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エーピーコミュニケーションズの働き方改革事例(前編)

「教育」を通して、自社の働き方を、そして業界を変えていきたい

投稿日:2019-03-25  最終更新日:2019-03-25  取材日:2019-02-21

株式会社エーピーコミュニケーションズが取り組んだ事

  • キャリア自律を促していく、全社的な「教育」の仕組みを構築
  • オフィスのワンフロア化を通して、みんなの顔が見える環境をデザイン
  • フリースペースを、“学びも楽しみも共有できる場”として有効活用
  • 会社規模

    300人

  • 業種

    情報通信業

  • 対象職種

    全社員

システムインテグレーターとして、インフラストラクチャ―の構築・運用やシステム開発を手がける株式会社エーピーコミュニケーションズは、「教育」というキーワードを中心に据えながら、日々、働き方改革に取り組んでいます。

業界の力関係に左右されがちなエンジニアの働き方ですが、その既成概念を覆そうと、活発に実施されている施策の数々。エンジニアを熱狂させる企業になる。エーピーコミュニケーションズの取り組みからは、そのミッションにふさわしい熱を感じます。

今回、お話を伺った、「組織能力開発部 マネージャー兼 キャリア相談室」室長の塚田裕美子様。

「教育」を通して、働き方を変えていく

早速ですが、御社が働き方改革に取り組まれたきっかけについて教えていただけますか?

そこがスタートかというと正確ではないかもしれませんが、2013年から「教育」の仕組みを大きく刷新しました。弊社では、多くの社員がエンジニアとしてお客様先に常駐しています。その中で、常々、マネージャーは非常に難しい舵取りを迫られていました。離れたところにメンバー(部下)がいて、対面でのコミュニケーションの機会に制限が出てきてしまうケースもあります。また、自身もプレイヤーとして非常に多忙だったりもします。そういった状況の中で、メンバーのメンタルフォローや工数管理をしなければなりません。

それは、本当に大変ですね…。

さらに、常駐先のメンバーは、基本的にお客様先の文化の中で動いていくことになります。そういった点も、マネジメントに難しさを加える大きな要因になってきます。こういった状況をうけて当社では、「そもそも、マネージャーの役割は何なのか」ということを、定義しました。そうして出された定義が、「業績目標の達成」「メンバーの人材育成」というものでした。

なるほど。

そして、その2点を実現していける人材を育てていこうということで、2013年頃に、きちんと評価制度で定義した上で、「教育」の仕組みづくりに取り組み始めました。

「教育」というと非常に難しいテーマだと思いますが、どのようなことから着手されたんですか?

「まず、言葉を合わせること」から始めました。「教育」というテーマについて、弊社が抱えている問題。その核心は何だろうと、いきなり答えを出そうとしても、それは難しいですよね。ですので、まずは、各人の認識している課題感をすり合わせて、共通言語を作った上で、論点を絞り込んでいきました。その論点を全社的に、つまり社長以下全員が把握していくよう努めましょう、と。

なるほど。「お客様先で常駐しているメンバーたちをどうマネジメントしていくか」という現場的な課題からスタートして、「教育」による企業価値の向上という全社的な目的意識の共有へと展開していかれた、ということですね。

そうですね。もっと言うと、「教育」によって、“働き方や生き方を、自身で選び取っていける人材”を育てていきたい、ということ。そして、いつかは、SI業界そのものの“働き方”や“体質”を変えていきたい。私たちは、本気でそう思っています。また、それが弊社の社長・内田の想いでもあるんです。

新オフィスの心地よい空間で、お話を聞かせていただきました。

SI業界の構造を、働き方を変えたい

業界そのものにまで目を向けてらっしゃるんですね!

今のSI業界というのは、典型的な“縦割り”なんですね。少数の大手企業が上流にいて、下流に多くの中小企業がぶら下がっている。そのような状態だと、お客様と直接的に対話を重ねられない下流の企業は、どんどんお客様のニーズや声から遠ざかっていくことになります。そして、結果的に、上から言われたものをただ作るだけという、“作業者”になってしまうという傾向があるんです

なるほど。業界の構造的な問題なんですね。

はい。こういった構図は、個々のエンジニアのキャリア形成にも深刻な影響を及ぼします。また、要望したものが下層のエンジニアにまで届いていかないというのは、お客様にとってもデメリットです。つまり、誰もハッピーにならないという構造が、今、起こっているということです

そういった状況を変えていくためにも、各々のエンジニアが、SI(システムインテグレーター)として、

・エンドユーザーのニーズを正確に把握していくためのコミュニケーション力
・自ら考えて行動するという意志
・自分でお金を稼ぐという意識


等を持つように、心がけていかなければなりません。そして、そのサポートを行っていくのが「教育」なんですね。エンジニアのキャリアをつくるエンジニアの働き方を変える。そのようなミッションのもと、現在、様々な仕組みが動いています。

若手社員の支えとなり、マネージャー層をフォローする「キャリア相談室」

その仕組みとしては、具体的には、どのようなものがあるのでしょうか?

色々な仕組みがあるのですが、私が携わっているところで言うと「キャリア相談室」があります。これは、若手社員のキャリア形成を、上司であるマネージャーだけではなくより組織的に支援するための仕組みとして立ち上げられたものです。ここで実施していることは、大きく2つに分けられます。

ひとつは若手社員向けの「キャリア面談」と「キャリアデザイン研修」です。
「キャリア面談」は専門資格(国家資格キャリアコンサルタント)を持ったカウンセラーが若手社員からの相談に乗りながら、同時に、彼/彼女ら自身がキャリアビジョンを描くお手伝いをしていきます。「キャリア相談室」は、若手社員が所属する事業部や人事評価を管理する人事部門とは異なるラインにあるので、上司に内緒でキャリアについて相談できる“駆け込み寺”のようなイメージですね。20代、30代の若手社員に対して、ひとり約60分をかけて、キャリアについての面談を行っていきます。
「キャリアデザイン研修」は、強み診断ツール(ストレングスファインダー®)を導入し、診断結果をもとにグループで話し合いながら強み・弱みを整理し、強みを活かす行動計画を立てるというワークショップです。


そして、もうひとつ、「管理職層に向けた部下育成支援」です。
マネージャーは部下に対して目標管理のサポートは出来ていましたが、キャリア開発までは十分サポートできているとはいえませんでした。そこで全社員に対して管理職の日頃の振舞いについてアンケートを実施して、日頃の振る舞いについて部下からのリアルな声をフィードバックしました。これにより、マネージャー自身が気づいていないコミュニケーションの課題を発見してもらおうと考えました。あわせて、キャリア面談に寄せられたリアルな事例をもとに、マネージャーと部下の対人関係の質を向上させるための研修も行いました。

こういった取り組みの目的は「定着率の向上」です。弊社の在籍社員の平均年齢は34歳なので、コア層は20代~30代。年間60~80名を人材会社の紹介を受けて採用しています。そうして採用した人材が1、2年の内に辞めてしまったら、会社としては大きな損失ですよね。何より、将来に対して漠然とした不安を抱いたまま転職を繰り返すことは彼/彼女らにとっても不幸です。ですからこれらの取り組みを通して、定着率を図っていきたい。

若手社員にとっても、マネージャー層にとっても、この「キャリア相談室」はとても心強い存在になりそうですね。ちなみに、何名くらいの方で運営されているんですか?

今は2人で回しています。

2人で!

昨年(2018年度)は1人でやっていました。でも、これは自分の天職だと思ってやっていることなので(笑)。

いやあ、素晴らしいですね。ちなみに、「キャリア相談室」では、定着率について具体的な目標などは設けているんですか?

昨年(2018年)は、ターゲットを在籍期間2年未満の20代社員とし、その内の64%の社員にキャリア面談を実施していくことを目標としました。この64%という数値目標ですが、「キャリア相談室」を開設する前に、36人の若手社員にヒアリングをしているんですね。そして、その36人の内、悩みを抱えている人のパーセンテージが64%だったので、それに依拠しています。

目標は達成されたんですか?

はい。達成率としては、150%を超えています

それはすごいですね!2018年度は、まず20代に絞って取り組まれたということでしたが、今後は、30代にまで広げていくというお考えもあるんですか?

はい。まさにこの2019年度から、30代社員も対象にして実施し始めているところです。

会社と自分自身の時間軸を意識して、キャリアビジョンを描く

上司の方の反応はいかがでしょうか? 相談室で、部下がどんなことを相談しているのかな、なんて気になる方もいるんじゃないかと思いますが(笑)。

そうですね(笑)。上司の方も気になったりするようで、時々、相談室での様子を聞いてきたりするのですが、守秘義務があるので決して漏らしません。ただ、相談者本人の同意の上、開示するケースはあります

開示のパターンには2つあって、ひとつは「現場で非常に困っているケース」。上司と合わないといったようなことも含めて。もうひとつは「やりたいことが明確にあって、その想いが非常に強いケース」です。特に2番目のケースでは、その想いを上司とうまく共有していければ、部下のキャリア形成の幅を大きく広げていくきっかけにもなるんですよね。

なるほど、そこを仲介していくんですね。

この業界の特性上、上司が部下を他の顧客先へ異動させたいと思っても、あるいは、本人が他のところへ異動したいと願っても、お客様のご都合もあるので、それがすぐに叶うとは限らないんです。ですので、1年、2年かけてでも、上司・部下で合意形成を図りながら、今の環境の中、制限の枠を拡げていきながら、「できること」「やりたいこと」を育てていく方が生産的だったりするんですね。そして、それをフォローするような動きも組織的に行うようにしています。

ちなみに、通常の会社ですと、上司との評価面談などもあると思うのですが、そういった上司との面談と、「キャリア相談室」での面談で、役割上、切り分けていることはあるのでしょうか?

役割はそれぞれ切り分けていますが、ただ、連携していくことにも意識を注いでいます

「管理職面談」の役割というのは、部下の単年度の目標設定、プロジェクトにおける役割の明確化、部下との育成計画の擦り合わせ等がメインになってくると思います。

一方で、「キャリア相談室」の役割は、社員のキャリアの、“その先”を見ることですね。上司は役割上、プロジェクトの予算を達成する責任があるので、どうしても直近のプロジェクトのメリットを重要視します。しかし、もっと先の未来を見据えて、その未来のために「いま何をすべきか」「いま何を身につけるべきか」を、「キャリア相談室」で考えていく

そして、「管理職面談」と「キャリア相談室」、その2つから導き出された方針を繋ぎ合わせて、会社としてローテーション計画や育成計画を作っていく。そういったイメージです。

プロジェクトの中で上司が部下に辿ってほしいと思っている成長ビジョンと、部下が未来を見据えて自分で達成したいと思っている成長ビジョン。その2つのマッチングが必要ということですね。

はい、そこがまさに課題なんです。だからこそ、今年からは、若手社員だけでなく、管理職のキャリア研修にも取り組み始めています

管理職への研修こそ、専門の人事的知識がないと難しそうな印象を受けるのですが、やはり外部の専門家を入れて行っているんですか?

外部に任せているものも一部ありますが、原則、内部で回しています。今はもう独立していますが、もともと、大手企業を中心に教育コンサルを行っていた者が私の上司だったんですね。その方を中心に、2013年から「事業戦略に則った包括的な教育計画づくり」への取り組みが始まりました。

事業戦略に則った教育、ですか。

はい。教育をするといっても、会社の目指している方向に沿った教育でなければ、アンマッチな人材が育っていってしまいますし、教育コストも無駄になってしまいますよね。そもそも、部やプロジェクト、そして、それぞれの社員の目標などは、すべて事業戦略から落とし込んで作られていくわけですので、教育も同様に事業戦略に則ったものでなくてはなりません

なるほど、おっしゃる通りですね。

そういった教育を通して、単年度、3年後、5年後と、会社と自分自身の時間軸を意識したキャリアビジョンを、社員一人ひとりに描いていってもらう。そんな教育の仕組みのひとつとしてあるのが、「キャリア相談室」なんですね。

“卒業”も、多様な選択肢の内のひとつ

「キャリア相談室」がうまく機能していけばしていくほど、自社でのキャリアが見えづらくなる、なんてことはありますか? 会社の目的としては定着率を高めることだと思いますが、社員のキャリア面での夢や目指すべき幸せのかたちが、必ずしも会社に定着することではないかもしれない─。もし、そのような事態が生じてしまったときには、どのように対処しておられるんですか?

そうですよね。とても難しくて、大切なところだと思います。そのような事態が生じた時は、私としては、あくまでも「中立」を貫くようにしています

まず、相談してきた社員と一緒に、彼/彼女の「やりたいこと・大事なものは何なのか」を整理していきます。それを明確にした上で、会社として、その社員に「やりたいこと」を提供できるのか否かを検討していきます。場合によっては新たな仕事やポジションを作ることも。もし提供できないならば、そこは“卒業”というかたちで、気持ち良く背中を押してあげる。会社にとっても、違う方向を向いている人が、自分を押し殺して社内にとどまっているという事態は、不幸なことだと思いますから。

なるほど。無理に引き止めるのは、お互いにとって、あまり幸せなことじゃないですよね。

そうなんです。なので、最大限、希望を叶えるようには配慮したいとは思っていますが、強いて離職を押しとどまらせるようなことはしません。多様な選択肢を認めていくということは、これからのSI業界にとっても必要なことだと思いますし

「業界を変えていきたい」という、御社の理念にも通じることですね。

はい。実際に卒業した社員とプロジェクトチームを組んでそのまま、仕事を続けていたり、プロジェクトが終わってからも、転職先の会社と当社で契約を結び、新たな取組みが始まったというケースというケースもあるんです。また、一度他社へ転職したあと、ふたたび戻ってくるケースもあります。“卒業”しても、一緒に仕事ができる。ただステージが変わっただけ。そんなふうに、会社としては捉えています

“卒業”という表現が、多様性を認めてくれているみたいにポジティブに響いて、すごく素敵ですね。

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今回協力して下さった企業様

株式会社エーピーコミュニケーションズ

設立
1995年
本社所在地
東京都千代田区鍛冶町
事業内容
・Webサービス、企画開発、自社サービス展開、事業化
・コンサルティングSI、自社製品開発・保守(元請案件9割以上)
・サーバ・ネットワーク設計・構築・運用・保守
従業員数
369名(2018年12月現在)
Webサイト
https://www.ap-com.co.jp/

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