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みんなでカラフルにアレンジしていく─、オフィスづくりのテーマは「共創」
これまでお話を伺って、御社のカルチャーとオフィスのあり方が、ちゃんと紐づいていることに感心しました。
ありがとうございます。カルチャーとオフィスデザインの紐づけを考える際、「共創」というテーマをとても大切にしています。
例えば、フロアの真ん中にある、社内BAR「AJITO(アジト)」。ここには楽器が置いてあるのですが、それも、社内のバンドサークルのメンバーから、「この場所に楽器を置いておきたい」という声を受けてのことなんです。
当初は楽器は倉庫にしまう想定だったのですが、意見交換をして、常設することにしました。
みんなで話し合って、コンセンサスが取れたら、デザインや機能をフレキシブルに足していく。仲間たちと一緒になって空間を創っていく。自分たちで創った空間ならば、自然、愛着は湧いてくるものです。
その通りだと思います! ところでオフィスに関するニーズは、移転のタイミングなら聴き取りやすいとは思いますが、それ以降はどのように集めているのでしょう?
移転後は、総務チームの面々が、随時、声の拾い上げを行なっています。あえてヒアリングして回る、というのではなく、自然と声が集まってくるという感じですね。
自然と、ですか。それは、すごいですね! 御社のカルチャーそのままに、オフィス空間も、みんなで育てているんですね。
そうですね。オフィス空間も、自律的な生き物のように、日々変容していきます。移転した初日が一番整っていた姿をしていましたが、そこからみんなで実際に使っていくことで、どんどんと“味わい”のようなものが加わっていき、オフィスがアレンジされていきました。そういうのが、とてもVOYAGE的だなって思うんです。
素敵ですね。上がってきた声を採用するかどうかは、一般的に、必要・不必要で判断されるケースが多いと思うのですが、お話を伺っていると、御社の場合は、さらに他の判断軸があるように感じました。
そうですね。「生産性」に結びつくかどうかは、大切にしていますね。新オフィスの設計を考えるにあたって、シリコンバレーに行ってきたんですよ。
そして、AppleとGoogleのオフィスを見てきました。両者のオフィスのつくり方って、真逆なんですねよ。広くて贅沢なのは共通なんですけど。
真逆、というのは?
デザインの会社であるAppleのオフィスは、すべてが美しい。あらゆるオフィス什器に徹底したこだわりを感じます。例えば、Apple社員が、「ゴミ箱がほしい」というニーズを伝えたとすると、会社が自社の世界観にマッチしたウェルデザインのゴミ箱を用意してくる、と。
他にも、各フロアでの段差が1ミリもないとか、そんな具合に細部にまでこだわり抜いて、オフィス全体をデザインしている。
そういった美意識に価値を感じる人がAppleには集まっていて、だから、社員のモチベーションも高く保たれていくんです。
一方、Googleは極めてテックな会社なので、生産性を求めるんですよね。雑多だけれど、自由。
働きやすいカフェテリアがさほど離れていない場所にたくさんある、とか、ケーブルが床に無造作に走っていて雑然とした印象だけど、どこでも電源を確保できて、実は機能的、とか。オフィスで生じる無駄なアクションを徹底的に排除して、実務的なニーズを十分に叶えていく、という設計になっています。
なるほど。
シリコンバレーでそういった極端な両社を眺めてきて、VOYAGEとしては、真ん中を取りたいと思ったんです。いいとこ取り(笑)。
でも、実際に活動をしていくと、徐々にGoogle寄りになっていくんですよ。VOYAGEの社員の半分はエンジニアなので、どうしても生産性や効率性へのニーズに偏っていきます。
なるほど。事業の特性上、Googleに寄りたがる引力がどうしても優位に働くんですね。
はい。当社のカラーからして、そうなるであろうことは事前に分かっていたので、Appleのように完璧に整え切ったオフィスを目指すのではなく、使いながらみんなでカラフルにアレンジしていく、そんな自由度の高いオフィスをつくっていこうと、設計当初から話していました。
意思決定のプロセスは、“協調”と“決断”の繰り返し
今まで、新オフィスのレイアウトに御社のカルチャーをどう結びつけていったかをお聞きしてきましたが、次は、意思決定について伺います。オフィスというのは、ほぼ全ての社員に関わることですよね。プロジェクト推進にあたって、どのような意思決定のプロセスを辿ってこられたのか、教えていただけますか?
はい。まず社員の声を広く拾い集めて、意思決定に関わる裾野をがっと広げたんです。あとは、移転プロジェクトチームが、それらの声に対して極力誠実に応えていこうというスタンスで、実際のデザインに落としていきました。
そして、進捗や方向性、決定事項等の情報を定期的に公開していきました。何かを決定する前などには、あらかじめ情報共有を行って、社員からのフィードバックを受けるバッファを設ける、といったようなことにも努めてきました。
とはいえ、いつも社員からのフィードバックを集めて回るというのも、会社の規模感的に難しいことなので、スピード感を持って決めなければならないことは、私が、ぐっと覚悟を固めて決断していきました。
そして、移転日のラスト3ヶ月に入る頃になると、オフィスの実際の使い方や運用方法などが議題に上がってくるようになります。
こういった、ソフト面での話が出てきた段階で、また間口を広げて、多くの社員たちにも積極的に関わってもらうようにしました。
具体的に言うと、「新オフィスの運用ルールの策定」や「移転(引っ越し)作業の進め方」など、新たに論点ごとのプロジェクトチームを作っていく、といった感じですね。
そのプロジェクトチームのメンバーは、どうやって選んだんですか?
「移転(引っ越し)」チームに関しては、全社に関わることなので、各部署から満遍なくメンバーが集うように、会社側である程度、担当してほしい人を決めていきました。
「運用ルール策定」チームは、もっと自由に。より心地よく使っていけるオフィスのあり方について、意見や興味のある人に、手を挙げてもらい自主的に集まってもらいました。
仲間たちの笑顔が想像できるか─、それが、決断の根拠
今回の新オフィス移転プロジェクトで、これは大変だったな、ということがあったら、教えていただけますか?
そうですね。私も、オフィスの設計施工を統括して推進していくというのは初めての経験でしたので…どうなっていくのか全く先が見えないし、正解・不正解もわからない。
それでも決めることは決めていかなければなりません。
細かいことを含めるとものすごい数の決断をしてきました。その決断が、みんなの想いや期待に応えるものであったかどうか。
当たり前のことですが、予算も時間も限られています。そのような制限がある中でも、ちゃんとみんなに寄り添えているだろうか。設計・施工を進めていく全工程において、こういった葛藤は常にありましたね。
全ての期待には応えられないですもんね。そのように難しい選択を迫られる中、ご自身の中で何か判断の指針は持たれてのでしょうか?
そうですね、みんなが嬉しそうに移転後の写真をインスタにアップしていたり、新しいオフィスのことを誇らしげに語り合ったりしている姿を、よく想像していましたね。
複数の選択肢があったとして、どっちの路を選んだら、よりみんなが喜んでくれるかな、より多くの笑顔が見られるかな。そんなことを、頭に思い描きながら、一つひとつの決断と向き合っていくようにしました。
なるほど! 予算や課題など様々な制限があるオフィス移転ですが、その中でも人としてのウェットなところに心を寄せておられて…。とてもシンプルで、すてきな判断基準だと思いました。
コンサバティブにやってしまえば、無難で失敗も少なく、それなりなところで落ち着かせることも可能だとは思うのですが、その結果、人間味が希薄で、いまひとつ愛着を抱きにくいオフィスが出来上がってしまうとしたら…、それって、寂しいことですよね。
ですので、ただ表面的にかっこいいオフィスを作るということではないぞ、ということは、強く肝に命じてきました。
“場のデザインの力”を生かして、オフィス空間の機能をアレンジ
いよいよ、新オフィスの具体的な造作・デザインについて伺いたいと思うのですが、まずはフロア構成について教えていただけますか?
はい。フロア構成としては、15,16,17階の3フロアのうち、16,17階は執務エリアになっていて、従業員の固定席があります。
そしてこちらの15階が、受付や来客スペース。更には社に合BARやカフェなども含めたフリースペースになっています。
なるほど。まずは執務フロアについて伺いますが、そちらはどういった造りになっているんですか?
シンプルですよ。島型の配置で、パーテーションは一切なく、オープンでフラットな環境です。ミーティングルームは一方の壁側に並んで集まっています。
真ん中には、お菓子やドリンクでリフレッシュできる、コミュニケーションスペース「デッキ」があります。
執務フロアをフリーアドレスではなく固定席にしているのは、エンジニアが多く、ハイスペックなディスプレイ環境などがどうしても必要になってくるからです。
フリーアドレスにするという選択肢も当然検討はしましたが、やはり、エンジニアが求めるパソコンのスペックを実現させる方を優先させました。
次はエントランスのある15階のフロアについてお聞きします。様々な仕掛けが施されている印象ですが、社員のみなさんから特に評判の良いエリアはありますか?
「CAVE(ケイブ)」などは、人気が高いですね。その名の通り“洞窟”のように篭れる個室空間になっているので、集中して作業をしたいエンジニアやデザイナーの方々に特に好まれている印象です。
ロールカーテンで閉め切ることもできます。4〜6名は入れる造りになっているんですが、閉め切っちゃうと後からは入りにくくて。実際には1名で使われることが多く、そういう意味でも、とても贅沢な空間なんです(笑)。
個人で使うなら、ダウンサイズしたものを数多く造っても良かったのかなと、今にして思ったりしているのですが。実際の運用フェーズで気づかされることも、多いものですね。
そうですよね。とはいえ、集中に適した、とても素敵な空間だと思います。
集中を促すような“暗めで篭れる空間”は用意したいなと、当初から思っていました。特にデザイナーやエンジニアというのは、パソコン画面に映り込んだ反射が気になるんですよね。他社の最先端オフィスをいくつか調べてみても、映り込み防止のために、真っ暗な部屋を用意しているところもあるくらいでして。
とはいえ、部屋全体が暗いという空間は、当社では用意しにくかったので、こうして個室単位で暗がりのスペースを造っていこうというアプローチを選択しました。
あと、特徴的なのは、「クワイエット・ゾーン」を意識的に設けたこと。そのゾーン内にあるのが、「HILL(ヒル)」と「OASIS(オアシス)」、そして、先ほどお話した「BEACH(ビーチ)」です。私語を交わすことなく、心を落ち着けて仕事に集中したい。そんな時に使ってもらうための場所として設定しています。
それとは反対に、「LAGOON(ラグーン)」や「AJITO(アジト)」は、コミュニケーションやコラボレーションを目的にデザインされています。
その場に適するワークとそうでないワークの間に、自然と線引きが引かれる。それが、“場のデザインの力”だと思っています。
“語れる”オフィスには、実際的な効果がある
社員さんの評判も上々という印象ですね!
はい、おかげさまで。旧オフィスの頃から、もともと色のあるフロアデザインだったこともあり、移転前から、「当社のオフィスが好き」と、愛着を持ってくれる社員も多かったんです。
今回の移転では、その愛着を引き継ぎ、アップデートさせていくことが課題でしたが、ありがたいことに、それはしっかりとクリアできているかな、と。熱量を下げずに移転を済ませることができたな、と実感しています。
前のオフィスの愛着をアップデートさせるために、具体的には、どういったことをしていったんですか?
前のオフィスにあった象徴的なファシリティを、移転先で継承していきました。例えば、社内バー「AJITO」のサインですね。これは、旧オフィスの柱に設置されていたものを取り外して、スタンド型に作り直したものです。
こういったエピソードも、ウェットに「語れる」ことですよね。人と会社が紡いできた、時間と体温を感じる物語、というか。
社員が誇れるオフィスがあると、採用でも強いですよね。旧オフィスでもオフィスデザインにはこだわりを傾けていたので、当時から、良質なオフィスの存在が採用を後押しすることは、実感としてわかっていました。その頃の経験もあって、「会社の拠点となる場所は、心を込めて整えていこう」というのが、当社の遺伝子になっています。
採用の数値的なところにも、実際に効果が現れてきているんですか?
オフィスだけが要因とは言い切れないので断言はできませんが、印象としては、大きな効果があると思っています。
新卒採用での話ですが、実際に来社してオフィスを見てもらった学生の方が、見ていない学生よりも想いが高まり、通過率が上がっているというのも事実です。
就職活動中の学生の視点に立つと、こんなにおしゃれなオフィスで働ける自分を想像したら、モチベーションが上がるのも自然なことだなあ、なんて思います(笑)。
そう言って頂けると嬉しいです(笑)。あと、選考会の中で、オフィスを活用した「宝探し」をしてもらったりもしています。
オフィスを隅々まで見てもらいたい、ということで、色々な謎をフロア内に散りばめて、クエストしてもらうという催しです。
楽しい体験とともに、オフィスを強烈に印象付けられて、とても素敵な企画ですね。
ハード・ソフトの両面から、“ナナメのつながり”を生み出していく
社内バー「AJITO」も、ものすごい存在感を放っていますね(笑)。
はい。コンセプトは、「近未来的海賊の隠れ基地」です。秘密基地の中にいるような感覚で、お酒を楽しむことができます。食べ物は出してはいないのですが、ケータリングするなり、食材を買ってきてキッチンで調理するなり、使い方は自由です。
あと、先ほど話題に上っていた社員食堂ですが、まだ、自社で社員食堂を持つほどの規模ではないな、ということで、結局、作らないという結論に達しました。
その代わり、温かいヘルシーランチを提供してくれる、デリバリー型の社食サービスを導入することにしました。会社がランチ代の一部を負担しているので、300円からランチを楽しむことができます。
利用者はみんな「AJITO」や「LAGOON」で昼食をとりますので、お昼時には多くの人が集まり、色々な人と会えるんですね。部署の垣根を越えて、新しい“ナナメのつながり”を作っていけます。
移転前と後とで、実際に“ナナメのつながり”ができる機会は増えてきているという実感は?
はい、ありますね。空間的・物理的なものとして、オフィスがひとつになった、というのが、単純に大きいかったです。
エレベーターの中で他部署の人と頻繁に顔を合わせますし、少しフロアを歩くだけで色んな人とのコミュニケーションが生じますので。
ちなみに、その “ナナメのつながり”づくりについて、オフィスレイアウトといったハード面だけでなく、ソフト面で取り組んでいることはありますか?
そうですね。わかりやすいところでいうと、サークル活動があります。趣味でつながる、ということですね。
あとは、学びでつながる。
最近、社員の育成プログラムの充実化を図っていまして、その場も、“ナナメのつながり”を作る良い機会になっています。研修を受けて終わりでなくて、その後に飲み会を開いて、交流する時間も設けています。
ソフト面での仕掛けも合わせて、今後も、“ナナメのつながり” が生まれる仕掛けは生み出し続けていきたいと思っています。
“可変”を楽しみながら、「VOYAGE CULTURE」を創り続けていきたい
最後に、この会社とこのオフィスで、今後、叶えていきたい夢があったら、教えていただけますか?
そうですね。これからも、このオフィスがみんなに愛され続け、時とともに“味わい”を増していくような空間であれれば、と思っています。
今回、オフィスづくりに取り組んでみて思ったことなのですが、どんなに立派なオフィスをつくったところで、それが形だけのものなら、2、3年で飽きられてしまうんです。
なので、このオフィスは、あえて“可変”にしています。モジュール的に、「その場・その時に応じて、動かせる」ということですね。
なので、今のオフィスの形をベースとして、極端な話、数年後に、レイアウトや配置を大きく変えることもできちゃいます。そういうのを楽しみながら、社員みんなで、ずっと創り続けていけたら良いなと思っています。
会社は変わっていくし、オフィスも変わっていく。“不変(変わらないこと)”を目指すのではなく、“可変(変わっていくこと)”を楽しみながら、ワクワク、仕事に心を動かしていく。そんなカルチャーを育てていきたいですね。
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VOYAGE GROUPの働き方改革事例(前編)
ひとつのオフィスがつながりを育み、つながりがカルチャーを創る
- 「創業時からの想い(SOUL)」や「大切にする価値観(CREED)」を明示し、社員みんなで企業文化(カルチャー)を育成
- 拠点統合で物理的な距離感を取り除き、“ナナメのつながり”づくりを促進
- 価値観とオフィスレイアウトを紐づける、「Cultured ABW」を実践
今回協力して下さった企業様
株式会社VOYAGE GROUP
- 設立
- 2018年10月
- 本社所在地
- 東京都渋谷区道玄坂
- 事業内容
- アドプラットフォーム事業
ポイントメディア事業
インキュベーション事業 - 従業員数
- 336人(2018年9月末時点)
- Webサイト
- https://voyagegroup.com