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日本マイクロソフトの働き方改革事例(後編)

テクノロジーを良き友として、人間が人間らしくあれる働き方を

投稿日:2019-04-08  最終更新日:2019-04-08  取材日:2018-12-20

日本マイクロソフト株式会社が取り組んだ事

  • 「意思決定」と「コラボレーション」の場としてのオフィスづくり
  • 最新テクノロジーの利用による業務改善
  • 会社規模

    2,000人

  • 業種

    情報通信業

  • 対象職種

    全社員

前編では、日本マイクロソフトで「出社しない」という自由な働き方(制限のないテレワーク)が定着するまでについてお届けしてきました。

今回の後編では、さらに具体的にオフィスという場所の目的設定やデザインの方針などを伺うとともに、デジタル化が加速していく中でのワークプレイスや働き方の未来図についてもお話いただきました。

品川本社の様子。オフィスの「ショーケース」として、連日、多くのオフィスツアー客を受け入れている。

「コラボレーション」と「集中」をバランス良く実現するオフィス

品川に移転されて、この7〜8年の間に、オフィスの中身も変えていかれたんですか?

3〜4年前に、一度、中程度の変更はしています。

何を目的にした変更だったんですか?

先ほど申し上げたように、まず、残りの2つのオフィスを品川に集約させなければならなかったというのがあります。また、働き方が変わってきて、移転当初に用意したファシリティの機能が現在のニーズにマッチしなくなってきたという問題も浮上していました。オフィスの大掛かりな改変というものは頻繁にできるものではないので、改めて2拠点を統合するというタイミングに乗じて、品川本社のレイアウトも改めていこうということになった次第です。

具体的には、どういったところを変えていかれたんですか?

オフィスに出勤するニーズが縮小してきている中で、通常の固定席で働くというシーンの重要度も下がってきていました。そのような時に、オフィスにわざわざ出てくる理由には、大きく2つあると思っています。その1つが、「Face to Faceでコラボレーションするため」。そして、もう1つが、「集中して仕事をするため」です

コラボレーションと集中、ですか?

品川オフィス内には、コラボレーションを促す場所が随所に設けられている。

両極端のように聞こえるかもしれませんが、実際にその両側面のニーズがあるんですね。ですので、スペースが圧縮されていく中でも、できるだけコラボレーションのためのスペースを設置していき、なおかつ集中できる場所も適所に設けていきました

その両者の割合については、何か定めなどは設けていたんですか?

数字で表すようなものは、特に定めませんでした。通常のデスクをかなり制限して、それ以外のスペースを、様々な機能を持たせたエリアで構成しています。例えば、ミーティングルームフォンブースフォーカスルームと呼んでいる4人用の部屋。そして、ファミレスブース(ファミレス席)。あと、以前はブレイクルームというスペースもありました。

フォンブースとは:建材パーティションによって区切られた遮音性の高い集中ブース。吸音パネルが組み込まれているのでブース外への音漏れも小さい。

ブレイクルームというのは、要するに休憩室のようなものでしょうか?

そうですね。何台かのベンディングマシン(自動販売機)とテーブルが置いてあるだけのスペースでした。当初は、ここで何らかの交流が生まれることを期待していたのですが、みんな、ドリンクを取りに来るだけで、そのまま自席に戻っていってしまうんですね。そこで、ライブラリに作り変えました。このライブラリには集中スペースが併設してあり、部屋の間を音漏れ防止のために扉で区切っています。あと、モンゴルの草原で見られるようなゲルも設置しています。

えっ? ゲルがオフィスの中にあるんですか。

はい。これも、集中スペースにしています。

それは、面白いですね! ちなみに、全体的にフリーアドレスなんですか?

はい。すべてフリーです。電話会議用のディスプレイとホワイトボードは、部屋の大きさに関わらずどの部屋にも用意してあるので、どこでもミーティングを行える環境が整っています。ですので、ツールの有無など、設備面の条件に左右されずに、人数や目的、気分に応じて自由に部屋を選ぶことができます

まさに、ABW(※)を実践されているんですね。

ABW(Activity Based Working)とは:アクティビティ・ベースド・ワーキング。会社によって定められたオフィス・職場に限らず、ワーカーが自由に働く場所を選択することによって、その一人ひとりがよりクリエイティブな成果を発揮していけるよう促していこうという仕組み。

どこでもオフィス

「コラボレーション」と「集中」というニーズを受け止め、出社の意義があるオフィスをデザインしながら、一方で、「出社しない」という選択肢も用意している─。御社は、「集約するオフィス」と「分散するオフィス」のハイブリッドとしての道を歩んでらっしゃるように思えます。

集約された拠点地であれ、それぞれに分散したテレワーク先であれ、当社の場合は、「どこであっても働ける」というのが認められていないと、もはや業務が回っていきません。要するに、どこでもオフィスなんです。本社はもちろん、ホテルもオフィス、家もオフィス、移動中もオフィス。モバイルツールがあって、ネットワークさえ繋がっていれば、どこでも仕事ができてしまうので。

そうすると、「ワーケーション(※)」もOKということでしょうか。海外に旅行中であっても…。

ワーケーションとは:「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」からなる造語。働く場所の制限をなくし、旅行先などでの仕事も認める新しいテレワークの形として注目を集めている。

はい、問題ありません。

労働時間はどのように管理されているんですか?

労務管理に関しては日本の法制度に則らなければならないので、勤怠管理はもちろん行っています。ただし、全て自己申告です。働く場所については申告の必要はなく、働いている時間のみ申告してもらっています。

「変えていく」ではなく、「変わっていく」を促す

喫茶店や図書館、公園など、様々な場所で働ける環境が整いつつある中、これからのワークプレイスは「分散」していく流れが加速化していくのではないかと良く言われているのですが、こういった点についてはどうお考えになりますか?

分散するにせよ、集約するにせよ、どのようなワークプレイスを選択するかは、会社に依るでしょうね。もちろん、個人で選ぶ部分も非常に大きくなっていますので、一概には言い難いところですが。とはいえ、職場の実態に基づいて、従業員が自身のニーズに合致する働き方を実現していけるように、会社が背中を押してあげるというのが、ひとつの正しいやり方なのかなと個人的には思っています。「こうしなさい」と上から強制されても、人間はなかなかその通りには動けないものだと思いますので。

なるほど。おっしゃる通りですね。

ずいぶん昔から、営業の直行直帰ってありますよね? なぜ「直行直帰」というものがあるのかというと、それはつまり、その働き方が効率良かったからなんです。そして、昔から、多くの会社は直行直帰を認めてきました。その解釈を、ちょっと広げてあげるだけの話です。ある働き方が合理的だと認められるのであれば、それを支えるように会社が動いていく。それこそが、働き方が変わっていく流れなのかなと思います。変えていく」ではないんですよね。あくまでも、自然な文脈に沿って「変わっていく」ということです

そうなると、やはり、働く人のマインドがどう変わっていくか、ということも大切になってきそうですね。

そうですね。でも、働く人のマインドはすでに変わっているように感じています。今の働き方に違和感を覚えている人は、実はいっぱいいるのではないでしょうか。長時間労働が社会問題化していき、「残業を減らす」ということがお題目のように叫ばれていますが、「なぜ残業が多いのか」という根本的な問題を掘り下げてないケースが多いように思います。

現場の望みを無視して上から一方的に「残業を減らせ」と号令をかけ、一時的に残業時間を減らしたとしても、それは一過性の見かけの上だけのことです。遠からず、そのしわ寄せはどこかにきてしまう。そして、結局、みなが心から望んだ状況とは遠くかけ離れた環境が残されてしまう、と。

たしかに、そうかもしれませんね。

「ペーパーレス化」とか「残業時間の削減」とか、これは単なる“結果”の話です。結果的にそうなっただけ。つまり、紙を使わなくて済む状態になったから、自然と紙が減っただけ。残業しなくても業務が回せる環境が整ったから、残業しなくなっただけ。環境や条件が整っていない段階で、お題目だけ実現させようと思っても、またすぐに元に戻るものだと思います

持続可能性に対してコミットするマイクロソフトの本拠地(アメリカのワシントン州レドモンド)。

これからの働き方について─、人間が人間らしく生きるために

今後、AIや自動運転など、加速度的に様々な変化が起こってくると言われています。そのような中で、これからの日本での働き方、あるいは、ワークプレイスは、どのように変化していくと思われますか?

多分、それは、誰にもわからないことだと思います。ITの世界は特にスピードが速く、1年後くらいは何とか予想がつきますが、3年後は正直わからないですね。今、みんながスマホを使っていますが、3年後には、スマホというものは時代遅れのデバイスになっているかもしれません。パソコンも今のような形態を保っているかどうか、あやしいところです。場合によっては、メガネのような形状になっているかもしれません。

なるほど。そう考えると、デジタル時代のスピードの速さには圧倒されてしまいますね…。AIが人間の仕事にどんな影響を及ぼすか、そんなところも気になります。

私たちはもう、AIと一緒に仕事をしています。気付かないうちにも。

例えば、Siriとか…?

健全なワークライフバランスの構築を後押ししてくれる「MyAnalytics」。

Siriはまだまだ端っこの方ですね。あれは、マシンラーニングの世界に近いですけど。実際に当社の業務の分析などは、AIが行っているんですよ。例えば、身近なところで言うと、営業のフォーキャスト(購入予測・見込み情報)の取得の際などにも使われています。Office365には「MyAnalytics(マイ アナリティクス)」というツールがあらかじめ入っていて、ユーザーの働き方を分析してアドバイスまでくれるんです。「ミーティングが多すぎるようです」、とか(笑)。

それは頼りになりますね(笑)。それにしても、売り上げ予測とか、そんなところまで、もうAIでカバーできているんですか?

はい、できています。もう、そういう時代なんですね。「AIに仕事を奪われる」というような言説をよく耳にしますが、私はそうは思いません。「人間がしなくて良い仕事をAIにしてもらって、人間は人間にしかできない仕事をしましょう」と、AIというテクノロジーを好意的に受け止めています。AIでなくても、人間の仕事を引き取った過去のテクノロジーはたくさんあります。そこで人間の手から離れていった仕事は、そのタイミングで離れていってしかるべきだったんです。仕事を機械にやらせて、人間が疲れなくなりミスも減るのであれば、やらせた方が理に適っています。

これは、完全に私見ですが、ひょっとしたら、人間は仕事をしなくて済むようになるかもしれません。「労働的なもの」という意味での「仕事」ですね。そして、例えば、もっと芸術的なことですとか、もっと創造的なものに時間を費やす、といったような、人が心から欲することに時間を使えるようになる。そういう選択肢がより豊かに生まれていくのが、これからの世界なのかな、なんて気がしていますね。

そうなったら、本当に素敵ですよね。

AIやテクノロジーが人間の仕事(≒生きがい)を「奪って」しまうんじゃない。むしろ逆で、「サポートしてくれる」。そう考えていった方が良いんじゃないかと思います。

AIやテクノロジーが人間の仕事(≒生きがい)を「奪って」しまうんじゃない。むしろ逆で、「サポートしてくれる」。そう考えていった方が良いんじゃないかと思います。

そうですね。オフィスという括りの中だけで考えるのではなくて、公園や自然など、もっと多様なアメニティへも意識を傾けていけると良いと思います。

あとは、サスティナビリティ(持続可能性)への取り組みでしょうか。そこは、日本は非常に遅れているので。例えば、マイクロソフトの本拠地があるアメリカのワシントン州レドモンドには180くらいのビルが密集しており、ひとつの「街(キャンパス)」を形成しているのですが、そこは、ゼロ・ウェイスト(排出ゴミ・ゼロ)」に取り組んでいるんですね 。水やエネルギーなどをリサイクルし、地域社会や地球の持続可能性にコミットしています。私たちも、そういった取り組みを、一種の「義務」として考えていかなければならないのかなと思っています

この事例と同じシリーズの事例

今回協力して下さった企業様

日本マイクロソフト株式会社

設立
1986 年
本社所在地
東京都港区港南(品川グランドセントラルタワー)
事業内容
ソフトウエアおよびクラウドサービス、デバイスの営業・マーケティング
従業員数
2,166名(2018年7月1日現在)
Webサイト
https://www.microsoft.com/ja-jp

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