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リクルートの働き方改革事例(前編)

エビデンスベースでの課題の可視化が、最初の一歩

投稿日:2019-03-15  最終更新日:2019-03-19  取材日:2019-01-10

株式会社リクルートホールディングスが取り組んだ事

  • エビデンスをベースに課題を可視化
  • 定量的・科学的な検証から、次世代のオフィスを構想
  • ジョブ・アサインメントモデルの設定によるマネジャー教育
  • 会社規模

    40,000人

  • 業種

    サービス業

  • 対象職種

    全社員

人材事業を中心に、住宅事業やブライダル、進学、飲食、美容等に関わる販促領域サービスなど、生活のあらゆるシーンに、幅広く情報やサービスを提供しているリクルート。

今回は、そのような日本を牽引するリクルートの働き方改革について、お届けしていきたいと思います。定量的なエビデンスを積み重ねながら、人間心理への洞察も怠らない。リクルートの最先端の取り組みは、私たちに大きな気づきを与えてくれます。

今回お話を伺った、リクルートホールディングスの野口孝広執行役員

まずはエビデンスをベースに課題を可視化

早速ですが、御社の働き方改革に関する取り組みについて、お話を伺えますか?

はい。近年の取り組みで言いますと、本社40階のレイアウト変更を大規模に実施しました。2018年4月時点と比べると現在のオフィス環境はかなり変化しています。おしゃれデザイン先行のレイアウトには、もともと違和感がありましたので、オフィスの課題についてエビデンスベースで証明してから、しっかりと機能設計していきたいと考えました。
また、「フリーアドレスにしたらイノベーションが起こるのか?」の問いに対しては、なにも起こらない、というのが正直なところです。

確かに、そうかもしれませんね。

フリーアドレスの直接的な効能というのは、イノベーションではなく、あくまでもテレワークが進んだ結果として座席数が減ることによる「面積削減と賃料削減」なんですね。そのことを前提とした上で、まずは床の使い方における無駄を可視化することから始めました

どのようにして可視化していったんですか?

センサーを使ってオフィス内の人数を3週間測定し、在席人数に必要な座席数を調べたんです。その結果、7割程度の座席数で十分だと判明しました。座席数稼働率については、センサーをIDカードと一緒に携帯してもらい、ビーコンによって社内にいるかいないかを判定する、といったやり方で測定していきました。

なるほど、そうやって数値的なエビデンスを集めていかれたんですね。

はい。同じように、会議室の無駄の可視化も進めていきました。現在借りているビルの築年数は10年程度なのですが、会議室のフォーマットは竣工当時のままで更新されておらず、利用人数に対して広すぎる部屋が多いという声も多く寄せられていたんですね。そこで、圧着センサーを作り座布団の裏に設置して、稼働率の実態を調べてみました

座布団の裏に設置したセンサー(左)と、試作したセンサー組み込み型の座布団(右)。

え? センサーを自社で作ったんですか?

はい。と言っても、原理としては、ごくごく簡単なものですよ。座ると電気信号が出て、どれだけ座席に留まっていたかを計測できるといったもので、秋葉原で気軽に購入できるレベルのセンサーです。

とはいえ、すごいですね。

いえいえ。そして、その測定結果ですが、会議室が満員で利用されるケースはほとんど見られず、4人以下で使用されるケースが85%にも上るというものでした。40階には12人用の会議室が3室あったのですが、この結果が得られたことで、6人用や4人用の小規模会議室を増やすべきだと見通しがつきました。加えてそもそも、秘匿性が低い会議や簡単な打ち合わせレベルのものは、オープンスペースでのミーティングも推奨していきました。

課題の可視化へのアプローチを、他部門に横展開

このように、センサーによる測定を通して、執務スペースと会議室のフロア面積のうち、ざっくり約30%分を遊休させていると認識するに至ったわけですが、40階の30%だけをビルオーナーに返却するなんてことは、現実にはできませんよね。

はい、そうですね。

それに、コスト削減ばかりを追求して過度にスペースを縮小させていくことは、従業員の快適性を棄損する可能性も高い。であれば、余るであろう30%を、別の機能スペースとしてリニューアルすることにしました。

つまり、
(1)無駄を省く
(2)生まれたスペースを再活用する

という順番で進めていこう、ということです。

ちゃんと客観的に計測することで初めて明確に把握できた、ファシリティの中のデッドスペースや使われていない機能の数々。それらを効率化し、改めて価値付けしていく余地は非常に大きいと感じました。

しっかりとしたエビデンスの裏付けがあるから確信を持って進めていける、ということですね。

そうですね。でも、40階の経営スタッフ部門におけるオフィススペースの無駄が定量化できたとはいえ、他の職種にもあてはまるかというとそれは違う。ですので、今後も同じような定量化の手法を他の部門にも展開し、それぞれにエビデンスを獲得していくことで、部門ごとにすべきことを明確化していこうと考えています。

職種は何種類あるんですか?

職種は、大別して「企画スタッフ」「エンジニア」「営業」の3種です。2019年2月より営業とエンジニアの業務スペースでも、同じように計測を始める予定でいます。

もっとも、エンジニアやデータサイエンティストは、チーム単位で、一定の場所でタスク進捗やスキル、ノウハウの交換などをした方が効率的で学びも多いと考えています。テレワーク時の通信環境の問題などもあり、テレワークに向かない側面も多いです。

なるほど。

また、テレワークは、仕事の段取りやタイムマネジメントを自律的に効率的に行っていけるスキルを獲得しているかが大前提になります。例えば、入社間もない若手にテレワークをさせても、段取りをうまくつけられず、大抵はパフォーマンスを低下させることになるでしょう。なので、そういったことがないように、能力や経験に応じてリモートワークを許可する形にするのが良いかなと、今の段階では考えています。

マネジャーが意識すべき「ジョブ・アサインメントモデル」

職歴の浅い社員の自律性についてのお話が出ましたが、それに対しては、何か働きかけをされているんですか?

タイムマネジメントが苦手な若手の従業員に、どのようなスキルを優先的に習得させるべきか。そのことは、しっかりと考えておかなければならないと思っています。

ですが、そもそも、個人の自律性に委ねて済む話でもない、という側面もあるんです。例えばフランスでは、3日以上続けてテレワークをすると生産性が落ちるという研究結果もあります。これをどう見るか。つまり、「1つの施策を極端に推進していくと、必ず何らかの副作用ある」ということ。そのことを、まず理解しておく必要があります。

なるほど。リモートワークを行う当事者だけの問題ではない、ということですね。

そうですね。ここで「マネジメント」という話が出てくるわけですが、総じて言うと、マネジメントの課題は、上司と部下の関係構築をどうするかに尽きるんですね。特にジョブ・アサインメントというテーマは重要です。

部下への職務の割り当て、ということでしょうか?

一般的にはそう理解されていて、それで決して間違いではないのですが、私たちは、「組織として達成すべき目標を踏まえ、部下に行わせる職務を具体化したうえで割り振り、その職務を達成するまで支援すること」と、もっと広い概念として定義しています。つまり、職務の割り当てだけでなく、その前後のプロセスも含めた一連の流れの中で、マネジャーが取るべき行動をモデル化したもの、ということですね。

一連の流れ、ですか。

はい。つまり、「目標設計」、「職務設計」から始まり、一般的に言うところのアサインメント(「人選」、「職務委任」)を経て、最終的に「仕上げ」や「検証」までの道筋を立てていくことが「マネジメント行為」ですよ、ということです。

このジョブ・アサインメントについては、リクルートワークス研究所が1,200人規模の調査を通して得た研究成果があります。その中から、特に、人材育成と業績に寄与するマネジャーの重要なスキルを抜き出してお伝えすると、次のようなものがあります。

ディスクローズ(アウトプットを積極的に社内外に公開し、アピールする)

期待値調整(上部組織から課されたミッションであっても、そのまま鵜呑みにせずに、それを自身のチームにふさわしい目標へと修正していけるように交渉・調整する)

加筆修正(アウトプットに対して、ひと手間加えて受け取り手からの価値が高くなるようにする)

手挙げ誘導(プロジェクトや仕事を、メンバーが自らで獲得したかのように誘導する)

リアルタイムフィードバック(後々になってちゃぶ台返しをするのではなく、良いのか、それとも軌道修正をするべきかの評価を、逐一、ポジティブに部下に伝えていく)




人材育成の業績の高いマネジャーと低いマネジャーで一番差があるポイントが、実はこれらの項目なんです。

なるほど。これらは、旧来型のマネジメントではあまり重視させていなかったところかもしれませんね。

リモートワークの導入によって自らのマネジメントスキル不足が明らかになる人もいるかもしれないとも思いますね。もちろん、マネジャーだけに全ての責任があるわけではないのですが。

大切なのは「無駄の削減」ではなく、「削減したリソースで何をするか」

今、マネジャーが抱く“恐れ”についてのお話がありましたが、テレワーク制度やフレキシブルワークが進められていくことに対して、「やっぱり、オフィスに集まって仕事をした方がいいんじゃないか」といったような揺り戻しはないんですか?

「社員の自律的な行動を促すような働き方の実現を目指していこう」というベクトルは、変わらず前を向き続けています。先ほどエンジニアにはリモートワークに向かない側面があるというお話をしましたが、それは、一律的な施策の問題点を明らかにしたまでのことであって、その施策によって次に取り組むべき課題が見えてきたということです。揺り戻しのように見えることも、実は、改善に向かう流れの中での必要な一過程。その際に大切になってくるのが、「定量的に計測して、数値化すること」です。

確かにこういった例はあるものの、それでも、厳密にデータアプローチの手法を実践し、効果を数値的に把握している企業様は、あまり多くないように感じています。実際、我々が企業調査を行った際の回答でよく目にするのが、「働き方改革に取り組んでみたが、効果があったかどうかわからない」というものでして。

目的や成果の仮説を定量化できないまま取り組むからそうなるんだと思います。我々は、「効率化」を「第一の目的(ファーストステップ)」とし、そして、BPR(※)等によって「削減できた時間をどのように使いどんな成果を出すか」を「付加価値」と考えています。時間の削減のような効率化はそれほど難しいことではないですが、得られたリソースを何に使うかがすごく難しい。付加価値を定量化できるのか?が今後の課題です。

BPRとは:「ビジネスプロセス・リエンジニアリング(Business Process Re-engineering)」の略。ビジネスの目標を達成するために、業務プロセスや内容を根本的に見直し、組織構造やルールなども含めて、改めて設計し直す(リエンジニアリングする)こと。

でも、この定量化への取り組みは、グループ会社や各事業部に対して一律的・固定的な指示を与えたり、管理・コントロールしたりするために行っているのでは、決してありません。あくまでも、グループ会社や各事業部は自律的な存在です。「働き方を改善していきたいんだけど、どうもうまくいかないな」と悩んでいる部署に対して、「こういう風にやると上手くいくかもしれませんよ」と、“テンプレート”を共有することはありますが、それ以上に干渉することはありません

先ほどおっしゃっていた、「手挙げ」を誘う、という。

そうです、そうです。だから、一番大切なのは、小さい実験を繰り返して、それらから得られた成功事例をスピード感もって共有することなんです。これは極めてリクルート的なエンジンの回し方で、働き方改革への取り組みに限らず、グループ内で仕事の表彰を盛んに行っていくという「風土」にも通じていますね。

お話を伺っていて、取り組みのプロセスの中に、すごく骨太な背骨が、ぴんと1本通っているように感じました。


働き方変革施策の手順と効能の関係。

結局、オフィス改革も働き方の見直しも、全ての施策には同じメカニズムが適用され得ると思っています。

1. 可視化
2. 置き換え・集約・削減
3. 時間短縮
4. 時間創出
5. ライフ充実(ES向上)&付加価値業務(業績向上)


この5つのステップですね。この手順で実施することに尽きる。この手順に乗らないものは、やるべきではないと考えています。

この事例と同じシリーズの事例

今回協力して下さった企業様

株式会社リクルートホールディングス

設立
1963 年
本社所在地
東京都千代田区丸の内(登記上本社:東京都中央区銀座)
事業内容
メディア&ソリューション事業
従業員数
609名(2018年3月31日現在) グループ従業員数 40,152名(2018年3月31日現在)
Webサイト
https://www.recruit.co.jp/

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