信するのは簡単ですが実働して継続するのは大変で、当時は私も必死でした。

お話を伺った管理本部 総務人事部長 金井友香里様。12年間、営業やカスタマーセンターなどの現場を渡り歩き、現職に就任した。

部門ごとにリーダーを決めて推進していったわけですね。

現場の意見を大切にしている会社なので、単なるトップダウンにならないよう、現場の支配人など実業務を把握している人をリーダーに指名したのがポイントだったと思います。
一定時間になると、PCが強制的にシャットダウンする仕組みをつくったのもこの頃です。

サービス業ですと夜間に働かなければならない従業員もいらっしゃいますよね。

ホテルなど深夜に稼働しないといけない職種もありますし、課題として捉えています。
部門によって取り組み方やお客様との関わり方、繁忙期など条件は異なりますが、各事業の責任者に参加してもらって連携しながら進めることで、改善していければと思っています。

各事業に沿った形に変容させながら実行していく、と。

そうですね。店舗ごとに解決策を話し合う際、職種ごとで話さずに、店舗全体で話した上で実行に移してもらうようにしています。課題はまだありますが、上手く進んでいる方ではないでしょうか。

フリーアドレス席の意外な効果

フリーアドレスを導入したきっかけは何だったんですか?

これまで全国の店舗から出張者が来ると、本社の会議室を臨時の作業部屋として使っていましたが、より仕事しやすい環境にする為に、試しに一列だけフリーアドレス席を作ってみたのがはじまりでした。

はじめは「出張者用のデスク」としてフリーアドレス席が生まれたんですね。

はい。でも、そこで様々な職種の人達が話し合う姿が増えていって、混み合うほどになりました
それまで問題になっていた会議室不足もフリーアドレス席のおかげで解決しました。良い意味で予期しない使い方をしてくれたのが功を奏しました。

フリーアドレス席がコミュニケーション発生の場になってくれた、と。

実は、コワーキングスペース「WeWork」の見学で、企業の垣根を超えてコミュニケーションが生まれているのを見て刺激を受けたんです。
「似たようなオフィスにしてみたらどうだろう?」と思い、真似してみたのが現在の本社オフィスのフリーアドレスに繋がるわけです。今は第一段階として、部署ごとの大まかな配置だけは指定する「グループアドレス方式」にしています。

本社は全員ノートPCですか?

以前から移動が多い社員はノートPCで 、自由に移動して作業できるように社内のネット環境も整備しました。ノートPCに移行する人も増えていて、今、デスクトップなのは財務経理と労務くらいです。

ノートPCへの移行を推進したんですか?

いいえ、強制はしていません。
フリーアドレス席もそうですが、みんな便利さを実感したからこそ浸透したのではないでしょうか。

フリーアドレス化には紙削減がネックになる事も多いですが、御社ではどうでしたか?

フリーアドレス化と連動したわけではありませんが、「印刷って時間が掛かるよね」という話から「そもそも不要では?」という流れになり、紙削減が進んでいきました。
重役会議ではまだ紙資料を出すことも多いですが、普段の会議ではペーパーレスが進んでいます。

ペーパーレス化にあたって、どんな準備をしましたか?

袖机をなくして、ロッカーを用意した位です。みんな意外にも潔く処分してくれたので、むしろ廃棄に費用がかかった位でした。

着々と完全フリーアドレス化に進んでいますね。

理想はそうですが、まだハードルが高いので、まずは固定席を捨てる段階です。
年末年始に大きなレイアウト変更を2度行い、総務もフリーアドレスになりました。
書類が多い部署なので難しいと思っていましたが、総務の部員自ら「推進部署だったらやるべきだよね」と覚悟を持ってフリーアドレス化に名乗り出てくれました。

それは素晴らしいですね。

ありがとうございます。でも、中にはフリーアドレス席に私物を置きっぱなしにしているケース
散見されるので、今後はそういう問題点を指摘してもいいのかな、と。ロッカーや棚が足りないのか?等々、問題点を1つずつ潰していくことで、本来のフリーアドレスらしい姿で運用できるように改善案を考えてみるつもりです。

結婚式場内にも執務室のようなスペースがあるのですか?

お客様と打ち合わせするスペースに隣接して事務室がありますが、首都圏の一部の店舗ではフリーアドレスを導入しています。基本的にどの店舗もタブレットを活用していて、申込書なども今はiPadで管理しています。

ノートPCやフリーアドレスなどの施策は現場でも広げていく予定ですか?

チーフクラスで複数拠点を担当する場合はノートPCを支給しますが、移動のない社員ならノート化する必要はないですし、理解と共感を得られない事にはコストを掛けない方針なので強制はしません
頭ごなしにやらせるより、本社の変容を見て「すごい!現場でもやりたいな」と実感してくれたら、やればいいのではないでしょうか。

働き方改革の効果測定

一連の働き方改革に関する効果の測定は何かしていますか?

三点見ています。
一つ目が、予算目標に対して、残業時間や人員配置などが適正かどうか。
二つ目は、パソコンのログのチェック。
三つ目は、メンタルヘルスのアンケートです。これは法令で定められる3~4年前から始めていて、その結果に基づいて具体的な施策を決めています。最近では「働き方が改善された」、「楽になった」と数値結果で明らかに出ています。

数値にはっきりと表れるものですか?

例えば、2年位前に教育関連のコストを減らしたところ「学びたい気持ちはあるが、学ぶ場がない」との結果が出てしまって、その後、e-ラーニングや集合研修を増やしました。すると翌年には数値が改善したので、やはり顕著に出ますね。

研修にも力を入れているのですね。

当社は業界でもめずらしい、式場見学のご案内から打ち合わせ、結婚式当日の担当までを行う「一顧客一担当制」をとっています。すると、見学のご案内、結婚式の打ち合わせ、当日の施工等、多岐にわたるスキルを短期間で習得することが求められるため、研修体制はしっかり整えています。また、約2年前から、Skypeを使用した受講システムをもちいて、結婚式のことからビジネススキルまでを単発で学べる講座を開設して、希望者が受けられる仕組みも導入しています。

保育園設立、副社員制度etc… ~女性が働き続けられる為に~

社員の女性比率6割以上と高いですが、結婚・出産などライフステージに応じた働きかたのケアは何かされていますか?

「企業主導型保育事業」として土日祝日も開いている保育園を作りました
「出産しても仕事を頑張りたい社員を応援したい」と、岩瀬が以前から切望していた事業でした。
これまで20代でバリバリ頑張って会社を支えてきた層が30代に入り、結婚や出産を機にやむなく退職するケースを私も沢山見てきました。そのようなスタッフを守る場所として開園した背景があります。今では、同じ悩みを抱える同業他社様やサービス業の企業様にもご利用いただいております。

2017年にオープンした「も、の保育園」という名前には、働く「も」、育つ「も」、大人「も」、子ども「も」、全員が喜べる様に、との願いが込められている。

えっ!自社だけでなく、同業他社の社員の利用もOKなのですね。

はい。保育園が休園になる土日祝日に業務が集中するのはサービス業界共通の課題なので、弊社社員
に限らず使っていただきたいです。

他に、ワーキングママに向けた制度はありますか?

一定の条件を満たせば、期間の上限なく、1年ごとの契約社員という形で時短での勤務が可能になる、「副社員制度」を導入しました。これを利用することで、保育園を利用しにくい日曜は休んで土曜は出勤するなど、働くママ達のニーズにあわせた柔軟な働き方ができるようになりました。

職歴がとぎれず続くのは有難いですね。

ただ、希望者全員を復職させてあげたいものの、スキルの高さや仲間や取引先に信頼される人かどうか見極めて復職させたいと思っています。厳しいかもしれませんが、結婚式は多くの人たちが関わって成立するものであり、1人でも急に抜けてしまうと誰かが代わりにならないといけません。これは、復職する社員にも理解を求めています。
それでも、ママになっても働き続けられる姿を、これから結婚や育児を迎える若い社員に見せてあげて欲しいのです。「若い彼女達にとって、将来の働き方に希望を持てるような存在になって欲しい。
だからキッチリ定時に退社してください」と、先日も大阪まで出向いて直接説明してきたばかりです。

「いつでもどこでも仕事できる」現代に疑念も…

テレワークは、サービス業ですと難しいですか?

検討はしていますが、現状は管理職以上だけにしています。
決めの問題だと思うので、将来的には全社的に許可することも検討はしております。

PCとiPhoneがあればどこでもできますからね。

チーフレベルにはiPhoneを配布しています。TV会議やe-ラーニングに代表されるように集まらないとできない事は減っていますからね。でも、管理する側としては次回の機種変更のタイミングで支給者を精査すべきだと考えています。

時代に逆行するようにも思えますが、なぜですか?

四六時中、仕事に追いかけられている感覚になる事に疑問があるからです。
いつでも連絡が取れて便利という時代から、今は「いつどこでも仕事できてしまう」マイナスの影響の方が強くなりつつあるので、むやみにデバイスを配ることが問題点としても捉えられるからです。

最後に、今後の課題を教えていただけますか。

ハード面では、例えば、スタンディング式カフェスペースの新設など考えています。雑談から仕事の話が進むことがあるように、気軽にコミュニケーションが取れて、かつ仕事の話もできるような場所があってもいいのかな、と。
全体面でいうと、まだ満足していないし、足りないと思っています。
2019年4月の労働基準法改正は今までとポイントも変わってきていますし、時間外労働の上限時間「月45時間、年360時間」、休日労働含め「複数月平均80時間以内、単月100時間未満」はサービス業からすると正直厳しいです。今、全社員がそうできるかといったら難しいと思います。
だからこそ何が課題でどう進めていくべきなのか、もう一段階上の視点で取り組んでいかなければと思いますが、働き方改革を始めた時の様に、会社の理念を大切にしながら進めていきたいです。

本日は、貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそありがとうございました。

今回協力して下さった企業様

株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ

設立
1998年10月19日
本社所在地
東京都品川区東品川二丁目3番12号
事業内容
ウェディング事業、ホテル事業等
従業員数
[単体]1,322人[連結]2,364人(2018年3月31日現在)
Webサイト
https://www.tgn.co.jp/

SEARCH

RANKING

過去30日のページビュー数を集計したランキングです。

RECOMMEND

    • オフィス環境
    • 人事制度
    • ICT投資・活用
    • ワーカーの啓発・教育
    • 情報通信業
    • 2018-12-26

    日商エレクトロニクスの働き方改革事例(前編)

    定量的な根拠を積み重ね、ソリューションを戦略的に構築

    日商エレクトロニクスは、2018年1月1日、同じ双日株式会社の連結子会社である双日システムズと合併しました。合併後の最初の一…

    • オフィス環境
    • 情報通信業
    • 2019-03-26

    インフォコムの働き方改革事例(前編)

    はじまりは、ファシリティへの取り組みから

    ユーザー系システムインテグレーターとして、帝人グループ等に向けて情報システムの企画・開発を行いながら、近年では、コンタ…

    • オフィス環境
    • 経営層のコミットメント
    • 製造業
    • 2019-03-29

    サントリーホールディングスの働き方改革事例(後編)

    「変えてみなはれ」の精神で、本気で歩む変革への道

    働き方そのもの(=ナカミ)の変革にこだわる、サントリーホールディングスの働き方改革。

    前編では、その取り…

    • 人事制度
    • 情報通信業
    • 2019-08-01

    ONE COMPATHの働き方改革事例

    社員のライフステージ変化に寄り添う働き方改革

    • アイデア発想を支援する費用補助つき“おでかけ休暇”
    • パーティションをなくしてコミュニケーション活性化
    • 表彰制度で間接部門もフィーチャーされる仕組み作り

働き方改革の事例一覧に戻る