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【at will work主催】日本が目指すこれからの新しい働き方確立に向けて
【第3部】withコロナでの新しい働き方実践企業によるトークセッション

〜アフターコロナに向けた働き方改革の目指すべき姿を考える〜

投稿日:2021-02-16

2020年12月11日、「日本が目指すこれからの新しい働き方確立に向けて〜アフターコロナに向けた働き方改革の目指すべき姿を考える〜」(一般社団法人at will work主催)がオンライン開催されました。
技術革新、そして新型コロナウィルス感染拡大の影響により私たちの働き方が大きく変わろうとしている今、実際に働き方改革に取り組む企業の担当者3名をお迎えして、その内容や悩み、具体策などより実務に近いレベルのお話を中心にトークセッションを行いました。

主催:一般社団法人at Will Work
協賛:株式会社ザイマックス、コクヨマーケティング株式会社、株式会社ストリートスマート
登壇企業:
荒木俊一氏(株式会社KADOKAWA グループ戦略総務局総務企画部ファシリティ担当部長)
豊田 麻衣子 氏(フジッコ株式会社 総務課 リーダー)
松原 真 氏(みずほフィナンシャルグループ 執行役員 グローバル人事業務部長)
モデレータ:
松林 大輔(一般社団法人at Will Work 代表理事)

登壇企業様のご紹介

まずはじめに、本日お迎えした3社のご担当者様に働き方改革を始めた背景や概要について自己紹介を兼ねてお聞きしました。

2015年からABW(※)を推進/株式会社KADOKAWA 荒木氏

KADOKAWAが2020年11月に埼玉・東所沢にオープンした複合施設「ところざわサクラタウン」。製造物流工場やホテル、ミュージアム、オフィスなどが集まる今までにないスポットとして話題になりました。併設するオフィスはワンフロア約2,700坪、約1,000人が働けるほどの広さがあります。計画が持ち上がった当時の社内では都心から離れた近郊街のオフィス開設に冷ややかな反応もあったそうです。そんな中、東所沢に社員を呼び寄せるミッションを託されたのが荒木氏。一体なにから始めたのでしょうか。
※ABWとはActivity Based Workingの略で、業務内容に応じた最適なワークプレイスを従業員自身が選ぶ働き方のこと。従来の島型の固定席が並ぶ一律的なオフィスとは違い、高集中、コワーク、web会議等々、仕事の性質にあわせて異なる複数の執務スペースを設ける特徴がある。

ところざわサクラタウン

荒木氏
「サクラタウンに来ればここでしか実現できない働き方ができます。都心のオフィスとは違うゆったりした環境で仕事をしたりミュージアムでアイデアを練ったり、KADOKAWAのマンガやアニメを求めて世界中から訪れるユーザーの近くで仕事をすれば刺激にもなるでしょう。業務や気分に合わせて都心と郊外を使い分けられる、そんなイメージです。ただ、それを実現するには社員自身が働く場所を選べるようにならないといけません。そのために5年をかけてABWへの移行を進めてきました」

その日の業務に応じて複数の選択肢から働く場所を選べるABWは、2015年当時はまだなじみが薄いものでした。しかしちょうど「働き方改革」がマスコミ等で取り上げられはじめた時期であったこともあり、まずは、一緒に新しい働き方に取り組んでくれそうな“味方”を社内で探すところから始めたそうです。

荒木氏
「 “味方”というのは、主に育児や介護など家の事情があって働き方が制限されていた社員達です。彼らに、場所を選べる自由な働き方を体感してもらってポジティブな口コミを社内に広め、徐々に全社に浸透させていきました。」

自衛隊から民間企業に転職、違いに驚き/フジッコ株式会社 豊田氏

約4年前、海上自衛隊から総菜や昆布・豆製品を扱うフジッコに転職。働き方改革や企業理念を再構築・普及するプロジェクト、障がい者雇用、社内報などを担当してきた豊田氏。今は会社の健康経営、特に社員食堂の改革に力を入れています。倒れるまで全力で働く(!)のが当たり前だった前職とのギャップに今も驚く事があるそう。現場から経営層に提言する機会が多い中で、どんなチャレンジをしてきたのでしょうか。

豊田氏
「自衛隊から民間企業に転職してびっくりしました。なんでみんなガツガツ働かないの?なんで自分の会社のことなのにコンサルに投げちゃうの?って。会社って綺麗な絵を描きがちですけど、自分で考えてやらないと活きた絵になりません」

「そのために例えば、とにかく働き方改革の表舞台に社員を引っ張り出しました。例えば、早めの退社を促すチャイムを、『今日は早く帰りましょう!』と社員がアナウンスするように変えたところ、意外に好評で『今日誰かな?』なんて勝手に職場で交流が生まれるようになりました」

発信する担当者とマネジメント層が実践しないと従業者は絶対動かせない!、と断言する豊田氏。現在は健康経営の一環として1日1万歩あるくキャンペーンを推進していますが、旗振り役として自らは1日2万歩を有言実行しているそうです。

社員自らキャリア構築できる働き方を目指して/みずほフィナンシャルグループ 松原氏

みずほフィナンシャルグループ、みずほ銀行、みずほ信託銀行、三社の人事部長を兼務し新しい働き方の推進をしている松原氏。保守的と思われがちな金融業界で大胆な改革を推し進める背景には、DXの進展による業界の劇的な変化に対応できる人材を育成するために働き方から刷新しなければならないという喫緊の課題があるそうです。

松原氏
「今までは、総合的に仕事ができる優秀者を育成するために、ジョブローテーション型の画一的なキャリア形成施策を実施してきました。でも、変化が求められる今の時代には、自律的なキャリア形成と働き方が必要だと考えています」

みずほフィナンシャルグループの新しい人事戦略

松原氏
「そこで、“閉じた社内の競争原理”から“社員の成長”や“やりたい仕事”を軸に、キャリア形成の仕組みを大胆に変えました。会社側が社員に仕事をアサインしていた従来のやり方から、社員が自分の仕事をデザインするやり方に考え方を転換したのです。例えば、仕事の公募制を徹底的に推進しました。自分から手を挙げて希望の仕事をする仕組みです。最初のうちは、挙手なんてしたら今の部署に不満があると思われるんじゃないか?と訝る人もいたようです。でも、本気で言い続けるうちに2年前に500人だった応募者が1,000人まで増えました。といっても、社員7万人中の1,000人なのでまだまだこれからです」

言うのは簡単でも実行は難しいと語る松原氏。直接会えないコロナの状況下で、この新しい働き方を社内に浸透させるのに試行錯誤を続けています。

働き方改革、苦労したこと、大変だったことは?

――ここからは、皆さんが働き方改革を推進する上で苦労した裏話をお聞きしたいと思います。
 荒木さん、ABWを進める上でどんなことに苦戦しましたか?

荒木氏:社内で働き方改革のコンセプトを打ち出すと誰も反対はしないけど、とはいえ積極的に各自が動けるかというと難しい。各部署に戻るといつもと同じ島型対向のレイアウトだったりするので、こちらできっかけを提示しないとなかなか行動に移すのは難しいと感じ、環境を大きく変えることにしたわけです。例えば本社から数百人規模で池袋や新宿などのサテライトオフィスに移動してもらい、今までとは違った環境で新しい働き方を見つける、など試行錯誤しながら前進させました。

――場所を変えて意識の変化を促したわけですね。結果はどうでした?
荒木氏:多少強引だったかもしれませんが、それがきっかけで業務の見直しやデジタル化、意識の変化が進んだと思ってます。

――松原さんはどうですか?
松原氏:苦労というと「人事部の言うことには裏があるんじゃないか」って勘繰られてしまうことでしょうか。先ほど話した公募制では落選する人も当然いますが、意欲を買って希望に近い部署に人事異動させるような実績を重ねていくと、「おっ、人事は本気で変革する気なんだな」と社員に伝わっていきます。今はキレイごとに聞こえてる社員もいるでしょうけど、本気度が伝わるまで繰り返し言い続けようと決めています。

――現場に近い立場の豊田さんが大変だと感じるのはどんな時でしょう。
豊田氏:まず、社員の諦める能力が高いのが困りました。「どうせ変わらないでしょ」と多くの社員が諦めてしまってるから、改革を進めようとしても話を聞いてもらえない。むしろ熱くなってる自分が社内で浮いてしまう。この格差をどう埋めるか苦労しました。

――どうして社内に諦めが広がってしまうんでしょう?
豊田氏:私にも経験がありますが「何でもチャレンジしてね!期待してるから」と言われて入社したのに、いざ入ったら上司から「やってもいいけど僕の了承がないとダメ」みたいな感じで強烈にブレーキをかけられるようなことが社内のいろいろな所で起こっていたからだと思います。
恋愛結婚のようにお互いマッチングして入社したはずなのに、いつの間にか会話も減り、家庭内別居状態を経て給与だけで繋がってるような寂しい関係だな、と思ったこともありましたが、やり遂げるには、熱意を持って伝え続けるしかありません。私が本気かどうか、社員は一流の勘で見極めますからね。そういう状況でも自分が折れないようにすることが一番難しかったです。

ディスカッションの様子

オンライン交流や1on1で上司と部下のコミュニケーション不足を補う

――お話を聞いてると管理職とメンバーのコミュニケーションが重要だと感じます。社員から壁を作られちゃうと難しいですよね。
松原氏:コロナ下で在宅勤務になって部下が評価できない、という社員の声をよく聞きますが、実は今までも本当の意味での評価ができていなかったのがコロナ下で明らかになっただけだと思っています。人事評価は査定のためではなくて、本来は部下の育成のためにあるもの。育成のためには、部下の強みや特性を踏まえ、役割期待にふさわしい目標を設定して計測できるような枠組みが必要です。それを上司と部下が共有して1on1で対話していかないと信頼関係は築けません。コミュニケーションが取りにくい今だからこそ、改めてこうした取り組みを愚直にやらなければ変わらないと痛感しています。

――グループ社員7万人の巨大組織ですから、1対1のコミュニケーションは難しそうですよね。
松原氏:そこが悩みどころです。1人の上司が見る部下の数が多すぎることと、人事評価の作業負担が重いことが、コミュニケーションの時間を減らす原因になっていました。そこで、人事評価のやり方を見直したり、思い切って一部の査定業務をやめたり、対話時間をねん出するために見直しをしているところです。

――荒木さん、飯田橋と東所沢とオフィスが分散したことで交流機会が減ってしまう恐れはありませんか?
荒木氏:はい。それはあらかじめ見越して、意識的に部下とコミュニケーションを取るようにマネジメント層にアナウンスしてきました。例えば、1on1を増やすとか、部署ごとに日付を決めて会社に集まるとか。あえてリアルに会う場所を意識的に設けることを提案しています。

――会場からの質問です。「みずほさんは拠点数がかなり多いですが、全国的に集まる場は設けていますか?」
松原氏:コロナ前は世界中の拠点長を集めて会議をしていましたが、今はオンラインで開催しています。経営トップと社員が意見交換するイベントもオンラインで開催したところ、これまでのように会場の関係で参加人数の上限がないので、参加者が飛躍的に増えたのは大きなメリットだと感じています。

社員主導の自発的なコミュニケーションを会社が手助けする

――豊田さんはコミュニケーション創出のために何かやっていることはありますか?
豊田氏:フジッコでは緊急事態宣言が明けてから3つの取り組みを行いました。
1つ目は社内報。コロナならではの事象や本音を取材した社内報を発行しました。どの社員も辛かったはずなのにコロナは働き方を変えるチャンスだったとポジティブな声も聞こえてきました。

フジッコ社内報

2つ目はクラブ活動。フットサル部や登山部など、感染リスクが低い屋外のサークル活動を開始しました。当社が進める健康経営にマッチしているし、2人以上ならどんな活動でもOKとして、会社は活動内容に口出しせず、活動費の一部を補助するだけ。自分達で勝手に面白おかしく段取りを考えるから、勝手に活気が生まれて仲良くなってる。クラブがどんどん増えて自走してるのを見ると「うまくいったな」と思います。

3つ目は社員食堂の改革。本社の社員食堂に「おいしさ×けんこう食堂」をオープンしました。すると、この日だけは普段の1.5倍の売れ行きに。“おいしさと健康があれば人が集まる”ということを確信しました。
こういう仕掛けは、従業員で企画し、発信することが秘訣。それから従業者が喜ぶ姿を想像して実施する。そもそもコミュニケーションは頑張って作るものじゃありませんから。

テレワーク浸透の一方、社内IT格差も

――コロナ以降、テレワークは浸透しましたか?
松原氏:セキュリティを最重要視する金融機関という業種柄、今までテレワーク=育児・介護中の社員が使う制度というイメージを社員が持っていました。でも、緊急事態宣言後、在宅勤務を前提に業務ごとにセキュリティを見直したところ、テレワークが可能な仕事が大きく広がり、多くの社員が実際に経験しました。実際にやってみると、チェック業務のような集中力がいる作業は、オフィスより自宅の方が向いていることも分かった。
一方で、雑談しながら企画を考えるシーンではテレワークがなじまない。あとは、新入社員研修が全てwebになってしまったせいで同期同士のふれあいの中で学ぶもの、職場で先輩の背中を見て覚えるもの、そういうオフィスじゃないとできない体験が減ってしまった不安はあります。
豊田氏:当社は今年テレワークの環境が整ったんですが、特に高年齢層のITリテラシーの低さが露呈して社内格差が生まれてるような気がします。4月なんて何回zoomの説明をしたことか!

――職種によっては働き方を選べない社員もいますが、そういう不満や不公平感は出ていませんか?
松原氏:今まで公平感を重視しすぎて画一的な人材育成に偏ってしまっていたのを変えようとしています。特に若い社員は、やりたい仕事、なりたい自分、といった仕事面を重視しているので、むしろ社員のニーズに合わせているイメージです。
荒木氏:今のところそういう不満はありませんが、ABWができるはずなのに上司の都合で制限されるようなケースが出てきたら不満につながると思います。自由な働き方が会社の全体方針ですが、部署や上司によってそのスタンスが違ってくると不公平感が出るでしょう。

――フジッコさんは工場勤務だと働く場所や時間が選べない人も出てきますよね。
豊田氏:そうですね。製造や物流の現場もテレワークにチャレンジはしてましたが、できない業務は必ずあるので現場の葛藤は感じました。ただ、緊急事態宣言以降、当社の総菜商品の需要が高まる中で工場の供給責任を果たそうとプライドを持って働いていた方が沢山いました。
逆に本社の方では、アナログ頼みだった業務をガンガン自動化しました。その結果、ムダな仕事がなくなり、出社しても仕事のない人が出てきてしまったほどです。そこで感じたのは、今まで仕事って上司がくれるものだったけど、これからは自分はどんな思いを持って何をしたいのか表明して仕事を取りにいかないと、会社にいる存在意義が認められない時代になったんだということ。組織と個人の在り方が変化したと感じます。だから、社内にも生存競争があることを労働者が覚悟しないといけないし、会社はそこで格差が生まれないよう教育してほしいと思います。

鍵を握る管理職向けマネジメント研修に注力

――組織マネジメントの鍵になる上司向けの教育はどうしてますか?
荒木氏離れている状況でどう部下を育ててチーム力を向上するか課題だと思っていますので、管理職向けのマネジメント研修は継続しています。
松原氏:上司の教育は一番の課題です。経営の思いを社員全員に届けられるかどうかは、中間にいる上司にかかっています。そのスキルを上げるには研修しかない、ということで、今はデジタルラーニングを充実させており、例えば、人事評価やITリテラシーの研修動画などを学んでもらっています。
マネジメントの強化は簡単にできるものではありませんが、テクノロジーも活用して続けていくつもりです。

――皆さん、本日はありがとうございました。最後に今後の意気込みを一言ずつお願いします。
荒木氏:先日社内アンケートを取ったところ、柔軟な働き方が浸透して通勤負担が減りワークライフバランスのポイントが上がったことが分かりました。テレワークだと業務に集中できるという意見も多かったです。ただ、創造力に関する項目のポイントが上がってないのが気になります。コロナ収束には時間がかかると腹を据えて、どうやって社員のクリエイティビティを上げていくか、が課題だと思っています。
豊田氏:やはり当社の任務は、世の中に美味しさと健康を届けること。個人的なミッションは引き続き組織風土の改革と、食で皆さんを豊かにする活動を行うこと。特に食に関しては社内だけにとどまらず、他の企業や学校給食の水準を上げる活動にも寄与したいと勝手に思ってます。
松原氏:社会が大きく変化している中で、豊田氏がおっしゃったように、社員と会社の在り方が劇的に変わって、ある意味対等な関係になりつつあります。社員の挑戦を会社が徹底的に支援して個が強くなれば、組織全体が強くなると信じています。自律的に働く意識を社員にどうやって持ってもらうか、という大きな課題に今後も愚直に取り組みたいと思います。

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