オフィスの設計や空間デザイン、施工をはじめ教育施設や福祉医療施設の分野にも幅広く事業展開する株式会社ウチダシステムズ。
2015年に東京本社を移転、2018年にはオフィスリニューアルと同時にテレワークを導入しました。
今回は、取締役専務執行役員 松原高志様と取締役常務執行役員 田口惣一様にインタビューを行い、オフィス移転を企業力アップにつなげる秘訣と、外部の知見を賢く取り入れながら進んだテレワーク制度についてお話をうかがいました。
オフィス移転は企業が成長する絶好のチャンス
早速ですが、オフィスのコンセプトから教えていただけますか。
コンセプトは「SHINKA(シンカ)」です。
ウチダシステムズの理念に「進化と貢献」を掲げていますが、移転前、新しい働き方を考える社員同士のワークショップの中で「我々はもっと“シンカ”しないといけないよね」という意見が出てきました。
そして“シンカ”とは“進化”だけではなくて、真実の価値という意味の“真価”、深めて化けるという意味の“深化”、色々な意味を含むことに気づきました。
進化、真価、深化・・・色々な意味を含んでいるんですね。
はい。自分達の理想の姿へのアプローチ方法には様々な“シンカ”があるという思いを込めて、「SHINKAプロジェクト」と命名してオフィス移転に乗り出しました。
移転の理由には物理的な手狭感もあるのですが、単に拡張移転するだけなら無味乾燥になるじゃないですか。
新オフィスに投資するからには、単に「きれいなオフィスを作る」以上に社員のステップアップに繋がる移転にしたいと思っていました。
移転が社員の成長につながる、ということですか?
移転で大事なことは、そのプロセスを通じて社員がいかに繋がれるか、組織の力を磨く機会にできるかだと思っています。当社では数多くのオフィス設計を手掛けていますが、オフィス移転は企業のステージアップのチャンスだと、お客様にも伝えています。
だからこそ、本当にオフィス移転で企業力は向上する!と自ら証明しよう、と。できるだけ多くの社員にワークショップに参加してもらいながら「ウチダシステムズらしさって何だろう?」を考えるところから始めました。
ウチダシステムズらしさ、ですか?
はい。例えば、何事にも全員参加する、自己実践してからお客様に提案する、お客様志向を大切にする、これらが当社らしさです。
理想の新オフィスを描く際に、「これってウチダシステムズらしいか?」と“らしさ”のフィルターにかけて考えていきました。
なるほど。SHINKAという抽象的な概念を、「御社らしさ」のフィルターをかけながらオフィスというカタチに落とし込んでいったんですね。
はい。そしてデザインやレイアウトも大事ですが、現代のオフィスではいかに働きやすくするか、つまり“仕掛け“の方が重要です。そこで、”シンカを実現する100の実践事例“として仕掛けを数多く搭載しました。
100個も!事例をいくつか教えてください。
例えば、エントランスホールを入るとすぐに当社の理念を掲げたボードが置いてあります。
お客様にオフィスを案内する前にウチダシステムズを理解してもらった上で見学してもらう、というのもひとつの仕掛けです。
あとは、柱をショーケースのように使って弊社主催のセミナーのリーフレットや商品パンフレット等をディスプレイしました。
我々はよく「オフィスは経営装置」だと言います。つまりオフィスは単に働く場所ではなくて、事業するための装置として作りこむのです。
面白い考え方ですね。御社の場合オフィス作りのプロが集まるだけに色々と社員から出てくる意見を集約するのは大変だったのでは?
そこは、全社員への発信と共有を丁寧にすることでクリアしてきました。
3ヶ月の移転準備期間中に進捗状況を共有したり、社員から意見を募集したり、こまめに発信することで、移転を受け身ではなく自分ごととしてとらえるようになっていきます。
このオフィスがまだスケルトンの状態のときに、現地に社員を集めて移転説明会を行ったりもしました。
何もない状態ですが、ここが執務スペースになって、ここが会議室で・・・という話を、ビール片手に堅苦しくならずに。そうやってビジョンを分かち合う事で社員の温度が上がってくるのです。
とてもワクワクするオフィス説明会ですね。
そうです。プロジェクト期間中にどこまで社員の温度を上げられるかが、移転後の温度の持続に関わってきます。
移転について社員の温度が低く、働く場所づくりを自分事としてとらえられないと、移転後も働く事に対しても受け身になってしまう。社員の熱量をいかに上げられるかがオフィス移転の成功を左右します。
グループアドレスからフリーアドレスへ
おととしにはオフィスをリニューアルしたそうですね。
当時、若手営業パーソンの数が一気に増えたことで若手の教育に割く時間が増え、本来の業務であるお客様接点の時間が減ってしまうという課題がありました。そこで、この問題を解決できるオフィスリニューアルに乗り出しました。
そういった課題はどちらかというとオフィスよりもチーム編成や制度面で解決するイメージがありました。
ハードとソフト、両面の解決策が必要だと思います。
仕事はスタートからゴールまで1人だけで進めることは少なくて、案件の内容に応じて関わるメンバーを変えて進めていく方が多いものです。そう考えると固定席よりもフリーアドレスの方が効率的ではないか、と。また、ひとりの若手を、かかわる社員みんなで育てていったほうが、若手の成長も早いです。
最初はグループアドレスから始めて、3ヶ月後には営業チームをフリーアドレスにしました。
経営課題に対する解決策としてフリーアドレスを取り入れたのですね。
はい。もちろん懸念点もありました。マネジメントがやりづらくなるんじゃないかとか、苦手な上司の席には近づかなくなるんじゃないかとか(苦笑)。ただ、そこまで大きなオフィスではないので全員に目が届きますし、問題なくできています。
テレワークを導入、BCP対策と業務効率アップを実現
オフィスのリニューアルと同時にテレワークも始めたそうですね。
はい。2018年当時、大阪で地震や台風の被害が相次ぎ、鉄道がストップして大阪支社の社員が通勤できない事態におちいりました。他にも北海道地震など各地の支社で自然災害が理由で出社できない事例が相次いだ年でした。そこで災害時にも対応できる仕組みを作るべきだということでテレワークを導入しました。
また、フリーアドレス化の理由とも重複しますが、営業パーソンがもっと効率よく動きお客様のために使う時間をいかに増やすか、という目的もありました。
外出先から30分かけて本社に戻ってきてパソコンで作業して、また30分かけて客先に移動して、というのはもったいない。それよりもシェアオフィスで仕事をして直接お客さんに会えば効率的だろうと考えました。
「テレワークだと部下がどこで何してるか分からなくて怖い」というマネジメント層の声をよく聞きますが、社員の反応はいかがでした?
マネジメントの課題はクラウドソフトやビジネスチャットの活用でクリアしました。
チャットなら上司に“報告”というより、軽い会話の延長で普段の動きを伝えられる感覚で双方の負担感が少ないです。
よく言うのは、「どこにいても仕事できる環境は整っていて、社外で働く方が自分のパフォーマンスを上げられるなら社内で働くことにこだわらなくてもいい」と。
フリーアドレスとテレワークを同時進行し場所にとらわれない働き方を推進したおかげで、社員の働く意識や目標達成意識は変わったと思います。
テレワーク自体は社内にすんなり馴染みましたか?
一気に全社で始めたわけではなく、最初は営業職や人事、デザイナーなど幅広い職種の社員を集めてテレワーク推進プロジェクトチームを作ってテストすることから始めました。
東京都のテレワーク活用促進モデル実証事業(※)に参加して、3ヶ月間コンサルタントにサポートしてもらいながらICTツールの無償貸し出しやサテライトオフィスのトライアル利用の補助を受けました。その中で既存業務の棚卸しや、テレワークに置き換え可能な業務、必要なICTツールの洗い出しができました。
※東京都テレワーク活用促進モデル実証事業:東京都によるテレワーク推進事業のひとつ。参加企業はコンサルタントによるサポートや、サテライトオフィスやICTツールのトライアル活用しながらテレワークを実施。様々な企業の課題や解決策のケースをもとにテレワーク導入モデルを確立し、モデル普及によるテレワーク導入促進を目的とする。
テレワークを導入するにあたってパートナーやアドバイスをうけられる存在がいたのは大きいですね。
そうですね。社内だけでテレワークを推進しようとすると、トライアンドエラーの繰り返しに時間や手間がかかりますが、初めからツールをお試しで使えたり、コンサルティングを通じて外部の知見を借りることで、かなりスムーズに導入が進んだと思います。
テレワークで介護と仕事を両立
営業職だけでなく、デザイナーやコーポレート系のみなさまもテレワークをされているとのことですが、特別な課題などはありませんでしたか?
特にありませんでした。業務システムがもともとクラウド化されていていたのが大きかったです。
勤怠管理、精算、稟議申請など、ほとんどの業務が出先でできる仕組みが整っていました。デザイナーにはCADデータを使用できるハイスペックモデルのPCを支給しています。さらに今実証実験も兼ねて、ある経理部の社員が実家で家族の介護をしながらテレワークにチャレンジしてくれています。
経理というと伝票整理などアナログな作業がどうしても発生するイメージだったので意外です。
「普段通りの業務をテレワークで実現する為にはどうしたら良いか?」という観点で、リモート作業できるように経理のシステムを改修したり、紙の経理伝票をPDFで読み込んで共有ファイルに保存しリモートでも入力作業ができるように業務フローを変えました。
実際にやってみでいかがでしたか?
実験的にスタートしてから半期が過ぎましたが、バックオフィス業務でも8割がたの業務はテレワークでできると実証できました。今、オフィスじゃないとできない業務は販売管理システムくらいなので、育児や介護など家庭の事情で出社が難しい社員がでてきても、テレワークでカバーできるでしょう。
テレワークのガイドライン作りで重視した点は?
情報セキュリティガイドラインは、内田洋行グループ内でしっかりしたルールがあったのでそれに則りました。テレワークの勤務規定は、総務省が出している雛形を参考に自社版としてカスタマイズしました。勤怠管理のルールも、みなし労働時間の延長線上にテレワークも当てはめて勤務規定に盛り込みました。
元々テレワークに慣れていると強いですよね。やはりBCPの観点からもテレワークは大事だと感じます。
とにかくテレワークはやってみないことには始まらないですよ。
「よしテレワークやるぞ!」って言ったもののパソコンがデスクトップだから無理だとか、初歩的な段階でつまずいているケースも未だにあります。テレワーク用の勤怠管理システムがない、家の中で集中して仕事できる場所がない、とかいくらでも問題が出てくる。それなら自宅近くにシェアオフィスを会社が用意してあげるなど前さばきを会社側がしないと空中分解してしまいます。
おっしゃるとおりですね。テレワークって実際にやってみないと分からない問題が出てきますから。最後に今後の展望をお聞かせください。
働く場所はもっと自由でいいと思います。ワーケーションや事業所内託児所など可能性は広がりつつあります。一方で、求められる成果を明確にして社員自身が意識しないといけないですね。自由度を高めた上で、会社として成果に繋げられるかは課題の一つです。
その成果のあげ方として、社員同士のこれからの「繋がりかた」を探す必要があると思います。どこでも働けるからこそ、社員同士がどう繋がっていくかが重要になってくるでしょう。今のところチャット等いくつかの手段はありますが、最適な繋がり方を模索して活用できるようになれば、もっと強い組織になれると思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
今回協力して下さった企業様
株式会社ウチダシステムズ
- 設立
- 昭和42年9月29日
- 本社所在地
- 東京都中央区新川1-21-2 茅場町タワー
- 事業内容
- オフィス関連事業(オフィスの空間デザイン/設計/施工等)、教育関連事業(学校施設への教材や備品販売等)、福祉・医療関連事業(福祉医療施設の開設支援や業務システムの販売/導入支援等)
- 従業員数
- 237名(平成30年7月21日現在)
- Webサイト
- http://www.uchida-systems.co.jp/