建設現場で使われる仮設機材(足場)の開発から販売、施工まで手掛ける株式会社タカミヤ(本社:大阪府大阪市)。全国に20箇所ある支店・営業所のひとつ、名古屋支店では2022年3月、移転をきっかけに大胆なオフィス改革と働き方改革を実行しました。
オフィス条件の悪さが採用のマイナス要因に
まずはじめに、移転のきっかけから教えていただけますか。
(坂本) 以前は自社ビルに入居していたんですが、民家と田んぼに囲まれたオフィス街とは言いがたい立地で、最寄り駅から徒歩10~15分、名古屋駅からはさらに遠い場所にいました。また、自社ビルなので、他社のワーカーと関わる機会がなく閉鎖的な雰囲気なのも気になっていました。
(久保) そのような立地の悪さもあって、採用にも苦労していたんです。当時は、内定辞退者が珍しくない程でしたから。
実際に移転するまでどれくらい時間がかかりましたか?
(坂本) 良い物件があれば常に移転したいと思っていましたが、実際に希望に叶う物件が出てきてから、コンセプトの整理やオフィスメーカーとの調整、設計コンペ、現場への発信という流れを経て約10ヶ月ほどかかりました。
移転先は「ノリタケの森プロジェクト」の敷地内ですから、かなり利便性の良い場所ですよね。
(久保) ええ。最寄り駅から徒歩5~6分、名古屋駅も徒歩圏内ですから、立地には満足しています。オフィス街というわけではありませんが「ノリタケの森」は知名度がありますし、私たちが入居するイオンモール(※)が新装オープンしたこともお客さん達がよく知っているので、そこに移転したと言うと、すぐに場所を分かってくれますね。
※タカミヤが移転したBIZrium(ビズリウム)名古屋は、オフィスやイオンモールから成る大型複合施設として2021年に開業。隣には観光スポットとして有名な「ノリタケの森」があり、名古屋駅からのアクセスも良い利便性の高いエリア。
移転と同時に働き方改革を同時に進めたそうですが、それまでどんな働き方の課題があったのでしょうか?
(久保) 昔から全員がフル出勤するスタイルが続いていて、コロナ禍になってもリモートワークに切り変えることができませんでした。
取引先から電話を受けて受注するスタイルだったので、会社に来て固定電話を受けなければならなかったんです。営業マンも、書類があるからリモートワークは無理だという固定観念から抜けきることができませんでした。
会社の仕組み的にリモートワークが難しかった、と。
(久保) そうですね。先ほど、採用に苦労したと話しましたが、コロナ禍、中途面接で「リモートワークできますか?」とよく聞かれましたが「取り組んでいない」と話すと、その時点で蹴られてしまうんです。変えたい気持ちはありましたが、支店単位で取り組める問題でもなかったので、今回の移転をきっかけに本格的にリモートワークに取り組むことにしました。
今はどれ位の方がリモートワークしていますか?
(久保) 約6割の社員がリモートワークを続けていて、オフィスのオープンスペースに誰もいない日があるくらいです。
大阪本社ではなく名古屋支店が先陣を切ってリモートに移行したのには、なにか理由があるんでしょうか?
(久保) 名古屋支店からというのは社長が決めましたが、会社の中で私の印象というのが“古臭い人間”という印象らしいんですよ(笑)。私が管轄する名古屋支店が変えられれば他の支店も変えられるでしょ!という感覚だったんじゃないかな?
他の支店長も冗談交じりに笑ってましたよ。「絶対無理や」とか「お前には無理や」とか。でもね、我らができるなら彼らも変わるはずですし、実際、変わらざるを得ない状況になってきたと思います。
働き方改革に取り組む中で、どんな時に難しさを感じますか?
(久保) 営業マンのペーパーレス化については、私が名古屋支店に赴任した4年前から取り組んでいて、データでのやり取りや電子印鑑が浸透していたのでほぼ問題ありませんでした。ただ、設計図面をモニターで見るのは、今も苦労している社員も多く、
出社したついでに出力したり、コンビニのプリンタから印刷したりと各々工夫を凝らしています。
大きな課題だった受注電話のリモート化はどうですか?
(久保) 受注電話を個人の携帯に転送するシステムは、移転初日からいっきに切り替わったので、移転前に予行練習が何もできなかったのが反省点ですね。多くの企業が悩んでいる事だと思いますが、出社している人間に多く仕事が割り振られていないか等、不公平が生じないためにそこをどうフォローするかが課題です。
何か対策は?
(久保) 解決策の一つとして、バーチャルオフィスのoVice(オヴィス)を導入して、コミュニケーションをとるようにしています。oVice(オヴィス)に全員がログインして常時マイクを繋いでいれば、リアルオフィスと同じように他人の声が聞こえるので、臨場感を持ちながら仕事ができます。音声を通じて相手の状況が何となくわかるので話しかけやすいんですよ。
他拠点の社員にも進めていて、既に2つの部署が導入してリモートワークに取り組む流れが生まれています。
※ oVice(オヴィス)について、詳細はこちら。
今回、フレックス制度も導入したそうですね。
(久保) はい。11時~20時の時間帯で働いている社員が1人います。まだ試験段階なので2~4週間の期間限定ですが、1人がやることによって他の社員も手を上げてくれたらいいなと思います。
移転前と比べて、かなり働き方の柔軟度が上がったのでは?
(久保) そうですね。社長を筆頭に、働き方を自由に選択することを会社側が提唱しているので、その流れに自然に乗れているんだと思います。働き方が柔軟になるのにつれて、メンバーたちが私の指示でなく自発的に動いたり意見を出したりするケースが増えたように感じます。
今後は名古屋支店のような働き方を全社に広げていく予定ですか?
(坂本) はい。働き方改革とオフィス改革をセットにして全拠点に広めていくつもりです。他の支店も物件が見つかり次第取り掛かって、最終的には大阪本社や東京もガッツリ変えていきたいと思っています。
目指す働き方の基本方針はトップダウンで進めながらも、拠点ごとに違う課題を抱えているので、うまく現場の課題解決を絡めながらフィットさせていきたいですね。
8割をオープンオフィスに変える、大胆なオフィス改革
次に、新しいオフィスについてお伺いします。8割がオープンスペースとのことですが、座席の運用ルールなどはありますか?
(久保) フリーアドレスですが座席の予約システムやルールはなく、来た人から早い者勝ちです。今は全従業員30名に対して、倉庫を含め約100坪借りています。全員出勤する日もありますが、2~3人しか出社しない日もあるのでかなりゆったり使っています。
フリーアドレスにしても席が固定化してしまう企業も多いようです。御社では実際いかがでしょうか?
(久保) たしかに他の支店ではそういうケースもありましたが、名古屋支店では今のところ固定化せず上手く運用できています。机のレイアウトや空間設計を工夫して固定化しづらい設えになっていると思いますね。
椅子がいわゆる”オフィスチェア”ではないので、午前中そこに座ってみてイマイチだな、と思えば、午後からは席を変えたりしています。執務スペースといって作業に集中するエリアもありますが、そこでさえ前日と同じ席に連続して座る社員はいませんね。
気分転換を兼ねて席を移動できる、と。
(久保) 仕事によって場所を変えたりもします。例えば、今みたいにZoomを使う時、誰もいない“ダイニング”という場所に移動したり、さらに他の人もZoomしたい、となったらテレワークブースを使ったりできます。
会議室がないようですが、来客対応はどうしていますか?
(久保) 稀にビルの中にある貸会議室を借りることがありますが、ほとんどはオープンスペースで対応しています。ここは来客者に対して「名古屋支店はこんなふうに変わったんですよ!」とアピールできる場でもありますから。
来客者や他拠点の社員の方の反応はどうでしたか?
(久保) これまでとギャップが大きすぎて、皆さんびっくりしてますよ(笑)。
バーカウンターのような席もありますね。
(坂本) カウンター席はコミュニケーションをとる場にもなっています。最近は飲み会に出たがらない若者が多いといいますが、仕事終わりにここでちょっと一杯飲むくらいなら抵抗なく参加してくれます。
(久保) ちょうど感染者数が落ち着いていた時期にここで新入社員の歓迎会を開いたんですよ。
以前はオフィスがネックで新卒採用に苦労したと伺いましたが、このようなオフィスなら学生にもかなり好印象でしょうね。
移転プロジェクトの中で、反省点を挙げるとすれば?
(坂本) 働き方改革もオフィス改革もトップダウンでやってきましたが、情報をもっと早く現場におろせばよかったと思っています。そうすれば、準備段階で現場のアイデアや工夫がもっと出てきたかもしれない。現場からアイデアを集めたり、スケジュール感の共有、情報提供がちょっと足りなかったかなと感じています。
支店長の久保さんはいかがですか?
(久保) 少し後悔しているのは、事前に名古屋支店メンバーへの意見聴取があまりできなかったこと。本来ならば、移転や働き方改革にあたって支店内でプロジェクトチームを立ち上げたかったのですが、各々自分の業務が忙しい中で相談して良いのか躊躇してしまって…。いま思えば、そういう事を気にせず断行しても良かったんじゃないかと感じます。
自律自走しながらも高い生産性を出せる職場にしたい
本格的な働き方改革のスタートから約半年経ちますが、現在の課題をあげるとすれば?
(坂本) マネジメントスタイルの変換が、まだ道半ばかなと思います。当社は2019年4月に人事制度を目標管理へシフトしましたが、まだまだ社員の行動管理・評価から脱却しきれていません。さらにマネジメント層もプレイングマネジャーがほとんどです。そんな中、いかにリモートでも部下とコミュニケーションを取り、定量的な情報に基づきマネジメントしていくか。いかに働きやすさと生産性・成果を両立させていていくのか、という点を強化しないといけません。
久保さんはいかがですか?
(久保) リモートでの労務管理に難しさを感じます。私もそうですが、家でリモートワークして仕事がノってくると気づいたら遅い時間になっていた、なんてことがあります。つい “走りすぎちゃう”日があるんですよね。特に管理職は残業申請しないので、夜遅くまで働きすぎないように、かつ、管理”される”側が嫌な気分にならないようにどう労務管理するのか。これからの課題だと思います。
これから働き方改革に取り組む企業様に一言お願いします。
(久保) 働き方改革を全社いっせいにやるのは難しくても、支店単位、部署単位でなら今から始められる事がありますし、改革が始まることを念頭に準備しておけば、いざやろうという時にすぐに変化に対応できるはず。特に、若い社員はそういう動きに敏感に反応しますから、会社が良い方向に変わることに対して希望を持って働いてくれるようになると思います。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
(坂本) 将来的には、会社側が働き方の選択肢を豊富に用意して、社員自身の意志でそれらを選べるような制度設計にしていきたいです。例えば、もっと稼ぎたい人は稼げるようにとか、働く時間帯や休みを自由に選べるとか。
一人一人が自分の望む働き方をしながら成果もあげていけるような、自律自走しながら高い生産性を出せる職場にしていきたいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
今回協力して下さった企業様
株式会社タカミヤ
- 設立
- 1969年6月21日
- 本社所在地
- 大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪 タワーB27階
- 事業内容
- 仮設機材の開発、製造、販売及びレンタル、仮設工事の計画、設計、施工、管理、物流
- 従業員数
- 760名(連結従業員数:1,268名)
- Webサイト
- https://www.takamiya.co/