日商エレクトロニクスは、2018年1月1日、同じ双日株式会社の連結子会社である双日システムズと合併しました。合併後の最初の一年、存続会社となった「日商エレクトロニクス」には、クリアすべき喫緊の課題がありました。
それは、スムーズに両社の意思統一を図り、“新しい日商エレクトロニクス”として最適な働き方改革を推進していくこと。
合併後の新体制の中で、新しく生まれ変わった日商エレクトロニクスは、今、どのような働き方改革に取り組んでいるのでしょうか。コーポレート本部・人事総務部の部長・渡邉仁志さんにお話を伺いました。
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“本当の意味でのフリーアドレス化”を目指して
「今日は、どうぞよろしくお願いいたします!」
「はい、よろしくお願いいたします」
「それでは早速お伺いしますが、合併後、かなり環境が変わったと思いますが、具体的にどのような働き方改革に取り組んでこられたのでしょうか」
「そうですね。わかりやすいところで言うと、6階フロアのレイアウト変更を大々的に行った、というところですかね。これは2018年7月19日に実施したものですが、全社員が使えるコワーキングスペースを用意しました」
「全社員ですか!」
「はい。これによって、在席率は外勤者で40~50%、内勤者で65%~75%と、以前と比べて確実に下がってきています」
「社内の流動性が着実に上がってきているんですね」
「はい。自由に使える席はあるけどただそれだけという、フリーアドレスという名ばかりのフリーアドレスではなく、本当の意味でのフリーアドレス化を推進していきたいんです」
「本当の意味での、というのは?」
「はい、“ただ席が固定されていない”という意味でのフリーアドレスではなく、“ちゃんとした定量的・数字的な根拠、ソースを背景にフリーアドレスというレイアウトを設計していこう”、ということです。今までは、フリーアドレスのレイアウトを組むといっても、レイアウト担当者が実際に目で見て、人気のあるエリアとそうじゃないエリアを把握し、レイアウトの根拠としていたのですが、そこは、やはり人間のやること。感覚的な主観も入りますし、現状把握の漏れも出てきてしまいますよね」
「なるほど。定量的なソースを根拠にしてレイアウトしてこそ、“本当の意味でのフリーアドレス化”が果たされる、ということなんですね」
「はい、そう思っています」
動態の“見える化”こそが、最良のレイアウトへの第一歩
「やはり、何らかのシステムを導入していくのですか?」
「そうですね。全社員に、そのシステムが入ったスマートフォンを持たせるか、ビーコン(※)を持たせるか、なのですが、スマートフォンのシステムを全て入れかえるのはコストがかかりすぎるので、ビーコンを導入する予定です(2018年8月 現在)。そうして、会議室や執務室など、オフィスの各所にセンサーを立てておき、ビーコンを通して、どこに人がいるのかが可視化されたヒートマップを取得していきます。そのヒートマップを見ながら、場所ごとの利用頻度を把握していき、このレイアウトだと人が集まりそうだとか、逆にヒートじゃないエリアもわかるので、その部分に関しては思い切って無くしてしまうだとか。そんなふうに活用していくつもりです」
※ビーコン(beacon)とは、のろし、灯台、交通標識といった意味を持つ単語だが、現在では、無線技術、主にBluetoothの信号を使って情報を発信する伝達手段(あるいは、端末)のことを言う。航空機や船舶の誘導、道路交通情報の発信などに利用されるほか、雪崩の際に被災者の位置情報を伝える「雪崩ビーコン」というものもある。
「なるほど。使われていないなら、不要じゃないか、と」
「はい。どうしても、あるエリアや設備を無くすと言うと、『いやいや、使ってるよ』と反対する人もいるのですが、全社員の動態が記録された客観的なデータを見せれば、納得してもらえるんじゃないかと思っています。ほら、使ってないでしょ、と(笑)」
「あはは、なるほど。説得力十分ですね」
「そういう形で、オフィスの使用実態を“見える化”していく仕組みを構築していくことで、利用率の高いオフィスを実現していきたいと考えています。ですので、今は、フリーアドレスと言いながらも、各人で勝手に席を定めるということは行っていません。まずは、ちゃんと数字に裏打ちされたレイアウトを実現してから、ということで」
「こういった取り組みは、このビルだけでのことなんですか?」
「はい、まずはこの本社ビルから始めていきます。そして、ここから得られた知見をもとに、今後、この動態把握の仕組みを全社的に横展開していきたいと思っています」
フリーアドレス環境下で大切なのは、位置確認と簡便なコンタクト
「こういった動態把握のシステムですが、レイアウトの参考データが取得できるだけでなく、社員の位置情報も確認できるので、実際の日常業務の中でも非常に重宝しそうですね」
「そうそう! そうなんですよね。現在、さらに検討していることがあるんです。例えば、このシステムを活用すれば、社員Aの名前を入力するだけで、『Aさんは、今、6階の○○にいます』と、すぐに教えてくれるわけです。Aさんが社内にいる場合は、そこに足を運べば良いですよね。でも、問題は社内にいない場合です。そういった不在時に、電話するのか、メールするのか、Slack(スラック)やZoom(ズーム)などのビジネスチャットを立ち上げるのか…」
「はい。色々、取り得る選択肢がありますよね」
「そうです。現在地を見つけてくれることに加え、探している人と繋がるための“もうワンアクション”を促してくれるのがベストだよね、と。そうすると、在宅勤務やサテライトオフィス勤務をしていて社内にはいない、というような場合でも、容易に連絡をつけることができるようになります」
「なるほど」
「フリーアドレスだと、その流動性の裏返しで、すぐ目の前にその人がいないと連絡が取りにくいといった問題も生じてきますが、このシステムが整えば、そのような問題は解決できるなと思っています。その追加開発を、今検討している段階です」
「では、完全に御社のオーダーメイドシステムを導入するということですか?」
「はい。なかなか、要求のすべてを満たしてくれる既存のシステムってないんですよね。だったら、自社で開発しちゃおうか、と(笑)。“コンタクトを取る”という目的を果たすには、昔でしたら、何も考えずに『電話』だったわけですが、電話には相手の時間を奪うというデメリットがありますよね」
「はい。確かにそうですね」
「急ぎの連絡でなければ、電話で話さなくとも大抵のことはビジネスチャットで十分なんです。フリーアドレス環境下で大切なのは、位置確認と不在時での簡便なコンタクト。これも、ひとつの解かなと思っています」
「なるほど〜」
「さらに、このシステムでは、ヒートマップの把握だけでなく、動線チェックもできるので、社員一人ひとりの活動量も測ることができます。部署をこえて活発にミーティングする社員の方が、デスクからあまり動かない社員よりもパフォーマンスが高いのか? 業務内容に適した場所に移動した方が効率は上がるのか?など、行動分析と効果測定にも繋げていけたら良いかなと思っています」
働き方改革を加速させる「仮想デスクトップ」
「当社は、『仮想デスクトップ』という、在宅勤務やテレワークなどの推進をサポートするシステムを展開・販売しているのですが、働き方の改善が求められる現実に直面して、現在では自社でも、この『仮想デスクトップ』を活用しています」
「何人くらいの社員さんが実際に使われているんですか?」
「殆ど全社員が使っております。」
「それは、かなりの数ですね」
「2014年に取り入れて以来、今や、業務上欠かせないプラットフォームになっています」
トップの決断をきっかけに―、残業時間削減への取り組み
「お話いただいてきたように、『定量的なデータに裏打ちされたフリーアドレス化』と『仮想デスクトップの活用』という2本柱で進めておられる御社の働き方改革ですが、その取り組みのきっかけについて教えていただけますか?」
「はい。2013年に社員が連続的に辞めてしまい、そこから1、2年の間、特に人手不足で社員の残業時間が増加した、という時期がありました。そんな時に、当時の社長から次のように言われたんです。『残業時間が増えているのは社員の健康にもよくない。だから、働き方改革を本気で行っていこう』と。そのトップの一言がきっかけですね。ちょうど私が人事総務部長になった、2014年のことでした」
「なるほど。トップの決断がスタートだったんですね」
「はい。残業問題に関する取り組みでいうと、例えば、2014年以前にも、水曜日には『ノー残業デー』というのを実施してはいました。残業せずに帰宅するようアナウンスする、などしていたのですが、それでも、ほとんどの社員が残業をしていました。ところが、2014年からは、がらっと状況が変わりました。トップの強い想いを背景に、ある種の強制力を働かせて17時45分には『蛍の光』を流すとか(笑)」
「あはは」
「さらに、そのフロアで一番上役の人が最後に帰宅する、というルールを設けて社員の退社を促し、18時に人事部が見回りチェックを行う、というようなことも徹底して実施しました。最初の1ヶ月間は、みんな、ブーブー言っていましたよ(笑)」
「あ、やっぱり、そうなりますよね(笑)」
「でも1ヶ月経ったら、見回りしなくても、みんな、さっと帰るようになりました。トップの強い意志を追い風に、最初の1ヶ月間に、とにもかくにも“習慣”をつけるということが大事なんじゃないかなと思っています。今では、水曜日の定時過ぎにオフィスに残っている社員は、ほとんど誰もいないですからね。できちゃうもんなんですね(笑)」
「本当に徹底されていますね!」
「ノー残業デーと口では言っても、誰かが残っていると帰れないんですよね。でも、みんなが一斉に帰っちゃうんだったら、業務上、残っていても仕方ないですから。なので、上長の号令のもと一斉に帰る、というのは良かったんだと思っています」
トライアルのためのモデル組織
「ちなみに、新しいことを始める際には、取り組みに前向きな人たちを集めて『モデル組織』を作り、トライアルを行っています」
「なるほど、しっかり検証を重ねる場を設けているんですね」
「はい。サテライトオフィス勤務や在宅勤務も最初は全社員が対象ではなく、この『モデル組織』から初めてみたものなんです。このトライアルを経て、2017年度から、全社で在宅勤務を導入。サテライトオフィス勤務も2016年からスタートし、御社の『ちょくちょく...(現:ZXY)』も使わせてもらいながら…」
「ありがとうございます!」
「小規模にトライアルして、そこで高い評価を得たら、全社で展開していくという流れです」
「すごく合理的だと思います! ちなみに、このトライアルから誕生したものには、残業やサテライトオフィス勤務、在宅勤務などの諸制度の他には、どういったものがあるんですか?」
「働き方改革に関わるもので言うと、 “ライフプランにあった様々な制度”ですね。例えば、『育児時短制度』や、一度辞めても数年後にもう一度帰って来られる『復職制度』とか。あとは、“意識改革やキャリアアップに関わる研修のあり方”なども。以前では会社が用意した研修を当てがわれるばかりだったのですが、今では自分で受けたい研修を自分で選択しながら、キャリアプランを自主的に組み立てていけるようになっています」
日商エレクトロニクスの働き方改革[後編]:「適業適所」を実現し、イノベーションを創発する会社であるために に続く
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今回協力して下さった企業様
日商エレクトロニクス株式会社
- 設立
- 1969年2月24日
- 本社所在地
- 東京都千代田区二番町3-5 麹町三葉ビル
- 事業内容
- 情報通信設備、IT基盤をはじめとする国内外の最新鋭ソリューションの提供、ならびにそのシステム構築、保守、運用、監視などのサービスの提供。
- 従業員数
- (連結)1,059名 (個別)811名 (2018年3月31日現在)
- Webサイト
- https://www.nissho-ele.co.jp/