INDEX
- 1. コロナをきっかけにテレワークとオフィス再編が始動
- 2. 経営層の覚悟を発信、コロナ禍でも次々と進んだ変革
- 3. 出社率7割、テレワーク3割を補完するため、自社サテライトを4拠点開設
- 4. 「フリーアドレスができない」なんて言わせない!工夫を重ね課題に対処
- 5. アフターコロナを見据え、ウェルビーイングとワークライフバランスの実現を目指す
- 6. モデルオフィスで未来の働き方をテスト運用
- 7. 質疑応答
- 7-1. ■オフィスを見直したいが、マーケットの動きが激しくタイミングを計りかねている。賃貸オフィス市場はいつごろ落ち着くのか?
- 7-2. ■オフィス面積の効率化にあたり、座席数の設定率に悩んでいます。配席率の指標や目安はありますか?
- 7-3. ■日本工営様は「出社7割、テレワーク3割。配席率65%」とおっしゃいましたが、その割合は何を根拠に決断されたのですか?
- 7-4. ■テレワーク推進はどんな体制で取り組みましたか?社内PJチームのようなものを組んだのでしょうか?
- 7-5. ■体操や自己紹介カードの他にもコミュニケーション促進の施策があれば教えてください。
- 7-6. ■「どんな時にサテライトオフィスを使えばいいのか分からない」と言う社員がいます。なにか利用促進のためにしていることはありますか?
- 7-7. ■移転後の効果検証はどうやっていますか?
- 7-8. ■FAが不向きな職種もあると思いますが、経験上いかがですか?
- 7-9. ■テレワークの推進や配席率削減などの意思決定は、トップダウンで始まったのですか?それとも、網谷様はじめ推進会から経営陣へ働きかけたのですか?
登壇者
日本工営株式会社
経営管理本部 総務・管財部長網谷治 氏
1993年入社後、保有資産の再開発・オフィス変革から人材育成まで幅広く担当。グループ会社再生の一環として新本社建設による拠点集約とワークスタイル変革を推進し、第21回日経ニューオフィス賞中部経済産業局長賞受賞に貢献。現在、ワークライフバランス推進員会事務局としてWith/Afterコロナにおけるワークスタイル・ワークプレイス変革を推進中。
コロナをきっかけにテレワークとオフィス再編が始動
組織風土を一言でいえば“使命感に溢れる技術者集団”。仲間意識が強く、人間味あふれる社員が多くいます。
逆に言えば、プロ意識が強いがゆえに人から何か言われるのを嫌い、納得してからでないと動かない。
個々の専門性が強いがゆえにいわゆるタコつぼ化と言われる個別最適にも陥りやすい、トップダウンもボトムアップも効きづらい組織だと認識しています。
そういった組織の中で、一連のワークプレイス戦略をどのように進めていったのかを、お話したいと思います。
折しもコロナ前は新社屋完成という一大イベントを目前に控え、移転モード真っただ中でした。当時は100%出社が前提で、在宅勤務は限られた一部の社員だけのもの。サテライトオフィスなどの利用はしていませんでした。そこに突然コロナが襲来し、半強制的に在宅勤務に突入しました。2020年5月に予定していた本社移転も7月に延期せざるを得なくなりました。
(写真左)移転前の日本工営本社ビル(右)2020年1月に完成した新社屋※写真は建設途中のもの
急に始まった在宅勤務ですが、意外にも上手く行きました。理由としては、元々、業務が専門細分化されていたこと、
現場作業や国内外出張多いことからソロワークの素地があったものと思われます。
これを契機に、テレワークの推進とオフィス再編の意思決定が役員会でなされました。
具体的には、
①テレワークを推進し、創出されたオフィススペースを有効利用して収益貢献すること
②将来的には出社7割、テレワーク3割を実現。テレワークを補完するためサテライトオフィスを設置すること
③フリーアドレス(以下、FA)推進で面積効率化。1年後に、外部で借りているオフィスを解約し新本社に集約すること
を大方針として一気に取り組みを始めました。
経営層の覚悟を発信、コロナ禍でも次々と進んだ変革
①サイドワゴン廃止、完全FA宣言
FAに対応するため、一人一台設置するはずだったサイドワゴン約2,000台をすべて、パーソナルロッカーへ変更しました。また、FAを浸透させるために、旗振り役として事務局(経営管理部)が完全FA宣言を社内で宣言。禁止六か条(下図)を自らに課して今も実行しています。
②トップメッセージを発信。覚悟を示す。
経営陣の覚悟を示すべく、各部門のトップから「当社らしい働き方のメッセージ」を、そして、経営会議直下の“ワークライフバランス推進会”の担当役員から「当社における今後の働き方の方向性とテレワーク推進の基本方針」を社内へ発信しました。
③制度・運用ルールの整備
ワークスタイル変革を下支えするため、マニュアル、労務管理、時間管理、テレワーク費用補助、人材育成、研修などにも順次着手していきました。
出社率7割、テレワーク3割を補完するため、
自社サテライトを4拠点開設
大宮は既存の営業所の余剰スペースを使うことで、開設コストを抑えました。
千葉と西東京エリアは利用予測が立てづらいため、自社開設せず、まずはトライアルで始めることに。場所はZXYマンスリーを借りて、座席が足りない時はZXYシェアを使って対応しました。
利用者数は時期によって変動するものの定着はしています。ただ、大宮オフィスについては、1回あたりの利用時間が短いという課題があるので、他のサテライトオフィスとあわせて時間延長を検討しているところです。
自社サテライトのちょっとした工夫。(写真左)入口に座席表と名刺を掲示。どこに誰がいるかすぐ分かり、会話のきっかけにもなる。(右)座席にも同じく名刺を掲りだしたところ、「あの人、誰だろう?」というモヤモヤがなくなった。
「フリーアドレスができない」なんて言わせない!
工夫を重ね課題に対処
「できない」なんて言わせない!という強い気持ちで、FAのガイドライン(下図左)を事前に提示。FAの座席を簡単に予約できるスマホアプリ(下図右)も入れました。
旗振り役である経営管理センターという部署が、今でも率先してFAの課題対処にあたっています。
(写真左)A5サイズのネームプレートを作成し、その日の座席に掲示。人柄を表す一言も加えてコミュニケーションのきっかけに(右)NHK『みんなで筋肉体操』でおなじみ谷本道哉先生監修・出演のオリジナル体操動画を制作。チーム対抗で体操を習慣化し、運動不足を解消。
アフターコロナを見据え、
ウェルビーイングとワークライフバランスの実現を目指す
そこでいよいよアフターコロナを見据えて新たなフェーズの検討に入りました。
ワークライフバランス(以下WLB)推進会では、ポストコロナの働き方や、コミュニケーションの取り方、ワークプレイスの在り方など改めて議論している最中です。
その羅針盤となるのが、下の図です。
“Well-Being(※)とWLBの実現に向けて“と題して、
・ワークスタイル変革
・ワークプレイス戦略
・DX(Digital Transformation)
・健康経営、生産性向上 を4つの車輪として推進する計画です。
※Well-Being(ウェルビーイング)とは、身体だけではなく精神的にも社会的にも健康で満たされた状態を指す言葉として用いられる。武蔵大学経済学部経営学科教授の森永雄太氏が提唱する「ウェルビーイング経営」では、このような「善い状態」を維持・向上することがワークエンゲージメントや組織の活性化につながるとしており、国内でもウェルビーイング経営に乗り出す企業が増えている。
モデルオフィスで未来の働き方をテスト運用
(写真左)自社ビル「麹町ミッドスクエア」内に開設したモデルオフィス。面積効率化で生まれた余剰スペースは改修工事を行い外部貸ししている。(右)ビル外観
更に、同じく試験運用として、ハイブリッドワークを見据えた新しいサテライトを、ザイマックスプロデュースを受けて東京・三鷹に来年1月開設予定です。これまでと違う特徴として、センターオフィスと同等機能を持たせる、WEB会議ブースを多めに設ける、可変什器の設置、コミュニケーション創出の為のコモンエリアの新規設置などの特徴があります。
コロナを機に、多くの企業が自社らしい働き方と働く場所を見つめ直し、あるいは、考え悩むことになったと思います。ポジティブに考えれば、またとない機会です。今後も今日のような機会を生かして皆さんの智と経験を共有し、良いワークプレイス、ワークスタイルを確立できればと考えております。本日はどうもありがとうございました。
質疑応答
■オフィスを見直したいが、マーケットの動きが激しくタイミングを計りかねている。賃貸オフィス市場はいつごろ落ち着くのか?
(石崎)今、東京23区では空室率が約6%まで上昇し、賃料水準は下落傾向にあります。かといって移転が減っているということはなく、むしろ移転自体は非常に活発化しています。なぜなら、2012年以降、空室が減りつづけ移転したくてもできなかった企業が、選択肢が増えた今がチャンスとばかりに動くケースが少なくないからです。実際に空室が出ても、すぐに埋まってしまうケースは少なくありません。良い物件が市場に出てきているタイミングですから、移転を検討するタイミングとしては今が良い時期ではないでしょうか。
■オフィス面積の効率化にあたり、座席数の設定率に悩んでいます。配席率の指標や目安はありますか?
(石崎)難しいですよね。大まかですが、出社人数に対して1.2倍くらいの席数を用意して、+αで会議室や交流スペースを設けるのが目安なのかな、と。なお、「メインオフィスの座席数を全社員数分は用意しない」という方針を打ち出す企業が2割を占めるまでに増えています。
明確な指標を出すのはまだ難しいですが、今月末にオフィス面積のトレンドに関するレポートを発表する予定ですので、ぜひご覧ください。
詳しくはこちら→コロナ禍で変わるオフィス面積の捉え方
■日本工営様は「出社7割、テレワーク3割。配席率65%」とおっしゃいましたが、その割合は何を根拠に決断されたのですか?
主な要因としては、将来的な増員計画と、今後も感染防止対策として出社制限が続くだろうという見込みから、7割が妥当と判断しました。
配席率については、まず新入社員はマンツーマンで研修すべきという考え方から100%出社にしたのと、専門的な解析ソフトを要する業務もあるので、デスクトップPCをある程度は残しました。これらを鑑みて配席率を65%と設定しています。
■テレワーク推進はどんな体制で取り組みましたか?社内PJチームのようなものを組んだのでしょうか?
(網谷)まずコロナ前から新社屋建設・移転のための“新本社プロジェクトチーム”が中心となって、新しいワークプレイスの検討をしていました。それとは別軸でWLB推進会が、長年ワークスタイルの検討を続けていました。しかし、ワークプレイスとワークスタイルは切り離せないものだと、コロナをきっかけに気づいたわけです。いま思えば当たり前なんですけどね。
そこで、移転PJとWLB推進会を組織統合し、更に、実効性を持たせるために経営会議直下の重要会議と位置づけ、一連の取り組みを進めてきました。
(石崎)ずばり一番の苦労は何でしたか?
(網谷)企業風土と関連しますが、各部署に専門分野があり、仕事のスタイルがそれぞれ異なるため、一律のルールを決めづらかったこと。全社に通じる“最大公約数”をいかに求めていくのかが難しかったですね。
ただ、WLB推進会の議論の中で、テレワークやサテライトオフィスなどどの部署にも共通する切り口が見つかり、徐々に収斂(しゅうれん)していきました。WLB推進会の中には分科会のようなものがあって、各部署に議題をブレイクダウンしてディスカッションしたことも良かったと思います。
■体操や自己紹介カードの他にもコミュニケーション促進の施策があれば教えてください。
(網谷)例えば“雑談推奨”。オンライン会議の前に必ずアイスブレイク的な雑談を挟むようにしている部署があります。これはなかなか良いですよ。
あとは本社の最上階に新設した社員カフェ。ここに来て会話する社員達の姿もよく見かけます。
新入社員だけはテレワークなしの100%出社かつマンツーマンの研修担当者が付いているので、そこでコミュニケーションが担保できていると思います。
■「どんな時にサテライトオフィスを使えばいいのか分からない」と言う社員がいます。なにか利用促進のためにしていることはありますか?
(網谷)「こういう時にサテライトを使いなさい」という明確なルールは定めていませんが、テレワークする際は情報管理を徹底するように周知しています。
業務上、機密情報に関わる印刷物や参考書籍を扱うこともありますから、「情報管理が必要なら、自宅ではなくサテライトに行ってください」とか、自宅だと仕事がしづらい場合も「どうぞ自宅の最寄りのサテライトを使ってくださいね」と言っています。
促進という意味では、社員がどんな風にテレワークやサテライトオフィスを使いこなしているか、好事例が蓄積されてきたので、それらをパンフレットにまとめて全社共有しています。
好事例集より一部抜粋。サテライトオフィスの使い方に限らず、テレワークやワークスタイル全般の良い事例を集め、早くも第二弾を発行した。
(石崎)素晴らしいですね!あるデータでは、サテライト利用を許可されている従業員が7割いても、実際に使うのはわずか1割しかいない、なんていうデータもありますから。上から命令するのではなく、良い使い方をシェアするスタンスがすごく良いですね。
■移転後の効果検証はどうやっていますか?
(網谷)テレワークの効果検証は好事例集の収集をする過程で。全社的な意見の吸い上げは、年に一度の従業員アンケートの中にあるフリーコメントで主に収集しています。
■FAが不向きな職種もあると思いますが、経験上いかがですか?
(網谷)当社の場合は、解析や図面作成をする際にハイスペックなPCが必要なので、固定席が必要な部署は確かにあります。ただ、全員がそうかというと違うはずです。まずは「従業員数に対して65%の座席数しか用意しない」という前提を伝え、その制約条件の中でやり繰りしてもらうスタンスで進めました。
でも、やっぱり難しいですね。最近、気づいたら2フロアが全席固定席になっていたことが発覚したんです!ハイスペックPCがどうしても必要になったからと言うんですが…。なんとかFAに戻せないか、協議を続けているところです。
■テレワークの推進や配席率削減などの意思決定は、トップダウンで始まったのですか?それとも、網谷様はじめ推進会から経営陣へ働きかけたのですか?
網谷)ワークプレイスに対する経営層の意識はもともと高かったと思います。コロナ前の新社屋構想の中でも議題に挙がっていましたから。
経営層の腰が重い場合は、今日のようなセミナーに一緒に参加したり、先進的なオフィスの見学ツアーに連れていき、そこの経営陣と意見交換してもらったりして、他社の事例を知ってもらうのも良いと思います。実際、新本社建設の時に数回それをやって、経営陣の意識づけがかなり進みました。
(石崎)確かに他社の動向を知るのも有効ですよね。数字データも響くと思いますので、ぜひ私どものレポートもご活用していただければ嬉しいです。
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