累計販売数1000万本超のメイク落とし「マナラホットクレンジングゲル」が人気の化粧品通販会社、株式会社ランクアップ。2005年の創業以来、右肩上がりの成長を続けながらも残業はほぼなし、ほとんどの社員が17時に退社するというから驚きです。今でこそ働きやすい職場環境のおかげで沢山の育児中のママ社員が活躍している同社ですが、社長は離職率100%ブラック企業の取締役出身、社内に暗い雰囲気が流れ続けた「暗黒時代」など、試練もあったといいます。試行錯誤の末にたどり着いた、女性が長く働き続けられる会社になるまでの道のりを広報部・近藤良美様に伺いました。
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社員の9割が女性、残業なしでも売上高100億円超の優良企業へ
子育て中のママ社員が活躍できる会社として知られていますが、一連の取り組みを始めたきっかけから教えていただけますか。
もともとは社長の前職での苦い経験がきっかけになっています。
社長の岩崎は起業する前、広告代理店の取締役営業本部長としてバリバリ働いていました。当時は終電まで働いて売り上げを出すのが当たり前だったので、せっかく育てた社員が疲弊して次々と退職していたそうです。社員が使い捨てのように出たり入ったりする、言ってみれば離職率100%のブラックな状態でした。当然、女性社員は出産してからも働き続けられるイメージなんて持てるはずもありません。岩崎は当時の経営者に改善要求しましたが受け入れてもらえず、脱サラして株式会社ランクアップを起業することになりました。
前職時代に痛感した「経営者が変わらないと会社が変わらない。自分は、長時間勤務をしなくていい会社、女性が長く働き続けられる会社をつくる!」という思いが、いまの当社の働き方に反映されているんです。
しかし、広告代理店業から化粧品事業とはずいぶん畑違いな業界に飛び込みましたね。
起業する前の社長は、前職の疲労とストレスで老けて見られるのがコンプレックスだったそうです。高級化粧品を数多く試しても効果を感じられず、肌の研究を進めるうちにメイク落としの重要性に気づき、自分の肌を変えたくて化粧品を開発することになりました。この時生まれたメイク落とし「マナラホットクレンジングゲル」が当社の主力商品で、今では200万人の方にご愛用いただいています。
このように「悩みを解決できる製品づくり」を理念にしていて、実際に「授乳しながらでも使えるファンデーションが欲しい」という悩みから生まれた「BBリキッドバー」という製品も1ヶ月で1万本を売り上げるヒット商品になりました。
御社の働き方にも製品にも「女性が幸せになれる」というキーワードが根底にあるように感じますね。社員も女性が多いですか。
正社員は50名で、そのうち約9割にあたる43名が女性、さらに、その半数以上の22名が子育て中のママです。
実は創業から数年して社長が出産を迎えるのですが、当時は今のように社内の制度が確立されていませんでした。そのため、社長自身が育児をしながら働くことの大変さを実感したわけです。
即戦力になる20代半ば~30代の社員をたくさん採用していた時期でもあったので「これから育児出産を迎える社員が、育児と仕事の両立に悩んで退職に追い込まれてほしくない」と思い、ママでも働き続けられる会社へと変わっていきました。
その結果生まれた具体策には、5つの軸があります。(下図参照)
①ワークライフバランス
②健康支援
③子育て支援
④改善提案から生まれた制度
⑤成長支援
全てに共通するのは、社員が一生健康に長く働くために、という理念です。
5つの軸のなかで一番注力している取り組みはなんですか。
一番は、ワークライフバランスの実現です。
今、22名のママ社員が時短で働いていますが、時短だと労働時間が最小6時間。フルタイム社員と比べたら労働時間の差が出て不公平感が生まれてしまいます。だから、フルタイムの社員にも「残業しないで」と言い続けてはや10年、今ではほとんど残業がないので時短社員とフルタイム社員の差をなくすことができています。
ただ、新入社員に限っては覚える事も多いし、作業にも時間が掛かるので残業を認めています。
では、皆さんほぼ定時で上がられるんですね。
仕事が早く終われば、定時より30分早い17時に帰っていいことにしています。早く帰っても給与は変わりません。
この制度ができたのは東日本大震災のあった2011年でした。当時18:00定時だったのをサマータイム導入で8:30~17:30にしましたが、余震が続き、電力削減で街中も暗くて怖いという事でしばらくは17時に帰らせていたんです。
数ヶ月が経ち、定時の9:00~18:00に戻そうとしたら、社員から「効率よく仕事できるようになったのでこの制度を続けさせて欲しい」と要望が出ました。社長もかなり悩んだようですが、「売り上げが落ちたら元に戻すよ」との条件付きで続けることになり、今も続いているというわけです。
“ワーママあるある“を解決する「病児シッター制度」
子育て支援が特に充実していますよね。幾つか気になった取り組みについて教えてください。まず病児シッター制度とはどういうものですか。
子どもが病気で保育園に預けられない時、病児でも預かってくれるベビーシッターを家に呼んで子どもを預かってもらう料金を自己負担300円だけで利用できる制度です。もし子どもが回復してキャンセル料が発生しても、会社が持ちます。
病児シッターって一日2~3万円はしますよね。それを会社がほぼ全額負担してくれるんですか。
ワーキングママの悩みで一番多いのが、子どもの病気による突発的な休みで、仕事や周囲に迷惑をかけてしまうことです。でも、この制度があれば欠勤しなくて済むので、ママが「突然の欠勤が多くて仕事を続けづらい」と肩身の狭い思いをする事がないし、他の社員も「子どもがいる人は突然休むから迷惑。一緒に働きたくない」と負の感情を持つこともありません。
ママではない周りの人にも負担をかけない仕組みなんですね。確かに、子どもの預け先問題は悩ましいです。それでいくと御社では子連れ出社も可能だとか。
はい。学級閉鎖や長期休みなど、預け先がない、かといって子どもを長時間ひとりで家に残せない時に、子連れ出社を許可しています。フリーアドレスの空いてる席に座って宿題をしたり、小上がりスぺースでDVDを見たり、結構楽しんでくれています。
会社を良くする改善提案、1件500円で買い取ります!
改善提案制度というのはなんですか。
これは給与と悪口以外なら何でも改善提案をしていい制度で、採用する/しないに関わらず、提案1件につき500円を支給しています。この制度を始めたのは、会社を良くしたいからだけでなく、社員に常に物事を改善する癖をつけてほしいからでもあります。
「社長面談を定期的にしてほしい」という真面目な要望から「洗面所のハンドソープが液だれするので泡タイプに変えてほしい」という些細なものまで、多い時には年間約600件の提案が出ます。
疑った見方をすれば「会社は要望を聞いてくれて当然」的な傲慢な気持ちを抱く社員が出てきませんか。
きちんと理由のあるものだけを選んで採用しているのを社員は理解しているので、「あれもこれもしてくれるだろう」と勘違いすることはありません。
例えば、毎月1万円のスポーツジム代支給は一生健康で働くという会社の行動規範に基づいていますし、先ほどの病児シッター補助は突発的な欠勤を防いでママでも重責を担ってほしいからです。逆に、「お盆休みをつくって欲しい」「美容院代を補助してほしい」など何度要望を出されてもNGを出し続けている提案もあります。
やりがいとワークライフバランスを求めて、優秀な人材が集まる
これだけ福利厚生がしっかりしていると採用力もありそうですね。
たしかに「ワークライフバランスを実現できる会社を探していて当社にめぐり合った」と、優秀な人材が来てくれるケースは多いです。能力の高い即戦力人材が欲しい当社にとっては嬉しいことですね。
中途入社の方は、育児中の女性が多いですか?
そんな事はないです。たまたま化粧品会社なので女性が多いですが、採用する側としては、その人自身にビジョンと能力があれば、性別も年齢も子どもの有無も全く関係ありません。そこでの差別はしていませんが、ただ、ママが働く上でどうしてもネックになる労働時間の問題や突発的な欠勤などは会社が支援しましょう、ということで様々な制度を整備しています。
ママだから採用しているわけではなくて、「こういう支援制度があるから、育児中の人でも能力を活かして働けるよ」という事です。
先ほどの改善提案が気兼ねなく出せるのは、組織がかなりフラットだから、という理由もありますか。
役職者もいるので縦関係はありますが、気軽に声を上げられる風通しの良い職場ではあります。
でも、最初から全部上手くいったわけじゃありません。当社にも「暗黒時代」があったんですよ。
「働きやすさ」と「働きがい」 社員は両方求めている
意外ですね。「暗黒」とはどんな状態だったんですか。
当時から残業は少なめで給料もきちんと出るしブラックではないどころか、むしろ社員に優しい環境なのに社内が暗く、朝礼はお通夜のような雰囲気だったんです。なぜなら、社員に対する負荷がなさすぎて目標も働きがいも見失っていたからです。
当時はスキルの高い社長と取締役が、販促物ひとつとってもカラーからフォントサイズまで細かく指示を出すようなワンマン経営になりつつあって、社員は「どうせ頑張っても仕事を任せてもらえない」と感じていました。高い理念に共感して、いざ入社してそれだとモチベーションが下がるのも当然ですよね。
でも、ある研修に参加したのをきっかけに社長が意識を変え、コンサルにも依頼して、権限移譲や理念の再構築に着手し、社員にもどんどん仕事を任せるようになって社内が明るくなりました。
長年ワンマンだったのが、よく社員に任せられるようになりましたね。
創業から7年間もそんな状態でしたから、社員に権限移譲するのは怖かったと思います。でも、その研修がきっかけで「今しか変わるチャンスはない」と決断して、目標だけは役職者と共に決めて、あとのやり方は社員に任せたらちゃんと成果が出たんです。
仕事を任せることで社員は成長するし、社員が伸びれば会社も伸びると社長が実感したから変われたのだと思います。
適切な支援があれば、ママであることはハンデにならない
いきいき働くためには、「働きやすさ」と同時に「働きがい」が必要ということですね。ただ、世間のワーママ達からは「時短だと昇進できない」、「戦力外扱いされる」との悩みがよく聞かれます。
「時短なだけで査定に響く」「時短になってから事務部門に回され、重要なポジションを任せてもらえない」など実際にはよくあるそうですが、当社の場合はありません。「ママだから、時短だから、といって昇給昇進できない」なんてことはありません。「ママだから」という理由で差別する事もありませんし、それを言い訳にできないので逆に厳しいくらいかもしれません。
昇給昇進のための評価はどのようにしていますか。
社員ひとりひとりにKPI(Key Performance Indicator)を設定し、半期に一度評価します。個人が取り組む指標について、上司と具体的にすり合わせます。
例えば総務部であれば、フリーアドレス化の成功という目標があります。達成度合いを測るために、フリーアドレスにしてから一ヶ月後に社員アンケートをとり、社員満足度90%だったら評価A、80%ならば評価Bなど、評価をする側もされる側も納得できる評価制度になっています。
特に間接部門は数値目標が曖昧になりがちですが、評価の根拠が「見える化」されているので上司も部下も分かり易いですね。そのフィードバックはどのようにするんですか。
毎週、1on1ミーティング(※)で目標の確認と達成度合いをすり合わせています。半期に一度、自分の目標を立てて、そこからブレイクダウンするとその週のアクションプランに落とし込めますよね。すると、上司も部下もやるべき事が明確になります。
※1on1(ワン・オン・ワン)ミーティングとは:上司と部下が1対1で定期的に行うミーティングのこと。米国・シリコンバレーでは文化として根付いており、現在、人材育成の効果的な手法として注目を集めている。
オフィスについて教えていただきたいのですが、執務エリアはフリーアドレスですか。
2018年に固定席からフリーアドレスに変えました。超時短(10~13時)の派遣社員や日中不在の営業マンに固定席を残しておくのはもったいないので、思い切って。社員数は増えていますが、空席をうまく使って対応できています。
産休で人の出入りが多いですが、その度に誰をどこに座らせるか考える必要がなくなったので各段に効率的になりました。
テレワークを導入する企業が増えていますが、御社ではいかがですか。
当社の場合はオフィスに出社するのが基本ですが、役職者以外は月2回まで、役職者は回数制限なしでテレワークのトライアルを始めています。実際に「今日は企画を練りたいので在宅勤務します」とか「子どもが病気なので家で仕事します(※)」など、テレワークを選ぶ人も出てきました。
※小学生以上のお子様が対象。
テレワークの場所は自宅限定ですか。
自宅でやる社員が多いですね。社外から社内のサーバーにアクセスできるので、会社のPCを持ち帰って仕事ができます。ライフプランの変化に伴って悩みも変化していきますが、それに対して社長が真摯に答えてくれますから、これからも柔軟に対応していきたいと思います。
採用もママであることはハンデにならない。入社したてのママ社員にインタビュー
世間ではママになると転職が難しくなるのが現実。しかし、株式会社ランクアップでは採用に関してもない「ママだから」という制限はない。実際に2月に中途入社された働くママ社員の方にお話を伺いました。
先月入社したばかりとのことですが、どんな働き方をしているか教えていただけますか。
一歳半の息子を保育園に預けて、フルタイムで働いています。前職の広告制作会社で働いたスキルを活かして、今は販売促進部に所属しています。
前職でもお子さんを保育園に預けながら働いていたそうですが、転職したきっかけは。
当時は認可外保育園に預けながら、8:00~17:00まで時短で働いていました。残業もそこまで多い会社ではなかったので、出産しても働き続ける自信がありましたが、いざやってみると無理でした。
通勤に1時間掛かっていたので朝7時すぎに起床する息子に会えませんし、保育園は18時までしか預けられないので、お迎えがいつも駆け込んでやっと間に合うありさまで…。悪気はなかったのかもしれませんが、保育士さんに「今日もお迎え最後だね」と言われた事もありました。
自分が子どもの頃にも実母が働いていて、「うちのお母さんはいつもお迎えが遅い」と嫌な思いをしていました。「あぁ、自分も息子に同じ思いをさせているんだ」と考えたら、「もうこの会社無理なのかも、もしかしたら仕事自体続けるのも無理かも」と思ったのがきっかけで転職を考え始めました。
時短でも通勤に時間が掛かってしまうと大変ですよね。
はい。通勤に1時間も掛かると、急な発熱などで保育園から呼び出しがあってもすぐには迎えに行けませんし。実は、この会社に入ってすぐの研修期間中に息子が病気になってしまったんですが、病児シッター制度を使って会社を休まずに済んだので本当に助かりました。
結婚、出産などライフスタイルの変化を機に転職を考える女性は多いですが、実際に仕事と家庭を両立しながらの転職活動は大変だったのでは。
それはもう大変でした。子どもを寝かしつけてからエントリーシートを夜中に書いていました。でも、「今の状態だと二人目は考えられない。何とかこの生活を変えたい!」と思って頑張りました。
転職エージェントにも「小さい子どもをもつママを迎え入れてくれる会社は少ない」と言われていたので、この会社を知ったときは驚きました。「17時退社のママでも重要な仕事に挑戦できるなんて、そんな会社があるの?!」って。
私は違いましたが、子供を連れての面接も可能というところも驚きました。
入社して一番びっくりした事はなんですか。
やっぱり、17:30定時なのに17:00に退社する人が多くて驚きました。18:00になると本当に人がいなくて「嘘じゃなかった」と。
最近は、新卒社員や重いプロジェクトを抱える社員など残業する人もちらほらいますが、それでも19:00か20:00までには全員帰ります。社長も小4のお子さんがいるので18時くらいには帰るようです。私は17時にいつも退社するので、実際には見ていないんですが(苦笑)。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
今回協力して下さった企業様
株式会社ランクアップ
- 設立
- 平成17年6月10日
- 本社所在地
- 東京都中央区銀座3-10-7 ヒューリック銀座三丁目ビル 7F
- 事業内容
- オリジナルブランド「マナラ化粧品」の開発および販売
- 従業員数
- 73人
- Webサイト
- https://www.manara.jp/brand/index.html