前編に引き続き、コニカミノルタジャパンが取り組んできた働き方改革の事例についてお届けしていきます。
働く「じかん(時間)」をどう捉え直すか。そして、その「じかん」をどう創造的で生産的なものにしていくか。長年の自社実践を通して導き出された同社のソリューションには、厚みのある説得力が感じられます。
INDEX
既存の施設を活かして、テレワークを効率的に推進
前編で少しお伺いした「どこでも働ける環境づくり」では他にどんな取り組みがあるのでしょうか?
「どこでも働ける環境づくり」では、2015年に、サテライトオフィスを拡充させていきました。
外部にサテライトオフィス用の物件を新たに用意していった、ということでしょうか?
いえ、そうではなく、自社が持つ既存のサービス拠点をサテライトオフィスとして活用できるよう環境を整備していった、ということです。
当社には、全国に130を超えるサービス拠点があります。今までは、拠点ごとにネットワークが違い、別の拠点(オフィス)に来てすぐに作業ができるという状況ではなかったのですが、無線ネットワーク環境を全て共通化しました。
例えば東京ですと、サービス拠点であれば23区全部にあります。ですので、外出中であってもその複数あるサービス拠点のうちの近場を選んで足を運べば、社内ネットワークも使えるし、資料を作って打ち出すこともできるというわけです。
それは便利ですね。
また、同じ時期にスーパーフレックス(コアタイムのないフレックス制度)の適用を始めました。まずは2015年に外勤者へ、そして2016年には全社員に適用範囲を広げていきました。
すごいスピード感ですね。
もともと当社には「フレックス」という勤務体系はなく、全て「定時勤務」でした。そして、やるんだったら、一気にコアタイムなしのスーパーフレックスを導入しようということになりました。営業などの働き方を考えた場合、コアタイムを設けるというよりも、お客様のご都合に合わせる方が良いので、コアタイムという概念はあまり重要ではなかったんです。
導入後、実際に活用されている方は多いですか?
はい、多いですよ。でも、定時勤務が体に染み付いていましたから、浸透するまでには時間がかかりました。台風が来たとか、そういった事態を経験していくに従って、年度を重ねるごとに便利さが理解されて、利用者が増えていきました。
2017年に「テレワーク推進賞・奨励賞」を受賞したのですが、これは、新しい施設や設備に大きな投資をするのではなく、今ある場所をテレワーク可能な場所へとリデザインしたという点が評価されたのだと思っています。
どうマネジメントしていくか、という問題
ちなみに、リモートワーク時には、マネージャー層がマネジメントの不安を覚えるケースが多いと思うのですが、そのあたりのところは特に問題にはならなかったですか?
2015年にリモートワークの環境を整え始めて、今年(2019年現在)で5年目になりますが、最初のうちは問題がありました。やはり遠隔地でのマネジメントは難しく、マネージャーの力の差がどうしても顕著に出てきます。
ただ、もともとマネジメント力に長けた人だったら、部下がテレワークしていても、業務進捗であれ人心であれきちんと把握できるものです。
なるほど、おっしゃる通りかもしれませんね。ちなみに、リモートワークをする理由については、何か制限を設けておられるんですか? 例えば、家族が病気の時ならOKだとか?
いえ、特に設けていません。
とすると、「今日は、オフィスでの予定は特に入っていないので、家で集中作業します」というような理由でテレワークを行うのも?
はい、全く問題ありません。とはいえ、「週1日くらいはマネージャーとフェーストゥーフェースの時間を持ちましょう」という考え方はベースにはあります。
※SFAとは:Sales Force Automationの略、営業案件の進捗を把握する機能、営業活動の記録や報告をする機能などが備わっている営業支援ツールのこと。
かなり自由度が高いんですね。
そうですね。その一方で、営業部門では、テレワークを組み込んで1週間単位でスケジュールをルーチン化する試みも行っています。
例えば、月曜日の午前中は、その週の行動について上司と部下で顔を合わせてすり合わせる時間として設定。そして、週終わりの金曜日には、振り返りと翌週の行動計画の策定のため出社する時間を設け、週の真ん中の火曜・水曜・木曜は全てテレワークでお客様先に直行直帰する、といった具合です。
なるほど、こうしてある程度ルーチン化されていると、上司・部下ともに安心感がありますよね。
フェーストゥーフェースの「1on1ミーティング」も、全社的に号令をかけているというわけではないのですが、必要を感じて自発的に実施している部署も多いです。
他社様の働き方改革の例では、人事が主導となってルールを定めて導いていく例が多いと思うのですが、当社の場合は、人事主導ではなく企画側による牽引なんです。ですので、人事制度面で制約を加えていくということは一切していないんです。ということで、もともと性善説で考えているというところがあります。
なるほど、人事制度で細かく規定するのではなく、ある程度、各部門の自発性に委ねているということですね。
そうですね。逆に言うと、マネージャーの力量によって差がつきやすくなるという問題があるので、その点に関しては是正していかなければならないと感じています。
「保管文書ゼロ化」を目指して
テレワークの環境整備を進めていく中で、紙文書の削減にも力を注いでこられたようですが、紙文化が根強い中では、相当の反感や戸惑いがあったのではないかと思いますが。
はい、現場は大変でしたね(笑)。でも、移転と合わせて、物理的な保管場所を激減させることは決定していたので、もう、やるしかなかったですね。結果、本社オフィスの紙文書を60%削減させることに成功しました。これは、積み上げるとスカイツリーの高さに達する量です。
それはすごいですね!
でも、当時の社長は60%でも「まだまだ」と言っていました。ある企業は70%削減したと聞いて、それで火が点いたんですね(笑)「60%削減くらいでは、まだまだインパクトに欠けるね」「これでは、新しいオフィスを提案したことにならないね」、と。
なるほど(笑)
「保管文書の削減をもっと徹底していこう、究極100%の削減だ」ということで、我々もぎょっとなったわけです(笑)
あはは。
でも、確かに覚悟しなきゃいけない時期だったんです。実際に、必死に削減した紙文書も、1年間で25%リバウンドしていました。やはり、ペーパーは便利なので、ペーパー自体を削減するのは難しい。そこで、当時の社長は、「ペーパーレスを目指すのではなく、保管文書の削減を目指そう」と方針を示しました。
そうして、「保管文書ゼロ化」を目指して、2015年4月、本社オフィスだけでなく全社的に専任チームを立ち上げました。その際、全社の保管文書の量を改めて調べてみると、富士山の1.2倍ほどの量に達していることが分かりました。
富士山、ですか…!
この取り組みには、1年半くらいかかりました。大変でしたね。
保管文書をなくすということは、オフィス内における“個別的・属人的なキャビネット(文書保管スペース)”をなくすということです。そこで、大切なのは「情報の属人化をやめる」という意識を持つこと。意識は短期間で改まるものでもないので、現場での推進担当は、地道に泥臭く、“引き出しチェック”などを続けていくわけです。すると、見られたくないものを入れている人たちからは拒否されたりするんですよね(苦笑)
そうですよね(笑)
現場としては、それが一番大変でした。
継続的な意識改革活動
意識変革についてのお話が出ましたが、働き方改革を進めるにあたって、マインド面への施策として大切にされてきたことはありますか?
意識改革活動を継続的に行っていく、ということです。全社的なワークショップや社内パネルディスカッション等のボトムアップ活動は、半年に1回は行うようにしています。
大切なことですね。
また、トップメッセージも定期的に配信しています。社長を始めとした役員クラスが、毎月順番に、自身が実践している働き方改革についての情報(や想い)をシェアしていくというもので、トップリーディングの一環です。
社員の意識の可視化や定点観測を行いながら、継続的に意識改革活動を行っていくというのは、非常に大切なことだと思っています。
「いいじかん設計」で、“じかん”の中身を変える
御社では、近年、「いいじかん設計」というものを提唱されていると聞いたのですが、詳しく教えていただけますか?
はい。繰り返しになりますが、当社は以前から「ワークスタイルデザインカンパニー」をビジョンとして掲げていました。そういった当社の想いを、世の中に「働き方改革」が浸透していく中で、よりオリジナリティの高いメッセージとして発信していけないだろうか、と考え、「いいじかん」という考え方に着目しました。
いいじかん、というのは具体的には?
はい。まず、「じかん(時間)」というものを分析し、3つに分類します。それが、
(1)作業じかん
(2)創造じかん
(3)自分じかん
です。今、世の中で取り組まれている働き方改革というのは、「作業じかん(=残業)」を減らしましょう、というのがほとんどであるように思えます。それによって、「働き方改革=(残業時間が減ることによる)賃下げ」といったような印象さえ、一部では抱かれています。でも、それではあまり楽しくない。楽しくないと、継続できないですよね。
生産性が低いという現在の日本企業が抱える問題は、残業時間を減らしただけで解決できるものではありません。生産性が変わらない状態で残業時間だけ削減したら、アウトプットが減るだけですから。
その通りですね。
ですので、ひとつには「作業じかん」における生産性を上げることです。そうして、「作業じかん」を圧縮することで、コラボレーションやイノベーションへの行動を起こすための「創造じかん」を増やしていく。それと同時に、自己研鑽や業務以外の人との出会いによって自らの価値観を楽しみながら広げていく「自分じかん」もより豊かに確保していく。
つまり、働き方改革で目指すべきことは、「仕事をしている“じかん”を減らすこと」ではなく、「仕事に関わる“じかん”の中身を変えること」だと思うんです。
なるほど。
こういった考え方を、当社では「いいじかん設計」と呼んで、2018年6月から、社外に対しても積極的にメッセージの発信とサービスの提供を行っています。
効果測定・検証について
働き方を改めていく中で、効果検証については、定量面・定性面、どのように把握されているんでしょうか?
定性効果に関しては、従業員アンケートを実施しています。例えば、「快適で働きやすい執務環境である」「部門・階層を越えて気兼ねなく会話できる」等の質問を行っていきます。全社員が対象ですので、回答数は膨大です。回収率は7〜8割といったところでしょうか。
定量効果に関しては、総労働時間数や社内保管文書の削減ボリュームなどで把握しています。
なるほど。
でも、効果の数値的な把握には、非常に難しい面もあります。例えば、ダイバーシティ向上の効果を示すための根拠として「女性の管理職の割合」を数字で出してみても、1年でがらっと変わるものでもありません。
そうですよね。
効果として示すには、なかなか難しさを感じながらも、それでも、色々な数字を取って定点観測をしているといったところです。
削減した時間を、いかに意味のある「創造じかん」にしていくか
最後に、今後、働き方改革を通して実現させていきたいことについて教えていただけますか?
そうですね。「いいじかん設計」の中で、「作業じかん」「創造じかん」「自分じかん」を提示したわけですが、その中で、「創造じかん」をいかにして増やしていくか、ですね。すでに、部署ごとにそれぞれの「創造じかん」を定義してもらってはいるのですが、それをどう増やしていくかという具体的なアクションプランの策定にまでは至っていません。それが、今後の課題かなと思っています。
なるほど、難しい課題ですね。
過重労働の多い会社が残業時間を減らしていったとして、それも確かに成果には違いないのでしょうが、本当に大切なことは、「削減された時間で、何をするのか? 」ということだと思います。
残業時間をゼロに近づけていくというのも良いことだとは思いますが、でも決してそれだけではありませんよね。それよりも、売り上げ・利益の増加や企業活動の活性化に繋げることにこそ意味があるんじゃないかと思っています。
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今回協力して下さった企業様
コニカミノルタジャパン株式会社
- 設立
- 1947年
- 本社所在地
- 東京都港区芝浦
- 事業内容
- 複合機(MFP)・プリンター、印刷用機器、ヘルスケア用機器、産業用計測機器などの販売、並びにそれらの関連消耗品、ソリューション・サービスなど。 新規注力事業の強化・拡充のための開発、企画、マーケティングなど。
- 従業員数
- 3,526名(2019年4月現在)
- Webサイト
- https://www.konicaminolta.jp/business/index.html