前編に引き続き、今回も「株式会社タニタ」が取り組む働き方改革「日本活性化プロジェクト」についてレポートしていきます。
後編では、プロジェクトの推進役を担ってこられた二瓶琢史さんに質問を投げかけながら、プロジェクトの全容を探っていきます。
INDEX
雇用関係ではなく「人と人との関係」に目を向ける。
お話を伺って、同じような取り組みを志す企業もでてくるのではと思いました。仕組み化で苦労したポイントがあれば教えていただけますか?
そうですね、会社にもよると思いますが、「フリーランス化への取り組み」というのは実際のところ、「契約の雛形を作る取り組み」なんですよね。これが結構大変です。
それとは別に、私が苦労したのは、不安の声を上げる人たちとどう向き合うか、でした。
なるほど。
「私は、(日本活性化プロジェクトに)手を挙げないよ」というのは、その人の選択だからよいのです。でも、「(こんなプロジェクトは)やめて」と強く反対されることもあり、その逆風を突破するのはとても大変なことでした。
知らず知らずのうちに、凝り固まってしまっている既存の価値観。組織の“中”と“外”で、ずばっと関係性を切ってしまうという発想です。フリーランスとして雇用関係から外れたら、その人は会社の“外”の人間、社員のままでいれば“中”の人間、みたいに。
実際に当社(ザイマックス)でやってみたところを想像してみたのですが…、フリーランスとして業務委託されている方が、上司として、社員の私をマネジメントする、というケースも起こりうるわけですよね?
そうですね。
そうなると、社員の立場からすると、社外の方からマネジメントされることに関する戸惑いを、逆に、フリーランスの立場からすると、社外にありながら社員をマネジメントすることの難しさを感じることはないのかな、と。
そこなんですよ。その発想こそ「雇用が社内、雇用でないと社外」という、会社と個人の関係性を「雇用関係」のみで捉えた考え方だと思うのです。
あ!!
例えば、フリーランスになる際に「自分が“外”の人間になって社員をマネジメントできるだろうか」と不安を覚えている部長がいたら、
「あなたは、今まで社員として部長職を担ってきましたよね。短くない時間をこの会社で過ごしてこられましたよね。フリーになったところで、あなたは同じ人ですから。何も変わりません。フリーランスになろうが、“外”の人だなんて、みんな思いませんよ」と声をかけます。
全くその通りですね。
一方それを強調しすぎると、「何も変わらないのなら結局、実質は“雇用”ではないか」とも思われてしまいかねないので表現が難しいのですが、現実問題として、会社との法的な関係性が変わっても、その人自身は何も変わらないのです。
つまり、フリーランスになっても、人と人との関係性というのは変わらない、ということです。
そうすると、蓋を開けてみたらこれまでとあまり変わらないな、という反応の方が多かったということでしょうか?
はい。徐々に安心感が生まれてきているように思います。取り組み4年目にもなるとノウハウもたまってきますし、手取りも増えた先達の姿も目に映るようになって、フリーランスに移行するメンバーも順調に増えてきています。
新しいパラダイムをつくるには、まずはトップに近い人から動くこと!
会社と個人の関係性については非常によくわかりました。ではプロジェクト発足時、前例などまだない時期に、不安や反対をどう解きほぐしていかれたのでしょうか。
実のところ、最初のうちはなかなかうまくいきませんでした。反対の声が小さくなってきたのは、取締役にもこの取り組みに参加してもらうようになってからのことでした。まずは上から、です。
そうして、実際にやってみたら、不安の大部分は実は思い込みで、楽しく無理なくやっていける要素に満ちていると、反対していた人たちも含め、多くの人が気づき始めて。そこから、潮目が変わってきたと感じます。
この取り組みは、やってみないとわからないことがたくさんあります。もし、こういった取り組みをやってみようという会社さんがいましたら、人事部長など、それを企画する方が、まずは自ら先陣を切って取り組まれるのがよいと思います。
そして、経営トップの方には、自分に近いところで仕事をしている人にこそ、雇用関係とは離れた「新しい会社との関係性」の世界に移行してもらうようにすると、プロジェクトの推進力をうまく保っていけるのではないかと思います。
フリーランスになってからの意識変化
二瓶さんはフリーランスになって4年目になるでしょうか? 社員時代から、働き方は変わりましたか?
そうですね。私のメーン業務は「日本活性化プロジェクト」の推進と社長の補佐業務です。ほかにも会社の外で出来ることが増えてきていると実感しています。ただ、契約形態が雇用から業務委託に変わったから、いきなり仕事の仕方が大きく変わった、というのとも、ちょっと違うと思っています。
とはいえ、雇用されていた頃よりも縛られにくい環境にあることは確かなので、フリーランスになったことで、自分の職務に対して、合理的な行動を選択しやすくなっているとは感じています。
合理的な行動、というと?
私事ですが、例えばプロジェクト発足当初は、「社長から与えられた宿題をどうこなしていくか」という意識が頭の中心を占めていましたが、今では、「タニタ社にとって、より良い選択肢はどれか。選ぶべき道がなければ、それを新たにどう作るか」とか「日本活性化プロジェクトをタニタ社以外の会社で進めてもらうには、どうしたらよいか」を、主体的に考えていくようになってきました。
もともと、主体的に取り組んできたつもりですが、より一層、その傾向が強まったと自覚しています。というのも、プロジェクト推進に係るコストは、自分で支払うわけですから。
例えば、このプロジェクトの下で会社が個人に業務発注するためのシステムが必要だと思えば、自分で適切なものを探してきて、自分がライセンスを買って、タニタ社に紹介・提供する。
それをタニタ社が実際に使って評判がよかったら、次の契約更新の時に「社長、これだけ成果が上がっていますよ。その分報酬はアップしてもらえますよね」という話を持ちかけるわけです。
そうして投資(ライセンス購入費)をきちんと回収する。こんな動き方をしていくようになりました。
大切なお金だからこそ、判断も早くなります。これは必要な投資だなと思ったら、機を逃さずお金を出します。それと同時に、ひとつの判断に対して慎重にもなります。やっぱり、他人のお金じゃないわけですから(笑)。
なるほど。サラリーマンとは、全く違った意識になるわけですね。
他者に買ってもらうための、「売り物」を自分の手で作る、という意識に自然となっていきますね。
実際にフリーランスとして働いてみると、サラリーマンの意識ではいられないと、いやが応にも気づかされ、自然に意識は変わっていきます。そして、それを経験しないで、「あなたもフリーランスに!」とは言えないですね。
定量化できない、“人間っぽい関係性”が、仕事を回す
二瓶さんが担当されている事務系の仕事等は、客観的、数値的に評価しづらい面もありますよね。そういった中で、会社と報酬の交渉は難しいのではと想像しますが、コツのようなものはあるのでしょうか?
コツは人間関係ですね(笑)。
どんな仕事をしていても、私の仕事を見て、値段をつける権限を持っている人がいます。いかにその人といい関係を構築するか。誤解を恐れずに言うと、気に入られるかどうかはやはり大切ではないでしょうか。
定量的・客観的な判断が全て良くて、定性的・主観的な判断が全て悪い、というものでもないと思っています。もちろん、癒着のような関係性は絶対ダメですが。
ともあれ、主観的な好き嫌いも含め、うまく仕事が回るような関係性をつくることが、まずは重要なことだと、私は思っています。それができるようになれば、どんな職種でも仕事は回っていくはずです。
全て定量化したい気持ちもわかりますが、人間同士で進める仕事。それだけでは、うまく回らないことも多々あると思うんです。
「定量化できていない部分もあるけれど、いや、わかる! あなたのやってくれたことは、間違いなくどこかで生きているよ」と思ってもらえればいいわけです。
なるほど…! 話を伺っていて感じたのですが、いわゆる、世の中で言われているフリーランスや業務委託とは違い、御社のフリーランスは、括弧付きの『フリーランス』とでも言ったらよいでしょうか。なにか新しい『フリーランス』のかたちのように思います。
そう感じていただけて、嬉しいです。今の法制度に照らすと、私たちが提案している「会社と個人の新しい関係性」を表すものは、「フリーランス」や「個人事業主」という言葉になるわけです。でも、「日本活性化プロジェクト」で言うところの『フリーランス(個人事業主)』は、社員時代の弊社の業務を継続するので、ゼロから生粋のフリーランスとも明確に違います。
おっしゃる通り、「会社と個人の新しい関係性」の中で生まれた、新しいかたちの『フリーランス』なのかな、と思っています。
「日本活性化プロジェクト」の汎用化に向けて
最後に将来の話について伺いたいのですが、「日本活性化プロジェクト」を立ち上げてから次の汎用のステップに広げていくにあたり、課題や現在取り組んでいることなどはありますか?
まず、前提として、私は『フリーランス』の道を選択するのは、あくまでも、各人の自由意志によるものだと考えています。ですので、社員でい続けたいと思う人は、社員でいれば良いと思っています。
一方汎用化という文脈でいうと、省力化にチャレンジしたいと考えています。現在、フリーランス化に係る契約管理業務は私が全て担当しています。今のところ、マンパワーの都合でプロジェクトメンバーを募るタイミングは年1回ですが、本当は需要があれば、その都度、対応できるのが理想的です。
そこで、その契約管理にまつわる業務をできる限り自動化していきたいなと考えています。それが、今の課題ですね。
これがクリアできたら、それが汎用化への起爆剤となり、もしかしたら、他社にも、「日本活性化プロジェクト」の取り組みが伝播していくかもしれない─。そんな風に、夢見ています。
「日本活性化プロジェクト」の仕組みが、これから多くの企業の間に広がっていくとして、社員のフリーランス化について、具体的な目標などは設定されているのでしょうか?
私個人の予測では、今の世の中の建て付けでは、『フリーランス(個人事業主)』化は、社員の2割程度がマックスかなと思っています。ですが、世の中が急速に動いてきているので、2:8が逆転して、8割くらいが従来型の「雇用」から外れているというのが主流、そんな時代が早晩来るのではないかな、とも感じ始めています。
なるほど。
こうして日本活性化プロジェクトを牽引していく立場としては、『フリーランス(個人事業主)』が増える世の中づくりに少しでも寄与できたらいいなと思っています。
そのような思いから、最後に一言。もし、「日本活性化プロジェクト」のように本気でフリーランス化に取り組んでいきたいと興味を持ってもらえましたら、ぜひお声がけください。「株式会社タニタ」としてではなく、「ひとりのフリーランス」としてお伺いします!
まさに、括弧付きの『フリーランス(個人事業主)』ならではのお言葉で締めていただきました。本日は、貴重なお話ありがとうございました!
ありがとうございました。
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タニタの働き方改革事例(前編)
社員をフリーランスに。
「会社と個人の新しい関係性」を提案- 社員をフリーランス化し、雇用にとらわれない「会社と個人の新しい関係性」を提案
- 仕組み化のポイントは、業務内容と報酬の定義と契約期間
- 「タニタ共栄会」という互助の仕組みでフリーランスをサポート
今回協力して下さった企業様
株式会社タニタ
- 設立
- 1944年1月
- 本社所在地
- 東京都板橋区前野町
- 事業内容
- 家庭用・業務用計量器(体組成計、ヘルスメーター、クッキングスケール、活動量計、歩数計、塩分計、血圧計、睡眠計、タイマー、温湿度計)などの製造・販売
- 従業員数
- 1,200人(グループ)
- Webサイト
- https://www.tanita.co.jp/