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本当の意味でのABW実現に向けて
御社の働き方変革のコンセプトをお伺いしましたが、実際にどういった方法で変革を進められたんですか?
コンセプトを具現化できる方法を探す中で、ABW(Activity Baced Working)に行き当たりました。ABWは、オランダに本社を置くVELDHOEN+COMPANY(以下、VELDHOEN )が提唱したワークスタイル戦略です。日本にはまだ入ってきたばかりということもあり、「自由な働き方」だとか「フリーアドレスのようなオフィス形態」といった様々な認識のされかたをしているようです。でも、グローバルスタンダードに言われていることをよく勉強してみると、そのどちらでもなく、ワーカーが「いつでも、どこでも、誰とでも働ける」ように会社があらゆる側面からサポートしていくワークスタイル戦略だとわかりました。
ワークスタイル戦略とは、具体的にはどういうことでしょうか。
働き方の自由度を拡大するために3つの領域(「行動」「IT」「物理的環境」)を体系立ててデザインし直すということです。人事制度やマネジメントスタイル、IT、オフィスの形、オフィスの中での自由度、すべてもう一度見直すんです。
人事やIT、総務など普段は連動して動くことのない各部門が、「自由度を高める」ということに照準を合わせて具体的に手を打っていくんです。こうした具体的な方法論が、ABWというわけです。
日本で理解されているABWとはまったく違っていて驚いた一方で、改めて聞かされてみると「なるほどな」と思いました。何より、イトーキがやろうとしていたこととコンセプトがマッチしていたので、とても腑に落ちたんです。
日本だと、どちらかというとオフィス戦略の一つという狭義でしか捉えられていませんよね。制度とかITとか、その他すべての戦略を含めた働き方改革そのものがABWだったということですね。
でも、会社の様々な仕組みを総合的に見直す戦略だけあってけっこう大変で(笑)。VELDHOEN のコンサルタントにアドバイスをもらいながら進めているんですが、日本企業の文化や今までの慣習でいうと、「なかなかそこまでは……」ということも多くて苦労しています。
とりあえず最初は新しいオフィスづくりから、といったところですか?
そうですね、まずは環境面からつくったという感じです。
その際どんなところに注意して取り組まれていったんですか?
可能な限り、現場の意見を取り入れるようにしました。オフィス移転が決まって、移転先のビルもだいたい目処が立った時に、経営から「目的は働き方を変えることだから、できるだけ現場のメンバーを巻き込んで進めるように」と言われたんです。
ワークショップを数多く開催して、おそらく延べ100人以上は巻き込んできたんじゃないでしょうか。使える3フロアをどう分けるのか、あるいはすべてフリーで使えるようにするのかなど、細かいことからワークショップを通してみんなで決めていきました。
ある意味では自由、ある意味では自由でない
実際にABW対応型オフィスをつくってみて、いわゆるフリーアドレスとの違いをどう感じていますか?
フリーアドレスは場所は自由に選べますが、活動ごとに場はつくられていないので、どこで何をやろうが自由なんですね。一方のABWは、いろいろな活動ができるという意味では自由度が高いのですが、活動に合わせて使うべき場所が決まっているという意味ではフリーではないんです。ある意味縛られているんですね。
自分の席がないという面だけ見ればフリーアドレスもABWも同じなんですが、ABWの場合は「活動の自由」が担保されているのが特徴です。そこがフリーアドレスとの大きな違いであり、おもしろさだと思います。
フリーアドレスという概念ではなく、まったく別の概念としてABWというのを取り入れられているってことなんですね。
おっしゃるとおりです。
苦労された点はありますか?
フリーアドレスは、わりと運用が自由で、けっこう日本にも受け入れられやすいスタイルだと思うんです。でもABWは、どちらかというとストイックなワークスタイルなんですよ。なので、生産性が高まる分、やっぱりフリーアドレスを運営するより難しいことは多くて。
やってみて改めて思いますが、すべてのお客様にとってABWが最適かというと、お客様のシチュエーションによっては従来の島型デスクがいい場合も当然ありますし、フリーアドレスの運用のほうがフィットする場合もあるでしょう。その中で、ABWがフィットするお客様もいらっしゃいますが、すべてのお客様にとって最適解であるかどうかはまだ模索中の状態です。
ただ、その新しい思想にチャレンジしていったということですよね。先進的なオフィスの家具メーカーさんとしては、やっぱりそこに対して先進的でありたいとの思いがあったんでしょうか。
それは当然ありますよね。せっかく働き方変革をやるんだったら、新しいことに挑んでいこうという気持ちでした。
活動の目的に合わせてオフィス空間を細分化
オフィスの案内図を見ると、高集中、コワーク、電話、ウェブ会議、2人作業、対話、アイデア出し、情報整理、知識共有、リチャージ、専門作業と、スペースが非常に細分化されていますね。
そうです。もともとABWの考え方として、仕事というのは分解していくと「10の活動(10アクティビティ)」になる、という前提があります。たとえばデスクで行われていた活動を細かく見ていくと、高集中とか、まわりの人間と情報共有しながら仕事をするコワークとか、電話とかウェブ会議などに分かれます。仕事を漠然とではなく、これら10の活動として捉え直して、きちんと実行できる場をオフィスの中につくっていくんです。
今はテレワークや在宅勤務も一般的に取り入れられて、モバイルツールも普及していますから、オフィス以外の場所の自由度は高いと思うんですよね。ただ、各企業、オフィスの中の自由はあまり考えられていないんです。「10の活動をやりたいと思った時にやりたい場所でできることが、オフィスの中の自由度を担保する」という発想が、ABWのおもしろいところなんですよ。
※10の活動(10アクティビティ)
1人‐高集中、コワーク、電話/WEB会議
2人‐二人作業、対話
3人以上‐アイデア出し、情報整理、知識共有
その他‐リチャージ、専門作業
https://www.itoki.jp/xork/abw/
リチャージや2人作業、アイデア出しといったスペースも気になります。
リチャージというのは、いわゆる業務時間中の休憩です。イトーキの場合、2020年までにリチャージ率を増やそうとしています。また、高集中やコワークといった活動をもっと減らして、2人〜大人数で取り組むチームワークの量を増やすことを目標としています。要は、創造的なワークに取り組んでいこうということです。残業に関しても、だいぶ減ってきてはいますがまだゼロではないので、ゼロになるよう取り組みを進めています。
ABWをうまく運用するために、社員のスマホに位置情報などがわかるアプリケーションを導入し、活用しています。様々な情報を収集できるので、今後の働き方の検証を実施する予定です。
働く場所を自由に選べるようになったことで、コミュニケーションツールでのやり取りも増えているんですか?
はい。私どもはGoogleのハングアウトを使っていますが、チームで固まって仕事をしていた時よりも圧倒的にコミュニケーションの量は増えました。私のチームの若手社員とも、どの場所にいるか、何をしてるのかなど、ハングアウトを使っていつもやり取りをしています。帰る時も、お互いに「帰ります」ってことくらいは一言でいいから送りあおう。とか。
どこで働いてもいい。でも、やっぱりみんなに集まってほしい
社内の働く場所について伺いましたが、たとえばコワーキングスペースなど社外での働く場所について何か取り組まれていることはありますか?
自宅も含めたテレワークを認めるための制度は整えています。特に営業スタッフは日常的に外に出ているので、外部のコワーキングスペースやシェアオフィスを使って仕事をしています。モバイルツールも充実していますし、基本的に外での仕事を阻むものは何もありません。
ただ、会社として従業員の自由度を高めていきたいと考える反面、じゃあなんでオフィスを最先端にしたかというと、やっぱりみんなに集まってもらいたいからなんですよね。みんなが遠隔で仕事し合っている中で、コラボレーションして新しいものを生み出すのはやっぱり難しいと思いますから。会社に来れば家にいるより仕事しやすいとか、おいしいご飯が食べられるとか、健康的になれるとか、自由な中でもいろんな理由でオフィスに集えるのが一番の理想ですね。
今後の取り組みとして、何か考えていらっしゃることはありますか?
XORK Styleをどんどんバージョンアップしていかなければいけないと思っています。まずはしっかりと効果計測をしていって、それがちゃんと自分たちが目指していることに合致しているのか、していなければ空間が原因なのか制度が原因なのか、それともITが原因なのか、ちゃんと考えて手を打つ。効果計測をしてKPIを上げていくことを、会社の定常的な取り組みとしてやっていくことが今年の大きなテーマだと思っています。
本日はお忙しい中ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
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今回協力して下さった企業様
株式会社イトーキ
- 設立
- 1950年
- 本社所在地
- 東京都中央区日本橋
- 事業内容
- オフィス家具、事務機器、設備機器、空間設計
- 従業員数
- 1,964名(平成29年12月末現在)
- Webサイト
- https://www.itoki.jp/