東京・丸の内を中心に、全国の主要都市におけるオフィスビルや商業施設等の建物の総合的な運営・管理業務を行う三菱地所プロパティマネジメント。前編では、働き方改革を走らせるまでのトライアルへの取り組みについて、お届けしていきました。
この後編では、同社の、自社オフィスにおけるハード面・ソフト面での取り組みから始まり、社員のワークライフバランスへの配慮、そして、これからの展望についてまで、担当者さまの想い・夢を伺いました。
INDEX
自社空間のライブオフィス化を目指して
自社のオフィスについては、どのような取り組みをなさっているんですか?
世の中ではフリーアドレス化やペーパーストックレスへの機運が非常に高まっているなか、各拠点で業務特性や環境を鑑みて議論・検証し、一部拠点や部署ではフリーアドレスを導入しています。また、2018年7月にリニューアルした本社コミュニケーションスペースでは、当社管理ビルのテナント様や入居を検討されている企業様等にもご覧いただけるスペースとしました。
大きなきっかけは2018年1月に三菱地所が「大手町ビルヂング」から「大手町パークビルディング」に本社を移転させたこと。フリーアドレスの導入や自社空間のライブオフィス(※)化への機運が高まり、グループ各社へ広がっていきました。
※ライブオフィスとは:コクヨが提案する新しいオフィスのあり方。自社開発の製品を、自社のオフィス空間で、社員自らが利用し、その利用シーンを社外の人に展示していく。ワークスタイルのショールーム。
現在、本社オフィスにおいては、フリーアドレスを一部の部署で行っています。それと、コミュニケーションスペースの充実化。2018年度は主にその2点に注力しました。
まず、前者のフリーアドレス化についてですが、会社の働き方によっては、毒にも薬にもなるものだと思っています。そう認識した上で、2018年の5月以降、主に在席率が低い部署をピックアップしてスタートさせました。単純に床を増やして、フリーアドレスにしました、では意味がないので、座席数は在籍人員の80%に設定。空いた20%分のスペースやフリーアドレスに備えて書類や備品等を整理したスペースを活用し、打合せゾーンや個人ロッカーなどに充てています。
社員の皆さんの反応はいかがですか?
今、検証中ですが、ポジティブな声を多く聞く一方で、併せて解決していくべき課題も感じています。現在、フリーアドレスは2グループで実施しており、一つは3部署合同でのフリーアドレスで、部署間のコミュニケーションが促進されたという声が多く上がっています。反面、部署内やチーム内でのコミュニケーションが取りにくくなったという声も上がってきているので、それらのデメリットも踏まえて検証し、解決できることは順次潰していきます。
難しいところですよね。
そうですね。例えば、営業、管理、庶務、または営繕と、種類の違う複数の担当者が、ひとつのチームで島型に固まることによって、機能してきた「営業管理部」のような部署では、果たして、フリーアドレスを導入する意味があるのか、導入してマイナスにならないか。そういった点については、よく検証・議論していかなければならないと思っています。
あとは、ペーパーストックレスを進めて、いかにスペースを作り出すかが、大きな肝ですね。その中では、文書保存規程改定により保存文書を圧縮したり、、ICTを活用し、回覧書類の電子化によって、紙での回覧を減らしたり、大量の契約書を電子文書化して、キャビネットを減らしていくといった取り組みも並行して行っています。
人の意識よりも、環境の方が変えやすい
注力している2点目、コミュニケーションスペースについては、どのように取り組んでいるんですか?
以前のコミュニケーションスペースは、昼食や休憩に使われるケースがほとんどでした。ですが、会議室不足といった問題も背景にあり、「自席にとどまらない働き方をしていこう」と打ち出し、打ち合わせやソロワークができる環境を強化したり、健康経営の切り口で仕掛けを施したり、リラックスできる空間となるようBGMを導入したり、あるいは、こだわりの什器に入れ替えたり、と。また、先ほど申し上げた通り、こちらは当社社員以外の方々にも見学いただけるスペースとしました。
それは素敵ですね。社員の方たちにも好評なんじゃないですか?
最初はどう利用してよいかわからない人もいましたが、利用するイメージが湧くように、我々担当者が現場で電子ホワイトボードを利用して打合せをしたり、研修やプレゼンなどを実施するといったことを積極的に行い、その様子を見てもらうことで徐々に利用者も増えていきました。特に「ファミレス席」(※)が人気ですね。
※ファミレス席とは:ファミレスで見られるような、コンパクトなソファ・テーブルの対面式ミーティングスペース。
なるほど。ボックスシートになっていて、少し背が高くなっているような。
オープンな印象だけれど、なんとなく囲まれているから、親密に話せるんですね。稼働率は高いです。
本社で導入しているハイデスクでの立って行う会議が一例ですが、人間って、カタチから入るのも悪くないなって思いました(笑)。この立ち会議では、情報共有や判断・決定が短時間で済むんです。強制的にある環境に身を置くと、その中に適した動きをせざるを得なくなりますよね。人の意識を変えるのはすごく時間がかかります。それなら、環境を変えてしまった方が、よほど手っ取り早いと思うんです。
本当に、そうかもしれませんね。
環境の変化というところで言うと、モバイルPCに切り替えたり、無線LANを導入したり、と、当たり前のことではあるのですが、その“当たり前”をしっかり整備するというところから始めて、そして、より業務効率化された、生産性が高い就業環境の実現へとつなげていきたいと思っています。
コミュニケーションを育てるために
在宅、テレワーク、フリーアドレスと新しい取り組みを重ねていくと、コミュニケーションをどう取るかという問題も生じてくると思うのですが。
会議時間の削減の文脈で、チームごとの定例会を少なくしようという動きもあるのですが、一方で必要な情報はきっちり共有しなきゃいけませんよね。なので、ダラダラせずに時間を区切った上で情報共有の機会を設けるようにしています。
遠隔でのコミュニケーションでは、何かツールを使ったりと?
主にチャットですね。あとは、WEB会議システムも導入していますので、物理的に場所を共有していなくても、打ち合わせの機会を持つことは可能です。
なるほど。ちなみに、チャットって、立場が上の方にはメッセージを送りにくかったりしませんか(笑)?
そうですね(笑)。当社でも、そういった声をよく聞きます。
やっぱり、上の方が率先して、部下にフランクなメッセージを送ったりすることが大切なのかもしれませんね。
本当にそう思います。メールではなく、チャットでやり取りできると、まあ、楽ですよね。メッセージがポップアップされるので、新着にすぐ気が付きますし。だから、チャットに慣れていない上の世代の人たちにも、どんどん啓発していくべきだなと思っています。
チャットのような、便利な情報共有・管理システムがビジネスシーンに広まっていく一方、やっぱり近距離でのコミュニケーションというのも、大事なんじゃないかなと思うのですが。
はい、まさに、そう思います。現在、セクハラ、パワハラなどが問題視されていて、個人間でのコミュニケーションの機会がより制限されていく中で、普段のメッセージはツールで済ます、と。じゃあ、いつ直接話すの? 上長が部下のコンディションを把握する機会はあるの? と。
おっしゃる通り、直接的なコミュニケーションの絶対量がどんどん少なくなってきているんですよね。ですので、人事部門としては、コミュニケーションを促すための福利厚生ということで、部内のコミュニケーションを活性かするための施策、例えば部員全員で宴会やイベントなどを行ってくれれば、年に一人5000円を負担しています。ちょっと別次元からのアプローチになりますが。
“楽しさ”で、働く人たちの「ライフ」を豊かにしたい
あと、当社では、福利厚生サービスとして「カフェテリアポイント(※)」を社員に付与しているのですが、それを使いやすくする工夫もしています。以前は、ポイントを使用する際、例えば、「自己啓発」「健康管理」など、用途ごとに使用できるポイントの制限がありましたが、その制限を今年(2018年)、ほとんどのメニューでなくしたんです。ポイントは、基本的にどういう用途でも使えますよ、といったふうに。それは、すごく好評ですね。
※カフェテリアポイントとは:企業側があらかじめ利用サービスを設定し、従業員にポイントを支給することで、各従業員はそのポイントを使って、(設定された枠内で)サービスを利用。選択型福利厚生制度。
社員自らが自由に選べるというのは、いいですね。
よく「ワークライフバランス」と言いますが…、もちろん、会社の成長も大事ですよ。でも、それも個人の成長や豊かな生活があってこそなので、やっぱり「ライフ」のところを充実させていってもらいたい。そこで、福利厚生の部分でも、“楽しさ”や“使いやすさ”をデザインしていくことで、働く人たちの「ライフ」の充実につなげていけたらな、と。
なるほど〜、素晴らしいですね! これは、“楽しさ”とは少し違う話かもしれませんが、御社は、残業代の削減分をボーナスとして還元していると聞きました。この大胆な取り組みにも、新鮮な驚きを感じたのですが。
はい。前年比で削減した時間外手当を、全額社員に還元しています。例えば「ワークライフバランス特別手当」として、夏と冬のボーナスに上乗せするかたちで社員に還元する等しています。それに加えて、昨年(2017年)は、「ワークスタイルチャレンジ」という部門表彰も実行しました。「残業20時間以内」「有給取得80%以上」という2つの目標を設定し、それを達成した部署には年度末に報奨金が支払われる、といったものです。
すごいですね! これは、トップの決断で?
そうです。完全にトップダウンですね。社長はこう言っていました。「これは会社のコストダウンが目的なのではない。社員に働き方を変えてもらうことが目的だ。残業代を削減したのは社員なのだから、削減分は社員に還元するべきだ」と。そうして、社長自らが立てた方針を受けて、その還元の仕方を現場で考えていった、という流れです。
こういった大胆な施策をとったのには、何か理由があったんですか?
そもそも、当社は2社が合併した会社なんですね。合併当初は2つの業務手法が入り混じっていたので、新社にあったやり方を探るのに加え、日々の日常業務に追われている状況で、社員が疲れ気味だったんです。
そんな社員たちの姿を見て、社長は、「社員が疲弊しているのは、すごく真面目に頑張ってくれているからこそなのだ」と、考えたのだと言います。そうして、その社員たちの働く環境をよりよくするために、会社が真剣に考えていくべきことは、「どうやって働く時間を減らすか(=社員を休ませるか)」、そして「社員がもっと楽しく・充実して働けるか」であるということでした。
目指すは、「自走式の働き方改革」
そうは言っても、「個々人的には減らした残業代分が、同額戻ることにはならない」、「残業は生活のためという本音」も見え隠れします。なので、「長時間労働を前提とした働き方は、会社としては“是”じゃないですよ」ということのメッセージは送り続けなきゃいけない、ということで、色々なチャレンジを重ねています。「残業代を減らしましょう」と言うと、やっぱり、「会社都合のコスト削減でしょ」と、時に誤解されることもあるのですが、具体的な取り組みやルール・制度で示していけたらと思っています。
行為や形で示していくということは、本当に大事なことですよね。ちなみに、残業代についてですが、具体的な数値で言うと、どれくらい削減されたんですか?
2015年度から2017年度の対比では、全社で残業代は30%減です。また、それだけでなく、営業利益は18%増になっています。仕事を効率化させながらも、会社としてしっかりと利益を上げられるような、筋肉質な体制が整ってきていると思います。
それはすごいですね! やっぱり、仕事のやり方から変えていっているのでしょか?
できるところから積み重ね、ですね。「カエル会議」というのをパイロットプロジェクトとして導入していまして、色々なトライアルを始めています。
カエル会議、ですか?
はい。2016年から2017年にかけて、8か月間、4つモニタリングユニットを選定し、働き方を“カエル”という目的を持って定例会議を重ねていったんです。そこで、まず行われるのが、現状の通常業務の洗い出しです。そのようにして、みんなで“点検”をし始めると、色んなことが目に付くようになってくるんですね。今までの“当たり前”を見直す習慣がついて、ユニットの参加メンバーの業務効率に対する意識が明確に高まっていきます。そうして、ユニットで共有された知見を各部署にフィードバックし、部署の垣根を越えて横展開していきます。
また、2017年から各部署に「ワークライフバランス委員」というポジションを作り、我々「働き方改革室」と連動しながら、ニーズやソリューション等の情報をやり取りするパイプ役を担ってもらったりもしています。
論点ごとにアプローチしていく分科会のようなかたちで、働く人自らが話し合いながら、ワークスタイルを見直しているといった印象ですね。
そうですね。結局のところ、「自分ごととして変えていく=自分のメリットにつながる」ということを実感してもらわなければ、上がいくら方針を示したところで、続かないんですよね。目指すは、「自走式の働き方改革」、ですね。
なるほど。その結果として、残業代30%減…。本当にすごいことだと思います。
この30%減という数字も、色んなことが複合的に積み重なった結果で、何か1つの施策がものすごく効いたというものではないと思っています。トップが意識を強く持ってメッセージを発信するところから始まって、色々なものの積み上げですね。
多様な人が働ける会社に
最後に、これからの展望などについてお話いただけますか?
ママたちも大変ですが、介護のニーズも増えてきていますよね。ガンを治療しながら働くことも、社会的に当たり前になってきていると思います。つまり、誰であっても、少なからず、何らかの事情を抱える可能性がある、ということですよね。そうすると、産休・育休者のためとか、特定の人だけに向けたものではなく、万人の方に使ってもらえる制度を整えていくことが必要になってきます。
働く人が、今後、どんどん減っていく日本です。だからこそ、みんな、それぞれに事情を抱えているということを前提として、多様性を認め合えるような会社であれればと思っています。制度や仕組みだけの話じゃないんですよね。風土や、人間関係についても、そう。なんだか、壮大な夢のような話ですが(笑)。
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今回協力して下さった企業様
三菱地所プロパティマネジメント株式会社
- 設立
- 1991年
- 本社所在地
- 東京都千代田区丸の内
- 事業内容
- オフィスビル、商業施設等の建物の総合的な運営・管理サービス
- 従業員数
- 1,088名(2018年4月1日現在)
- Webサイト
- http://www.mjpm.co.jp