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ワークプレイス変革で「はたらいて、笑おう」を実現させたい
まず御社が設立した経緯から教えていただけますか。
槌井)はい。元々はパーソルグループのファシリティマネジメント(以下FM)部門として、私自身2,000以上のオフィス案件を手掛けてきました。しかし、パーソルグループのスローガン「はたらいて、笑おう」を実現するためにはインハウスだけの業務では不十分で、社会全体の働き方の質を向上させる必要があると思ったんです。
それに当時から問題だった長時間労働や育児介護支援などソフト面の見直し、つまり人事制度や法改正で改革が進む一方、ハード面つまりオフィスの改革はおざなりだと感じていました。FMのノウハウを持った自分たちならワークプレイス変革を切り口に、はたらいて笑える社会の実現や、働き方改革の支援ができるはず、と決意して分社独立したのが2017年のことでした。
当時、働き方改革はまだメジャーではなかったですよね?
槌井)ええ。まだ働き方改革という言葉もありませんでした。働き方改革って、すごく大きなメンタルモデルのチェンジです。働き方という目に見えないソフトを変えるなら、オフィスという目に見えるハードを先に変えるのが有効というのが私の持論。ハードはソフトを変えるけん引力になれると思います。
代表取締役 槌井紀之氏
設立当時と比べて、世の中やお客様の変化は感じますか?
吉田)コロナ以降、営業先の総務の方々の話すトーンが明らかに変わってきましたね。特に最近は「自分達が主導権を握って動ける好機だ」と捉えている総務の方が増えた印象があります。
FMコンサルティンググループ マーケティングチームリーダー 吉田隆之氏
槌井)去年までは施工プランの打ち合わせをしていても「社内決裁さえ取れれば良いんだけど」という保守的な空気を感じましたが、今はそうじゃない。在宅ワークが定着して積極的に出社する目的が薄れてしまったから、社員が期待してくれるオフィスにしないといけないと気づいた総務の方も多いんじゃないでしょうか。
Withコロナ時代のオフィスに求められる役割とは?
こちらのオフィスは誰でも見学できるとか。
槌井)はい。ワークプレイス変革に二の足を踏んでいる総務の方々の背中を押せるように、このABW(Activity Based Working)型オフィスを「WorkStyle Labo」と名付けてライブオフィスとしてどなたでも見学可能にしています。正直、総務は営業や人事に比べて前面に出る機会は少ないと思うんです。でも、今こそ総務の方々の価値発揮が期待されている時ですから、勇気を持って取り組むべきだと思います。そこで、当社のオフィスを率先事例として公開し、体感してもらえれば総務の方々の背中が押せるのではないか、と。
(左)WorkStyle Laboのメインエリア(右)見学会の様子
コラボレーションエリアをメインに様々な用途の部屋が用意されていますね。
槌井)最初はコラボレーションワークを重視して設計したんです。でもコラボレーションワークの間にソロワークに集中できるスペースも必要であることが分かりました。コラボレーションワークとソロワークとをピストンのように往復する方が主流で、その往復こそが仕事の質を高めると分かったんです。それでソロワークスペースを新設しました。
仕事の性質や目的によってエリアを使い分けるABW型オフィス。(左)外部のお客様を招いたセミナーや社内レビューでも使用されるコラボレーションワークエリア、(中央)壁一面のホワイトボードを使ってアイデア出しができる部屋、(右)新設されたソロワークエリア。これら以外にもPC持ち込み禁止の部屋や子連れで働ける部屋など多種類用意している。
従来のいわゆるオフィスとは見た目も役割も全く違いますね。
槌井)だから「オフィス」という呼び名も疑問なんです。だってサテライトやノマド、在宅ワーク等々、働く場所はどんどん生まれていて、いわゆる本社オフィスの役割も目的も変わりつつあるのに、ひとくくりにして「オフィス」と呼び続けるのは違和感があるんですよ。働く場所の総称として「オフィス」と呼ぶのはアリですが、あくまで総称。「オフィス」と言われて想像するのは島型のいわゆる昔ながらのオフィスですよね。これが目的も形状も変わるならば違う商品にならなければならない。だから「オフィス」という呼び名以外のもっと適した名前がないものかと。
では、これからの本社オフィス、セントラルワークプレイスの役割とは?
槌井)ひとつは相互理解です。新入社員がテレワークに不向きなのと同じで、まずはお互いを知らないとその先のコワーキングやテレワークは絶対に成立しません。
吉田)当社が自主調査したオフィスワーカーへのアンケート調査によると、在宅ワークを継続したい人が90%以上いる一方、オフィスはこれからも必要だと答える人も90%いる事が分かりました。つまり、ほとんどの人が併用を希望している。そして、オフィスに何を求めるのかと聞くと、知恵や知見を得る場所、コラボレーションを機能としてオフィスに求めている人が多い。コロナ禍の在宅勤務を経て、ワーカーの方々が改めてオフィスに求めているものを実感しているのではないでしょうか。
Newワークスタイル構想、郊外への分散
槌井社長が提唱している新しい働き方構想「HUB&SPOKE」について教えてください。
槌井)はい。HUB(ハブ)は車輪の中心、SPOKE(スポーク)は車輪の中心と周りを繋げる役目。本社オフィス(=HUB)外に自宅近くで働ける新たなワークプレイス(=SPOKE)がこれからは必要だと思っています。仕事するにはずっと在宅ってつらすぎる。強制在宅ワーク中も腰痛だとかネット接続が悪いとかよく聞きましたよね。
HUB&SPOKEの考え方を表した図。本社(HUB)と郊外(SPOKE)が分散しながらも有機的に繋がっている。
ええ。家に就労環境がしっかり整っている人はかなり少ないですね。
槌井)テレワークだからといって、ずっと在宅だけで働くのは無理だと思うんです。
都心には本社オフィスもあるし、サテライトオフィスやコワーキングスペースも既に充実している。足りないのは、家と本社オフィスを繋ぐ郊外型のワークプレイスです。
これからは①セントラルオフィス②外部サービスオフィス③都心型オフィス④郊外型サテライトオフィスの4つを行き来する働き方がニューノーマルになっていくでしょう。コストはセントラルをダウンサイジングすれば捻出できるはず。僕たちは本社オフィスと呼ばれていた場所の目的を変換して、新しいワークスタイル変革の支援をする。大勢が一斉に9時めがけて都心に出社するのではなく、多種類用意されたワークプレイスを自主的に選んでいけば、三密が回避されてソーシャルディスタンスが実現できるはず。ABWの社会版みたいなことが構築できるだろう、という提案です。
ZXY自体も郊外への出店を増やしていますから根源は同じかもしれませんね。
槌井)そうですね。サテライトは生産性、セントラルやコワークは創造性を支援する。要は目的による使い分けです。最近気になっているのは、生産性向上ばかりが叫ばれて創造性について言及されないこと。創造性溢れる生産性向上が必要だと思います。お互いを知る事が創造性の種になりますから、これは重要な要素だと考えています。
自らNewワークスタイルの先駆者になろう
次に、御社の働き方についてお伺いしたいと思います。まず、会社の理想形はありますか?
槌井)世の中でまだ試されていないワークスタイルを積極的に実証して、自ら有効性/無効性を試す会社でありたいですね。設立3年のしがらみのない当社だからこそチャレンジできると思っています。働き方の理想は、社員が自主的に働き方を選択し、全員がプロとして経営参画している状態を目指しています。そんな自分達のビジョン(写真右)を実現するための行動指針をまとめたものがクレド(※行動規範。写真左)です。
(左)行動規範をまとめたクレド(右)会社のビジョンをカードにしていつでも携帯できるようにした。
クレドの制定は槌井代表が?
槌井)いいえ、社員が企画立案して自然発生的にスタートしていました。
吉田)社員数が増えてきたのも一つの理由ですね。みんなが共通認識を持ってベクトルをもう一度合わせる何かが必要なタイミングでした。
槌井)ZXYの契約も僕が指示したわけではなく、「世の中がこれからテレワークに突入するときの先駆者になるためには、FMコンサルとしてテレワークのメリット、デメリットを知っておきたい」と。サテライトの活用も社員がおのずと決めて。だから僕は最後まで契約先を知らなかったくらい(笑)。
今ってワークプレイスが多様化してるからどれを選べばいいか迷いますよね。どんな種類や特徴があるか(写真参照)、自ら仮説検証して結果を機関誌で発信しています。
機関誌「Future-Work Style Discovery-Vol.1」より。
ZXYを契約していただく前にも、他社さんと比較されたんですね。
吉田)高層ビルで絶景が眺められるサービスオフィスも良かったけど、そこで仕事してる自分に酔っちゃう(苦笑)。最終的には拠点数や料金を含めて利用しやすいZXYに決めました。
良い仕事を生む秘訣は、パルスワークにあり
次に、御社の働き方についてお聞きしたいと思います。
槌井)当社の特徴的な働き方が「パルスワーク」です。
業種柄プロジェクト型の働き方が多いのですが、プロジェクトでアウトプットしつづけるのは、スポンジに例えるとずっと“絞っている”状態。良い仕事を生み出すために、ここでカラカラになるまで絞り切ります。ただ、絞るばかりだと社員のアイデアやエナジーが枯渇しますから、絞り切ったらきちんと“吸水”する時間が社員には与えられます。つまり、とにかく絞り切り、そしてきちんと吸水をする。この繰り返しを「パルスワーク」と呼んでいます。
“吸水”とは具体的にどんな?
槌井)吸水期間(=パルスタイム)の過ごし方は休暇取得でも振り返りにあてるでも何でもOK、個人に任せています。有意義に過ごせるようにセミナー情報や美術館の企画展情報を会社側が提供したり、他の人の参考事例を共有したり手助けします。やりがいや成長実感を得ながら次の良い仕事を生む為に、絞り切った後にはしっかり吸水して欲しい。
ユニークな働き方ですね!でも最初から上手くいきましたか?
槌井)いや、社員がプロジェクトに参加する時点でパルスタイム込みの工数計画を立てるのですが、月の稼働を200時間で見積もってしまうと、施工管理の進行はかなり流動的で時間が足りなくなりパルスタイムを削ってしまう時期もありました。そこで稼働の上限を160時間に変えたところ、変動があっても残業分で吸収できてパルスが確保できるようになりました。パルスを削ってまで働け、とは思いませんから。
でも、仕事が目の前にあれば稼働時間いっぱいに詰め込みたくなりそうですよね。
槌井)そう!プロジェクト組織に工数管理を任せるとどうしてもお客様を優先して仕事を詰め込みがちになるし、品質管理も属人化してしまう。そこで、品質管理やパルスタイムを管理・企画するPMO(プログラム・マネジメント・オフィスの略)という中立的な部門をあえて作りました。
「あの人は稼働時間ギリギリだからアサインしないで下さい」「この人は頑張りどころだから、難易度高い案件を振った方が成長すると思います」などと上司陣に進言したり、パルスタイムを可視化したりしっかり管理してくれます。
吉田)僕は入社当時は「バルス?なぜラピュタ?」って勘違いしてました(笑)。
では、ちょっと話題を変えまして、オフィスではどんなICTツールを使っていますか?
槌井)全員ノートPCで固定電話は置いていません。2019年頃からテレワークを意識して全員にスマホやタブレット、シェアードWi-Fiを貸与しました。ここ半年くらいでTEAMS(チームズ)を導入してすごく有効に使えてはいますが、最近「TEAMS追われ」してしまって…。
私も未読チャットが溜まってしまう時があります。
槌井)テレワークする人の時間の使い方ってまばらじゃないですか?生活リズムがバラバラだから深夜にLINEが来たりするんですよ。それにOutlookもLINEも併用してるから情報の入ってくるルートが複雑化していて疲れる。でも、社員達は上手く使いこなして自発的に社員同士で“昼の会”とか“夕方の会”をオンラインでやってますね。「今日どうだった?」とか雑談込みで。人やICTに変化が起きているんだから、ハードだって進化して当然ですよね。
テレワークやABWへのシフトでは紙文化が問題になりますが、御社ではどうしたか?
槌井)不動産管理部門だけは、請求書や支払い帳票用の伝票出力がありますが、全体的に書類は少ないですね。あらゆる場所にモニターがあるので会議なんかも基本ペーパーレスです。
では、働く場所や時間については何かルールはありますか。
槌井)ルールはなくて「業務の性質によって生産性と創造性どちらを重視するか、適した場所を自分で考えて働いて」と社員達には伝えています。
吉田)僕は、出社は週3くらいかな?
槌井)夕方から来る人もいれば、午前中だけの社員もいます。曜日で出社日を制定する会社も出始めているようですが、ファシリティコストや密状態回避を考えれば、出社日や時間帯は分散した方が良いと思いますね。集合日を決めるより、皆が自律的に働いた方が良いと思うので規制もルール化もしていません。
在宅ワーク期間中、マネジメントの課題が浮き彫りになった企業も多かったようです。
槌井)当社では意外と課題には陥らなかったですね。Geppo(ゲッポウ)※を使って社員のコンディションチェックを常にしてますが、思ったほど悪くはなっていません。
Geppo(ゲッポウ)のデモ画面。たった4問、1分程度の回答で従業員のコンディションや組織エンゲージメントを診断できるツール。
吉田)もともと1on1などでマネージャーやリーダーが常にメンバーの事を気に掛ける習慣が根付いていたから、という背景も大きかったと思います。
槌井)そもそもABWの秘訣は信頼で、その為には性善説に立ったマネジメントが必要です。部下の姿が見えない中で何をしたら支援になるのか?どんな助けが必要なのか?とマネージャー陣は考えて動いてくれたみたいですね。
しっかり休むため、休業日を社外に宣言
働き方について伺ってきましたが、では休み方で特徴的な施策はありますか?
槌井)はい。当社は土日出社が少なくないので平日に代休を取るのですが、どうしても取引先などからスマホに頻繁に連絡が来て休んだ気になれないんです。そこで、平日に休業日を作って社外にも宣言するようにしました。
しっかり休息が取れるようになったわけですね。
槌井)さらに事業目標をクリアしたら休暇も支援してあげたいよね、となって。巷でいう社員旅行を「ワークスタイルツアー」と呼んで昨年より始めました。目標達成したら正社員でも契約社員でも希望者は参加できます。社員旅行といっても滞在期間中の過ごし方は完全に自由。今年もバンコクに行く予定だったんですが、新型コロナウィルスの影響で延期になってしまって…。
2019年のワークスタイルツアーの様子
休業日やツアーなどユニークな制度が多いですが、社長の指示で?
槌井)私も意見は出しますが、リーダー層が真剣に考えて提案してくれますね。そこで「いいね、やってみたら?」となる。メンバーはそんなやり取りを見ているから、アイデアを言っても否定されない安心感を持って意見を出せる風土ができているんだと思います。クレドの「Challenge for the future」に通じるところですね。
だからボトムアップでアイデアや意見が出てきやすいんですね。
吉田)意見しないと「Go aheadできていない、考えてない」と言われてしまう文化ですから。
槌井)やっぱり働き方改革って制度じゃなくて、すごく大きなメンタルモデルのチェンジだと思うんです。何かしたら絶対変わるわけではなくて、色々な小さな仕掛けをしてやっと変えられるような大きなモデルの変換。
それくらい日本の働き方は硬直してると思います。その一因にはこのことについてマネジメント層が怠慢だったのもあるでしょう。裁量権のある方々が未来の世代に何を残すか真剣に考えるべきだし、一方で社員も与えられるのを待つだけでなく新しい働き方を「勝ち取るんだ!」くらいに自己主張していくべきではないでしょうか。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
槌井)こちらこそありがとうございました。
今回協力して下さった企業様
パーソル ファシリティマネジメント株式会社
- 設立
- 2017年7月1日
- 本社所在地
- 東京都港区北青山2-9-5 スタジアムプレイス青山
- 事業内容
- ファシリティマネジメントに関するコンサルティング業務、並びに事務の代行
- 従業員数
- 45人
- Webサイト
- https://www.fm.persol-group.co.jp/