創業30周年を目前にした2017年12月。エイベックス株式会社の新社屋が南青山に誕生しました。それは自社ビルの建て替えにとどまらない、社内の構造改革と働き方改革をも同時に一新する大掛かりなプロジェクトでした。エイベックスを語る上で欠かせない、現会長・松浦勝人氏のカリスマ的存在。今回の働き方改革も松浦会長のトップダウンで始まったものでしたが、現場はどのように制度や運用に落とし込んでいったのでしょうか。CEO直轄本部 戦略人事ユニット 小川様にお話を伺いました。
INDEX
トップダウンで行った改革
まず最初に、働き方改革が始まった経緯からお聞かせいただけますか。
実は働き方改革単体でスタートしたのではなく、会社全体の構造改革が2015年の11月から始まりました。
当時はエイベックス自体が変化しなくてはならない状況にあり、組織構造、人事制度、風土を三つの軸として社内の改革に取り組んでいました。また同時期に老朽化した自社ビルの建て替え計画も動いており、働き方改革という言葉をよく聞くようになったのもその頃でした。
構造改革の一環として、働き方改革や新オフィスプロジェクトがタイミングよく一緒に始まったのですね。
そうですね。そして、改革を始めるにあたって大きかったのがブランドロゴとタグライン(企業理念)の刷新です。
今年で創業30年になるんですが、社員数約1,500名の大所帯になり、社員へのマインド浸透がだんだん難しくなっていました。
そこで、「エイベックスってこういう会社だよね」というマインドセットを改めて統一すべく生まれたタグラインが「Really! Mad+Pure」というフレーズです。
世の中に「おかしいんじゃないの?(Mad)」と思われることも純粋(Pure)に追い求めて世の中に驚き(Really!)を届ける、という意味で、構造改革も働き方改革も、すべてこの理念に基づいているんです。
確かに、今日もエントランスを入ってからここに来るまでに「Really! Mad+Pure」のフレーズを何度か目にしました。
オフィス設計に関しても理念の浸透を踏まえて、常に意識できるようにという思いからタグラインのモチーフを点在させています。
企業のメッセージを働く場所に強く反映させて社員にも理念を浸透させる、という最近のオフィスづくりのトレンドを実践していらっしゃると感じました。
そうですね、メッセージの発信は大事だと思います。当社の場合は、当時の社長(現会長)が大旗を振って、改革や施策を自ら発信し社員に落とし込んでいったのが大きな流れでした。そこで、フレックスやテレワーク、オフィス環境をセットで実施できたのは、本当にタイミングが良かったですね。環境と制度が同時に整って、最終的に柔軟な働き方が生まれていきました。
改革にあたってプロジェクトチームを組まれたそうですね。
会社全体を横軸で見るべく2017年4月にグループ戦略室が発足し、その中に私が所属する
戦略人事ユニット が立ち上がりました。ここでは会社の未来を見据えて、経営と対になって経営戦略に基づいた人事戦略を考え、実行しております。
社員活性化の文脈として、戦略人事と総務が組んで、社員がいきいき働ける環境や制度を整備するオフィス改革プロジェクトが始まり、一方で戦略人事とは別で採用や研修、労務管理などを担当している人事本部や、経営企画本部と組んで、人事制度改革・働き方改革プロジェクトがスタートしました。
それぞれのプロジェクトチームは何人位だったんですか?
オフィス改革プロジェクトも人事制度・働き方改革プロジェクトもそれぞれ5~6名ですね。
少数精鋭で意思決定のスピードを上げ、トップダウンで行えたことがスピード感につながったと思います。
オフィス改革プロジェクトでは、社員へのヒアリングはあえて行わず、コアメンバーのみで意思決定をしていきました。
トップダウンの弊害として、後から不平不満が出るケースもありますが、そのあたりはどうでしたか?
弊社の場合は、良くも悪くも、トップの松浦へのリスペクトや信頼が大きな要因でもありましたが、
抵抗はほとんどなく、総じてポジティブな反応が多かったですね。
変化の途中で意見は出てきますが、それでも総じて肯定的です。
少しずつ社員の反応を見ながら変えるのでは様々な意見が出すぎてしまい、困難です。
なので、トップダウンで一気に変えたのは結果的に良かったと思います。明確にトップがコミットし、何のためにやるのかを社員へ直接伝え続けていきました。やはりトップのコミットが現状の成果に繋がっていると思います。
実行した結果、変更や修正した部分はあるんですか?
現時点で大きな変更はあまりないですが、強いて言えば評価や報酬などの人事制度周りでしょうか。
世の中のトレンドや会社の経営方針、働き方もオフィスも物凄く変わったので、それに完璧に合う人事制度は一度の改革では完成しませんでした。ここは都度現場からの意見なども聞きながら何度かブラッシュアップしていきました。フリーアドレスも、行ったからこそ固定席であったときのメリットも分かってきたので都度運用を検討していくつもりです。
でも全てに通じるのは、やるのをためらうより、やってみてダメだったら変える方が大事だと思います。
コミュニケーションを促進するフリーアドレス
全社員がフリーアドレスですか?
基本的には全員です。現時点では座席数に対して満員にはならずに運用できています。
フリーアドレスは皆さん関心が高くて、よく問い合わせを受けます。ただ、一律に導入して上手くいかなかったケースも多いようです。
それでも一気にやらないと難しいと思います。固定席で働いている人に、「固定席とフリーアドレスどっちがいいですか?」と尋ねれば、「固定席がいい」という答えが返ってくるのは当然です。社員から懸念も絶対出てきてしまうので。しっかりと目指すべき会社のあり方やオフィスのあり方をブレイクダウンさせ、一回やってみてどうなのか検証する。
フリーアドレスにして良かったのは、コミュニケーションの場面が増えた事ですね。
当社では、部門を横断してプロジェクト制を組むことが多いんです。そういう時に「今日はここに集まってやろうか」と簡単に集まってミーティングするなどコミュニケーションがしやすい環境になりました。職種にも拠ると思いますが、当社にはハマりましたね。
逆に、フリーアドレスで不都合な所はあったりしますか?
部門としてチームで働くところもありますが、チームで固定化された座席があるわけではないので、一体感が少し薄れたという意見もあります。
あとは、一部集中フロアにこもってしまうなどでコミュニケーション不足の恐れもあったりします。
でも、全て運用の問題なのでフリーアドレス自体のネガティブ要素はあまりないですね。
チャットツールみたいなものは使っていますか?
Slackを使っています。あとは、全社員に社用携帯を配備しており、社内Wi-Fiに繋いでおくことで、オフィス内に誰がどこにいるかもすぐ分かるようなアプリも入れております。
場所も連絡先も分かるから何のストレスもなく動ける、と。
誰がどこにいるかパッと見では分からないので、探す手間に対して多少ストレスはありますね。
ですから、部署によっては「何となくこの辺りにいようね」とゆるく決めている所もあります。
それは全然アリで、ローカルルールで良いと思っています。
今後はシナジーを起こすべく、例えば連携すべき部門の場所を大まかにまとめたりしてデザインする事なども検討しています。
スキャンサービスでペーパーレス化を後押し
業界的に書類が多いイメージがありますが、ペーパーレス化に苦労はなかったですか?
トップからも含めて、明確にペーパーレス化の推進を発信しました。更にロッカーが小さいのでキャパが決まっていますし、退社時にはデスクをきれいにして帰らないといけないので、苦労というよりせざるを得ない状況ですよね。ただ、それだけではかわいそうなので紙資料をPDF化するスキャンサービスを入れたり、会議などで紙資料を使用しなくてもよい方法をレクチャーするなど、サポート体制はしっかり整えました。
ペーパーレス化はすんなり馴染みましたか?
はい。元々、紙があっても使っていなかったんだと思います。
ネット閲覧で済んだのに紙で持っておくと何となく安心感がある的な。やってみることがやはり重要ですよね。
順応が早いですね。社員の平均年齢が若いからでしょうか?
平均年齢は40歳くらいですが、世の中のトレンドには敏感な社員も多く、さらに全社ごととして行ったことで上手く順応してくれていますね。
もともとICT環境が整ってたからこそ、フリーアドレスを導入できたんですか?
むしろ逆です。導入するからこそICT環境を整えないといけないよね、という流れでした。元々導入されていたものもありましたが、新しく導入するものも含めて、このタイミングでしっかり活用されるように勉強を開催したり、問い合わせ窓口を徹底したりなどしていきました。
トップダウンゆえのスピード感に戸惑うことも…
一連の改革で大変だった点はどんな所でしょうか?
トップの強いメッセージは心強い一方、同時にスピード感も求められました。
せっかく新しいオフィスがあっても制度自体が古いままなら意味がないですから。
オフィスと制度が掛け算で相乗効果を生み出すために、早く土台を作って運用も回さないといけない。
でも、こだわりたい部分などがある一方でスケジュール感がタイトで…というのが苦労した点ですね。
社員の反応はいかがでしたか?
中途半端じゃなく正確にガッツリ一気に変えたので、社員も戸惑うところはあったと思います。
世の中の働き方の急な変化に対して、以前までは定時時間、固定席といった基本的な働き方であったので。
定時で働くやり方が染みついていたのを一斉に変える難しさはありませんでしたか?
本来は難しいと思うんですが、それでも一部でトライアルした以外は一斉にやりましたね。
定時といいつつも、スタートが15時で終わりが深夜なんていう現場もざらにある業界です。
ただ、正式にはフレックスとは明言していなかったんです。
今はコアタイムなしのフレックス制となっており、毎日の業務推奨時間が8~19時ではありつつも、月の所定労働時間の中で自由に働くルールにしたことにより、かなり柔軟に働けるようになりました。
「子どもの迎えで夕方に退社します」、「ライブを観に行くので早めに切り上げます」というのも全然アリです。そういう事を公然としてできるようになったのは、仕事のやり方としても効率が良いし、社員のモチベーションが上がったかなと思います。
上司と部下の関係を深める1on1を重視
御社ならではのマネジメントのルールなどはありますか?
上司と部下のコミュニケーションを促し、関係値をより深め、社員の成長のための時間という観点から1on1を導入しました。
月に一度実施のルールでやっています。1on1を重ねるにつれてお互いの信頼度も業務効率も上がって、その流れで評価や管理も納得感の行くものになっていきました。また部下のキャリアについて議論を重ねていくことで、育成という観点でも有効な施策となっています。
その他に導入した制度やルールはありますか?
例えば、経営陣で抜擢やローテーション、次世代リーダーに関して議論する「人材開発会議」や、360度フィードバックなども改革以降に始まったことです。
評価に関しても、面談を年に2,3回行う程度で決定するという納得感を高めることが難しかったんです。だからこそ、現在は1on1では評価の話もなるべく継続的にしてもらっています。
新しい風を呼び込むコワーキングスペースをオープン
自社ビルの中にコワーキングスペースがあるとお聞きしました。
2Fの「avex EYE」ですね。コワーキングスペースとインキュベーションスペースの真ん中くらいの位置づけで、スタートアップ企業やクリエイターなどが多数入居しています。
基本的に賃料は無料で、永続的ではなく数年で卒業してもらうかたちです。
主にはエイベックスとのシナジー創出を期待し入居をしてもらっておりますが、コミュニティマネージャーが入居者とエイベックス社員とを橋渡しする役割を行い、実際にいくつかの事例もでてきております。
社員もコワーキングスペースで仕事することもあるんですか?
基本的に通常業務を行う場所とはしておりません。「avex EYEにはこんな人材がいますよ」と共有をしているので、気になる企業やクリエイターがいれば、自らavex EYEに出向いたり、コミュニティマネージャーを通じてコラボレーションに発展するケースもあります。
場所と仕組みが上手くリンクしていますね。
弊社も30年前は彼らと同じスタートアップ企業だったわけで。会社が大きくなるに連れて、色々な人と出会い育ててもらった経験があります。だからこそ、今度は自分達が若手を育ててあげたいし、そこで相乗効果が生まれたら更に良いな、という思いがあります。
フリーアドレス席以外は、どんな用途のスペースがありますか?
特に17階の社員食堂「THE CANTEEN」は引力のある造り(人が自然に集まる場)になっていて、ここで仕事をしたり、イベントをしてみたり、またデザイン性のある会議室フロアや、業界ならではですがレッスンスタジオや映像スタジオなどもございます。全体的にコミュニケーションを促すような環境になっていますね。
最後に、現状の課題や今後の構想がありましたらお聞かせください。
これまでの多くの制度導入を経てきたので、これからはそれぞれの目的がブレないように運用のフェーズに
入っていきたいです。オフィス自体も完成形ではありませんから、世の中のトレンドや会社の方向性との掛け算で今後どうしていくか課題もまだあります。それと同時に、導入したい制度はまだあるので、トライ&エラーを繰り返しつつ取り組んでいきたいと思います。
本日はお忙しい中どうもありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
今回協力して下さった企業様
エイベックス株式会社
- 設立
- 1988年4月11日
- 本社所在地
- 東京都港区南青山三丁目1番30号 エイベックスビル
- 事業内容
- 音楽事業、アニメ事業、デジタル事業、その他事業
- 従業員数
- 1,440名(グループ連結、2018年3月31日現在)
- Webサイト
- https://avex.com/jp/ja/