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富士通の働き方改革事例(後編)

テレワークの推進を通じて、オフィスの未来を考える

投稿日:2019-04-26  最終更新日:2019-04-08  取材日:2018-12-25

富士通株式会社が取り組んだ事

  • 働く場所の選択肢を増やし、「その日の業務に合わせて働く場所を自由に選択する」という意識を涵養
  • 会社規模

    155,000人

  • 業種

    製造業

  • 対象職種

    全社員

前編では、富士通が大切にしている働き方改革の3要素=「制度・ルール」「ICT・ファシリティ」「意識改革」について、そして、3つのワークプレイス=「事務所(自席)」「自宅」「サテライトオフィス」について、紹介してきました。

それを受けて、この後編では、もっと具体的に、富士通がスピーディに展開するサテライトオフィスの施策について、お届けしていきたいと思います。

2017年度のグッド・デザイン賞に輝いた「F3rd Kawasaki」のようす。

社内サテライト「F3rd(エフサード)」

働く場所を「事務所」、「自宅」、そして「サテライトオフィス」の3つに分けて考えているとお伝えしましたが、さらに、その「サテライトオフィス」も2種類に分けています。「社内サテライト」と「社外サテライト」の2つです。

普通、サテライトオフィスというものは、社外にあるものだと思うのですが…。

そうですよね。ですが当社では、あえて、主要な自社拠点の中に「F3rd(エフサード)」という社内サテライトオフィスを設置しています。それと同時に、社外でも、ザイマックスさんが提供されている「ZXY(旧ちょくちょく…)」 のような法人向けのサテライトオフィスサービスを活用させてもらっています。それら、社外のサテライトオフィスを総称して「F3rd+(エフサードプラス)」と呼んでいます

社内にサテライトオフィスを設けた理由というのは?

当社の場合、各地に事業所が点在しているので、事業所間の出張が頻繁に行われているんですね。汐留の本社は営業拠点、蒲田の富士通ソリューションスクエアにはSEが集積、川崎工場には開発部隊が集まっています。この3つの主要拠点を行き来するにも、片道最低30分はかかります。F3rdがない頃は、他事務所に出張して、用事を済ませたら、わざわざ自分の事務所に帰っていたんですね。夕方に打ち合わせがあった場合でも事務所に戻って作業をしていました。この場合、事務所に戻るまでの移動時間が無駄になっていたんですよね。

たしかにそうですよね。

ですので、出張先で仕事して、終われば、そのまま直帰するのが合理的だということで、そのニーズの受け皿として社内サテライトを設置していきました。現在(2019年1月)、富士通グループの主要拠点内に17ヶ所あります。一番大きいところが、汐留本社のF3rdで110席くらい。10席程度の小規模なところもあります。月に、だいたい延べ35,000人くらいの方に利用されています

グループ社員であれば、誰でも利用できるんですか?

はい、誰でも使うことができます。その17ヶ所をこの1年の内に、次々とオープンさせていきました。ほとんどは首都圏にあるのですが、大阪や名古屋、仙台などの地方の拠点にもあります。

場所によって、社内サテライトのコンセプトや設えは違ったりするんですか?

はい、違いますね。一応、集中できるブース席や、ゆるく仕切られた席、軽くミーティングができるファミレス席、シンクラ端末を配備した席など用途別に席数の割合などは定めているのですが、デザインに関しては、拠点のニーズに寄り添うようにしています。一つひとつ、社員の声を拾っていって、トライ&エラーを重ねながら、ですね。例えば、弊社には陸上部の拠点もあるのですが、そこのF3rdは、陸上競技にちなんでトラックのようなフロアデザインがなされています。

陸上競技にちなんでトラックのようなフロアデザインがなされている「F3rd Makuhari 」のようす。

え〜、面白い!拠点の人たちが自分たちの考えを反映させていく余地を残しているというのは、良いですね!

一度設置しても、それで終わりではなく、社員の要望を取り入れながら、随時作り替えていくようにもしています。F3rdの利用者からは、「社内サテライトでは、とにかく集中して仕事したい」という声が多く挙げられていたので、大阪などではすごく背の高いブース席を作ったのですが、「覗き込まないと空いているかどうかも確認できない」とか、人によっては「圧迫感を感じる」などといった声もいただきまして…。「やっぱり、ブースの背はもっと低くした方が良いかな」、「でも、低くしたら集中しづらくなるかな」などなど、今なお、試行錯誤の真っ最中といったところです(笑)。

利用者の声に、誠実に耳を傾けておられる証拠ですね。ところで、みなさんの声は、どうやって取り入れていっているんですか?

ご意見ボードには利用者の声がいっぱい。これらの「声」が、空間をより良いものへと進化させていく。

「F3rd」内にボードを設置して、ここに要望や意見を自由に書いてもらっています
あえて手書きで。例えば、「携帯の充電器を置いてほしい」とか、「寒いからブランケットを用意してほしい」とか、なんでもどうぞ、と。こういった従業員とのやり取りを見える化し、従業員からの意見を拾い上げていき、次の一手に活かしていければと思っています。

社外サテライト「F3rd+(エフサードプラス)」

この社内サテライトが非常に好評だったので、そのまま、このF3rdを拡充させていけばいいのではないかと方向性が定まった気がしたのですが、営業やSEに話を聞くと、「私たちは、お客様先がメインなので、社内にサテライトがあっても足を運ぶことはが少ない」と言うんですね

なるほど。

データを見てみると、出張の4割はグループの拠点間でのもの。そして、残りの6割が社外への出張なんですね。そこで、その6割をカバーするために用意したのが、先ほどもお話しした「ZXY(旧ちょくちょく…)」のような法人向けのサテライトオフィスサービスです。私たちは、それらの社外サテライトオフィスを総称して、「F3rd+(エフサードプラス)」と呼んでいます

それら社外サテライトの使い勝手はいかがでしょうか?

外出の際の隙間時間を有効活用できると、とても好評です。「ZXY(旧ちょくちょく…)」の場合、ブース単位で予約ができて事前に使う時間を固められるので、計画的に安心して使えるという声も上がっていますよ。

ありがとうございます! ちなみに、サテライトオフィス以外の場所、例えばカフェなどでもモバイルワークはできるんですか?

はい、できます。一応、覗き見防止のフィルムなどは着けてもらうようにしていますが。でも、「こんな公共の場で仕事していいのかな」という思いも根強いようで、やはり、サテライトオフィスの方が安心して仕事に打ち込めるようです。

「働く場所」と「業務内容」、その関係性を考える

サテライトオフィスの取り組みを通して、何か課題点などはありましたか?

そうですね。導入効果というものが、今ひとつ見出しきれていない、という点でしょうか。全体で見れば、もちろん、残業は減ってきているのですが、それを、直接的にサテライトオフィスを導入したことの効果と言い切ってしまっていいものか。なかなか判断が付かず、頭を悩ませているところですね。

社内のオフィススペースの変革と社内外のサテライトオフィスの整備が相乗的に影響し合って、という感じかもしれませんね。

そうなんですよね。ともあれ、サテライトオフィスを導入し、テレワークが浸透していったことで、「働く場所」と「業務内容」の関係に変化が生じてきたことはたしかです

それは具体的に、どのような変化でしょうか?

図のように、「働く場所」と「業務内容」の関係に変化が生じてきている。

業務の種類を「ソロワーク(個人作業)」、「チームワーク(社内外会議・相談)」、「意思決定」の3つに分けた場合、今までは、この3つは全て事務所内で行われていました。しかし今では、「ソロワーク」については、わざわざ事務所に来なくても、自宅でもサテライトでも、どこでもできるようになりました。ビジネスチャットなどのコミュニケーションツールを使えば、「チームワーク」だってネットワーク上で容易に実現できますし、お客様と顔を合わせて打ち合わせしたいという時にも、最寄りのサテライトオフィスを使えばいいわけです。そうなると、「じゃあ、事務所って、何をするところなんだろう」、となってきます。

なるほど。その通りですね。

そこで、最後の「意思決定」です。何らかの大きな決定がなされた後の、仕事(や小さな決定)の積み上げのようなものが「ソロワーク」、「チームワーク」だとすると、その大きな決定へと至る歩みが「意思決定」のプロセスです。このプロセスにおいては、相手の顔色だとか、その場の空気感だとか、肌感覚で感じる本気度だとか、そういった繊細微妙なものが往々にして大切になってきます。だから、そのような意思決定の場として、事務所というスペースの存在意義がこれからは変わっていくのかな、と考えています。

はい。わかる気がします。

当社の幹部社員がときどき言っていることなのですが、「テレワークで部下が会社に来なくなるのはいいのだが、これで自分まで会社に来なくなったら、いざ、部下が相談したいというときに困ってしまうだろう」と。

そうですね。そこにオフィスがたしかにある、というのも、社員にとってはひとつの支えになることなのかもしれませんよね。

はい。そのあたりのところの検証は続けながら、全体の流れとしては、自社で一定の面積を確保している固定スペース(ファーストプレイス=事務所)と、外部サテライトのような使いたい時間に使いたい面積だけ使える変動スペース(サードプレイス=F3rd+)を上手に使い分けていく固定スペース部分は、今以上に重要な役割を担わせていく、と。そういう方向に動いていくんだろうなと思っています。

たしかに、そうかもしれませんね。ちなみに、カフェテリアとかラウンジとか、そんな“出会いを促す場所”のようなものを事務所内に作ろう、といったような話は出ていたりするんですか? もっとカジュアルにコミュニケーションをとる場、アイディア創発の場などですね。

そういった場も欲しいよね、という声もあるにはある一方で、「出会って何をするの?」「作業に集中したいんだけど」といった声も多く上がっていまして。実際に、F3rdを立ち上げた時には、コラボレーション・ワークスペースというのを大きく取っていたんです。そうしたら、そこで話し合われる声がうるさいということで…。先ほどもお話しした通り、今は、ブース席を拡充しています。

難しいものですよね。

とはいえ、フラットに話せる場は、やっぱり求められてもいるんです。だから、配分ですよね。もしかしたら、うるさいと言われたコラボレーション・ワークスペースも、F3rdの中ではなく、事務所内の付帯設備として用意していたら、違う印象を持たれていたかもしれませんよね。コミュニケーションをとる場所」と「集中できる場所」、その配分や最適な配置が大事なのかなと思っています

未来のオフィスのあり方について

最後に、未来のオフィスのあり方についてお聞かせいただければと思うのですが。AIや自動運転など、技術の進化・進歩が加速度的に進んでいく中で、おそらく、仕事の仕方も大きく変わっていくんじゃないかと思います。その中で、「働く場所」に求められる役割や機能について伺えますか?

少なくとも、オフィスという「箱」は要るんじゃないかと思っています。それこそ、サービスを提供する側の人がAIに置き換わったりして、会社におけるオフィス空間というものは、どんどん身軽になっていくと思うのですが、人と人とのコミュニケーションが求めらている限りは、オフィスという「箱」はいるんじゃないかなと思っています。

なるほど。

大手グローバル企業の中には、オフィスを非常に面白くデザインして、全面的に創発の場としているところもありますよね。ですので、“テレワーク推進派”と、“みんなが集まるデザインオフィス派”という、ふたつの流れに二分化され、棲み分けが進んでいくのかもしれないな、なんて思ったりもしています。また、少子高齢化の中で、オフィスに行きたくても行けなくなる、ということも起こりうる問題なので、その点についても考えていかなければなりませんよね。

移り変わる時代の中で、様々に考えを巡らせながら舵取りをしていかなければならないんですね。本日は、貴重なお話を、本当にありがとうございました。

はい。こちらこそ、ありがとうございました。

今回協力して下さった企業様

富士通株式会社

設立
1935年
本社所在地
本社事務所:東京都港区東新橋(汐留シティセンター)
本店:神奈川県川崎市中原区
事業内容
・テクノロジーソリューション
・ユビキタスソリューション
・デバイスソリューション
従業員数
155,000名(グループ全体/2017年3月末現在)
Webサイト
http://www.fujitsu.com/jp/

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